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【衣食住編】福建土楼に泊まってみた⑤文昌楼にて客家の暮らしを体験する一泊二日

前回は、夜の展望台から眺める幻想的な土楼群の様子をお伝えしました。今回は少し時をさかのぼり、文昌楼での食事から就寝、翌朝までの衣食住にまつわる体験をリポートします。土楼という特別な空間で、客家の人々の日常にどこまで近づけるのか—期待に胸を膨らませながら、夕暮れの中庭へと足を踏み入れました。

前回記事はこちらから

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テーブルから学ぶ土楼の作法

各土楼を散策して文昌楼に戻ってきたところ、黄(フアン)おばちゃんが「差不多好了!(そろそろできあがるよ!)」と声をかけてくれました。夕暮れ時の中庭には、すでに何名かのおじさん住民が食事を始めています。

 

何気なくテーブルに腰かけようとしたところ、おばちゃんが慌てたように「そっちじゃなくて、こっちこっち」と別のテーブルへと案内してくれました。どうやらテーブルは自由に使って良いわけではなく、各世帯に一つずつ割り当てられている様子。土楼という独特の集合住宅だからこそのルールを、早速学ぶことになりました。

郷土の味と酒が織りなす夕餉

程なくして運ばれてきたのは、この地域の名物「笋干炒肉(筍と豚肉の炒め物)」。実は南靖県の様々な店で「これがおすすめ!」と紹介される定番メニューなのですが、文昌楼での一皿は格別でした。豚肉の脂身がジューシーで、歯ごたえのある筍との相性も抜群。客家伝統の濃いめの味付けと、きっと近くで採れたであろう新鮮な筍の風味が見事に調和しています。

せっかくの機会なので、お酒も注文してみることに。「米酒ありますか?」と尋ねると、おばちゃんは「白米酒(バイミーチュウ)」を持ってきてくれました。一口飲んでみると、白酒(パイチュウ)そのものでした。喉を焼くような強烈な度数に思わず目が覚めます。白酒自体は中国全土でお目に掛かれますが、こちらは地元で造られている白米酒だとのこと。

さらにおばちゃんは、2リットルほどの巨大なボトルをドーンと置いていってくれました。「おかわり自由だよ」という暖かな心遣いに感謝しつつ、これは気持ちだけで十分だと心の中でつぶやきます。

かねてより気になっていた土楼仕込み(?)の糯米酒

続いて「これも飲んでみな」と勧められたのが、土楼でよく見かけていた糯米酒。こちらも度数は負けず劣らずの強さですが、上品な甘味が特徴的で、紹興酒を思わせるスパイシーな香りも。酒と料理を交互に楽しみながら、周りのテーブルでは住民たちの楽しげな会話が聞こえてきます。糯米酒の味については、また別記事で改めて詳しく紹介したいと思います。

住民の生活空間へ

夕食後、民宿のオーナーさんに声をかけていただき、お茶までごちそうに。その後、シャワーを浴びようと建物の外にある公衆トイレ横のシャワー室へ向かったところ、鍵がかかっていて使用できません。困っていると、土楼の住民の娘さんが「そっちじゃないよ。うちのシャワーを使って」と声をかけてくれました。

土楼1階の炊事場兼浴室

彼女の案内で、普段は観光客立入禁止の1階住民エリアへと足を踏み入れることができました。これぞまさにホームステイの醍醐味。シャワー室は炊事場と一体となった水回りスペースで、少しレトロながらも清潔に保たれています。

世界の安宿では往々にして「水しか出ない簡易シャワー」が備わっているケースが多いですが、予想とは大違いで、ここではしっかりと温水も使えました。さらに驚いたのが、シャワー後に使える温風乾燥機。頭上から温風が降り注ぎ、体を乾かしてくれる画期的な設備に思わず笑みがこぼれます。土楼という伝統的な建築の中に、実は意外なモダンさが隠されていたのです。

画期的な中国テクノロジー。うちにも一台欲しい。

安心と信頼が息づく土楼の夜

共同トイレは、観光客用ではなく本来は村人専用のものですが、宿泊者は特別に使用を許可されています。期待していた「ニーハオトイレ」のような珍しい構造ではありませんでしたが、いたって普通に使いやすく、何より文昌楼のすぐ外にあるため夜間の使用も安心です。

村内の共同トイレ

実際、土楼エリア全体が驚くほど平和で、朝食用の食材や商品が外に置きっぱなしになっているほど。女性の一人旅でも全く心配ありません。ただし冬の夜は予想通りの寒さで、トイレに行く時はフリースが必須。部屋には暖房こそありませんが、布団にくるまると意外と暖かく、この日は疲れもあってぐっすりと眠ることができました。

夜から早朝にかけて散歩をすると、朝食が屋外に放置されている様を見ることができる

客家の暮らしを垣間見れる朝

翌朝は少し早めに起床して、朝日と共に土楼散策をした後、約束の時間に中庭で朝食。寒ければ室内でも食べられるそうですが、あえて中庭を選択。蛋饼(玉子料理)、お粥、ザーサイ、ピーナッツ、そしておまけでマントウまでと、どれも優しい味わいに、思わずほっとするような朝食でした。

休日でも早くから家事を始める住民たち

朝になると、土楼の2階以上で寝ていた住民たちがのそのそと降りてきて、中庭へとやって来ます。各々、朝食の準備を始めたり、洗濯物を洗ったり、食器洗いを始めたり、歯磨きを始めたり、と徐々に忙しい朝の光景が広がっていました。

朝の締めくくりは伝統的な福建茶の時間。最初はおばちゃんが丁寧に茶葉を入れ、湯を注ぎ、茶器を温め、絶妙なタイミングで茶を淹れる所作を見せてくれます。何度か経つと「もうやり方わかるよね!私もご飯食べてくるから自分でやって!」と突然バトンタッチ。その後は二煎、三煎と、福建スタイルでセルフサービスのお茶を楽しみました。茶葉の香りが徐々に変化していく様子を楽しみながら、朝もゆっくりと過ぎていきます。

心に残る客家の暮らし

土楼での一泊は、ただの宿泊体験を超えて、まさに客家の人々の暮らしに溶け込む貴重な機会となりました。世界遺産としての建築的価値も素晴らしいものですが、その中で脈々と受け継がれる暮らしの文化こそが、本当の宝物なのかもしれません。

1泊2日の滞在中、徐々に打ち解けていった住民たちとの交流は、この土楼ステイをさらに特別なものにしてくれました。おばちゃんの気さくな人柄、娘さんの親切な気遣い、オーナーさんの温かなもてなし—。次回は、文昌楼で出会った人々との交流についてお届けします。

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