事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

「パチンコ業界が北朝鮮の資金源として送金」という武藤嘉文外務大臣発言その他のソース

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「パチンコ収益が北朝鮮の資金源になっている」

この情報の発信源はどこでしょうか?

実はこの情報は錯綜していて整理がされていないので、改めてここにまとめようと思いました。IRカジノの正当性やパチスロへの影響を考える上で重要です。

武藤嘉文外務大臣の国会答弁ではなく記者懇談会

当時の外務大臣である武藤嘉文(むとう かぶん)氏の発言が「国会答弁」と伝えられることがありますが、実は国会答弁というのは間違いであり、記者懇談会の場で発言されたということです。

新聞報道は1993年7月29日付読売新聞朝刊で確認できます。

国会議事録を検索しても出てこないのは当然です。

丸山穂高(まるやま ほだか)氏の国会質疑

上記で指摘した事実は「第193回衆議院予算委員会3号平成29年01月27日」における維新の丸山穂高(まるやま ほだか)氏の質疑でも触れられています。

○丸山委員 冒頭省略
 パチンコの件でもう一つ、お話を聞いていかなければならないのがこの観点です。パチンコのお金、我が国にミサイルの問題でいろいろある、そして我が国の国民を拉致している、その北朝鮮に対してお金が流れているんじゃないかという話がたびたび出てきます。
 それで、いろいろ調べていると、特に例えばインターネットなんかだと、当時、九三年に、武藤外務大臣の時代に国会答弁で、今このフリップを上げさせていただいています、朝鮮総連の北朝鮮への送金について、パチンコのお金が大分北朝鮮に行っているようだ、何千億円と行っているという発言があるんじゃないかという情報がいろいろあるんですけれども、実はこれは調べましたら国会答弁ではなくて、当時、九三年、シンガポールに行ったときに武藤外務大臣が記者懇で述べているということでした。これは国会答弁ではなく、正式な答弁ではないという、記者懇ですからね、それが記事になっているので、では、改めて正式な答弁を聞きたいというふうに思います。
 外務省はパチンコ業界等から北朝鮮にお金の流れがあるとお考えかどうか、外務大臣、答弁いただけますでしょうか。

つまり、当時の武藤外務大臣の発言は正式答弁ではなかったということです。

この質問については当時の外務大臣である岸田文雄氏が以下述べています。

○岸田国務大臣 北朝鮮への資金の流れ等については、さまざまな観点から実態を把握するべく努力をし、そして我が国独自の措置を講じているわけですが、今御指摘のような点について、具体的な情報については、私自身、ちょっと承知はしておりません。
 引き続き、さまざまな情報については強い関心を持って、情報収集には努めたいと考えます。

このように、パチンコ収益がパチンコ業界から北朝鮮に送金されているかどうかについては具体的な認識がオフィシャルに示されているとはいえないという現状があります。

それにしても、岸田大臣の答え方が「私自身」と言っているのが気になりますね…

万景峰号(マンギョンボンゴウ):で現金を北朝鮮へ

「パチンコ収益が業界からそのまま」ということとは異なりますが、別ルートでの送金手段が複数存在していました。こちらについては元朝鮮総連の中央本部の幹部であった韓光熙が「わが朝鮮総連の罪と罰」という著作の中で暴露しているものがあります。

そこでは全国各地のパチンコ業界や商工関係者から集めた数十億円を朝鮮総連中央本部の新潟出張所に集め、目立たないように2~3千万円を紙袋に小分けしたとあります。その上で親族訪問などの名目のもと、万景峰号という船で北朝鮮に渡航する同胞に持たせたとあります。

これは届出が必要な金額なので、要するに密出国していたということです。

韓光熙は別の場面でも北朝鮮への送金情報を話していました。

なお、北朝鮮への送金ルートとしてはかつて足利銀行もあり、国会でも数回質疑がなされています。

パチンコ協同組合が外務省の認可団体を通して北朝鮮へ食糧援助

155 衆議院 安全保障委員会 7号 平成14年12月05日
○渡辺(周)委員 民主党の渡辺でございます。
 それでは、早速でございますが、広い意味での安全保障の中で大変重要な問題であります今回の社団法人日本外交協会の米支援、この点につきましてお尋ねをいたします。
 この日本外交協会が、ある団体の要請によって、人道支援の名のもとに東京都の非常食を北朝鮮に送っていたということが明るみに出ました。この問題をぜひただしたいわけでございますけれども、この点につきまして、まず、この社団法人日本外交協会というのはホームページもございまして、見ました。
 これは一体どういう団体なんですかね。これは外務省の委託事業を受けている団体、しかも、この会の会長は衆議院議長綿貫民輔さんが務めていらっしゃった。その点をかんがみますと、これは大変重大な問題なんですが、この日本外交協会というのはどういう団体なのか、外務省、お答えいただけますか。

ここで言及しているのは、熊谷遊技業協同組合(パチンコ店の協同組合)が「社団法人日本外交協会」という民間NGO団体に対して北朝鮮支援物資を供給したいと申し出た結果、外交協会が45万トンの食糧援助をしたと言う事案についてです。

これは小泉内閣時代に拉致問題が取り上げられていた時期に万景峰号を利用してなされたのですが、外務省が認可した団体であるため問題視されました。読売新聞も大きく取り上げました。

この質疑は神回と言ってよい政治・法制度の不手際をよく炙り出したものだと思います。同日に複数、この件に関して質疑がありましたが、渡辺(周)議員の質疑がもっとも強力です。

○高島政府参考人 お答え申し上げます。
 日本外交協会は、今委員御指摘のとおり、外務省の認可を受けた公益法人、社団法人でございまして、定款では、世界平和と民主主義を基調とする国民外交の実現を図ることを目的とする団体だというふうにうたっております。
 会長は、今御指摘がありましたとおり綿貫衆議院議長が務めておられましたけれども、十二月三日付で、今回の北朝鮮への食糧支援問題の責任をとって辞任届を提出されております。
 定款の定めによって、会長のもとに副会長、理事長、副理事長、専務理事などが置かれておりまして、ことしの三月末現在で、個人会員が二百三十六人、また法人会員が六十三団体となっております。
 この協会でございますけれども、外務省からの委託を受けた事業を含めて、いろいろな事業を行っております。
 主なものを挙げてみますとー省略ー

外務省の認可を受けたというだけではなく、外務省と関係の深い団体であるということがこの後の質疑でも明らかにされます。

○渡辺(周)委員 そうしますと、これは外務省の委託を受けて、そして歴代の会長を見ますと、歴代の外務大臣が会長を務めていらっしゃる、あるいは経済団体のトップを務められた方が会長を務めていらっしゃる。これは大変な公益団体であります。
 この団体が四十万食分、これを北朝鮮に送った。ある意味では、我が国の政府がかかわっている、外務省がかかわっている団体が、このような状況下にもかかわらず向こうに寄附をしていた、その点について弁明をホームページ上で載せているわけであります。
 このホームページを見ますと、今回の件について十二月二日に、「北朝鮮向け食糧援助について 日本外交協会の見解」ということで、その見解を載せておりますけれども、この中に書いてあることは、例えば、後にちょっと説明をいたしますけれども、「政府間交渉とは全く別次元の「人道援助」に徹した行為であり、このささやかな支援行為が現在進行中の日朝交渉に何らかの影響を及ぼすとは考えられません。」というふうに言っているんです。
 それで、日本外交協会というのは、今お話がありましたように外務省の事業を委託してやっている団体でありながら、政府間交渉とは全く別次元だ、こんなことを言っていますけれども、この点についてはどういう御見解を持っていらっしゃいますか。外務大臣、いかがですか。

歴代の外務大臣が会長を務めておきながら、政府の方針(物資供給ストップ)と異なる行動を取っているということがありました。

○川口国務大臣 これは別な委員会の場でも私が申し上げたことですけれども、細かい話は後で説明があると思いますけれども、もう少し違う対応があったのではないかというふうに私としては思っております。
○渡辺(周)委員 違う判断があったのではないか、当然そうですね。
 これはまたここに書いてあるんですけれども、「外務省の意向を代弁する立場でもありませんし、外交政策に影響を及ぼす活動もしておりません。」というふうに言っているんです。しかしここに、この団体の事業の中身を見てみますと、この日本外交協会の概要をホームページより見ますと、この団体の「当面の重点活動」の中には、「真に国益に合致した内外政策を研究し、国の外交政策に反映させるため、」これが当面の重点活動だと書いてあるわけなんです、日本外交協会の概要について。
 ところが、ここの現在の見解では、いやこれは外交政策に影響を及ぼす活動もしておりません、外務省の意向を代弁する立場でもないと。ということは、何をしてもいいということになるんですか。こういうことを言わせておいていいんですか、どうなんですか。この御見解をお尋ねします。
○茂木副大臣 まず、今回の日本外交協会の支援の問題でありますけれども、支援を実施するに当たりまして、事前に外務省の方にも連絡がございました。
 そのときに外務省から協会に申し上げましたのは、北朝鮮に対する食糧支援に関する政府としての基本的な立場を説明申し上げました。今政府としては北朝鮮に対して食糧支援等々を全く検討していない、こういう立場であります。それから、たとえ民間が行う支援であっても当面実施を見合わせる等慎重に対応してほしい、その旨は申し入れをさせていただいております。
 公益法人といいましても民間の団体でありまして、政府として個々の活動について許可するとかしないとか、そういう立場にはありませんが、先ほど大臣の方からもございましたように、同協会としてはもう少し配慮があればよかった、このように考えております。

こうした経緯があったことから、2008年には人道目的(食糧支援等)の北朝鮮船舶の入港禁止措置が為され、その解除も相当限定的にしか認めないという方針が決定されています。 その後の日本外交協会がどうかはわかりませんが、現在も存続・活動しています。

パチンコ業界の脱税割合について

第116回衆議院予算委員会5号平成01年10月17日

○浜田(幸)委員 それでは、余り同じ質問をして苦しめては気の毒ですから次の質問に入らせていただきますが、パチンコ業界は常に脱税のワーストの上位に入っているということですけれども、というのはどういうことかというと、とにかく日本の国の企業の中で一番脱税を的確にしているのはパチンコ業界である、こう言われておりますが、その点いかがでしょうか。

パチンコ業界の脱税についておそらく国会で初めて詳細を明らかにした質疑がこれでしょう。政府答弁もつづきます。

○岡本政府委員 最近の我々の調査の結果から見ましたパチンコ業界の状況について一言申し上げさせていただきますと、例えば法人税関係で申し上げますと、昭和六十三年度におきまして六百八十四件の調査を実施したところでございますけれども、その結果、百五十九億の申告漏れの把握をしております。
 その中で不正申告のあった一件当たりをとってみますと、その不正の金額といいますのは一件当たりで三千八百七十四万円ということで、他の業種に比べますと非常に多額な不正脱漏所得になっております。ちなみに、その同年度の次の業種を見ますと二千八百七十万でございますので、一件当たりで見ますと約一千万円程度の差があるわけでございます。それから六十二年度、今のは六十三年度でございますが、六十二年度の調査実績で見ましても、パチンコ業界が不正一件当たり三千四百十二万円、その一年前の六十一年度を見ますと三千百二十六万円と、いずれも六十三年度と同様に多額の不正が把握されているわけでございます。今のは法人税でございます。
 それから、所得税につきましても、例えば六十三年度におきまして百七十四件調査しておりますけれども、その結果約六十六億円の申告漏れの所得を把握しているわけでございます。これも、一件当たりの漏れ所得で見てみますと三千七百八十一万円ということになっておりまして、これは他の業種に比べますと多額の漏れになっております。ちなみに、次の業種を見てみますと一件当たり千六百十二万円ということでございますので、倍以上の漏れになっているわけでございます。ちなみに、この三千七百八十一万円、これを六十二年度で見てみますと三千三百七十三万円、その一年前の六十一年度では二千百七万円と、まあ六十三年度に比べまして、やはり他の業種に比べますと多額の漏れが出ているということでございます。
 なお、我々の調査の中で、特に強制調査の査察をやってございます。その査察の対象になりましたのが、例えば六十一年から六十三年の三カ年で見てみますと六十二件、これは検察庁の方に告発させていただいております。これは一件当たりで見ますと二億八千万の所得の漏れになっております。この漏れ額につきましては、企業規模とかとの関連もございますけれども、またすべてのパチンコの業者の方が漏らしているわけでもございませんのも御案内のとおりでございますけれども、まあ調査結果から見ますと、平均的には、現実的にはこういう姿になっている、こういうことでございます。

これは平成元年の話なのですが、最近でもパチンコという業種は法人税の脱税の割合が多い業種として毎年のように上位10位以内にランクインしています。

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こちらは国税庁平成28事務年度法人税等の調査事績の概要の引用です。

平成元年当時から約3000万円という脱税額はそれほど変化がないのが分かります。

なお、所得税についてはパチンコ業界が特段多く脱税が発見されているというわけではないようです。

パチンコ業界の経営者の国籍割合は?

 

経営者の国籍比率が北朝鮮、韓国、日本で3:3:3であると言われていたりしますが、こちらは国会議員が国会質疑の場で発言することはあっても、政府がそのような情報を認める答弁も存在せず、信頼に足るソースが見当たりません。

ただし、参考となるものとして2008年1月10日のハンギョレ新聞の記事においては以下のような記述があります。

재일동포들의 단체나 각종 활동에 드는 자금의 상당 부분이 파친코 수익에서 조달된다는 점에서, 파친코 불황은 동포사회의 위축으로 이어지고 있다. 현재 동포들이 운영하는 파친코 업소는 전체의 60%에 이른다.

在日同胞の団体や各種活動に要する資金の相当部分がパチンコ収入の調達という点では、パチンコ不況は同胞社会の萎縮につながっている。現在の同胞が運営するパチンコ店は、全体の60%にのぼる。

こうすると、少なくとも「朝鮮半島系」が少なくとも60%であるというのはそれなりに信憑性のある数字なのだろうと思われます。

なお、Wikipediaソースではありますが【『AERA』(2006年2月13日号)では「全国のパチンコ店オーナーの出自の内訳は、韓国籍が50%、朝鮮籍が30〜40%、日本国籍、華僑が各5%】という記述があり、中央日報では「在日韓国人と朝鮮総連系がパチンコ業界の90%ほどを掌握している」と書かれてします。

しかし、これらはおそらくその手の者達の性癖を考えると「力を誇示」するために話を盛っているものと思われます。

以上を考えれば、パチンコ業界が北朝鮮に利益を送金しているということは、その背景を考えれば在り得ないことではないということが分かります。

追記:金融庁が北朝鮮合弁企業に対して報告命令

記事の魚拓:http://archive.is/29vXq

産経新聞平成30年6月22日

金融庁が北朝鮮との間で不正送金やマネーロンダリング(資金洗浄)行った疑いのある企業10社との取引について、国内すべての銀行、信用金庫、信用組合に対し、取引の確認と報告を求める命令を出したことが22日、分かった。命令は18日付。10社の口座情報や平成28年3月以降の取引記録の提出を命じた。

パチンコ店がダイレクトに北朝鮮に送金するよりは、金融機関を通して行うと考えるのが現実的です。この点について金融庁も本腰を入れ出したので、今後の報道に注意すべきでしょう。

まとめ:パチンコを資金源として送金という公的認定はぼやかされているが

パチンコ業界から北朝鮮に資金が流れている、ということについて公的な証明はなされていません。しかし、ここで示したような事件の数々や営業主の属性などを考えれば、そのおそれは高いを言わざるを得ないでしょう。

その上で、IRカジノに反対する勢力からは信じられないようなデマが流されており、いったいどこがIRカジノが設置されると困るのだろうか、という事例には枚挙に暇がありません。

IRカジノができることでパチンコ業界にどのような影響があるのか。このエントリはその前段として北朝鮮との関係について簡単に整理しました。今後、少し踏み込んだ考察を書く予定です。

以上