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2017年1月14日土曜日

『「読まなくてもいい本」の読書案内』によるブックガイド

橘玲の『「読まなくてもいい本」の読書案内』を読んだので、感想とメモをまとめておく。

この本、タイトルは『「読まなくてもいい本」の読書案内』だが、実際には「読まなくていい本」はほとんど紹介されていない。紹介されているのは、当たり前の話かもしれないが読むべき本だ。他の読書案内本と異なっているのは、”こういう本は読まなくて良い”と、ばっさり切り捨てているところ。読むべきか・読まなくてもよいかの基準は、20世紀後半に爆発的に進歩した科学研究の成果に置いている。著者は、この時期に起きた科学研究の大幅な進歩を”知のビッグバン”、”知のパラダイム転換”と呼び、これ以前に書かれた本は(とりあえず)読む必要がないと言い切る。古いパラダイムで書かれた本は捨てて、新しいパラダイムで書かれた本を読もうという話だ。ちょっと乱暴な分け方ではあるが、1980年代に大学生だった私には案外納得できるものだった。学生時代に最先端の科学パラダイムとして友人たちと議論したようなものが、いくつもこの本には登場する。

読書案内ではあるものの、この本自体がそれぞれの理論の解説書にもなっているので、これ1冊読むだけで一通りの理解が得られる。それぞれの理論が生まれてきた背景や、理論を作り出した人物、過去の理論がどのように組み合わさって新しい理論が生まれたか、なども解説されているため、たいへんわかりやすいし、読んでいておもしろかった。とりあえずこれ1冊よんでおいて、さらに深掘りしたいテーマについては、紹介されている書籍をあたれば十分だろう。

では、以下メモ。

1. 複雑系

ポストモダンはデタラメだったねという話から複雑系へ。
マンデルブロによる正規分布とは異なるべき分布の研究の話。リーマンショックが起きたのは、市場が正規分布ではなくべき分布になるから。
マンデルブロが発見した「世界の根本法則」とは、複雑さにも秩序があるということ。
自然界の根本法則はフラクタル。フラクタルとは、自分を複製する自己相似によって自己組織化し、複雑さを生み出すこと。そこには必ずべき分布がある。
マンデルブロはフラクタルを数式ではなくコンピュータグラフィックスで表現した。フラクタル幾何学、マンデルブロ集合。
自分を自分に取り込むことをフィードバックという。単純な規則から複雑な組織が生まれるのはフィードバックを繰り返すから。
マンデルブロはフラクタルが自然界だけではなく人間社会をも支配していると考えた。
フィードバックによって自己組織化するネットワークは複雑系と呼ばれる。
複雑系は自転車の車輪のようなハブ&スポークの構造になっている。
ハブ&スポーク型のネットワークの特徴は、離れているように見えても実際は近いということ。これが複雑系のスモールワールド。
フィードバック効果によってハブができれば、どんな組織でも同じ構造になる。
世界はネットワークで、それを動かしているのはハブ。
マンデルブロは複雑系という言葉は使わず、ラフネス(複雑さ)という言葉を使う。
カオスとフラクタルは同じものだが、科学者の功績争いの結果別のものになってしまっている。

2. 進化論

進化とは、遺伝的変異と自然選択で繁殖度(包括血縁度)を上げることによって、生物が環境に適応するよう多様化する過程のこと。
進化論はものすごく単純な理論、だからこそ強力。
自然選択の原動力は、できるだけ多く血縁(自分と同じDNAを持つもの)をつくること。これを包括適応度という。
生き物は包括適応度を最大化するように進化する。
遺伝子は、自分と同じ遺伝子をできるだけ多く複製するように進化する。
すべての生き物は、遺伝子を後世に引き継がせるための遺伝子の乗り物。利己的な遺伝子
生き物は「遺伝子のコピーの最大化」というゲームを行うプログラム。
ゲーム理論より、進化は遺伝子の複製を最大化する合理的な戦略だけを選択していく。これを進化的に安定な戦略(ESS/Evolutionarily Stable Strategy)と呼ぶ。
遺伝学と結びつくことで、生き物の生態を数学的に記述できるようになった。社会生物学、理論生物学
さらにゲーム理論を拡張し、経済学を導入した。進化生物学
経済学における効用はお金、生物学の効用は遺伝子の数。
生き物の戦略は遺伝子という効用の最大化。したがって、生態系は投資や市場取引として経済学的に説明できる。
社会生物学がその対象をヒトまで拡大した。→社会問題となる。
心や感情も進化によって生まれた。進化心理学
進化心理学は進化生物学の直径で、進化論の心への拡張。
感情も進化の過程でつくられ、遺伝的にプログラミングされている。
ゲイの乱交とレズビアンの一婦一婦制は、男性と女性の進化論的な戦略の違いが純化した結果。
進化論は行動経済学やビッグデータ、脳科学と結びついて強力なマーケティング技術を生み出している。

3. ゲーム理論

ゲーム理論は、自然界や人間界で起こるさまざまな相互作用(対立と協調)を数学的なゲームとして説明する。
ゲーム理論では、現在の戦略をどちらも変更する余地がない状態を均衡という。
ゲーム理論でのシグナリングとは、相手に自分の意図を言葉ではなくシグナルで伝えること。
ゲーム理論はフォン・ノイマンがポーカーを数学的に分析しようとして考えだした。
ゲーム理論でのコミットメントとは、相手に「どんな犠牲を払っても実行する」と信じさせること。
ゲーム理論では、利害関係のある相手と取引をする状況を戦略的環境とし、そのなかで最適な戦略はなにかを考える。これが均衡。
均衡では、自分も相手も現状より多くを獲得できないという意味でお互いに満足している。
均衡は平等とは限らない。不公平なことのほうが多い。
均衡がみんなにとって最適になるとは限らない。
どんなゲームにも必ず1つは均衡があるし、複数あることもある。
ナッシュ均衡とは、他のプレイヤーの戦略を所与とした場合、どのプレイヤーも自分の戦略を変更することによってより高い利益を得ることができない戦略の組み合わせのこと。
ゲーム理論はポーカーの数学的分析を経済学に応用しようとしてはじまった。
ゲーム理論は、戦争の戦略や生き物の生態の説明に圧倒的な力をみせた。
ゲームの必勝法は、自分の情報を相手に与えず、相手の情報だけを手に入れること。
進化心理学を取り入れることで、行動経済学がうまれた。
ファスト思考=直感、スロー思考=理性
行動経済学は人間の不合理についての理論。
人間は、数学的合理性と進化論的合理性を使い分けている。
進化論的には合理的だが数学的には不合理な行動を取る人間をモデルにつくられたのが、行動ゲーム理論。従来のゲーム理論を拡張したもの。
ゲーム理論が強力なのは、この世界がゲームの集合体だから。
統計学の最大の特徴は、理論がなくても正しい答えを導けるところ。
統計データの解析からまず正解を発見し、なぜそうなるのかはあとから考えればよい。
近代経済学は、行動ゲーム理論と統計学(ビッグデータ)によって書き換えられつつある。

4. 脳科学

デカルトは、主観(意識の還元)と客観(脳の還元)の対立という近代哲学最大の難問にたどり着く。これは「心身二元論」「心脳問題」と呼ばれるもので、現代に至るまで解決されていない。
近代科学の最大の武器は還元主義。
ニューロンの仕組みは解明されている。そこで生じるのは物理現象。この物理現象が大量に生じると、なぜ意識が生まれるのか? 心脳問題の最高の難問。
クオリアとは生の実感のこと。心脳問題は、デジタルな情報交換からなぜクオリアが生じるのか、と言い換えることができる。
ヒトの判断には理性よりも感情が圧倒的に大きな影響力を持つ。
心というのは、視覚・聴覚・触覚などによって外界を認識する機能のことではない。知覚にクオリアが伴ってはじめてヒトは生きていると意識することができる。
意識が成立するには、データの量だけではなく、それがどのように統合されているかが重要。
コンピュータが意識を持たないのは、プログラムが逐次処理されていて全体が統合されていないから。
鳥や哺乳類は、脳内のデータ量はわずかでもネットワークが統合されているため、その複雑さに応じて意識を有している。
情報統合理論では、意識はヒトだけが特権的に持っているのではなく、ネットワークに固有の性質。
トラウマ理論はデタラメ。
フロイトの理論の大半はデタラメ。
矛盾する認知に直面した状態を認知的不協和と呼ぶ。この状態になると自意識は自己正当化を行う。自己正当化は無意識下で行われるので、自分の嘘に気がつくことはない。
進化心理学では、心はシミュレーション・マシンと考える。
シミュレーションとは、コンピュータのif...then...プログラムのこと。
ヒトは生きている限り、if...then...の思考をひたすら繰り返している。
瞬間的な判断はすべて無意識が決めていて、自由意志などというものはない。
脳のネットワークは単純な規則から自己組織化する複雑系のスモールワールドで、その複雑性から意識が立ち上がってくる。
ニューロンから意識に至る過程にも、個人から市場や社会に至る過程にも、あらゆる場面で進化や遺伝の力が働いている。
遺伝学、脳科学、進化心理学、行動ゲーム理論、行動経済学、統計学、ビッグデータ、複雑系などの新しい知は、進化論を土台として1つに融合し、ニューロンから意識、個人から社会・経済へと至るすべての領域で巨大な知のパラダイム転換を引き起こしている。

5. 功利主義

トレードオフがある以上すべての人が満足することはありえないから今より状況が改善できればそれでいい、こういう考え方を功利主義という。
哲学者ジェレミ・ベンサムが言い出したことで、最大多数の最大幸福の原理として知られている。
功利主義の特徴は幸福が計算可能だと考えること。この数えられる幸福が効用で、効用を最大化するのが功利主義。
功利主義と経済学とは一体のもの。
二人でパイを分けるときに最大多数の最大幸福を実現するには、1.パイを大きくする、2.パイを全員が満足するように分ける、3.ゲーム理論を使って最適なルールを決めれば良い、という3つの原則が導き出せる。こういう考えを設計主義という。
功利主義にも何らかの正義の基準が必要。
正義は娯楽である。ヒトは正義の行使を娯楽=快楽と感じるように進化してきた。
正義とは、進化の過程のなかで直感的に正しいと感じるようになったもののこと。
ヒトには自由・平等・共同体の正義感覚がある。ここから3つの政治的立場が生まれる。1.自由を求める自由主義、2.平等を求める平等主義、3.共同体を尊重する共同体主義。
自由主義・平等主義・共同体主義の3つのほかにもう1つ存在する政治思想が功利主義。
功利主義の大きな特徴は、他の3つの主義とは異なって進化論的な基礎付けを持たないこと。
政治思想を理解する出発点は、すべての理想を同時に実現することはできないというトレードオフ。
自由を追求すると必然的に格差は大きくなる。それを平等にしようとすれば国家が徴税などの暴力によって市場に介入するしかない。自由を犠牲にしない平等はありえない。
正義についての政治的対立とは、みんなの間で幸福と不幸をどのように分配するのかという問題のこと。
ロールズの格差原理:社会的・経済的な不平等が許容できるのは、もっとも不遇な立場の人の利益が最大化されているときだけだ。
センの人間の安全保障:すべての人に最低限の機能が分け与えられ、潜在能力を発揮できるようになること。
センは効用ではなく機能と潜在能力を基準にして公平ではなく衡平な社会をつくるべきだという。
衡平とは、ひとびとの機能や潜在能力が等しくなり、釣り合いのとれた状況のこと。
社会をより良いものに設計しようとすることをマーケットデザインという。
パレート効率性:誰かの効用を犠牲にしなければ他の誰かの効用を高めることができない状態。
いいかえると、誰の不利益にもならずに今より幸福になれるなら、それは皆にとってもいいことだ。
個人合理性とは、抜け駆けができないという基準のこと。
対戦略性とは、正直に伝えることが最もいい結果を生むような分配方法になっていること。
マーケットデザインでは、パレート効率性と個人合理性の両方の基準をクリアした分配方法をコアと呼ぶ。
マーケットデザインとは、市場の機能が使えないときにゲームを上手にデザインすることで市場と同じようなコアの分配を成立させる技術のこと。
社会選択理論における不可能性定理:どのような分配方法でも対戦略性を満たしたコアを実現することはできない。
最適な分配を考えるときには、パレート効率性・個人合理性・対戦略性のどれか1つをあきらめなければならない。
マーケットデザインを使えば、市場でうまく扱えないものでも、市場取引と同様の効率的な分配ができる。
マーケットデザインを用いて法律をつくろうというのが世界の主流になっている。
個人の自由な選択を認めつつ、社会全体の効用を最大化するよう制度を設計すべき。
ナッジ:選択肢を奪ったりルールで禁止するのではなく、仕組み(デザイン)を変えることでひとびとをより良い選択肢に誘導していくこと。
Nudge:(ひじなどで)そっと相手を押す。
ナッジはパターナリズム、国家が生き方を教えてやるという上から目線。
これはバカの自由が最大限配慮されているので、リバタリアン・パターナリズム(自由主義者のおせっかい)と呼ばれる。
アーキテクチャは無意識の管理を目標とする、刑務所の一望監視装置。
アーキテクチャによる統治とは、テクノロジーを用いて物理的にひとびとの行動を制約することで紛争そのものをなくしてしまうこと。
自由主義(リバタリアン)・平等主義(リベラル)・共同体主義(コミュニタリアン)の全員を納得させることができるのは、そのすべてを包括する新しい功利主義しかない。
新しい功利主義は、話し合いよりもテクノロジーの活用を選択する。
シリコンバレーに生息する科学とテクノロジーの力で世界を変えられると信じる人達のことをサイバー・リバタリアンと呼ぶ。
サイバー・リバタリアンが思い描くテクノロジーのユートピアが唯一の希望?

2017年1月8日日曜日

ドレの旧約聖書・新約聖書

幼いころ通っていた幼稚園がキリスト教系で、月曜日の朝には礼拝堂に集まって神父様のお話を聞いたり、先生が紙芝居で見せてくれるキリスト教のお話なんぞを聞いて育ったせいか、昔からキリスト教には興味があった。一度きちんと聖書を読んでおきたいと思って何度か挑戦したのだが、今までは毎回挫折して途中で放り出してしまっていた。聖書の翻訳の言葉遣いが古くてわかりにくいし、どうにもつまらなくて読んでいられなかったのだが、今回、ようやく最後まで読み通せる聖書に出会ったので紹介しておきたい。それが、『ドレの旧約聖書』『ドレの新約聖書』だ。


楽園追放

この聖書の最大の特徴は、タイトルに「ドレの」とついているようにギュスターヴ・ドレのイラスト(版画)が前編にわたって掲載されていることだ。このイラスト(版画)が実にすばらしい! 生き生きとして、荘厳で、いつまでも眺めていたくなる。このイラストを見るだけでも、十分価値があると思う。文章は平易な現代語で、とても読みやすい。昔読んだ聖書で苦労したのがウソのようだ。


バベルの塔

で、読んだ感想なのだが、旧約聖書というのはユダヤ人の歴史を神話化してまとめたものだということがわかった。最初に出てくる創世記の前半に、天地創造・エデンの園・ノアの箱舟・バベルの塔などの有名な神話がまとまっていて、あとはほぼすべて中東の地におけるユダヤ人の戦乱と建国の歴史だ。もちろん神様は出てくるのだけど、歴史的な事実にあとから神様の話を突っ込んだんだろうなぁということが容易に想像できる。


キリスト生誕

新約聖書は、キリストの生誕から死、そしてその後の弟子たちによる布教活動をまとめたものだ。最後に出てくる黙示録が、ちょっと異質な感じ。キリストの教えは、逸話の中の例え話として出てくるものが多い。旧約聖書では神様自らが、あーしろこーしろ、この教えを守れ、と直接告げていたのだが、新約聖書ではキリスト(あるいは弟子)が語る例え話から教えを悟らせる(人によって解釈が変わる可能性がある)という形に変わっているのが興味深い。


最後の晩餐

旧約聖書というのはユダヤ教の聖書でもある。「旧約」というのは新約聖書を持つキリスト教徒だけの呼び方で、ユダヤ教徒にとっては単に聖書ということだ。旧約聖書に出てくる神は、あくまでもユダヤ人の神であって、他の民族の神ではない。なにせユダヤ人に土地を与えるために、そこに住んでいる他民族を殺し尽くし、財産を奪えとユダヤ人に命じたりするのだから、他の民族にとっては神どころではない迷惑な存在だ。ユダヤ人が旧約聖書を信じるのはわかる。なにせ、彼らのための神なのだから。わからないのは、ユダヤ人ではないキリスト教徒が旧約聖書を信じているということだ。旧約聖書を信じるなら、ユダヤ人以外の民族はユダヤ人に殺されるか、支配されるしか道がない。なぜこんな神をユダヤ人ではないキリスト教徒は受け入れられるのだろう?


十字架のキリスト

新約聖書を読めばこの疑問が解けるのではないかと思っていたのだが、なんとも納得できない気分だ。一応、キリストの死後ペトロという弟子に神が啓示を与えて、他の民族を受け入れるようになったという逸話はある。また、ユダヤ人の信徒の一部が他民族を受け入れることを咎め、これを弟子が説得する話もある。だが、それだけだ。これだけの話で、世界中のキリスト教徒が旧約聖書を読んで”神は偉大だ”と感じるようになるというのは、どうにも理解しがたい。まだほかに私が読み落としている何かがあるのだろうか?


ヨハネの黙示録

人の歴史として読み解くのであれば、ローマ帝国支配下にあったユダヤ人社会の権力者たちが保身のためにキリストを殺害し、さらに弟子たちにも弾圧を加えた。この弾圧から逃れ、キリストの教え・教会を維持・拡大するために、ユダヤ人以外の民族への布教が必要不可欠になったということだろう。新約聖書を読むかぎりでは、キリストの教えに選民的なものはないので、キリストの教えを伝えているだけなら何も問題はなかったはずだ。もし可能なら、当時どのようにキリスト教の布教をしていたのか、ぜひ知りたいところだ。また、現代の教会で旧約聖書に出てくる選民的な話をどのように信者に伝えているのかも、一度聞いてみたい。

私自身は、神や宗教というのは人間が創ったものだと思っている。無神論者というほど強いものではないが、少なくとも人間が創った宗教に出てくるような神は存在しないと考えている。
ここで述べてきたのは、そんな人間が聖書を読んだ感想だ。もしもキリスト教を信じる方で、この文章を読んで不愉快な思いをされた方がいたなら、お詫びをしておきたい。

さて、このドレのシリーズにはあと2冊、『ドレの失楽園』『ドレの神曲』がある。どちらもすでに購入済みなので、読むのが楽しみだ。まずは失楽園かな。

あと、ギュスターヴ・ドレのイラスト(版画)が掲載されている本のアーカイブがProject Gutenbergにあるので、リンクを張っておく。一見の価値があると思う。

Books by Doré, Gustave

2016年12月26日月曜日

"ひとり出版社"という働き方

『"ひとり出版社"という働き方』という本を読んだので、少しばかり感想を。

今から30年ほど昔、私が駆け出しの編集者だった頃、当時勤めていた編集プロダクションの先輩から「渡り歩いた出版社の数が一桁のうちは半人前」とよく言われた。当時は今のように転職が一般的ではなく、会社を変わるというのはよほどのことがなければ行わないのが普通だった。しかしどういうわけか編集者だけは、当たり前のようにコロコロ会社を変わっていた。若造だった私にはこれが不思議でならず、先輩編集者になぜそんなに会社を変わるのかと訪ねたことがある。その際、先輩編集者からこんな話を聞かされた。

「いいかい嘉平くん、編集者は自分が作りたい本を作るために会社に勤めているんだよ。自分が作りたい本が作れなくなったら、そんな会社に要はないんだ。だから、そうなったら自分が作りたい本が作れる会社を探して移るんだよ。そうやって、編集者は会社を渡っていくのさ。そうしているうちに、結局人が作った会社に勤めていたんじゃ自分が作りたい本は作れないことに気づくんだな。そうすると、編集者は自分で出版社を作るんだよ。日本の出版社のほとんどは社員が10人もいない零細企業だ。父ちゃん、母ちゃん、爺ちゃんでやっている三ちゃん出版社なんてのも山ほどある。それは、そういう理由だよ。嘉平くんも行き着くところまで行けばわかるさ。」

残念ながら私はまだ行き着く所まで行き着いていないけれども、この先輩編集者の言ったことが今はとてもよく理解できる。
今回読んだ『"ひとり出版社"という働き方』という本には、このように行き着いちゃった編集者が作った出版社と、出版とはまったく無関係に生きてきたのになぜか出版社を作ってしまった人の両方が登場する。どちらにも共通するのは、自分が作りたい本を作るために出版社を立ち上げたという点だ。それぞれに、出版に対する考え方も、やり方も、作る本も、すべてが違っているけれど、自分が作りたい本、信じる本を作って、なんとか会社を維持している。経済的には厳しいけれども、ひとりだからこそなんとかなるという世界がそこにはある。

いつのまにやら年をとり、私もあと4年もすればドワンゴを定年退職することになる。その後、どうやって生きていくべきなのか? 編集者として生きてきた人間にとって、ひとり出版社という生き方はとても魅力的だ。だが、前述の先輩編集者の話にはこんな続きがある。

「そうやって編集者は出版社を作るんだけどさ、だいたいすぐに潰れちゃうんだよ。で、しょうがないからまたどこかの出版社に潜り込むのさ。編集者っていうのは、そうやって生きていくんだよ。」

残念ながら定年後に作ったひとり出版社が潰れてしまったら、もう潜り込む会社はないだろう。我ながらつらい話だなぁ。

2015年11月3日火曜日

Star Wars英和辞典は読める辞書

先日書店で棚のチェックをした際に、ちょっと気になってスター・ウォーズ英和辞典 ジェダイ入門者編スター・ウォーズ英和辞典 ジェダイ・ナイト編 を買ってきた。
どちらもStar Warsに出てくるセリフを例文にした英和辞典だ。ジェダイ入門者編が中学英語、ジェダイ・ナイト編が高校英語になっている。英和辞典なので、当然のことながら英単語がアルファベット順に並んでいて、意味の解説があり、例文が紹介されている。しかし、単語の意味の解説は最小限で、例文については、それがStar Warsのどのエピソードの誰のセリフか、また必要に応じてどんなシチュエーションで発言されたものかが解説されている。辞典というよりは例文集というべき本。
たとえば、areの解説には、下記のように「Are you all right? LUKE V だいじょうぶかい?(湖の怪物に吐き出されたR2を気づかって)」のようにイラスト入りで記されている。

まぁ、Are you all right?なんて英文はどうでもいいつまらないものだし、通常の辞書なら気にもならないが、逆さになったR2-D2と駆け寄るルークのイラストを見て、映画のシーンを思い出すと、このつまらない英文がちゃんと生きたセリフとして聞こえてくる。これはいい!
さらにこの辞典には、CLASSIC PHRASE、FORCE PHRASEとして、映画の名言をそのシーンの写真といっしょに紹介してくれている。これがまたいい。

デス・スターに遭遇したときのルークのセリフ!

もちろん、この名言も!

読み始めると次々に映画のシーンが目に浮かんできて、楽しくてついつい読み進めてしまう。普通の辞典や例文集はだいたいつまらなくて、すぐに読むのがいやになってしまうのだが、この本は違う。Star Warsファンなら楽しみながら全部読めるはずだ。日本語で覚えていたセリフが、英語でなんと言っていたかわかるだけでもすごくおもしろい。C-3POがR2-D2によく言っている「おまえのせいだ!」というセリフが"This is all your fault!"だということも初めて知った。まぁ、こんな英文は覚えても使うことはないだろうけど。w
この辞典、本当は受験を控えた息子の勉強用に買ってきたのだけど(父の影響で大のStar Warsファン)、父親の私が読むのに夢中なので当分息子はお預けだ。w

2015年7月20日月曜日

漫画の外道を突き進む世紀末シリーズ「北斗の拳 イチゴ味」を読んだ

一九九X年、世界は核の炎につつまれ、あらゆる生命体が絶滅したかにみえた。
だが意外とげんきだったし、現代の日本の若者に心配されるバイタリティに満ちあふれていた。
……
本屋の店頭で「北斗の拳」と書かれた漫画と懐かしい絵を見て、あれ? 北斗の拳が今頃何で出てるんだと手にとったのが運の尽き。なんだか雰囲気が違うなと、よく見るとタイトルに「イチゴ味」とか書いてある。驚くなかれ、北斗の拳のパロディ版だそうな。北斗の拳30周年記念の1つとして企画されたらしい。
その昔、BSD magazineのパロディ版に北斗の拳のパロディを掲載した身としては、読まないわけにはいかないだろう。ということで、4巻すべてを大人買い。
連休中に読んでいたのだが、けっこう笑える。なんといっても、絵がオリジナルにそっくりなのがいい。ケンシロウではなく聖帝サウザーが主人公になっているのも斬新。出てくるキャラが皆おバカで最高!
セリフだけちょっと抜き出すと、
ザコキャラ「おぉ聖帝様の姿が!!」
ラオウ「あの構えは…!!
サウザー「敵は全て下郎!!」
トキ「この局面で全力のダブルピース!!」
ラオウ「見事だ… 絶対奴とだけは戦いたくないものだな」
とか、
ジャギ「あ〜あ〜〜悪い事すんのもつかれたし虚しいし…あ〜〜 何やったってかなわねぇし」
ザコキャラ「ジャギ様… それは言っちゃダメですよ…」
ジャギ「でも胸に七つの傷つけちゃったしさぁ?」
ザコキャラ「シャツっス シャツ着れば大丈夫っス!!」
ジャギ「……変わりたいなぁ」
ザコキャラ「変わりましょうっ 変わりましょうよ ジャギ様!!!」
ジャギ「……変わりたいよぉ ぐすっ」
ザコキャラ「泣いたら負けですよ ジャギ様!!!」
とか。漫画を文字だけにするとちっともおもしろくないけど、北斗の拳ファンなら絶対笑えると思う。ぜひ読んで欲しい。
コミックの帯に「まさかの累計100万部突破!! 今秋TVアニメ化」と書かれているけど、ほんとにアニメにするのか? したら絶対見るけど。だいじょうぶなんだろうか?

2015年7月1日水曜日

The Art of Computer Programming Volume 1 Fundamental Algorithms 日本語版


2004年にアスキーから出した『The Art of Computer Programming Volume 1 Fundamental Algorithms Third Edition 日本語版』をようやく再刊できた。

この本は、アジソンウェスレイジャパンとの共同出版事業の一環として刊行したもので、上製本、本体価格9,800円と、アスキーの刊行物の中でもかなり高価なものだった。アスキーから出すことが決まった後、担当編集者がリストラにあって変わってしまったり、なんだかんだと苦労させられた本だ。刊行後に社長賞をもらったのは、いい思い出かな。

しかし、会社の収益が悪化し、このシリーズは採算が合わないと言われ、増刷ができない状態が長く続くことになる。海外でもアジソンウェスレイがピアソンに吸収合併され、アジソンウェスレイジャパンもピアソン・エデュケーションジャパンに変わった。そして2014年、ピアソン・エデュケーションが日本の書籍市場から撤退し、共同出版の契約も破棄されることが決定した。当時KADOKAWAのハイエンド書籍編集部編集長だった私は、KADOKAWAとして版権を取得し直し、シリーズを再刊することを提案したが、不採算を理由に却下され、このままThe Art of Computer Programmingは日本の書店から消え去ると思われた。

ところが世の中捨てものじゃない。捨てる神あれば拾う神あり、「嘉平、編集やめるってよ」「ASCII DWANGOスタートアップ!」の2つのエントリに書いたとおり、ドワンゴに移籍して技術書の出版を続けられることになり、最初に私が提案したのがThe Art of Computer Programmingのシリーズをアスキードワンゴから再刊することだ。ありがたいことにドワンゴの人たちは技術者で、この本の価値をわかっている人ばかりなので、すんなりと企画は通った。なにせ、上司の本棚にはThe Art of Computer Programmingの原著が並んでいるのだ!

あれから半年あまり、ようやく最初の1冊めを書店に並べることができた。これも、ドワンゴの人たちと4月から編集部に加わってくれた仲間の力のおかげだ。ありがとう!
11年前の本との違いは、上製本を並製本に変更し、大幅に価格をさげたこと。アスキーではいろいろなしがらみから高くせざるをえなかったのだが、今回は学生さんにも手がだせる価格にしようと頑張って、4,800円に抑えている。

プログラミングに関わるすべての人に、ぜひ手にとってもらいたいので、よろしくお願いいたします!

2015年2月26日木曜日

元・宝塚総支配人が語る「タカラヅカ」の経営戦略


元・宝塚総支配人が語る「タカラヅカ」の経営戦略』を読んでみたのだが、なかなか興味深い内容だったので書評なんぞを。

もともと宝塚に興味はなかったし、"ベルばら"とか、女性が男性を演じる男役とか、派手な衣装・濃いメイク・大げさな演技とか、正直あまりいい印象は持っていなかった。まぁ、宝塚を実際に観たことのない男性が抱く印象としては普通だと思う。ところが、数年前からハマっている日本のシンフォニックメタルバンドLIV MOONのリードボーカルを務めてるAKANE LIVが宝塚出身(宝塚時代の芸名は神月茜)ということで、がぜん興味を持つようになった。何冊か宝塚関連の本も読んでみたのだが、本書は宝塚出身の女優さんでもファンでもない、宝塚の経営メンバーが書いているという異色の本だ。



LIV (通常盤)
AKANE LIV
B00MUCL3ES



さて、その宝塚とはどんなものかというと、兵庫県宝塚市に本拠地を置く、独身女性のみで構成される日本で最大規模を誇る(約400名)劇団(宝塚歌劇団)ということになる。1914年、阪急電鉄の旅客誘致を目的に宝塚新温泉の余興として始まったのが事業のスタートで、当初は歌劇団自体で利益をあげる必要はなかったとか。すでに100年を越える歴史を持ち、現在では阪急グループの収益の3本柱の一つに成長しているという。演劇は儲からないとよく聞くが、宝塚は儲かっているわけだ。本書には、儲かっている宝塚のマーケティング・経営戦略が書かれている。

以下、宝塚の戦略の肝というべき点を抜粋する。


  1. 創って作って売る(垂直統合システム)

    事業の垂直統合というと自動車産業や家電産業で聞く言葉だが、宝塚はエンターテイメントの世界でこれを実現しているという。

    • 宝塚歌劇団:作品制作(企画・脚本ほか)

    • 株式会社宝塚舞台:大道具・小道具・衣装作成ほか

    • 阪急電鉄株式会社歌劇事業部:広報宣伝・チケット販売ほか


    これらすべてが本拠地である宝塚市に集中して置かれ、事業の効率化を実現している

  2. シロウトの神格化

    宝塚音楽学校を卒業し、歌劇団に入団したばかりの生徒はまだ未完成の状態(つまりシロウト)。この未完成の生徒をファンコミュニティが支え・見守りながら、トップスターまでの長い道のりを共に成長していくプロセスを「シロウトの神格化」と呼ぶ。

    宝塚には、入団した生徒がトップスターに至るまでに越えなければいけない独自のステップが設けられている。このステップをファンもよく理解しており、自分が贔屓にしている生徒がこのステップを越える・越えないというのを一喜一憂しながら、その成長と卒業までを見守ることになる。


本書の後半では、宝塚とAKB48との比較が行われているが、「シロウトの神格化」という戦略をとっている点はほぼ同じと言っていい。秋元康がAKB48を作る際に宝塚を参考にしたのは、まず間違いないと思われる。怒られるのを覚悟で言えば、宝塚の戦略を模倣して大成功を収めたのがAKB48ということになる。

「シロウトの神格化」という戦略は、近年よく聞く「ストーリーを売る」「コンテンツよりもコンテクスト」といったキーワードとも符合する。エンターテイメント以外のビジネスにも十分応用可能な戦略であるし、ほかにも興味深い内容が多く含まれているので、ぜひ一読をお勧めする。

Kindle版

元・宝塚総支配人が語る「タカラヅカ」の経営戦略 (角川oneテーマ21)
森下 信雄
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2015年2月23日月曜日

ユニケージ原論


ユニケージ原論



数年前にLLカンファレンスの会場で購入したまま積ん読状態だった「ユニケージ原論」を読んだ。

アスキー・メディアワークスから出した「フルスクラッチから1日でCMSを作る シェルスクリプト高速開発手法入門」で紹介した、シェルスクリプトを使って本格的なアプリケーションを作るという開発手法の原典ともいうべき本。具体的な開発手法を詳しく知りたいと思って読んだのだが、タイトルに"原論"とあるとおり、抽象的な議論が多くてちょっと私が読みたいと思っていたものとは違っていた。

下記、章立てと簡単な内容紹介。


  • 第1章 ユニケージとはなにか

    ユニケージ開発手法を考案した當仲寛哲氏によるユニケージの誕生から開発手法の概要の解説。この章を読めば、ユニケージ開発手法の全体像がつかめる。

  • 第2章 ユニケージは道具である

    株式会社良品計画(無印良品の会社)のシステム開発にユニケージ開発手法を適用した事例紹介。ずぶの素人が短期間に企業システムの開発・保守ができるようになるというのが、なかなか刺激的。

  • 第3章 ユニケージは方法論である

    この章は、ちょっといろいろ微妙。読まなくていいかも。

  • 第4章 ユニケージは正解である

    従来のRDBを用いたシステム開発とRDBを用いないユニケージ開発との違いが解説されている部分が興味深い。

  • 第5章 ユニケージはコミュニケーションである

    ユニケージ開発手法のキーフレーズを元に、従来の開発手法との比較も含めてユニケージの優位性を解説している。


ユニケージ開発手法を簡単に説明するなら、

RDBに代表されるデータベースシステムを一切用いず、データをすべてテキストファイルで保持し、シェルスクリプトを使ってこれらのテキストファイルを処理することで企業システムを実現する

とでもなるだろうか。この話を初めて聞いたときは、さすがにそれは無茶だろうと思ったのだが、良品計画・東急ハンズなどの成功事例を目にすると、実はUnixが持っていたシンプルなツールと考え方ですべて実現できるんだという気持ちにさせられる。

というわけで最近シェルスクリプトづいていて、いろいろ勉強し直し中だ。20代の頃に読んで感動した「UNIXプログラミング環境」を読み返そうと思っている。


ユニケージ原論
當仲 寛哲 山崎 裕詞 熊谷 章 熊野 憲辰 木ノ下 勝郎 山科 敦之

ユニケージ原論
覚えて便利 いますぐ使える!シェルスクリプトシンプルレシピ54 プログラミング言語AWK フルスクラッチから1日でCMSを作る シェルスクリプト高速開発手法入門 USP MAGAZINE vol.15 USP MAGAZINE vol.14
by G-Tools



2014年9月30日火曜日

プロフェッショナルのための実践Heroku入門


すでに発売済みだが「プロフェッショナルのための 実践Heroku入門」という本を出したので、遅ればせながら紹介しておく。

この本は、日本におけるHerokuのエバンジェリストである相澤歩さんを中心に、RailsGirlsの主催者でもある万葉の鳥井雪さん、Rubyのコミッターでありベテランのライターでもあるartonさん、さらにHerokuのテクニカルサポートエンジニアである織田敬子さんを加えた4人によって執筆されたHerokuの入門書である。執筆陣からもわかるとおり、ほぼ公式といってよい内容になっている。

書評もいくつか出ていることもあり、詳しい内容については割愛するが、Herokuの概要からアプリケーション開発方法、本番環境への移行のやり方、トラブルシューティング、Herokuのアーキテクチャまでをギュッとコンパクトにまとめている。特に7章のトラブルシューティングは、実際にHerokuのオフィシャルサポートに寄せられたトラブルを元に執筆されているので役に立つこと請け合いである。また、最後の9章には、Herokuのサービスの背景になっているモダンなウェブアプリケーションを開発・運用する際に考慮する必要のあるアーキテクチャをまとめたTwelve Factor Appの翻訳が掲載されている。



さて、この本を作るにあたり、著者陣と話し合ってある手法を試している。海外のいくつかの出版社では、執筆途中の書籍をベータ版として電子書籍の形で発売し、読者のフィードバックを受けて内容を加筆・修正していくという方法が取られているが、これを日本でもやってみたのだ。

達人出版会の協力を得て、2013年5月にベータ版電子書籍を発売した。その後、2014年8月までに3回のアップデートを経て、2014年9月22日に正式版の発売となった。この間に寄せられたフィードバックを元に、加筆・修正、さらに構成の見直し等を行っている。

ベータ版の販売数が思ったほど伸びなかったとか、フィードバックを寄せてくれる読者の数が少なかったということはあったものの、実際にフィードバックを寄せてくれた読者の方々はとても熱心に細かい部分まで見てくれていて、ほんとうにありがたかった。心から感謝している。

今後日本でもこのような手法が広まるかどうかはわからないが、海外ではすでに定着しているし、有効だという手応えは感じたので、他の出版社の編集者にもぜひ採用を検討していただきたいと思う。





Kindle版






2014年7月31日木曜日

AWSを超える?!『Google Compute Engine入門』発売開始!


Google Compute Engine入門
」本日発売開始。Googleが昨年末からサービスを開始したGoogle Compute Engineの日本最初の解説書! 本当は世界初を狙っていたのだけど、Packt Publishingから昨年9月に"Instant Google Compute Engine
"という本が出版されているので、世界初にはならなかった。でも、Packtの本は60ページしかないものなので、まともな本としては世界最初と言ってもいいと思う。少なくともO'Reilllyの"Google Compute Engine
"には勝ったな(発売時期だけは)。



著者は吉積情報株式会社の吉積礼敏さん。吉積さんは、下記のGoogle Cloud Platformの資格(5種類)すべてを日本人として初めて取得したという人物。


  • Google Compute Engine Qualified Developer

  • Google Cloud Storage Qualified Developer

  • Google App Engine Qualified Developer

  • Google Cloud SQL Qualified Developer

  • Google BigQuery Qualified Developer


さらに、つい先日、2014 Google Enterprise Japan Partner AwardのGoogle Cloud Platform部門を受賞された! Googleの中の人を除けば、今日本で一番GCEに詳しい人だ。


それでは、日本で一番GCEに詳しい人が書いた本の内容を簡単に紹介しよう。

第1章は、GCEを含むGoogle Cloud Platformの全体像、IaaSとは何か、さらにGCEの概要を説明している。

続く第2章は、GCEを用いてプロジェクトを開始する方法について、ツールのインストール方法から使い方まで具体的に解説している。

第3章は、管理用WebコンソールであるGoogle Developers Consoleおよびコマンドラインツール、さらにGoogle Compute Engine APIについての解説に加え、詳細なコマンドリファレンスが掲載されている。

第4章は、とても大事な課金の話。GCEを使った際にどれくらいお金がかかるのか、どう見積もればよいのかということが述べられている。

第5章には、たぶんクラウドを活用しているエンジニアが一番知りたいと思っているだろうAWSとの比較が掲載されている。アーキテクチャ、リージョン、課金額など、少ないページ数ながら濃い内容となっている。お茶目な著者がさりげなくベンチマークなどもやっているので、担当編集者としてはドキドキする章だ。業界の人たちが皆大人で、何事もありませんように! 手が滑って「AWSを超える?!」とか表紙に入っているけど、ちゃんとクエスチョンマークとビックリマークが入っているので、断定していないってところをわかってほしい。皆、わかるよね!

第6章は追加情報、第7章はGoogle Colud Platformのその他の機能について解説している。最後の第8章では、著者が参加したGoogle I/O 2014の話も含め、将来を展望している。



Googleが開始したIaaSであるGoogle Compute Engineの概要をつかむには最適な本だと思うので、ぜひ書店で手にとって見てほしい!





Kindle版もあります!





2014年7月26日土曜日

iPhoneアプリで稼ぐノウハウ本を読んでみた


プログラムもできない僕はこうしてアプリで月に1000万円稼いだ
」という本を読んでみた。翻訳書で、原著は"App Empire: Make Money, Have a Life, and Let Technology Work for You
"という本。原著は、amazon.comの読者レビューで105人が評価して星4つと好評化だが、翻訳版はamazon.co.jpで1人だけがレビューしていて、星3つ。翻訳書のレビューはあまりよくなくて、「さほど目新しい事はありません」とか「今のアプリマーケーットでは非現実だと思います」とか書かれてしまっている。

内容としては、iPhone用アプリビジネスで成功するためのノウハウをまとめて伝授するというもの。若干自己啓発書的な匂いがするものの、まじめに書かれた良書だと思う。

著者自身がプログラミングスキルをまったく持っていないため、ビジネスとしてiPhoneアプリをどう作り、どうメンテナンスして、どう利益を上げるか、という話が書かれている。iPhoneアプリとかいうと、すぐにXcodeだとか、Objective-Cがどうしたとか言っている私のような人間にとってはかなり新鮮な内容だった。

アプリのアイデアを出すために、まずはアップストアとそこで売れているアプリをよく見ろ、というところから始まり、成功しているアプリの模倣できる点は模倣するようにとも書かれている。「え〜!」とか言いたくなってしまうが、利益をあげることを考えるなら当然のことなんだろうなぁ。アプリの機能をどう実現するかみたいな話はまったくないが、アプリのアイコンやタイトル、アップストアに登録するキーワードや説明、画面ショット、カテゴリーなどをどうすべきかという話はたっぷりある。

さらに、アプリのダウンロード数を毎日見ながら、アプリのアイコン、タイトル、キーワード、説明、画面ショットなどなどを1つずつ変更しては、ダウンロード数の変化を観察し、最大化するようにと述べられている。当たり前といえば当たり前かもしれないが、こういう地味な作業をきちんとやるのはたいへんだし、実際にやっている人は案外少ないような気がする。

先にも書いたように著者がプログラマではないため、開発およびメンテナンスのためのチームを作ることが前提になっていて、1人でちょろっとアプリを作って小遣い稼ぎみたいな本とはかなりテイストが異なる。どのようにプログラマを探し、優秀かどうかをどう見分けるか、デザイナーやプロジェクトマネージャーをどうするか、などなど、人にまつわる話もしっかり書かれているし、複数のアプリを開発・メンテナンスしていくためのバックエンドシステムの開発話まで出てくる。遊びではなく、本気でアプリビジネスを始めようと思っている人には、かなり実践的なノウハウ本と言っていいと思う。

amazon.co.jpのレビューのように、今のアップストアでは、これだけでは稼げないのかもしれないが、少なくともこの本に書かれている程度のことをやらなければ、話にならないだろう。iPhoneアプリを作ってみたけど、まったく売れないという人は読んでみて損はしないと思う。




以下、自分用のメモ。

『プログラムもできない僕はこうしてアプリで月に1000万円稼いだ』チャド・ムレタ著 児島 修 訳


  • アプリビジネスの本質は「ユーザーが他者とつながり情報を得るために、どのようにこの技術を使うか」を知ること

  • 仕事が楽しくてたまらない、そう思えるようになれば、あとはスキーリフトに乗っているかのように、"現金の山"を目指して、自動的に登っていける

  • 「90/10の原則」人生の10%は、何が起こるかでで決まる。残りの90%は、それにどう反応するかで決まる。

  • 自分の時間と意欲をすり減らすものは、すべて外注すべき

  • 大局を俯瞰し、マーケットを研究し、ユーザーのように考え、成功者を模倣する

  • アップストアの解析ソフトChomp

  • ユーザーが衝動買いをする際の流れ


  1. アップストアでアプリを見つける

  2. アプリのアイコンを見る

  3. タイトルと概要、他者の評価に目を走らせる

  4. 画面を下にスクロールして、ざっと説明に目を走らせる

  5. 画面ショットに目を止める

  6. アプリを購入する


  • ユーザーはダウンロードしたアプリを使い始めて30秒以内に「面白い」と感じなければ、アプリを終了して二度と使おうとしない

  • 「10/30の原則」ユーザーが検索から10秒以内にそのアプリを買いたいという衝動を感じ、最初に30秒以上使い続けたら、長期的な顧客になってくれる

  • 成功するアプリの特徴


    • 楽しい/娯楽的な要素がある

    • 直観的/単純で使いやすい

    • ユーザーを惹きつける/魅力的

    • 中毒性

    • 価値/メリットがあると実感させる

    • 異文化横断的

    • 優れたグラフィックとサウンド

    • 口コミ


  • 熱意を目標達成のための仕組みに結び付けなければならない

  • 売れているアプリを模倣する

    自分アイデアがすでに他社のアプリによって実現されていたとしても、気落ちする必要はない。それは、マーケットがそのアイデアを求めていることを意味する。むしろ歓迎すべきことだ。

  • すでに成功しているものを見つけ、それを改良して提供する

  • 大きな需要のある分野でアプリを作る

  • 既存のアプリから学ぶ


    1. ユーザーはなぜこのアプリを購入しているのか?

    2. アイデアを模倣して、さらに高いレベルのアプリを開発できるか?

    3. このアプリのユーザーは、他にどのようなアプリを好むか?

    4. 他の類似したアプリは、マーケットにどの程度あるか?

    5. このアプリは、過去にどの程度、どれくらいの期間、売れているのか?

    6. マーケティング戦略と価格設定モデルはどのように機能しているか?


  • ユーザーを惹きつけるため、アプリにドレスを着せる

  • アイコン、タイトルは覚えやすく、アプリの特徴や機能をはっきりと表すものにする

  • 画面ショットにグラフィックや宣伝文、操作説明などを加える

  • キーワードを決める際には次の3点を注意


    1. 対象のユーザー層

    2. ユーザーがアプリを使う目的

    3. ユーザーが求めている機能


  • 無料バージョンを公開したあと、1〜2週間をかけてマーケット調査を続ける


    • 3〜5回、アイコンと画面ショットを変える

    • タイトルと説明は5〜10回変える

    • アップデートするときは、毎回キーワードも変え、必要ならカテゴリーも変える

    • 一度に多くの変更はしない。何が効果をもたらしたのかわかりにくくなる


  • ダウンロード数はトラフィックとして考える

  • トラフィックが下がっていたら、その理由を考え、向上させるための手立てを講じる

  • アプリをランク入りさせるためのあらゆる手立てを講じる。ランク入りしたあとも順位を常にチェックし、下がってきたら原因を検討し、手を打つ

  • Flurryを用いて、アプリ内でのユーザーアクティビティを追跡する

  • 毎日収入を管理し、日、週、月、四半期の傾向を把握する。収入の傾向に変化を見つけたら、すぐに原因を突き止め、対策を講じる。

  • 統計用ツールとして、アップルデベロッパーポータルを使う。App Figuresおよび類似サービスのApp Annie

  • 変更は1つずつ個別に行い、その結果をテストしていく

  • 効果を見極める期間は1周間が適切

  • タイトル、キーワード、説明、カテゴリーの変更にはお金はかからない。まずここから始める。

  • 変更点を記録し、その後の変化を追跡する

  • 変更間利用の表(appempire.com/trackchanges)

  • 改善を行っても3ヶ月〜4ヶ月改善が見られなければ、見切りをつける

  • 複数のアプリのネットワークでアクティブユーザーを互いのプロモーションに活用する

  • 「お勧め画面」アプリの起動時に有料版の宣伝をする

  • アップストアにアップデートを提出しなくても、お勧め画面を更新できるようにする

  • お勧め画面には、表示・非表示を切り替える機能をつける

  • 定期的にお勧め画面を見直し、クリック率を上げるための施策を施す

  • 有料版では、お勧め画面機能をオフにする

  • 同じデベロッパーあるいは提携する他のデベロッパーのアプリの宣伝をするプロモページを作る

  • アップストアで使われている、ライトグレーとダークグレーのバナーの背景色が最も効果的

  • バナーの位置が高いほど売上が高い

  • 「続き(More)」ボタンをアプリのメインページやメニューセレクションに表示して、プロモページに誘導する

  • プッシュ通知を用いて、ユーザーのスマフォにメッセージを送り、アプリを起動するかメッセージを破棄するかを求める。アプリの存在をユーザーに思い出させる(使い方は慎重に)

  • アップデートはできるだけ頻繁に行う

  • 毎日こう自問する「トラフィックからお金を得るために、もっと良い方法はないだろうか?」

  • 3つの収入モデル


    1. フリーモデル

      有料アプリのお試し版としての無料アプリ

    2. プレミアムモデル

      アップストアにおける有料アプリの販売

    3. フリーミアムモデル

      アプリ自身は無料だが、アプリ内課金で利益を出す


  • アプリに広告を表示するには、アップルのiAd、googleのAdMob、Millennial Mediaがある。これらのすべてを使う

  • Googleのadwhirl(アドワール)を使えば、複数の広告プラットフォームに対し、広告リクエストをシームレスに送信できる

  • アフィリエイト代理店、アメリカはLinkShare、欧州はTrade Doubler、オーストラリアはDGM

  • ローカライズは既存のアプリを用いてトラフィックと収入を得るための常套手段

  • ローカライズの注意点


    1. 目的言語を母語とする翻訳者に仕事を依頼する

    2. 対象国に合わせた表現にする

    3. 主要なマーケットに絞って翻訳する

      おもなマーケット:アメリカ、中国、イギリス、カナダ、ドイツ、フランス、スペイン語圏


  • アプリをアップグレードする、高度機能を搭載したバージョンを提供する、外見をリフレッシュする

  • 新しいアプリを開発し続ける

  • アプリビジネスのさまざまなプロセスを自動化し、最適化するためのバックエンドシステムを開発する

  • データベースにお勧め画面、プロモページ、海外向けアフィリエイトリンク、他言語化した文字列などを格納する

  • アプリには、地域と言語を認識する機能を入れる。起動時にユーザーの地域・言語を取得し、バックエンドから必要な情報を取得する

  • 売却を前提に、アプリを買い手にそのまま渡せるように開発する

  • ビジネスの重要な部分だけを監視し、残りはアウトソースする

  • ビジネスを成長させていきながら、自分自身の仕事を増やさないようにする

  • チームを作って実現する

  • 人に仕事を任せるかどうかの判断基準


    • 自分がビジネスのボトルネックになっていないか?

    • 他の誰かができる仕事に時間をとられていないか?


  • アプリビジネスの7つの柱


    1. 心構えと勝者のマインドセット

    2. 市場調査

    3. アプリの開発とメンテナンス

    4. 分析と調整

    5. マーケティングとマネタイゼーション

    6. チームとシステム

    7. 同業者の人脈


  • 7つの柱を確認するために、それらを日課にして、習慣化してしまう

  • その日に行うべきタスクのリストを作る時間をとり、できたらプロジェクトマネージャーに伝え、チームに実行させる





  • 2014年6月29日日曜日

    Founders at Work 33のスタートアップストーリー


    気づけば、すでに25年以上にわたって編集者をやっている。これまでかなりの数の本を出してきたわけだが、そんな本の中から思い出深い本を紹介していこうと思う。まずは1冊「Founders at Work 33のスタートアップストーリー」だ。

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    この本の原著が出版されるのを知ったのが2006年の10月、すぐに版権を取得しようとしたのだが、他社も版権取得を申し出たため入札となり、アスキーはこの入札に敗れてしまった。自分としては限界まで前払い印税を積み上げたつもりだったのだが、他社はそれを越える金額を提案したのだろう。ということで、残念なことにアスキーからはFounders at Workを出せなくなってしまった。原著は無事に2008年に刊行され、私は他社から翻訳書が出版されるのを待ち続けた。しかし、どうしたものかいつまでたっても翻訳書が出版されない。

    いったいどうしちゃったんだろうと思っていたところ、2010年のFrankfurt Bookfairで原著版元の版権担当者から「Founders at Workの版権を取得した出版社が刊行を中止したので、アスキーで版権買わない?」と言われてびっくり仰天! いったいどういうことだと版権担当者を問い詰めても「そんこと言われたって知らないよ、わけがわからないのはこっちだよ」と言うばかり。まぁ、とにかくこれはチャンスだと、すぐさま企画を通して版権を取得した。翻訳は実績のある長尾高弘さんにお願いし、2011年の8月末には店頭に並べることができた。


    さて、ではそうまでして出したかったFounders at Workがどんな本かというと、IT系ベンチャー企業のスタートアップ時に何か起きていたのかを創業メンバーにインタビューしてまとめた読み物だ。こう書くと単なるビジネス読み物だと思うかもしれないが、そうじゃない。この本の肝は、著者のJessica Livingstonだ。彼女は何者か? なんと「ハッカーと画家 コンピュータ時代の創造者たち」の著者として、またベンチャーキャピタルY Combinatorの創業者としても知られるPaul Grahamの奥さんだ。彼女はY Combinatorの共同創業者でもある。Paul Grahamの奥さんが書く本が、ただのビジネス書なわけがない。そう直感して、この本をアスキーから出すことを決めた。

    本書の序文はもちろんPaul Grahamが書いている。ここで彼は、初期のスタートアップが一般に信じられている企業のイメージから大きくかけ離れていること、スタートアップが通常の企業よりもずっと大きな生産性を持っていること、だがそのことを知っている人はほんの少数しかいない、ということを述べている。彼自身もスタートアップを成功させ、ベンチャーキャピタリストになった人物だ。少し序文から引用しよう。


    私たちが作ったスタートアップでは、外からお客さんが来るときには、自分たちが「プロフェッショナル」っぽく見えるようにあれこれ努力したものだ。事務所の掃除をして、いつもよりよい服を着て、世間一般の勤務時間に合わせて多くの人々が集まるように調整をしたのである。実際には、きちんとした服を着た人間が世間並みの勤務時間にきれいなデスクで作業をしても、プログラミングは進まない。ひどい服装の(私はタオル一枚でプログラミングをするというので悪名が高かった)人間が、ゴミだらけの事務所で午前2時頃にするから進むのだ。


    このPaul Grahamの文章を読めば、プログラマが成功するためになすべきことは何かすぐにわかる。真夜中に全裸でプログラミングだ! 必要な物は股間を覆うタオル一枚だけ。今夜からすぐに実践できるだろう(笑)。

    冗談はさておき、本書が目指しているのは、世間からはデタラメにしか見えないスタートアップの状態こそが、最も高い生産性を発揮できるのだということを世間に知らしめることだ。真のスタートアップの姿を知るほんの少数の人たちと、一般の企業しか知らない大多数の人たちのギャップを埋めることが本書の目的である。序文の最後の文章を引用しておく。



    スタートアップが会社っぽく見えるように努力をするのではなく、既存企業がスタートアップ風に見えるように努力する時代がすぐにやってくるだろう。それはよいことだ。

    この本は、ぜひともプログラマに読んでほしい本だ。インタビューを受けている大半の人物は、プログラマでありエンジニアであって、経営者ではない。プログラマであれば、彼らのインタビューから数多くのことを感じ取り、また学ぶことができるだろう。下記に本書で取り上げられている33のインタビューを簡単にまとめておく。


    1. Max Levchin, PayPal創業者

      インターネット上の送金システムの定番となったPayPalの話。もともとは送金システムに興味があったわけではなく、暗号とセキュリティに興味があった。結果的にそれがインターネット上での安全な送金システムを可能にしたという。

    2. Sabeer Bhatia, Hotmail共同創業者

      企業に在籍しながら、独立起業するために個人用データベースソフトの開発を行っていた際、在籍していた会社がファイアウォールを張ったおかげでメールを見ることができなくなってしまった。この問題を解決するためにWebブラウザから電子メールにアクセスできるようにするというアイデアが浮かんだ。

    3. Steve Wozniak, Apple共同創業者

      言わずと知れたAppleのSteve Wozniakのインタビュー。Apple創業前の話も数多く出てくる。アルテアをホームブリュー・コンピュータ・クラブで見た際、すでにアルテアと同等のコンピュータを自分用に作っていた、ただしマイクロプロセッサがなかったので複数のプロセッサを組み合わせて利用していたという。すべてを独学で学んだこと、Basicの開発、Apple IそしてApple IIの開発など興味深い話が多い。一部引用しよう。


      アップルIIはこれらのものをすべて持っており、バグは1つも見つかっていません。ハードウェアにもソフトウェアにも1つのバグもないのです。


    4. Joe Kraus, Excite共同創業者

      今はGoogleの一人勝ちになっているインターネットの検索エンジンを開発した会社。Microsoftが買収を提案しながら、結局買収もせず、検索エンジンの自社開発もしなかった話、エスケープ社のブラウザのデフォルト検索エンジンに選ばれる話など、興味深い。

    5. Dan Bricklin, Software Arts共同創業者

      世界最初のスプレッドシートソフトウェアであるVisiCalcの開発秘話。VisiCalcのアイデアが「数字を操作できるワードプロセッサ」だったとか、「多くの人々は、スプレッドシートは行と列だと思っていますが、実際には違います。スプレッドシートは、単語と数値の2次元レイアウトなのです」といった発言には興味深いものがある。大成功を成し遂げたあとに、訴訟によって没落していく姿はちょっとせつない。

    6. Mitchell Kapor, Lotus Development共同創業者

      VisiCalcの後に世界を席巻したスプレッドシートソフトウェアであるLotus 1-2-3の開発秘話。Mitchell KaporがVisiCalcの作者たちと知り合いで、なおかつ彼らのソフトウェア開発を手伝っていたというのには驚いた。ある意味、Lotus 1-2-3はVisiCalcの改良版だったわけだ。インタビューの後半はLotusが成功した後に経営者として苦悩した話になっている。Lotus 1-2-3のルック・アンド・フィールをコピーしているとして他社を訴えた件については今でも後悔していると述べている点に、彼の人柄が感じられる。

    7. Ray Ozzie, Iris AssociatesおよびGroove Networks創業者

      Ray Ozzieと言えば、Lotus Notesの開発者として、またMicrosoftでBill Gatesの後任として主席ソフトウェア設計者(CSA)になった人物として有名だ。ここでは、Lotus NotesとGroupという2つのコラボレーションツール開発の話をしている。

    8. Evan Williams, Pyra Labs/Blogger.com共同創業者

      このインタビューには出てこないが、Evan Williamsと言えば現在ではTwitterの共同創業者として知られている人物だ。典型的なシリアルアントレプレナーと言える。プロジェクト管理用コラボレーションソフトウェアを開発している際に社内ツールとして作ったものが後にBloggerになった。さまざまな理由から資金がつき、社員を全員レイオフして、運転資金をBloggerのユーザから寄付してもらうなど、興味深い話が多い。

    9. Tim Brady, Yahoo!最初の社員

      Yahoo!の共同創業者であるJerry Chih-Yuan Yangの大学時代のルームメイトで、Yahoo!のビジネスプランを書いた人。競合他社との競争やサーチエンジン採用、初期の頃に停電に対応するため発電機を借りてきてサーバを維持した話など。

    10. Mike Lazaridis, Research in Motion共同創業者

      日本では結局メジャーになれずに終わったブラックベリーを開発したのがRIMだ。高校でプログラミングと無線について学んだ際に、教師から「コンピュータと無線を結びつけるのが次の大きな仕事だ」という話を聞いていたというのは興味深いエピソード。ブラックベリー開発初期の話で、

      市場がまだブラックベリーを受け入れられる状態になっていないことを知っていたので、市場に合わせるための仕事に大量の時間を注ぎ込みました。後にブラックベリーになるものにページャー(日本のポケベル)のふりをさせたのです。

      というのは、聞けば当たり前の戦略のように思えるが実際にはなかなかできないことだろう

    11. Arthur van Hoff, Marinba共同創業者

      Sun Microsystemsからスピンアウトしたベンチャーの話。彼らがSunをやめる際、CEOのScott G. McNealyはこう言ったそうだ。「わかった。みんなが出て行ってしまうので、君たちの幸運を祈ることはできないが、1つだけ言いたいことがある。ぶざけんなよ。」創業時の女性CEOばかりがマスコミから注目されて困ったという話もおもしろい。

    12. Paul Buchheit, Gmailの作者

      Googleの23番めの社員で、Gmailを作ったプログラマ。有名な「邪悪になるな(Don't be evil)」という標語を提唱した人でもある。Gmailの最初のバージョンは彼が一人で1日で作ったそうだ。Googleアドセンスのプロトタイプも一人で1日で作ったとか。また、当時のGoogleは自分たちがサーチ専門の会社だと思っていて、Gmailのような製品を作ることには懐疑的だったという話も興味深い。

    13. Steve Perlman, WebTV共同創業者

      会社を立ち上げたばかりの頃には、2日間ぶっつづけに働き、4時間寝て、また2日間働くという生活で、事務所はまるで豚小屋だったとか。ソニーのCTOにプレゼンする際に、ぎりぎりまでクラッシュばかりしていたプログラムを再ビルドしたものがたまたまうまく動いたとか、ベンチャーらしい逸話が多い。

    14. Mike Ramsay, TiVo共同創業者

      最初のアイデアはホームネットワークサーバだったが、時期尚早と考え、DVRにまとを絞って開発したという。一般のユーザにもっとも高い評価を得たのは、放送中の画面を一時停止できる機能だったとか。最初はメディア企業から敵とされたものの最終的にはうまくやれたというのだが、なぜうまくいったのかは「今になってもよくわからない」とか。

    15. Paul Graham, Viaweb共同創業者

      夫であるPaul Grahamへのインタビュー。オンラインストアをWeb上で簡単に構築できるストアビルダーを開発したViawebの話。この後、ViawebをYahoo!に売却して得た資金をベースにY Combinatorを始めることになる。最初のプロトタイプは、共同創業者であるRtmのアパートで夏の真っ盛りに2日間で完成させたという(タオル一枚だったかも)。このプログラムはWeb上で動作する最初のアプリケーションであり、そのアイデアはX Window Systemからきているそうだ。つまり、ブラウザをX端末として使うというもの。Paulのインタビューはハッカーらしい発言が多くておもしろい。「Windowsソフトウェアというのは、でかくてほかほかしているウンコのようなもので避けるに越したことはないと思っていました」とか「ビジネスパーソンのなかの1人が本当にCEOになって、私たちに戦略はかくあるべきなどと命令する気になったらたいへんです。彼らはコンピュータについて何も知らないので、私たちはボロボロになってしまいます」とか。最後にもう1つ引用しておく。「私たちがフレッド・イーガンを見つけたときにも、買収したいという会社が現れました。それは日本企業で、後に私たちのソフトウェアの模倣品を作って、日本で大成功を収めています。名前は楽天です。」

    16. Joshua Schachter, Delicious創業者

      ソーシャルブックマークサービスの草分けであるDeliciousの話。タグ付けというアイデアを思いつき、最初に実装したという。ニューヨークの銀行や金融機関には優秀なハッカーが多くいる、という話も興味深い。

    17. Mark Fletcher, ONElist/Bloglines創業者

      今はもうなくなってしまったBloglinesの話。ニュースアグリゲーターであるBloglinesは、ブログが始まったのとほぼ同時に作られたという。ブログがこれほどのスピードで普及するとは考えていなかったそうで、幸運としか言いようがないとか。投資家から「私はコミュニケーション能力が低いという烙印を押されていました」というのはプログラマにはありがちな話か。

    18. Craig Newmark, craigslist創業者

      craigslistは、サンフランシスコから始まった、広告などのローカル情報を掲際するコミュニティサイトだ。もともとはCraigが配信していたメーリングリストだった。他のスタートアップとは異なり、craigslistは投資家からの投資を拒否し、株式の非公開を貫いている。

    19. Caterina Fake, Flickr共同創業者

      元々はオンラインゲームを開発していたが、このゲームに付加した写真共有付きのチャット機能がゲーム以上に人気を博したことからオンラインゲームをほったらかして、写真共有コミュニティサイトを作った。タグ付け機能がFlickrの性格を革命的に変えたという。女性だという理由で差別されることもあったようだ。

    20. Brewster Kahle, WAIS/Internet Archive/Alexa Internet創業者

      WAISはWeb登場以前に作られたインターネット・パブリッシング・システムだった。また、インターネットをソフトウェアの流通システムとして考えた最初の会社がWAISだった。フリーソフトウェアをうまく使っている点も興味深い。Alexaを作ったとき、彼はインターネットのサーチエンジンはスケールしないと考えていたそうだ。そのため、Alexaをインターネットの道案内として構築しようとしたと。さらに、ネットの図書館としてInternet Archiveを非営利団体として作り上げている。

    21. Charles Geschke, Adobe Systems共同創業者

      ゼロックスのPARCでInterpressというプリンタ用の言語を開発したが、ゼロックスがこれを商品化しなかったためAdobeを創業してInterpressの後継言語であるPostScriptを開発した。ゼロックスの経営陣は「ゼロックスでは、製品を出すまでに少なくとも7年はかかる」と言ったそうだ。Adobeというのは、彼の家の裏を流れていた川の名前だ。スタートしたばかりの頃に、最初に作ったビジネスプランに従おうとしてPostScriptをソフトウェアとして販売しようとしなかった話はおもしろい。このビジネスプランを変更したおかげで、Appleのレーザーライターが完成する。当時、Apple最強のコンピュータと呼ばれたプリンタだ。ここにアルダスのページメーカーが加わって、DTPが始まることになる。さらにレーザーライターとPostScriptの力を引き出すソフトウェアとして、IllustratorとPhotoshopが開発される。Apple、Microsoftとのビジネス上の逸話も興味深い。

    22. Ann Winblad, Open Systems/Hummer Winblad共同創業者

      PC以前のミニコンピュータ用の会計システムを開発した。ミニコンピュータが市場から消えた後には、PC用の会計システムに移行している。初期のMicrosoftのBasicは会計システムを作るには弱すぎたので、他のインタープリタを使ったそうだ。

    23. David Heinemeier Hansson, 37signalsパートナー

      DHHの名前で知られるRuby on Railsの作者だ。Rails開発の話も含め、37signalsでの仕事ぶりが語られる。37signalsはexitを目指していないため、スタートアップではない。むしろスモールビジネスを目指す企業だろう。37signalsについては「小さなチーム、大きな仕事〔完全版〕: 37シグナルズ成功の法則」に詳しい。

    24. Philip Greenspun, ArsDigita共同創業者

      成功したスタートアップが、投資家と揉め、裁判になったあげくに結局は倒産してしまう話。日本にもこの手の話はすくなくないが、読んでいてつらい話しだ。

    25. Joel Spolsky, Fog Creek Software共同創業者

      Joel on Software」の著者として知られる人物。コンサルティング会社をまず成功させ、そのコンサルティング会社の中にソフトウェア会社を作るというアイデアを実現しようとした。プログラマがスターになる会社を作りたかったという。Fog Creekは社外からの投資を受け入れず、株式の非公開企業として続いている。

    26. Sephen Kaufer, TripAdvisor共同創業者

      TripAdvisorは、ユーザーのレビューを投稿として受け入れるオンラインのトラベルコミュニティとして世界最大のものになっている。自分自身の旅行の経験から、旅行に必要な情報を手軽に集められる旅行に特化したサーチエンジンを開発した。データベースはWebをクロールするのではなく、雑誌などから手作業で情報を集めて構築したという。ユーザーが書き込むレビューと旅行業者の問題なども興味深い。

    27. James Hong, Hot or Not共同創業者

      Hot or Notは、ユーザーが投稿した自分の写真に他のユーザーが点数をつけてホット度を評価するというもの。最初は遊びで始めたが、初日からアクセスが殺到し、スケールさせるために多大な苦労を強いられることになる。Hot or Notをはじめてから、あまりルックスを重視しなくなったというのはおもしろい話だ。

    28. James Currier, Tickle創業者

      ビジネススクールの授業で性格テストを受けた際、その後2週間にわたって授業を受けた生徒たちが性格テストについて話をしているのを見て、性格テストは強力なメディアになると考えた。そして、性格テストを道具にデジタルメディア会社を起業する。

    29. Blake Ross, FireFox作者

      Netscapeでインターンシップとして働いたとき、まだ14歳だっという! FireFoxがInternet Explorerに対抗するものではなく、AOLによってねじ曲げられたNetscapeに対して、本来だったらこうなったはずだというブラウザとして作られたというのは興味深い話だ。FireFoxの元のプロジェクト名であるフェニックスは、Netscapeの灰からの再生を目指してつけられたという。

    30. Mena Trott, Siz Apart共同創業者

      ブログソフトの定番として一世を風靡したMovableTypeの作者。フリーソフトウェアとして公開していたがゆえに起こる問題などについても語られている。

    31. Bob Davis, Lycos創業者

      カーネギーメロン大学で開発されたサーチエンジンを買収して創業された企業。Lycosはブランドの確立に力を入れ、インターネットの初心者ユーザーに道順を示す存在になろうとしたという。

    32. Ron Gruner, Alliant Computer Systems共同創業者/shareholder.com創業者

      Alliantで並列スーパーコンピュータを開発し、Alliantが倒産した後に業務プロセスの自動化を目指してshareholder.comを起業した。並列スーパーコンピュータ開発の話と、後に倒産にいたる話はなかなか興味深い。

    33. Jessica Livingston, Y Compinator共同創業者

      著者本人のインタビュー。今では、IT業界で最も有名なベンチャーキャピタルになったと思われるY Combinatorの起業時の話。この本の執筆開始と同時期に起業していたというのにはちょっと驚く。Y Combinatorのコンセプトは、少数のスタートアップに投資をして、法的に会社として成り立っていけるようにすることだという。つまり、創業を助け、製品についてともに考え、もっと多額の資金を援助できる投資家に彼らを紹介することだ。Y Combinatorが起業家たちとどのように仕事をしているかについても、触れられている。Y Combinatorについては「Yコンビネーター シリコンバレー最強のスタートアップ養成スクール」を読むのがいいと思う。



    さて、簡単だが取り上げられているトピックの紹介を終わろう。プログラマの諸君、タオルの用意はできているかな?(笑)次は君の番だよ!





    2014年6月24日火曜日

    「フルスクラッチから1日でCMSを作る シェルスクリプト高速開発手法入門」刊行!




    シェル芸の伝道者こと元USP研究所の上田隆一さん、FreeBSDの使い手であり和太鼓の演奏者でもある後藤大地さんの共著である「フルスクラッチから1日でCMSを作る シェルスクリプト高速開発手法入門」をついに刊行する。7月2日発売!

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    この本は、私が今まで作ってきた本の中でもかなり異色な本といえる。なにせ著者の上田さんが謝辞に「このような掟破りなものを出版する機会を作っていただいた......」などと書いているくらいだ(笑)。簡単に内容を紹介すれば、シェルスクリプトを使ってCMS(Content Management System)を作っていく過程をステップバイステップで解説した本、ということになるが、単純にソースコードを掲載してその動きを説明したものではない。たとえば、CMSに必要なデータをテキストファイルとしてファイルシステム上にどのような形で構築するのか、その際にプログラマが何を考え、どのように判断するのか、という思考過程がちゃんと書き込まれている。

    また、単に動くものを作るだけではなく、パフォーマンスを計測して改善するという点についても解説されている。このとき、テスト用のダミーデータをシェルスクリプトで作る方法についても述べられていて、なかなかに実践的だと思われる。

    ちなみに本書で解説しているbashCMSというCMSは、実際にUSP友の会のWebサイトで使われているものがベースになっている。シェルスクリプトの解説のために作られたサンプルではなく、実運用を前提に作られたプログラムの内容を解説しているわけだ。bashCMSはGithubで公開されており、MITライセンスが設定されているのでだれでも自由に使うことができる。


    これだけだと、よくできた普通の解説書のように思われるだろうが、そうじゃない。たとえば、普通のシェルスクリプトの入門書に丁寧に説明されているwhileやらforなどのループ処理について、「そんなもの使うんじゃねーよ」と書いてある(かなり乱暴にまとめているので誤解なきよう)。さらに、通常であれば、似たような機能が複数箇所で必要になったら関数にまとめましょう、とこれまた丁寧に説明されているものを、「関数なんかにまとめずコピペしようぜ」と書いてある(繰り返しますがかなり乱暴なまとめです)。さらにさらに、普通の解説書ならば、プログラミングする際にはソースコードの再利用を必ず考えましょう、と書かれているはずだが、本書には「コードを再利用するより書き直したほうが早いだろ」と書いてある(同上)。

    正直、読んでいてたまげた。私は二十数年間にわたってIT系の編集者をしているが、今までは「プログラムの構造化は重要です」とか、「情報隠蔽とカプセル化を用いてプログラムの部品化を進めましょう」とか、「同じようなコードがあちこちに出てくるのは典型的な悪いコードです」とか、そんなことが書いてある本を作ってきたのだ。まさかこんなことが書いてある本を出すことになろうとは、思いもしなかった。人生なにが起こるかわからない。

    どうして著者の上田さんが上記のようなことを書いているか知りたくなったら、ぜひとも本書を読んでほしい。きっと、目からウロコが落ちまくるか、あるいは間違った考えに洗脳されるに違いない(笑)。

    とにかくこの本は読んでいて楽しいので、シェルスクリプトが好きな人、UNIX好きな人にはお勧めだと言える。私が特に好きなのは、6章の「シェル芸でログの集計」という章だ。ここでは、長いシェルスクリプトを作る際に、1つ1つの機能をまずはワンライナーとして実装し、その動きを確認しながらシェルスクリプトを組み上げていく過程が解説されている。名人の技が次々と開陳されていくのを眺めているようで、実に楽しい。ぜひ一度目を通してほしい。

    あと、お勧めなのが、章末に入っている後藤大地さんのコラムだ。UNIX系OSのディープな部分にちょっぴり踏み込んだ、興味深い話が展開されている。inodeを使い切る話とか、ディスクキャッシュを利用したシェルスクリプトの書き方とか、実におもしろい。


    本書を編集して、改めてシェルスクリプトの強力さ、UNIXのソフトウェアツールという考え方のすばらしさを痛感した。まずソースコードが短い。当たり前といえば当たり前なのだが、他のスクリプト言語ではこうはいかない。ソースコードが短ければ、それだけ理解しやすくなるし、作る時間も短くてすむ。これは他の言語にはない、シェルスクリプトの大きな大きな利点だ。また、データをRDBMSなどに収録せず、テキストファイルとして保持する手法についても、データ構造のわかりやすさ、そしてデータをプログラムから操作する際の柔軟さという点で、感心させられた。

    なんかもう他の言語なんていらないじゃん、プログラム作るなら全部シェルスクリプトでいいじゃんみたいな気分になっている。どうもシェル芸人上田隆一に洗脳されてしまったらしい(笑)。

    さてさて、名著と呼ばれるか迷著と呼ばれるか、怖いもの見たさあふれる方はぜひ本書を手にとって見てほしい。では、最後に上田さんが「怖いもの見たさあふれる人」に送った言葉を引用して本エントリを終わりたいと思う。

    こわくないよ。