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明治大学の藤田結子教授
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明治大学の藤田結子教授

 「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」-。東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長の発言は、国内外から批判を集めました。「女性は…」という無意識の偏見や根拠のない思い込みが、言葉に表れたのではないでしょうか。わが身を振り返ってみると、新聞紙面でも慣習になっている表記や表現があるのでは。記者やデスクの男女約20人から意見を募って議論し、メディアとジェンダーの問題に詳しい明治大学の藤田結子教授に尋ねてみました。(まとめ・石川 翠)

■写真モデル=女性 これって当たり前?

 -役所や企業でパンフレットや商品を紹介するときに、女性に持ってもらう写真が少なくありません。広報担当に女性が多いこともありますが…。

 「人前に出て何かをPRしたり案内したりする仕事というのは、若くて感じのいい見た目の女性が多いんですよね。日本だけではなく他の先進国も同様。しかし、欧米では問題視されるようになっています」

 「『美的労働』とも言いますが、美しさを使った労働が女性に割り当てられている。物事を決定する権限を握っている中高年男性には、それが好ましく映る。そういう価値観が女性記者も含めて当たり前になっていませんか? 女性が外見や年齢で評価されるのを肯定することにつながってしまいます」

 -写真のモデルとして頼みやすいのは、受付や庶務に女性が多い状況もある。そう話す記者もいました。

 「社会そのものを切り取っている面もありますね。奥に座っている男性を引っぱってきて持たせるっていうのもおかしいし。でも女性ばかりを写すことで意識が再生産されるので、なるべくそうではないパターンも考えて」

 -女子校が夏服に衣替えという写真も定番です。伝統があり爽やかなのですが、違和感を覚える女性記者もいました。

 「写真自体はいい写真。ただ、毎回同じでなくてもいいのでは。男子校だって共学だっていいでしょう」

■「女子大生」「女医」 見出しに違和感

 -建設業界で女性社員の活躍に触れた記事です。男性幹部が「女性らしい視点や対応が、取引先とのコミュニケーションを円滑にしてくれている」と話したことを記事にしています。

 「微妙…。これは難しい。女性の本質的な特質ではないですが、ケアについては女性が担ってきたので女性らしい視点というのは実際にある。子どもやお年寄りの世話など女性が割り当てられてきた役割から、他人が困ってることに早く気付くなどの特性はある」

 「ただし、ステレオタイプ的な言い回しであることは否定できない。女性だからコミュニケーションの円滑剤になると読めてしまいます」

 -「女性市長」「女子大生」「○○ガール」などの見出しも議論に上った。

 「女性市長が誕生して、その自治体で初めて女性が責任ある役職に就くことを報じることは必要。関係ない時に『女医』などは不要」

 「英国の広告業界が、ジェンダーステレオタイプはやめようという取り組みをしています。『この言葉はだめ』という一律のルールがあるのではなく、文脈ごとに判断するということ。不必要に『女』を付けたり、ステレオタイプな文言を使ったりするのはやめた方がいいですね」

■性別表記 必要ですか

 -夫婦を紹介する記事では、夫の名前を先に出します。スポーツの成績も男女の順で発表されます。

 「変えたほうがいいでしょうね。家族や集団の代表を男性ととらえるのは、性別役割分業や家父長制の認識でしょう。では必ず女性を前にする、というわけでもない。男性ばかりだったら女性を先にしてみるとか。私も文章を書く際には気を付けています」

 -「30代の女性」など匿名での性別表記や、男女で「氏」「さん」「ちゃん」の使い分けはどうでしょうか。LGBTや性の多様性の観点からも課題かと。

 「匿名を表すのにジェンダー(性別)を使うのが習慣ですが、男女が重要でなければ、『Aさん』など検討してもいいのでは。(米国などで性自認が男女に当てはまらない人を指す際に使用される)『they』が、日本語には無いですからね。敬称でも区別する必要はなく、学校などでも『さん』に統一されていっています」

 「多分、社会全体でも時間をかけて変わっていくと思います。私の周辺でも、大学で性別が名簿に表記されなくなりました。欧米の学会では自分の呼称を選べるようになっています」

 -メディアはどのように意識し、変わっていけばいいでしょう。

 「役割分業の強化や肯定する文脈になっていないか、不平等やステレオタイプになっていないかを立ち止まって考えることが大事。社内で自主的に勉強会をしたり、専門家など第三者の目で見てもらう、などいかがでしょう」

【ふじた・ゆいこ】東京都出身。慶応大卒業後、ロンドン大学で博士号を取得。専門は社会学。慶応大メディア・コミュニケーション研究所准教授などを経て、2016年から明治大商学部専任教授。

【国際女性デー】女性の地位向上や社会参加を目指し、国連が1975年に定めた。1904年3月8日、ニューヨークで婦人参政権を求めて起こったデモが起源。世界中で関連イベントが行われる。

【ジェンダー】1970年代の女性解放運動の盛り上がりの中で、生物学的な性差(セックス)に対し、社会的・文化的につくられた性差との意味で広まった。現在は性的少数者を含む性の多様性や、男性性なども重要な研究対象となっている。

 「男は理性/女は感情」、「男は仕事/女は家庭」といった決めつけは典型的な偏見(ジェンダー・バイアス)だ。服装や、家庭や職場での役割分担の他、政策や制度にも影響を与え、男女間の格差や差別につながる。

 国際社会では「ジェンダー平等」が重要な政策課題とされ、日本では99年に男女共同参画社会基本法が施行された。国連が2030年までの実現を目指す「持続可能な開発目標(SDGs)」にも盛り込まれている。

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