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    アーティスト・文化団体・知財の災害法律相談

    東日本大震災からの9年、わが国は度々の豪雨、台風や大規模地震に見舞われ、新型コロナウィルス等の感染症による被害も広まるなど、災害と感染症は今や身近なものとなってしまいました。2020年4月1日には改正債権法(民法)が施行されることも受け、困難に立ち向かう文化・エンタテインメント界への一助となるよう、高樹町法律事務所と合同でQ&Aを大幅に加筆・アップデートいたしました。(2020.3.11記) 
    (編集担当:橋本阿友子)


    東北地方太平洋沖地震 及び 長野県北部の地震により被害を受けられた皆様に、心からお見舞い申し上げます。
    このたびの震災に伴い、チャリティイベントの開催、公演・事業の中止、非常時の著作権の処理など、アーティストや文化団体も様々な法律問題に直面しています。私たちにできるささやかな支援として、寄せられたご相談なども参考に「アーティスト・文化団体・知財の震災法律相談」を作成しました。
    今こそ、文化の力で被災地・避難所の人々の心に灯をともし、この国の未来を明るく照らして欲しい。19問のQ&Aに私たちの復興への願いを込めました。(2011.4.13記)

    (なお、Q&Aは現時点での情報に基づくベータ版であり、今後も内容の修正・拡充をはかっていく予定です。質問及び回答のいずれも、あくまでも一般的な参考用に概略を掲載するものですから、具体的なケースについては、個々に専門家などの助言を受けることをお勧めします。)

    質問一覧

    <イベント中止・キャンセル関係>

    Q1.
    当社は、舞台公演などのライブイベントの主催事業者です。災害・感染症の影響でイベントを中止した(あるいは、中止したいと考えている)のですが、その場合、前売券の払い戻しをする必要はあるのでしょうか。また、前売券を購入してくださっていた方々への対処について、他に留意すべき点はあるでしょうか。
    Q2.
    当社は、海外アーティストの来日公演の主催事業者です。災害・感染症の影響で、当社の判断で公演を中止しました。この場合、アーティストにギャラを支払う義務はあるのでしょうか。

    <倒産・未払いへの対処>

    Q3.
    アーティスト・文化団体ですが、出演先が出演料を支払う前に災害・感染症拡大後の経営難で倒産してしまいました。どうすれば良いでしょうか。
    Q4.
    上記Q3のケースで結局未払いになった場合、何か補償を受けられる制度はないのでしょうか。

    <転売>

    Q5.
    災害支援のために制作したアーティストの限定グッズや、感染症流行時のマスクや消毒ジェル、大雪の際の雪かきシャベルなどイベントの存続に関わる必需品が、店頭やファンサイトで買占められ、フリマサイトなどで高額出品されています。①販売者として、②被害を受ける購入者として、何が出来るでしょうか。

    <著作権の相続・行方不明者の作品利用>

    Q6.
    災害により作品の著作権者が亡くなりました。作品の著作権は、著作権者の死亡により消滅するのでしょうか。それとも、誰かが引き継ぐのでしょうか。
    Q7.
    作家・実演家が災害で行方不明になってしまいました。作品を利用するには、どうすればよいでしょうか。
    Q8.
    災害により、父が行方不明の間に、父の作品を出版したい(又はWEB上で公開したい)という方から連絡がありました。著作権者が行方不明の間、著作権の管理はどのように行えばよいでしょうか。

    <チャリティと著作権・その他知財関係>

    Q9.
    被災地や避難者の方々を対象に、持ち寄られた書籍・音楽CDの貸し出しサービスをおこないたいのですが、どんな許可を取ればいいのでしょうか。
    Q10.
    チャリティイベントや避難所でBGMとして市販の音楽CDを流したいのですが、構わないのでしょうか。
    Q11.
    チャリティイベントや避難所のコンサートで、既成の曲を演奏したり人の作品を朗読したいのですが、どこで許可を取れば良いでしょうか。
    Q12.
    感染症の流行・災害によって公開実施できないイベントを、無観客開催してライブ配信したいと思います。著作権的に気をつけるべき点はあるでしょうか。
    Q13.
    災害により、特許や商標などの手続の期間が延長になったと聞きました。延長を受けられるのはどのような場合ですか。どのくらいの期間延長されるのですか。

    <労働関係>

    Q14.
    イベント出演や作品制作への参加中、災害が起きて怪我をしてしまいました。労災として、治療費など支払われるのでしょうか。
    Q15.
    参加予定の作品制作や出演予定のイベントが災害・感染症の影響で中止となってしまいました。何らかの補償が支払われるのでしょうか。

    <チャリティオークション・その他イベント運営>

    Q16.
    公園で、仮設の舞台を組み立ててチャリティイベントをおこないたいと思います。どんな許可が必要でしょうか。会社や個人の敷地内のスペースを使ったイベントの場合はどうでしょうか。
    Q17.
    チャリティオークションをおこないたいと思います。何か許可は必要でしょうか。
    Q18.
    チャリティイベントで食事や飲み物を提供する予定です。何か手続は必要でしょうか。

    <保険関係>

    Q19.
    イベント総合保険では、地震・津波等の災害・感染症や、災害後の停電の場合どこまでの損害が補償されるのでしょうか。

    <その他のQ&A・被災支援一般>

    Q20.
    被災者・被災地を応援する目的で、芸術・文化活動を行っている団体が寄付金を募っています。同団体にお送りした寄付金は、税務上どのように取り扱われるでしょうか。
    Q21.
    被災されたアーティストや芸術・文化活動を行う団体等を支援するために、クラウドファンディングによって寄付金を募りたいと考えています。どんな点に留意したら良いでしょうか。
    Q22.
    被災したアーティスト・文化団体です。上記以外の法律情報や、施設再建・活動再建のための支援制度にはどのようなものがあるのでしょうか。

    <イベント中止・キャンセル関係>

    Q1. 当社は、舞台公演などのライブイベントの主催事業者です。災害・感染症の影響で、次のような事態となったため、イベントを中止した(あるいは、中止したいと考えている)のですが、その場合、前売券の払い戻しをする必要はあるのでしょうか。また、前売券を購入してくださっていた方々への対処について、他に留意すべき点はあるでしょうか。
     ① 災害後の設備点検が完了していないため、会場の安全確保に不安がある
     ② 公演予定時間に停電のおそれがあるため、本番中の電源確保および観客誘導の安全確保に不安がある
     ③ 安全・運営面で特に支障はないが、自粛ムードの広がりでチケット販売が伸びず赤字のおそれがある
    A1. 前売券の代金は、イベント中止について主催者に落ち度がなくても、原則として払い戻しが必要となります。また、中止の告知はできるだけ早く、アクセスしやすい方法で行うことが肝要です。
    (1)契約の成立、および条件
    主催者とチケット購入者との間では、契約書が交わされていなくとも、「購入者は主催者にチケット代金を支払い、その対価として、主催者は購入者に、特定の日時・場所で公演の実施(による鑑賞機会の提供)というサービスを提供する」という契約が成立していると考えられます。
    契約の条件は、主催者が利用規約・約款などの形で定めて、チケットの裏面などに掲載したり、オンライン・チケット販売の画面上に掲載していることもあります。
    このような規約・約款の多くは、民法にいう「定型約款」に該当するため、「規約・約款を契約の内容とする旨の合意があった場合」や「取引に際して規約・約款を契約の内容とする旨をあらかじめ相手方に表示していた場合」(例えば、オンライン販売で、利用画面が表示されて「利用規約に同意」のボタンをクリックしなければ購入画面に進めない手順になっている場合)には、有効な契約内容になると考えられます。
    ただし、利用規約・約款などの条件が購入者に周知されていても、その内容がチケット購入者にとって一方的に不利ならば、その度合によっては民法や消費者契約法によって無効となる可能性があります。
    このように、主催者としては、せっかく規約や約款を作っても、重要な条件が無効とされてしまうリスクがありますので、規約・約款の条件があまりに一方的・不合理なものでないかを点検しておくとともに、その条件がチケット購入者に周知されるよう、できるかぎり購入時に目を通してもらえるような工夫が望まれます。
    (2)「履行不能」と「帰責事由」
    チケット代金の返金について、別段の契約条件がない場合(または、あっても無効な場合)には、民法が適用され、以下のような考え方になります。
    公演が中止された場合、延期(後日の開催)が想定されない通常のケースであれば、主催者の債務である「その日時での公演の実施というサービスの提供」は結果的に不可能になったといえます。このことを、法律用語では「(債務の)履行不能」といいます。
    「履行不能」の場合に法律関係がどうなるかは、契約当事者に、「責めに帰すべき事由」(「帰責事由」と略称)があるか否かによります。
    そこで、設問の事例では、公演中止に関する主催者の「帰責事由」の有無が問題になります。
    帰責事由の有無は、具体的な判断は個別の事情(契約内容や取引上の社会通念)をふまえたケース・バイ・ケースの検討によらざるを得ないのですが、一般論としては、会場の安全確保や電源確保に現実的なリスクが存在し、そのようなリスクが主催者の合理的な努力によっては解消し得ない状況であれば、主催者に「帰責事由」はないといってよいでしょう。
    設問①のケースでは、主催者が通常要求される努力をもってしても安全確認が完了しえないのであれば、帰責事由なしと言えそうです。
    設問②のケースでは、停電の可能性がどれほど高いかにもよりますが、通常の努力をもってしても本番中の電源確保および観客誘導の安全確保上の不安が残るのであれば、帰責性はないケースが多いでしょう。
    設問③のケースでは、中止の理由はもっぱら主催者側の都合と言わざるを得ないため、おそらく「帰責事由」ありとなるのではないでしょうか。他方で、新型ウィルスの感染拡大を予防するために公演を中止する、というような場合は状況によるでしょう。公演開催による具体的な感染拡大の危険性(例えば、国内で感染がどれだけ広がっているか)や、政府・自治体の対応(例えば、中止検討の要請が出ているかどうか)等をふまえて、主催者の中止判断が契約上・社会通念上合理的といえるかどうか、によって「帰責事由」の有無が分かれ得ると考えられます。なお、感染症にかかわるイベント中止をめぐる法的対処については、福井健策のコラムを併せてご参照ください。
    (3)結論~チケット代金の払い戻しなど
    主催者とチケット購入者のどちらにも「帰責事由」がない場合、チケット購入者は代金の支払を拒絶でき(民法第536条1項)、契約解除もできます(第542条1項1号)。従って、主催者は購入者に未払いのチケット代金を請求できず、解除された場合は支払済みのチケット代金を返金すべきと考えられます。
    他方、主催者には「帰責事由」がある場合、主催者は債務不履行に基づく損害賠償責任を問われる可能性があります。損害賠償には「支払済みのチケット代金の返金」が含まれますので、いずれにせよ、前売券の払い戻しは必要になると思われます。これに加えて、例えば設問③のように主催者都合と思える中止の場合には、中止の発表前に(あるいは中止を知らずに)チケット購入者が支出した交通費なども、損害賠償として主催者から購入者に払い戻さなければならない可能性もあります。
    (4)その他の留意点~中止の事前告知
    主催者による中止の告知は、主催者のホームページなどのアクセスしやすい方法で、できるだけ早期に行うべきでしょう。それによって、チケット購入者が交通費などの不要な支出をせずに済みますし、ひいては、それを主催者が補償しなければならなくなるリスクの予防にもつながります。
    (北澤尚登)
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    Q2. 当社は、海外アーティストの来日公演の主催事業者です。災害・感染症の影響で、上記(Q1の①~③)のような事態となったため、アーティストは来日を希望していたのですが、当社の判断で公演を中止しました。この場合、アーティストにギャラを支払う義務はあるのでしょうか。
    A2. 契約書に別途の規定がない場合、原則として、イベント中止について主催者に帰責事由(Q1参照)がなければ、支払う義務はありません。他方、主催者に帰責事由があれば、(アーティストが負担せずに済んだ費用分などを除いて)支払義務があります。
    (1)契約に関する考え方
    主催者とアーティストとの間にも、契約関係があります。プロ同士の話ですから、契約書が交わされていることも比較的多いでしょう。また、チケット購入者とは異なり、アーティストは消費者ではないため、消費者契約法は適用されず、返金に関する契約書の取り決めが有効とされる可能性は高いといえます。従って、まずは契約書の条項(特に、いわゆる不可抗力条項=Force Majeure clause)を確認することが重要です。
    なお、契約書の準拠法が外国法と定められている場合は、その外国法に基づいて契約内容を解釈しなければならないため、一般化はできません。ただし、ここでは便宜上、日本法が適用されることを前提に、公演中止について別段の契約条件がない場合の考え方を、以下のとおりご説明します。
    (2)「履行不能」と「帰責事由」
    主催者・アーティスト間の契約は、いわゆる招聘契約であり、その主な内容は「アーティストは主催者に出演という業務を提供し、その対価として主催者はアーティストにギャラを支払う」というものです。
    公演が中止された場合、延期(後日の開催)が通常想定されない通常のケースであれば、招聘契約にもとづくアーティストの債務である「その日時での出演という業務の提供」が不可能、すなわち「履行不能」になったと考えられます。そこで、本Q&AのQ1と同様、契約当事者の「帰責事由」の有無が問題となります。
    設問の事例では、アーティストに「帰責事由」はないでしょうから、やはり問題は主催者の「帰責事由」の有無です。その判断については、上記Q1をご参照ください。
    (3)結論~ギャラの支払義務の有無
    主催者にも「帰責事由」がない場合、主催者はギャラの支払を拒絶でき(民法第536条1項)、契約解除もできます(第542条1項1号)。解除した場合、主催者はアーティストにギャラを支払わなくてよいことになります。
    他方、主催者に「帰責事由」がある場合、アーティストは主催者からギャラの支払を受ける権利を失わないので、主催者はアーティストにギャラを支払わなければなりませんが、アーティストが公演中止によって費用の負担を免れた場合には、その費用分はアーティストから主催者に返すべきことになります(民法第536条2項)。
    (4)注意点~契約書の重要性
    このように、公演中止について別段の契約条件がない場合、「帰責事由」の有無で結論が分かれるため、「帰責事由」の有無をめぐって主催者側とアーティスト側とで見解が食い違った場合には、ギャラの支払について紛糾するおそれもあります。これを予防するためには、やはり事前に契約書を交わしておき、その中で、公演中止時にギャラが支払われる場合とそうでない場合を、なるべく具体的に定めておくことが望まれます。
    (なお、上記では「アーティスト」が独立の事業者とみられる場合を前提としていますが、主催者からみて「労働者」にあたるキャストやスタッフについては、労働法が適用され、結論が異なる可能性があります。この場合については本Q&AのQ15をご参照ください。)
    (北澤尚登)
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    <倒産・未払いへの対処>

    Q3. アーティスト・文化団体ですが、出演先が出演料を支払う前に災害・感染症拡大後の経営難で倒産してしまいました。どうすれば良いでしょうか。
    A3. まず一口に「倒産」といっても様々な場合があり、それに応じて対応の仕方も変わってきますので、具体的にどのような「倒産」になったのかの情報を集めることが大切です。
    電話は通じないし事務所を見に行ったら退去していて、支払いについて連絡を取ろうとしても、その方法がない、といった事実上の「倒産」状態であれば、まずは出演料をもらう予定だった相手やその代表者と連絡を取る方法から模索しなければなりません。

    また、その相手が負債の整理について弁護士に依頼していたり、あるいは法律の規定に従って裁判所に破産や民事再生等の申し立てをするなど、法的な「倒産」の手続きをとったのであれば、事務所に張り紙があったり、また弁護士や裁判所からあなたのところに何らかの通知が届くことが通常です。仮に届かなくても張り紙や通知に書いてある連絡先に連絡を取れば、あなたの出演料がどうなる見込みで、あなたはどうしたらいいのかを尋ねることができます。「倒産」には破産、清算、特別清算など、最終的には事業自体をやめてしまう方向の「清算型」といわれる手続と、民事再生や会社更生など、縮小したうえで事業自体は継続する「再建型」といわれる手続があります。このように裁判所に申し立てをして行う手続きを「法的整理」といいますが、裁判所に申し立てをせず、弁護士などが代理人となって整理を行う場合もあります。これを「私的整理」あるいは「任意整理」といいますが、そのほとんどは「清算型」です。これらのいずれの手続がとられるかによって、また相手の業績によって、あなたの出演料に対していつ頃、どの程度支払が得られるのかが変わってきます。

    あなたは債権者として倒産手続に参加することができますが、具体的な参加の仕方などは、以上の情報を得た上で、最寄りの場所で行われている無料・有料の法律相談などを利用されるとよいでしょう。各地の法律相談窓口については、本Q&AのQ22をご参照ください。なお、具体的な手続きの流れについては、さまざまなHP等で紹介されていますが、倒産をする人の側から書かれているものが大半で、あなたのような債権者の側から書かれているものはほとんどありません。面倒でも相談を利用して確認することをお勧めします。
    (桑野雄一郎)
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    Q4. Q3のケースで結局未払いになった場合、何か補償を受けられる制度はないのでしょうか。
    A5. 支払いが受けられなくなったあなたの出演料を直接補償するという制度は残念ながら今のところ整備されていません。ただ、災害・感染症による被害を受けたのが、自分の収入の大きな割合を占めている継続的な出演先だというような場合は、連鎖倒産の防止のための中小企業や個人事業主に対する資金繰り支援策を利用できる場合はあるでしょう。
    具体的な支援策がまとまったものとして、法人の場合は中小企業庁災害関連情報がまとまっています。また、新型コロナウィルスによる公演中止等についての支援は新型コロナウィルス感染症関連に掲載されている情報が参考になります。 また、商工中金の災害特別相談窓口は個人事業主でも利用できます。
    このほか、間接的な被害を受けた中小企業や個人事業主に対し、銀行や信用組合等の民間の金融機関、また地方公共団体によっても融資による支援を行っているところがあります。
    これらの制度は、災害・感染症により被害を受けたあなたの出演先も利用する可能性があります。これらの制度により、経営の立て直しができた暁には、あなたの出演料も支払われる可能性がありますので、直ちに返済が受けられないからといってあきらめないでください。
    (補足)
    以上のQ3,Q4は外部の出演先の倒産の場合でしたが、自分の所属している事務所・オーケストラが倒産をしてしまった場合で、あなたが労働者に該当する場合について考えてみましょう。労働者に該当するかどうかの基準は本Q&AのQ14を参照してください。
    あなたが労働者に該当する場合は、あなたの出演料は「賃金」あるいは「労働債権」といい、サラリーマンの給料と同じように考えられる場合が多いです。この賃金や労働債権は、法的整理では他の債権よりも優先して支払われることになっているのが一般です。また、賃金が未払いのまま相手が倒産してしまった場合には、未払賃金立替制度によって、労働基準監督署及び独立行政法人労働者健康福祉機構が立て替え払いをしてくれる制度があり、これが利用できる可能性もあります。
    未払賃金立替制度についてはこちらをご参照ください。
    (桑野雄一郎)
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    <転売>

    Q5. 災害支援のために制作したアーティストの限定グッズや、感染症流行時のマスクや消毒ジェル、大雪の際の雪かきシャベルなどイベントの存続に関わる必需品が、店頭やファンサイトで買占められ、フリマサイトなどで高額出品されています。①販売者として、②被害を受ける購入者として、何が出来るでしょうか。
    A5. 医薬品のように販売自体に免許が必要な商品などでない限り、転売自体がストレートに違法になる法規制は存在しません。そこで、①販売者側の対応としては、転売目的での購入の禁止や購入個数の限定などの販売条件を明瞭に表示することがスタートとなります。店頭であれば見えやすく表示し、口頭で呼びかけなどをします。サイトであれば単に表示するのでなく、販売規約などに同意クリックして貰うのが望ましいでしょう。
    こうした販売条件があるにも関わらず、転売目的を隠して購入したり、あるいはバイトや複数名義を使用するなどして上限を超えて購入する「転売ヤー」がいた場合、販売者への詐欺にあたる可能性があります。そこでそうした転売ヤーを把握した場合には、警察に相談する、出品先のフリマサイトに通報して削除や情報提供を求める、といった対応が考えられるでしょう。詳しくは、このコラムなどを参照。
    ②被害を被った一般購入者も、そうした通報などを自ら、あるいは販売者を介しておこなうことが考えられます。
    それでも悪質な買占め・転売行為がやまず、国民生活に影響が出るような事態に至った場合には、政府がこうした事態を把握して国民生活安定緊急措置法に基づいて対象商品の売り渡しを指示したり(22条)、転売行為を直接規制すること(26条)も理論上はあり得ます。ですが、かなり極端で広範な商品の不足が発生した場合に限られるでしょう。
    (福井健策)
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    <著作権の相続・行方不明者の作品利用>

    Q6. 災害により作品の著作権者が亡くなりました。作品の著作権は、著作権者の死亡により消滅するのでしょうか。それとも、誰かが引き継ぐのでしょうか。
    A6. まず、亡くなった著作権者に相続人がいる場合、著作権者が遺言などにより作品に関する意思表示をしていなければ、著作権は、相続人全員が共有することになります。
    では、誰が相続人になるかというと、法律上、原則として、①配偶者、及び、②(i)子、(ii)直系の親又は(iii)兄弟姉妹が相続すると定められています(民法第887条乃至第890条)。
    すなわち、①配偶者は常に相続人となり、②については、(i)子がいれば、子が相続人となり、(ii)子(乃至その子・孫)がいない場合には、第二順位の直系の親が相続人となり、(iii)子(乃至その子・孫)も直系の親もいない場合に、第三順位の兄弟姉妹が相続人になります。
    なお、災害により、著作権者の子も亡くなり、著作権者の死亡と前後が不明である場合、同時に死亡したものとみなされます(同法第32条の2)。同時に死亡した者相互の間では相続関係は生じませんので、(子の子・孫がいる場合を除き)第二順位の親又は第三順位の兄弟姉妹が相続人となります。
    次に、共有された著作権は、その共有者全員の合意によらなければ行使することができません(著作権法第65条2項)。そのため、著作権者の相続人が複数いる場合、作品を利用するためには、相続人全員から利用の許諾を得なければならないのが原則です。
    もっとも、まずは連絡可能な一部の相続人に対し、他の相続人との連絡の取りまとめや、相続人全員の代表として許諾してもらえないか相談してみるのが、現実的な進め方といえる場合もあるでしょう(連絡可能な相続人がいない場合の対応については、本Q&AのQ7をご参照ください)。
    なお、作品がJASRAC(日本音楽著作権協会)などの管理団体に信託等され、著作者の死後も集中管理されている場合には、当該管理団体に対して利用申請をすることができます。
    他方、著作権者に相続人がいない場合、著作権者が遺言などにより意思表示をしていないかぎり、著作権は所定の手続を経て消滅します(著作権法第62条1項1号・民法第959条)。
    相続人が存在しない場合、土地などの相続財産は国庫に帰属しますが、著作権については、作品を広く利用させたほうが文化の発展に寄与すると考えられるため、このような消滅が認められています。
    なお、相続時(著作権者の死亡時)に子がすでに死亡していた場合、その子(著作権者の孫)が相続人となり(代襲相続)、孫も死亡していれば曾孫が再代襲相続人となります。また、兄弟についても、その子(著作権者の甥・姪)による代襲相続が認められていますので、「著作権者に相続人が存在しない」と判断する際には注意が必要です。
    著作者死亡後の著作者人格権の保護については、通常FAQのQ5に詳しい説明がありますので、あわせてご参照ください。
    (鈴木里佳)
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    Q7. 作家・実演家が災害で行方不明になってしまいました。作品を利用するには、どうすればよいでしょうか。
    A7. 著作権者である作家や、著作隣接権者である実演家が行方不明であるため、これらの者から作品の利用許諾を得られない場合であっても、文化庁長官の裁定を受け、通常の使用料相当額の補償金を供託することにより、作品を利用することができます(著作権法第67条1項)。
    この裁定制度を利用するためには、①利用しようとする作品が、公表され、又は相当期間にわたり公衆に提供・提示されている著作物等であること、及び②権利者と連絡をとるための「相当な努力」を払ったにもかかわらず連絡することができないこと、という条件を満たす必要があります。
    この「相当な努力」の具体的な方法など、裁定に関する手続については、文化庁長官官房著作権課により作成された「裁定の手引き」に詳しい説明がありますので、あわせてご参照ください。
    また、通常、申請後裁定までに約2ヶ月以上の期間を要しますが、申請中利用制度(同法第67条の2)を利用すれば、裁定申請後、文化庁長官が定める額の担保金を供託することにより、裁定前であっても、作品の利用を開始することができます。具体的には、最短で、申請から約2~3週間で利用開始することができます。
    利用開始後、裁定が認められなかった場合、その時点で作品の利用を中止しなければならない点に注意が必要ですが、利用開始の希望時期までに時間があまりない場合には、この申請中利用制度の活用もあわせて検討するとよいでしょう。
    他方、作品がJASRAC(日本音楽著作権協会)などの管理団体に信託等され、権利者の死後も集中管理されている場合には、当該管理団体に対して利用申請をすることができます。
    (鈴木里佳)
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    Q8. 災害により、父が行方不明の間に、父の作品を出版したい(又はWEB上で公開したい)という方から連絡がありました。著作権者が行方不明の間、著作権の管理はどのように行えばよいでしょうか。
    A8. 行方不明者の財産管理は、行方不明者に成年後見人などの財産管理人が予め選任されている場合を除き、家庭裁判所が選任する財産管理人により行われることとなります。
    財産管理人を選任してもらうためには家庭裁判所に対する申立てが必要となりますが、行方不明者の子は、利害関係人として選任の申立てを行うことができます。
    そして、家庭裁判所が、調査の上、財産管理の必要性が認められた場合に、財産管理人が選任されます。
    他方、災害により、お父さんの死亡が確実である場合、認定死亡制度(戸籍法第89条:水難、火災その他の事変に遭遇した者につき、死亡したことは確実であるが、ご遺体が発見されない等の理由により死亡が確認できない場合に、取調べをした官公署が、死亡地の市町村長に死亡の報告をし、これにより本人の戸籍簿に死亡の記載が行われる制度)による相続が認められる可能性もあります(なお、著作権の相続については、本Q&AのQ6もあわせてご参照ください)。
    また、東日本大震災により行方不明となった方については、ご家族の方などが市町村役場に申述書を提出することにより、死亡届が受理される運用が実施されています(申述書の書式や手続については、法務省のホームページ「御遺体が発見されていない場合でも死亡届を提出できます」に説明がありますので、ご参照ください)。
    さらに、災害後、お父さんの生死不明が1年以上継続した場合には、家庭裁判所に対して失踪宣告(民法第30条)を申し立てることにより相続が認められる場合もあります。
    上記の死亡届受理に関する運用及び失踪宣告については、仙台弁護士会のWebサイトに掲載されている「震災Q&A」の「Q37及び38」に詳しい説明がありますので、あわせてご参照ください。
    なお、ご質問のケースとは異なり、行方不明の方の作品が、無断でWEBサイト上に掲載されたなどのケースにおける対応方法としては、まずは各WEBサイトの利用規約などに従うことになります。
    多くの利用規約では、著作権者本人による手続が必要とされているかと思いますが、WEBサイトにより、著作権者以外からも、著作権侵害情報を収集している場合もあります (たとえば、YouTubeでは、著作権侵害作品などについては、動画の下にあるフラグをクリックして、「権利の侵害」を選択することで、報告できる仕組みがとられています)。
    作品の無断掲載が行われたWEBサイトの利用規約を確認し、運営者などに対して問い合わせを行うことが有効な場合もあるでしょう。
    (鈴木里佳)
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    <チャリティと著作権・その他知財関係>

    Q9. 被災地や避難者の方々を対象に、持ち寄られた書籍・音楽CDの貸し出しサービスをおこないたいのですが、どんな許可を取ればいいのでしょうか。
    A9. まず、あなたが個人や非営利団体で、対価を受け取らずに貸し出しをしようと考えているならば、特に許可は必要ありません。
    この場合、書籍や音楽CDにはたいてい著作物が収録されていますから、著作権の問題になります。不特定又は多数の人々にそれらを貸し出すことは「貸与」といって、基本的には著作権者の許可が必要です(著作権法第26条の3など)。しかし、①非営利目的で、かつ②対価をとらずに貸与をおこなう場合には、「映画の著作物」を除けば許可なくおこなえる、という例外規定があるのです(同第38条4項)。
    個人や非営利団体ではなく、企業が主体でおこなう場合でも、被災地支援のために対価をとらずに貸し出すなら、おそらく「非営利目的」と認めて良いように思います。(音楽CDの場合には「著作隣接権」という権利も関連しますが、同じように例外規定があります。)
    対価をとっておこなう場合には、そうした例外規定はありませんから、本則どおり権利者の許可が必要です。参考までに書籍について説明すれば、小説やコミックなど多くの書籍の貸与権は、「一般社団法人出版物貸与権管理センター」(RRAC)という団体が管理しています。管理書籍ならば同センターが、その他の書籍はそれぞれの出版社などが、まずは相談先になるでしょう。
    (※なお、被災地や避難者のための書籍を通じた支援活動やその注意点、各地の博物館・美術館・図書館などがおこなっているサービスは、「saveMLAK」に充実したまとめがあります。)
    (福井健策)
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    Q10. チャリティイベントや避難所でBGMとして市販の音楽CDを流したいのですが、構わないのでしょうか。
    A10. 入場無料のチャリティイベントや避難所で、BGMとして音楽CDを流すことは問題ありません。
    音楽CDに含まれる楽曲・歌詞は著作物ですから、著作権を考える必要があります。不特定又は多数の人々の前で音楽CDを流す行為は「演奏」といって、基本的にはJASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)などで許可の手続をとらないとおこなえないのが原則です(著作権法第22条)。しかし、①非営利目的で、かつ②入場料などの視聴の対価をとらずにおこなう演奏・上演・上映・口述は、③実演家・口述者に報酬(ギャラ)を支払わない限りは許可なくおこなえる、という例外規定があるのです(同第38条1項)。
    主体が個人や非営利団体ではなく、企業がイベントをおこなう場合でも、特に宣伝目的などが見られず被災地支援の目的が明確であるならば、「非営利目的」と認めて良いように思います。
    (このほか、音楽CDには「著作隣接権」という権利も関連して来ますが、イベントで流す行為には特に及びません。)
    (注)東日本大震災の後、JASRACなどは本Q&AのQ11でご紹介するような被災地支援のための使用料減免措置を発表しましたが、「非営利目的の演奏の例外」はこうした減免措置とは無関係に、地域を問わず誰にでも認められるものです。
    (福井健策)
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    Q11. チャリティイベントや避難所のコンサートで、既成の曲を演奏したり人の作品を朗読したいのですが、どこで許可を取れば良いでしょうか。
    A11. 入場無料のチャリティイベントや避難所のコンサートでの演奏や朗読の場合も、出演者が報酬などを受け取らないならば、本Q&AのQ10と同様、特に許可は必要ありません。また、入場料をとるチャリティコンサートでも、JASRACの特別の使用料減免措置があります。
    (1)
    楽曲・歌詞や詩・小説は著作物ですから、著作権を検討する必要があります。不特定又は多数の人々の前で曲を演奏・歌唱したり朗読する行為は「演奏」「口述」といって、基本的には作者などの許可を得ないとおこなえないのが原則です(著作権法第22条、第24条)。しかし、本Q&AのQ10で説明した「非営利の演奏・口述など」の例外規定がここでも働くため、そこで説明した①~ ③の条件をすべて満たすならば、許可は不要となります。
    (このように許可は不要ですが、連絡先を公表している作家であれば、落ち着いた頃、作品を演奏・朗読したことを手紙などで報告したら喜んでくださるかもしれませんね。)
    (2)
    他方、入場料を徴収する場合には「非営利目的の演奏の例外」は適用されません。ただし、JASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)などの権利者団体が被災地支援の一環として、①入場料が全額寄付され、②実演家・口述者に報酬(ギャラ)を支払わない、などの一定の条件を充たせば曲の演奏利用を無償許諾する措置を発表することがあります。
    現時点で何らかの措置があるかは、こちらなどをご参照ください。入場料を徴収するチャリティイベントでも、これらの条件・手続を充たせば曲が無償利用可能になることがあります。
    (3)
    なお、いずれの場合も作品の改変は許されません。また、作者名(作詞家・作曲家名)や作品名はプログラムや何らかの形で告知するのが原則ですので、ご注意を(同第48条1項3号ほか)。
    (ミュージカルを例にとった詳しい説明が、通常FAQのQ5にもありますから、あわせてご覧ください。)
    (福井健策)
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    Q12. 感染症の流行・災害によって公開実施できないイベントを、無観客開催してライブ配信したいと思います。著作権的に気をつけるべき点はあるでしょうか。
    A12. 特定少数の人にだけ届ける場合を除いて配信は公衆送信ですので、イベントに音楽などの著作物や人の実演・音源が含まれる場合には、配信の許可を取る必要があります。
    基本的に権利者にはイベント関係者が多いでしょうから問題は少ないと思いますが、例えば既存の戯曲、音楽(作詞・作曲)、映像、音源などを用いる場合には個別の了承を取ることになります。元のイベントが非営利上演・演奏で許可が必要なかった場合でも(本Q&AのQ10参照)、公衆送信には「非営利の例外」はないため許可が必要になる点、ご注意ください。

    ただし、JASRACやNexToneの管理楽曲については、①リアルタイムのみの配信の場合や、②個人や(国内曲については)団体が商品などの宣伝を目的としない場合には、YouTubeやニコニコ動画など多くの動画投稿(共有)サイト上での配信には許可が不要です。これは各投稿サイトがJASRACなどと包括契約を交わしているためです。
    JASRACの許可不要の判断チャートは、こちらをご覧ください。
    JASRAC管理楽曲の検索はこちら。
    NexTone管理楽曲の検索はこちら

    なお、自ら歌唱・演奏をせずCD・配信などの既存音源を使う場合には、楽曲の著作権とは別に著作隣接権(原盤権)が発生しますので、音源の権利処理が必要となります。音源の動画投稿もレコード会社などが特に許可している例がありますので、個別にご確認ください。

    その他、音楽に限らず、クリエイティブコモンズ(CC)など、権利者が自由利用できる範囲をあらかじめ表示している作品は、その範囲内で改めて許可を取らずに利用することができます。CCライセンスの解説はこちら
    (福井健策)
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    Q13. 災害により、特許や商標などの手続の期間が延長になったと聞きました。延長を受けられるのはどのような場合ですか。どのくらいの期間延長されるのですか。
    A13. ある災害が、「特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律」(特定非常災害特別措置法)2条1項の特定非常災害に指定されれば、同法3条3項に基づく申出を行うことにより、一定の手続について期間の満了日が延長されます。産業財産権法に関していえば、特許・商標等の明細書の補正、優先権主張、拒絶査定不服審判等、様々な手続が期間延長の対象となっています。
    たとえば、令和元年台風19号は特定非常災害に指定されておりますが、延長対象に該当する手続については、令和2年3月31日が期間の満了日となっています(対象手続きの一覧はこちら
    期間についてはこちら)。
    また、特定非常災害特別措置法とは別に、特許法等の個別の法律にて、大規模災害を含む「正当な理由」による救済手続が定められています(平成23年、26年及び27年の特許法等改正にて整備されています)。たとえば、令和元年台風15号は、特定非常災害特別措置法の適用はありませんが、特許法等に基づき、手続が可能となってから一定期間内に、被害を受けて手続ができなかった事情を説明する文書を添付することによって、有効な手続として取り扱われる場合があります(詳しくはこちら)。手続によって救済期間が細かく異なりますので、詳細は特許庁HPをご確認ください(救済手続の概略についてはこちら)。
    以上のとおり、状況により救済規定や延長期間が異なります。災害が起きた場合には、救済手続の適用がある手続かどうか、またその期間はいつまでか、特許庁HPで確認することをおすすめします。
    (諏訪公一)
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    <労働関係>

    Q14. イベント出演や作品制作への参加中、災害が起きて怪我をしてしまいました。労災として、治療費など支払われるのでしょうか。
    A14. 製作会社や主催者との関係で、あなたが労働者であることが認められれば、出演や業務中の怪我はもちろんのこと、そこから避難する際や会場・制作現場に向かう途中の怪我についても労災と認められ、怪我の療養費や休業補償などが給付される余地があります。
    (1)「労働者」であること
    労働者災害補償保険法(労災保険法)が適用されるためには、原則として「労働者」であることが必要です。労働者であるかどうかは、指揮監督下で仕事をしているか、報酬が仕事に対する賃金として支払われているか、という観点から判断されます。
    アーティストや芸能関係者が労働者といえるかどうかは、厚生労働省が平成8年に発表した判断基準が参考になります。
    たとえば、俳優や技術スタッフ(撮影、照明、録音等)などは、テレビや映画の製作会社、その監督との関係では、以下の事情があると労働者と認められやすくなります。
    (あ)
    特定の日時場所を指定した撮影など、仕事の依頼や指示に対して、拒否することができない。
    (い)
    仕事をするうえで、演技や作業の細部まで指示される。
    (う)
    突然役の変更指示がされるなど、予定された業務以外の業務を指示された場合に、拒否できない。
    (え)
    監督の都合で撮影時間、休憩、移動時間などが決められ、変更されてもそれに従わざるを得ない。
    (お)
    自分の判断で代わりの者に仕事をさせたり、補助者を使うことができない。
    (か)
    当初の撮影日程より予定が伸びた場合に、報酬がそれに応じて増える。
    (き)
    報酬が、ランクに従って支払われている。
    (く)
    機材や衣装が全て提供されている。
    (け)
    その仕事をしている期間、ほかの仕事をすることができない。
    (こ)
    報酬が給与所得として源泉徴収されている。

    また、オペラ公演の合唱団の契約メンバーについて、2011年4月12日に最高裁判決があり、基本的には上記基準を踏襲したうえ、労働者であると認めました。具体的には、
    上記(あ)(う)(え)(お)に該当する事情として、年間シーズン全ての公演に出演することが可能である契約メンバーとして基本契約が締結され、基本契約締結の際、全ての個別公演に出演するために可能な限りの調整をすることが要望されていた。基本契約では、個別公演に出演し、必要な稽古等に参加するなどの業務を行うことが規定され、別紙として年間シーズンの公演名、公演時期、上演回数、契約メンバーの出演の有無等が記載されており、自由に公演を辞退することができたとはいえない。各当事者の認識や実際の運用において、契約メンバーは、基本的に個別公演の申込みに応ずべき関係にあったといえる。公演の件数、演目、日程、上演回数等の契約内容は、主催者に一方的に決定されていて、契約メンバーに交渉の余地はなかった。指定された日時、場所において、その指定する演目に応じて歌唱の労務を提供していた。
    上記(い)の事情として、歌唱技能の提供方法や提供すべき歌唱内容については、主催者が選定する合唱指揮者等の指揮を受け、稽古への参加状況は主催者の監督を受けていた。
    上記(か)(き)の事情として、主催者の指示に従って歌唱の労務を提供した場合、契約書別紙報酬等一覧に掲げる単価と計算方法によって算定された報酬の支払を受け、稽古が予定時間を超過した場合には、超過時間により超過稽古手当が支払われていた。
    一方、上記(け)に反する事情として、契約期間中、個人でリサイタルをしたり生徒をとって個人レッスンをすることなどが可能であったという事情がありましたが、各事情を総合考慮すれば、契約メンバーは主催者との関係で(労働組合法上の)労働者にあたると判断されました。
    (2)労災認定される場合
    労働者であるとされた場合、その怪我が労働災害(労災)と認められるか、が次に問題になります。
    労災認定は、当該怪我や死亡が業務遂行中のものか(業務遂行性)、また、業務に起因するものか(業務起因性)、という両面から判断されます。しかし、天災地変による災害においては、業務遂行性が認められれば、特に反証のない限り、業務起因性を認めてさしつかえないとされています(厚生労働省平成23年3月24日付通知)。
    具体的には、作業方法、作業環境、事業場施設の状況等からみて危険環境下にあることによって被災したと認められる場合には「業務災害」として、また、通勤に通常伴う危険が現実化したと認められる場合には「通勤災害」として、労災認定されます。
    東日本大震災では、①事業所が地震で倒壊し、または津波で水没等して被災した場合、②事業場から屋外へ避難する際に被災した場合や、③事業主の命令により救助等の緊急行為に従事中または事業主の命令がなくても同僚の救護、事業場施設の防護等の緊急活動に従事中に被災した場合には、業務災害として、④通勤中に列車が脱線し、または車が津波に巻き込まれた場合には、通勤災害として、それぞれ労災認定を行うとされました(同通知)。
    したがって、業務中に舞台装置や機材が倒れてきて怪我をした場合はもちろんのこと、会場や製作現場自体が倒壊して怪我をした場合、避難の最中にガラスの破片で怪我をしたり、観客を誘導する際に怪我をした場合、出演や制作のために会場などに向かう途中で被災した場合なども、労災の対象になるでしょう。
    なお、東日本大震災では、事業主や医療機関の証明書がなくても労災申請を受理するとされています(同平成23年3月11日付通知)。請求は全国すべての労働基準監督署や労働局の出張相談所で受け付け、その際、勤務していた会社や賃金の額がわかる資料の提出が必要とされますが、資料がなくても関係者からの聴取等の調査を行って対応されました。同様の措置が、平成30年7月西日本豪雨や、令和元年台風15号同19号の際にも適用されました。また、東日本大震災による災害から3か月生死がわからない場合、平成23年3月11日に死亡したと推定するなどの特例措置が実施されました。(厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「労災保険制度のご案内」)
    労災認定がされれば、怪我の療養費や休業補償、また遺族年金や一時金、葬祭料が支払われます。
    被災労働者の方、遺族の方に向けた労災保険給付について、厚生労働省では、総合的なパンフレットを用意しています。
    また、労災給付の概要については、こちらのパンフレットが参考になります。
    その他、東日本大震災に関する労災保険については、厚生労働省がQ&Aをまとめていますので、こちらも参考にしてください。
    (3)労働者ではない場合
    労働者ではない場合は原則として労災の補償はありませんが、主催者や会場施設が加入している一般の傷害保険でカバーされる場合があります。出演契約や保険加入の有無について、主催者に確認してみてください。
    なお、一定の事業を行う自営業者は、労災保険に特別加入することができ、労災加入者の場合には、(2)と同じ扱いがされます。ただし、俳優やフリーランスの舞台制作スタッフなどは、現在の枠組みでは事実上特別加入が難しく、日本芸能実演家団体協議会(芸団協)において、制度利用のための環境整備に向けて検討をすすめています。
     ◆厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署:「特別加入のしおり(1人親方その他の自営業者用)
     ◆芸能関連労災問題連絡会
    (松島恵美)
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    Q15. 参加予定の作品制作や出演予定のイベントが災害・感染症の影響で中止となってしまいました。その日のために、他の仕事を調整してスケジュールを空けていたのですが、この場合、何らかの補償が支払われるのでしょうか。
    A15. 中止がやむを得ない場合には、契約に特に規定がなければ何ら補償はされません。
    制作会社や主催者の都合で中止された場合には、契約に従いますが、契約に特に規定がなければ、あなたが負担せずに済んだ費用分を除き、予定されていた報酬について全額請求できる余地があります。
    また、製作会社や主催者との関係で、あなたが労働者であることが認められ、中止が製作会社や主催者の都合でなされている場合には、過去3ヶ月間の報酬の平均額の6割の休業手当は最低限保証されます。
    (1)契約の規定・民法の考え方
    イベントの主催者や製作会社との契約を、まず確認してください。中止となった場合の扱いについて規定があれば、それに従うことになります。
    契約にそのような規定がなかったり、そもそも契約がない場合には、民法上の「危険負担」という考えに従います。
    民法の考え方では、作品制作やイベントの中止がやむを得ない事情による場合には、改正民法のもとでは、報酬の支払を拒絶することができ、その場合には、あなたは報酬を受けることができません。
    一方で、作品制作やイベントの中止が、単に十分な集客が見込めないなど、主催者側の都合による場合には、主催者側に「責に帰すべき事由」があるとされ、あなたは報酬を受ける権利を失いません。ただし、作品制作への参加やイベント出演をしていないので、その分負担せずに済んだ費用がある場合、参加・出演しなかった代わりにほかの仕事をしたなど利益を得ている場合には、この分を除いた報酬を請求することができます。以上、詳しくは、本Q&AのQ2をご覧ください。
    (2)労働者と認められる場合
    あなたが、労働者と認められる場合(前記Q14参照)には、労働基準法が適用されます。労働基準法では、休業が「使用者の責に帰すべき事由」による場合、使用者は労働者に、最低でも過去3ヶ月間の報酬の平均額の6割を休業手当として支払わなければならないとされています(労働基準法第26条)。この規定には、罰則がついているので、休業手当分は最低限確保できることが保証されています。
    ただし、①事業の外部要因で発生し、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしても避けることができないような事情・事故によって、予定されていた作品制作への参加やイベント出演ができない場合は、前述の労働基準法でいう「使用者の責に帰すべき事由」はない、と判断されるでしょう。
    したがって、災害によって会場が倒壊した、計画停電により照明が使えず舞台演出を行えないなどで、主催者・製作者としての最大の注意を尽くしても中止せざるを得ないような、不可抗力によるやむを得ない中止の場合には、使用者側に休業手当を支払う義務はないとされるでしょう。
    (計画停電実施の場合の取扱 平成23年3月15日付 厚生労働省通達
    (平成23年夏期における計画停電に伴う休業について 平成23年7月14日 厚生労働省通達 注:不規則実施の場合の対応について記載されています。)
    もっとも、災害・感染症により制作体制や会場の安全が特に脅かされていないにもかかわらず、自粛ムードの中で作品の販売や集客が見込めない、といった理由の場合には、労働基準法で休業手当の支払いが必要となる「使用者の責に帰すべき事由」による休業と考えられそうです。なお、労働基準法の休業手当は、労働者保護のために最低限保証されるものですので、休業手当の支払義務のある「使用者の責に帰すべき事由」の判断にあたっては、民法上全額を請求できる余地のある(1)の「責に帰すべき事由」に比べ、労働者を保護する必要性の観点からより広く認められると考えられています。
    休業手当を含む東日本大震災に伴う労働基準法の取扱については、厚生労働省からQ&Aが公表されていますので、こちらも参照してください。平成30年西日本豪雨令和元年台風15号19号の際の取扱についても、同様にQ&Aが公表されています。
    なお、災害の影響で損壊した設備の早期修復が不可能であるなどで、事業活動が縮小し、休業によって労働者に休業手当等を支払った場合、会場運営会社などの事業者は雇用調整助成金や中小企業緊急雇用安定助成金を利用できる場合があります。
    (松島恵美)
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    <チャリティオークション・その他イベント運営>

    Q16. 公園で、仮設の舞台を組み立ててチャリティイベントをおこないたいと思います。どんな許可が必要でしょうか。会社や個人の敷地内のスペースを使ったイベントの場合はどうでしょうか。
    A16. 公園は、通常、区市町村、または都道府県などの地方自治体が所有し管理しています。公園で普通に遊ぶような一般的な利用方法であれば許可も届出も不要ですが、イベントを実施する場合には、原則として公園を管理する地方自治体から実施の許可を受ける必要があります。また、イベントのためにテントやステージのような仮設工作物を設置して利用する場合は、仮設工作物の設置についても別途許可を受けることが必要です。申請手続きなどは自治体ごとに定められていますので、各自治体に問い合わせてください。特に仮設工作物の設置については直前の申請では間に合わない場合が多いので、イベントを計画したら早めに手続を確認することが必要です。
    一方、会社や個人の敷地は私有地ですので、原則として所有者の許可があればどのように利用しても自由です。
    質問のケースは、仮設の舞台を組み立てるということなので、建築基準法の適用も問題になります。建築基準法の適用を受ける「建築物」とは、「土地に付着する工作物のうち屋根及び柱もしくは壁を有するもの」とされており、取り外しのできない屋根があることが判断基準のひとつとされています。イベント用のテントの場合は、通常は骨組みに取り外し可能な屋根をかぶせている構造だと思われますので、建築基準法上の「建築物」にはあたらない可能性が高いでしょう。
    もっとも、テントであっても、サーカス用テントや展示会用テントのように屋根が固定されている場合には、建築基準法上の建築物にあたる可能性があります。屋根や外壁に膜材料を用いた建築物を膜構造建築物と言いますが、現在、膜構造建築物は、テント倉庫建築物(国土交通省告示第667号)、膜構造建築物(国土交通省告示第666号)、及び簡易構造建築物(建築基準法第84条の2、同施行令第136条の9)に分類されており、それぞれ建築の基準や建築のための手続が定められていますので、設置を予定している設備が膜構造建築物に該当する可能性がある場合は確認が必要です。

    仮設のステージで屋根が固定されているが壁は設置されていないような場合は、簡易構造建築物にあたる可能性があります。また、1年以内の一定期間のみ使用する仮設の劇場や、被災地において破損した建造物の再建工事期間中に建設する仮設建築物(仮設の劇場も含まれます)については建築基準法に特別の規定があり、許可を受けて着工すれば、建築物の構造や防火性能に関する規制等、建築基準法上のさまざまな規制に関する規定の一部の適用が免除されています(建築基準法第85条5項)。
    なお、イベントで食品を提供する場合については本Q&AのQ18を参照してください。
    (唐津真美)
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    Q17. チャリティオークションをおこないたいと思います。何か許可は必要でしょうか。
    A17. チャリティオークションを行う場合、多くのケースでは特に許可は不要だと思われます。
    (1)
    一度使用した物品や使用のために購入したものの未使用の物品、またはこれらの物品に幾分かの手入れをしたもののことを「古物」といいます(古物営業法第1条)。営業として古物を購入して売却する行為を「古物営業」といい、古物営業を行うためには、営業を営もうとする都道府県ごとに都道府県公安委員会から古物商の許可を受けることが必要になります(同法第3条)。

    では、チャリティオークションの場合はどうでしょうか。
    まず、自分で使用していたもの、自分で使用のために購入したが未使用の物を販売する場合は、古物商の許可は不要です。ただし、転売するために古物を買って持っていたのであれば、古物商の許可が必要となる可能性があります。
    また、古物の買い受け、交換やその委託によって売主に利益が生じる場合は古物商の許可が必要ですが、他人のものでもまったく無償で引き取ってきたものを売る場合は、古物商の許可は不要です。チャリティオークションの場合は、このケースに該当する可能性が高いと考えられます。
    さらに、古物を購入して売却する行為でも、すべてが古物営業に該当するわけではありません。「営業」とは営利の目的をもって同種の行為を反復継続して行う行為のことです。営業性があるかどうかは行為の実情から客観的に判断されます。したがって、古物の販売を「一回的に」行う場合は古物営業には相当しません。(客観的に見て、今後も継続して販売することが予定されているような場合は、一回目の販売でも営業にあたる可能性があります。)
    購入した物品の販売を行う場合でも、特定の災害の被災者支援のために一回だけ行われるチャリティオークションであれば、「営業」ではないと判断される可能性が高いと思われます。

    なお、古物商の許可を受けている個人・法人がオークション(競り売り)をする場合には、一定の場合を除いて公安委員会に競り売りの届け出をすることが必要になりますので注意して下さい(同法第10条)。古物商以外の人が競り売りを行う場合は、競り売りの届け出は必要ありません。
    (2)
    インターネット・オークション事業者のように、自分が持っている物を競り売りするのではなく、他人のオークションを斡旋すること、すなわち、古物を売却しようとする者(出品者)と、買い受けの申し出をする人(入札者)を結びつける電磁的なシステムの提供を営業として行う場合は、古物競りあっせん業者として届け出ることが必要です(同法第2条2項3号、第10条の2・1項)。ただし、この場合も、オークションの斡旋をするのであれば、必然的に届け出が必要なのではありません。上で述べたように、「営業」とは、営利の目的をもって同種の行為を反復継続して行うことをいいます。また、インターネット・オークションの営利性については、出品料、落札手数料、システム利用料等その名称の如何を問わず、利用者からインターネット・オークションに係る対価を徴収している場合は営利目的があるといえます。
    したがって、特定の災害のために一回だけオークションの場を提供する場合や、利用者からチャリティオークションに係る対価を一切徴収せず、売上はすべて寄付するようなチャリティオークションであれば、古物競りあっせん業者の届け出は不要である可能性が高いでしょう。

    なお、ネットオークションを行う事業者の場合、その事業は特定商取引法の通信販売にあたるので、表示義務などの遵守が必要になります。インターネット・オークションにおいては、出品者の中に事業者と非事業者が混在しているのが実態ですが、経済産業省は、インターネット・オークションにおいて同法の「販売業者」に該当すると考えられる場合を明確化するために、「インターネット・オークションにおける「販売業者」に係るガイドライン」を策定しました。

    例えば、過去1ヶ月に200点以上又は一時点において100点以上の商品を新規出品している場合には、営利の意思を持って反復継続して取引を行う者として販売業者に該当するという考え方が示されています。詳細については、上記ガイドラインをご覧ください。

    古物営業については、こちらも参考になるでしょう。
    (唐津真美)
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    Q18. チャリティイベントで食事や飲み物を提供する予定です。何か手続は必要でしょうか。
    A18. 基準は都道府県ごとに異なりますが、チャリティイベントにおける飲食物の提供については、特に許可は不要なケースが多いと思われます。ただ、所轄する保険所への届出などは必要な場合が多いでしょう。
    食品を調理・加工して提供する場合、原則として、所管する保健所に営業許可申請を行い、都道府県から営業許可を受けることが必要になります(食品衛生法第51条、第52条)。営業許可は食品衛生法に基づくものと、都道府県の条例に基づくものとに分かれます。食品衛生法に基づく営業許可の場合も、その基準は、都道府県の条例において定められているので(同法第51条)、所管する都道府県に確認することが必要です。
    一般的には、保育園、幼稚園のバザー、学校の文化祭など特定の人を対象とする行事での飲食物を提供する場合や、催事やイベントに伴い、その場所で、その時だけ、いわゆる模擬店で食品営業に似た行為(食品の製造・加工・調理・販売)を行う場合は、営業許可は不要とされる場合が多いようです。
    また、一時的に催され、不特定多数の者が自由に参加できる行事において飲食物を提供する場合であっても、住民祭、花火大会、盆踊りなどの公共的な行事で、年間の出店日数がわずか(原則として1年に5日以下)であるような場合には、営業許可は不要であり、臨時出店の届出を行えば足りるとされています(届出の例として、「東京都福祉保健局|臨時営業・臨時出店等」参照)。ここでいう公共的行事とは、出店地を所管する地方公共団体(市町村及び都)、国又は住民団体が関与する公共的目的を有する行事を意味します。それぞれの行為・施設等に応じて、提供可能な食品に制限がありますので、注意が必要です。詳しくはこちらをご確認ください。
    チャリティイベントにおける飲食物の提供については、上記のいずれかの例外に該当する場合が多いと思われます。ただし、営業許可が不要でも、一般的には食品営業類似行為として、食品衛生上の危害の発生を防止するため保健所への模擬店等開催届(名称は自治体によって若干異なる)は必要であり、保健所の指導に従う必要がありますので、注意してください。
    チャリティイベントを継続的または複数回にわたって行い、これに伴って飲食物の提供も継続的または複数回にわたって行う場合には、食品営業許可が必要になる場合が多いので、管轄の保健所に相談してください。
    もっとも、食品営業許可が必要になるのは、原則として食品を調理・加工して提供する場合です。単純に食品を販売する場合、公衆衛生上問題がない態様であれば、イベントの性質に関わらず営業許可は不要です。たとえば、ジュースやビールを瓶や缶のまま販売する場合(コップに注いで提供する場合は許可が必要)、菓子類、包装された弁当、サンドウィッチ、おにぎりなどを販売する場合は、営業許可は不要とされています。
    また、食品を調理・加工して提供する場合でも、焼きトウモロコシやポップコーンのように農産物に簡単に加工を行って提供する場合や、無償で提供する食品(試食品)の提供については、やはり営業許可は不要です。営業許可の要否に不安がある場合は、このような営業許可を要しない食品の提供に限定して行うというのも1つの方法です。
    (唐津真美)
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    <保険関係>

    Q19. イベント総合保険では、地震・津波等の災害・感染症や、災害後の停電の場合どこまでの損害が補償されるのでしょうか。
    A19. イベント総合保険あるいはイベント保険という名称の保険があります。東京海上日動、損保ジャパンなどの会社がこの保険を提供しています。決まった内容の保険ではなく、契約者と保険会社とが相談したうえで内容を定めるオーダーメイドの保険とされています。具体的には、次のような保険の全部または一部を組み合わせます。
    傷害保険:イベント中の事故などの場合にイベント出演者などのケガを補償する保険
    施設賠償責任保険:イベント会場の構造・管理の不備などによりイベントへの参加者など主催者以外の第三者に与えた損害を補償する保険
    興行中止保険:悪天候、出演者の出演不能、交通機関の事故などの理由によりイベントを中止した場合に支出した費用等を補償する保険


    イベント総合保険の内容はさまざまですが、いずれにしても、地震や津波は免責対象とされているのが通常です。その場合、たとえば、地震や津波を理由としてイベントを中止した場合でも保険金は支払われません。また、新型コロナウィルス等感染症を理由としてイベントを中止した場合にも、契約内容の多くが、新種の感染症によるイベントの中止リスクをカバーしていなようです。たとえば、東京海上日動では、イベントの出演予定者以外の人が感染症にかかること、かかっている疑いがあることまたはかかるおそれがある場合を免責の対象としています。
    損保ジャパンでは、割増保険料を支払う特約によって災害によるイベント中止などをカバーする仕組みも用意しています。しかし、東日本大震災の影響もあり、そのような特約を含む契約の引き受けには慎重になっているようです。
    災害それ自体による中止ではなく、災害に起因した電力不足を理由とした停電、あるいは政府による節電要請等のためにイベントが中止に追い込まれた場合はどうでしょうか。そのような場合に保険金が支払われるためには、2つのハードルを越える必要があります。まず、イベント総合保険はオーダーメイドの保険なので、そもそも停電の場合等をカバーする契約内容になっている必要があります。次に、そもそも保険とは偶然の事由によって生じた損害を填補する仕組みですが、当初から政府が節電要請をしている場合などに、偶然の事由と言えるかという問題が生じます。個々の事案にもよるでしょうが、こうした理由で保険金の支払を断られるケースもあるかもしれません。
    なお、東日本大震災を受けて、イベント総合保険の保険金の支払に関して保険会社が特例措置をとっているということは特にありません。ただし、保険料の支払期限を猶予したり、手続のための必要書類を軽減する措置などはとっている場合もあるようです。
    (二関辰郎)
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    <その他のQ&A・被災支援一般>

    Q20. 被災者・被災地を応援する目的で、芸術・文化活動を行っている団体が寄付金を募っています。同団体にお送りした寄付金は、税務上どのように取り扱われるでしょうか。
    Q20.個人による寄付金が、「特定寄付金」に該当する場合は、一定の限度額の範囲内で寄付金控除として所得金額から差し引かれます。なお、「特定寄付金」のうち「認定NPO法人等に対する寄付金」*1 若しくは「公益社団法人等に対する一定の寄付金」*2 は、寄附金控除(所得控除)または、寄附金特別控除(税額控除)のいずれかを選ぶことができます。
    法人による寄付金が、「特定寄付金」のうち「国や地方公共団体への寄附金」または「指定寄附金」*3 に該当する場合は、その全額を損金に算入することができます。それ以外の寄附金は、一定の限度額まで損金に算入することができます。
    *1
    特定非営利活動法人のうち一定の要件を満たすものとして認められたものなど(認定NPO法人等)に対する寄附金で、特定非営利活動に係る事業に関連するものをいいます。なお、認定NPO法人とは、認定NPO法人制度にもとづき、特所轄庁の認定を受けた認定NPO法人(特例認定を受けた特例認定NPO法人を含みます。)をいいます。認定NPO法人等の一覧は、内閣府ホームページで確認することができます。
    *2
    公共法人等のうち、教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与するものと認められた特定公益増進法人に対する寄附金で、その法人の主たる目的である業務に関連するもの等をいいます。
    *3
    公益社団法人、公益財団法人その他公益を目的とする事業を行う法人又は団体に対する寄附金で、広く一般に募集され、かつ公益性及び緊急性が高いものとして、財務大臣が指定したものをいいます。

    上記の通り、お送りする寄付金が「特定寄付金」に該当するのか、仮に該当する場合、どれに分類されるかによって、税務上の取扱いが異なりますので、誰の名義で行うか、どのような団体が寄付金を募っているのか等をご確認ください。また、上記寄付金控除を受け又は損金算入するには、寄附金控除又は寄附金特別控除(税額控除)に関する事項を記載した確定申告書を税務署に提出する必要がある点にもご留意ください。
    その他、個別の災害関連情報や、具体的な税金の算定方法、申告・納付等に係る手続に関しては、国税庁がHPで公表しています。詳しくは、以下のリンク等もご覧ください。
     ●国税庁:「災害関連情報
     ●国税庁:「寄附金を支出したとき
     ●国税庁:「寄付金控除について
    (出井甫)
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    Q21.被災されたアーティストや芸術・文化活動を行う団体等を支援するために、クラウドファンディングによって寄付金を募りたいと考えています。どんな点に留意したら良いでしょうか。
    Q21.
    (1)クラウドファンディング
    クラウドファンディングとは、一般に、新規・成長企業等と資金提供者をインターネット経由で結び付け、多数の資金提供者から少額ずつ資金を集める仕組みをいいます。クラウドファンディングを実施する場合は、通常、プロジェクト実施者によるプロジェクトの掲載、出資者による出資、プロジェクトの実施、リターン品の提供といった流れを辿ります。
    クラウドファンディングは、出資者に対するリターンの形態により、主に以下の3つの形態(「寄付型」、「購入型」、「投資型」)に分類することができます。

    「投資型」:
    出資者から資金調達をし、調達した資金を使ってプロジェクトを行い、そのリターンとして、プロジェクトで得た収益の一部を出資者に分配する仕組み。
    「寄付型」:
    プロジェクト実施者が、出資者から寄付金を受けてプロジェクトを行い、かつ、リターンがない仕組み。もっとも、プロジェクトによっては、お礼の手紙や寄付者としての氏名を掲載してもらう等、非金銭的なリターンが提供されることがあります。
    「購入型」:
    プロジェクト実施者が、ある商品・サービスの開発費用を募り、集まった資金で開発した商品・サービスを出資者にリターンする仕組み。

    (2)寄付型クラウドファンディング
    災害復興支援のためにクラウドファンディングを実施する場合は、寄付型を採用するケースが多いと考えられます。現状、寄付型を明示的に規制する法律は見受けられません。もっとも、例えば、リターン品に金銭的価値が伴い、実質的にリターン品が出資の対価といえる場合(支援対象となるアーティストが演奏を収録したCDやDVDを提供する場合など)は、「購入型」(売買契約)と評価され、特商法上の「通信販売」に該当し、広告に伴う表示規制(同法11条)が適用される可能性があります。また、リターン品に関しては瑕疵担保責任(民法570条、改正後は契約不適合責任(改正民法562条))等の適用を受けるケースが想定されます。

    それ故、クラウドファンディングを実施する際には、リターン品を提供するか、仮に提供する場合は、金銭的価値が伴い得るか等をご確認ください。

    (3)税務上の取り扱い
    出資者による寄付金に関する税務上の取り扱いについては、本Q&AのQ20をご覧ください。
    プロジェクト実施者には、出資者から寄付金を受け取る際、納税義務が生じ得ます。なお、プロジェクト実施者が個人であるか法人であるかによって、税金の種類が異なります。
    プロジェクト実施者が個人の場合は贈与税が課され得ます。もっとも、個人から寄付金を得る場合の贈与税は、基礎控除の110万円を超えて寄附を受けたときに発生します(国税庁「No.4402 贈与税がかかる場合」)。法人からの寄付金を受け取る場合は、一時所得と扱われ、課税額は一時所得の特別控除額を差し引いたものに税率を掛けたものとなります(国税庁「No.1490 一時所得」)。
    プロジェクト実施者が法人の場合は法人税が課され得ます。もっとも、プロジェクト実施者がNPO法人・公益財団法人等で、プロジェクトの内容が「収益事業」に該当しない場合は非課税となります(「収益事業」の範囲については国税庁の「新たな公益法人関係税制の手引」(32頁)をご覧ください)。
    なお、プロジェクト実施者が寄付金を寄付先にお送りするとき、及び寄付先がこれを受け取る時にも納税義務が生じ得ます。ただし、前者については、本Q&AのQ20に記載した寄付金控除や損金算入等の制度による優遇措置を受けることができます。また、後者については、災害見舞金として非課税とされるケースや(国税庁「Ⅳ 災害により受領する災害義援金等」参照)、法人が被害回復のために支出した費用等を損金に算入することができる措置が設けられています(国税庁「災害等にあったとき」、「義援金に関する税務上の取扱いFAQ」)。

    上記の通り、プロジェクトを企画する際には、プロジェクト一連に係るプレイヤーの性質や、プロジェクトの目的等を確認の上、課税関係を整理しておくことが重要となります。

    (4)クラウドファンディングの取り組み
    通常、クラウドファンディングを実施する場合は、クラウドファンディング事業者が、出資金のうち一定の手数料を徴収します。もっとも、災害復興支援など、公益的なプロジェクトに関しては、手数料を低額化又は免除してくれることがあります。例えば、こちらのコラムで紹介しているものや、「熊本地震復興支援プロジェクト」(Dreamraising)、「京都アニメーション支援プロジェクト」(Makuake)等が挙げられます。

    クラウドファンディングを企画する際には、上記のような各クラウドファンディング事業者による災害復興支援用のサービスの有無等も確認しておくことをお勧めします。
    (出井甫)
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    Q22. 被災したアーティスト・文化団体です。上記以外の法律情報や、施設再建・活動再建のための支援制度にはどのようなものがあるのでしょうか。
    A22. 法律情報や施設再建・活動再建のための支援制度やプログラムは、多岐にわたります。ここではいくつか代表的な情報サイトを紹介します。
    現地弁護士会や日弁連などによる無料法律相談などの災害法律支援一般については、こちらの日弁連のサイト(災害復興支援)を参照ください。
    そのほか、やや法律実務家向けのものですが、災害の法律相談全般は本Q&Aでも何度か紹介した関東弁護士会連合会編「Q&A災害時の法律実務ハンドブック」(新日本法規。最新版電子版はこちら)が参考になります。
    国・自治体などによる生活再建支援・中小事業者向けの災害復旧貸付などの各種の一般向け支援制度の概要は、下記にまとまっています。
     ◆内閣府:「被災者支援に関する各種制度の概要」(各種の支援制度の最も包括的なまとめ)
     ◆各種の「災害復旧貸付制度」の比較説明
     ◆厚生労働省「雇用調整助成金
    (その他アート・文化と被災支援の情報)
     ◆文化財防災ネットワーク(災害時の文化財の救出方法、文化財レスキュー事業など)
     ◆博物館・美術館・図書館などの被災・救援情報サイト:「saveMLAK
      (被災者・復旧活動向けの各種情報、ボランティア希望者の登録や本の寄贈上の注意、アーカイブ作成の呼びかけなど、広範なまとめ)
     ◆全国美術館会議:災害対策・救助活動に関する要綱など
     ◆国立国会図書館:「カレント・アウェアネス・ポータル」による災害関連での図書館等の動きの速報と集約
     ◆日本図書館協会:図書館での災害対策情報の集約
     ◆NDL東日本大震災アーカイブ「ひなぎく」
      (国立国会図書館が、同館・国会・CiNii・各地域・放送局・企業など多様なデータベースを連動させ、震災・被災地関連の写真・動画・音声・記事などを一元検索・閲覧可能にした大規模アーカイブ。各アーカイブへのリンクも充実)
     ◆「GBFund」(企業メセナ協議会による芸術・文化による災害復興支援ファンド)
    (福井健策)
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