衆院法務委員会で12月3日におこなわれた参考人質疑に「異色の経歴」を持つ人物が登場した。
かつて暴力団に所属し、現在は司法試験の合格を目指している斎藤由則さんだ。
更生とは何か。受刑者の社会復帰を阻む壁とは──。「元ヤクザ」が国会議員たちを前に、再犯防止に必要な視点を語った。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●当事者と支援者が語った「更生」の定義
「更生したとは、どのような状態を指しているのか?」
立憲民主党の議員から問われた斎藤さんは、自身の経験を踏まえて次のように話した。
「どこまでが更生したというかはわかりませんが、たくさんの方々から『この人は初めて一人前になったな』と認めてられていくことが、更生に結びついているのかなと感じ始めています」
同じく参考人として招致された中央大学法科大学院客員教授で、出所者の支援に取り組む今福章二さんは「本人の心の中で『自分はもう犯罪者ではない』というアイデンティティが確立すること。そして、周りからの評価もそれに合致することに更生があると思います」と説明した。
国会議事堂(2025年5月、弁護士ドットコムニュース撮影)
●「学びで視野が広がり、反省できるようになった」
再犯者の割合が高止まりする中、国は再犯防止に力を注いでいる。しかし、刑事施設を出た人の社会復帰には依然として多くのハードルが存在する。
斎藤さんが指摘したのは、暴力団を抜けてもしばらくは反社会的勢力とみなされ、銀行口座を開設できないという現状だ。
「犯罪歴を伏せると文書偽造と言われますが、真実を書かなければ雇ってもらえません。学歴がないため、応募できる職種も限られます」
斎藤さんは暴力団を離れたのち、42歳で一念発起。学習塾に通って高卒認定を取得し、大学へ進学した。
「英語や数学、国語を学んだことで視野が広がり、本当の意味で反省できるようになりました」と振り返り、教育の重要性を強調した。
衆議院の法務委員会で参考人として話した斎藤さん(衆議院インターネット審議中継より)
●保護司の報酬制には慎重論も「本人に響くものがなくなる」
臨時国会では、立ち直りを支援する「保護司」について議論が交わされ、担い手を確保する取り組みや安全対策を盛り込んだ保護司法の改正案が12月3日に成立した。
自身もかつて保護司に支えられたという斎藤さんは、少年時代の思い出を振り返る。
「嘘ばかりついて逃げ回っていたが、逆に保護司さんがわざわざ自宅に来てくれた」
なり手不足や高齢化を背景に「現在の無給(ボランティア)から報酬制にする必要があるのではないか」といった提案も出ている。
これについて、今福さんはボランティアとして関わることの意義を強調した。
「本人が行動を変えていこうという動機づけを考えたとき、自分だけを見ている、自分だけのことを考えてくれているという人間関係があるかどうかが鍵を握る。
その関係を形成するときに、報酬制に変えると違う混ざり物が入ってきて、本人に響くものが根本的になくなってしまうのではないか。
信頼できる大人としての保護司の関わりは報酬制ではないほうがいいと思います」
衆議院の法務委員会で参考人として話した今福さん(衆議院インターネット審議中継より)
●法務委員長がエール「司法試験、ぜひ合格を」
質疑の最後には、法務委員会の階猛(しな・たけし)委員長が、司法試験の勉強に苦労した自身の経験に触れながら、かつて「極道の妻」から弁護士になった大平光代さんの著書に励まされたことを紹介。
そのうえで「斎藤さんも、そういう存在になれると思っています。ぜひ合格を目指して頑張ってください」とエールを送った。