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倒れた母をそのままに「出勤」、死体遺棄事件で浮かぶ「家族の歪んだ日常」と現実逃避
広島地裁福山支部(撮影:普通)

倒れた母をそのままに「出勤」、死体遺棄事件で浮かぶ「家族の歪んだ日常」と現実逃避

同居する家族の死は、多くの人にとって直面すること自体が難しい出来事だ。しかし、通報や葬儀の手続きがあまりにも遅れた場合、死体遺棄罪として刑事事件に進展する可能性がある。

今年11月、広島県福山市で同居する母親の死亡を把握しながら、遺体を4日間放置したとして死体遺棄罪で起訴された50代男性被告人の裁判が、広島地裁福山支部で開かれた。

被告人は姉(次女)と母親の3人暮らし。外形的には「ごく普通の家庭」に見える。だが、遺体が放置された数日間に何が起きていたのかをたどると、理解し難い行動の連続が浮かび上がる。(裁判ライター・普通)

●倒れていた母を確認しながら「そのまま出勤」

被告人は会社員で、次女は母親の介護を担っていた。長女は別居している。被告人が介護に関わらない代わりに生活費を渡していた。

母親は認知症があるものの、足腰は丈夫で、日常生活に大きな支障はなかったという。そのため、被告人には「次女にも働いてほしい」という思いもあった。

検察官の証拠や被告人質問などによると、事件が発生したのは7月17日の朝だ。

脱衣所に行くと、母親が仰向けで倒れていた。最初は「部屋が暑いので涼んでいるのか」と思ったが、息をしている様子もなく、死亡の可能性も頭をよぎった。

しかし、被告人は「死に直面したくない」「もし死亡していたら遺体に触れたくない」と呼吸すら確かめることができなかった。介護は次女が担当していたことから「次女が対処すべき」と考え、そのまま仕事に向かった。

夜に帰宅すると、母親の状態は朝と変わっていなかった。頭部付近に次女が置いたペットボトルがあったという。夕食時には母の話題も上ったが「暑いから寝ているのだろう」「飲み水は置いといた」といった程度で、通報には至らなかった。

●喪服を「検索する」異常な日常

7月18日から20日にかけても、母親の遺体は放置されたままだった。被告人はときに外出して「現実逃避」をしていたという。

7月20日の夕食時、被告人は「母さん、おかしいと思わんの?」と聞くと、次女は「わからん」と答えた。被告人は、次女にお金がなくて通報できないのではと考え、いくらか手渡して通報を依頼した。次女は了承したが、その日のうちに通報はされなかった。

その夜、被告人は喪服をネット検索していた。母の死を意識しながらも、通報という最も必要な行動には踏み切れずにいたのだ。

●別居の長女宅を尋ねても「真実」を言えず

7月21日、被告人は別居する長女の家を訪れ、「最近、母親が起きてこない」と話した。しかし、実際の状況を話せば驚かせると考え、ありのままを伝えることはできなかったという。

被告人が長女宅から自宅へ戻る途中、次女がようやく通報した。家に到着すると、すでに警察が来ていた。

被告人は「母親はベッドで寝ていた」と嘘の説明をしたが、すぐに見破られた。真夏の時期であったため、遺体は一部腐敗が進み、ウジ虫も付着していた。検視の結果、急性心不全と診断され、暴行の可能性は否定された。

●長女に死亡が伝えられたのは「発覚から一週間後」

警察が事件を把握してから一週間後の7月28日、長女にようやく母の死亡が伝えられた。

被告人が警察に携帯電話を押収されていたという事情はあるが、長女は、この間、被告人から何の連絡もなかったことに強い憤りを示している。

また、長女が次女と話した際、次女は「形見分けをしなきゃ」などと話しており、葬式の手配は長女が担当することになった。長女は次女と被告人に対して、怒りだけでなく、情けなさなど複雑な感情を供述している。

●「情けない」「気が弱い」被告人が語った心の内側

被告人質問で、被告人は何度も「情けない」と述べ、自身を「行動に起こせない」「気が弱いところがある」などと表現した。

自分で通報しなかった理由は判然としなかった。ただ、生活費を渡していた次女が浪費するなど、「家のために動いていない」と感じており、「次女にケジメをつけてほしい」と思いが当時あったとした。

また、決して不仲であったわけでない母親の最期がこのような形となったことには、「産んで育ててくれた恩返しもできずに本当に申し訳ない」「すぐに通報していたら、命が助かっていたかもしれないのに」などと悔恨を口にした。

一方、倒れている母親に声をかけなかった理由を尋ねられると「具合が悪いときも多くて」「明日には起きてくるかなって」「そんな気にしてなかった」といった曖昧な感覚も述べている。

検察官は、通報が容易な環境において、死者の尊厳を大きく損ねる行為だとして、拘禁刑10カ月を求刑した。

●次女の入院、母親の最期への向き合い方

次女も同じ罪で起訴されているが、事件後に病気を発症して入院し、リハビリを受けている。入院の手続きなどは被告人がおこない、今後は次女の生活を支えていくという。

介護を受けながら生活をしていた母親が迎えた最期を、姉弟はどう受け止めているのか。被告人が次女をサポートする過程で、母への思いに向き合うことはあるのだろうか。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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