イスラエル人指揮者の公演中止 「反ユダヤ主義」と批判広がったわけ
イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの攻撃が深刻化する中、ベルギーで開かれた「ヘント・フランダース音楽祭」で、イスラエル人指揮者のラハフ・シャニ氏を起用したドイツのオーケストラ公演が中止され、音楽界などで抗議の声が広がっている。シャニ氏を擁護する動きの背景には、何があるのか。
中止されたのは、9月18日に予定されていたミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団の公演。イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督であるシャニ氏がタクトを取るはずだった。
しかし、主催者は同10日に中止を発表。声明文で「シャニ氏は過去に何度も、平和と和解を願う発言をしてきた」としつつ、シャニ氏がイスラエル・フィルの要職に就いていることを指摘。イスラエルを「ジェノサイド政権」と表現し、シャニ氏が「政権と明確に距離を置いていない」ことなどを理由に挙げた。
音楽界ではすぐに、反発する動きが起きた。
イラン出身の世界的チェンバロ奏者らが中心となり、シャニ氏と楽団を擁護する署名運動を開始。同じ時期に開かれていた「ベルリン音楽祭」は急きょシャニ氏と楽団を招き、同15日に公演を開いた。
ベルリン在住の音楽ライター中村真人さんによると、会場はほぼ満席。ドイツのワイマール文化・メディア担当相やショルツ前首相ら政界要人の姿もあった。ワイマール氏は開演時のスピーチでナチのユダヤ人迫害に触れ、「ユダヤ人というだけで権利を奪われることはあってはならない」と述べたが、パレスチナの現状について具体的に踏み込むことはなかったという。中村さんは「今起きている問題の重さに触れないことに違和感があった」と振り返る。
ナチズムという過去の克服に取り組んできたドイツ社会では、ホロコースト(ナチ・ドイツによるユダヤ人大虐殺)は相対化できない犯罪だという認識が、国民統合の規範になっている。このため、ユダヤ人が建国したイスラエルを批判したりパレスチナに連帯したりする動きが「反ユダヤ主義」と非難され、公の場での発言やアート作品の展示などが妨げられる事態が相次いで起きている。
今回の問題は、どう受け止められたのか。
ミュンヘン・フィルの首席指…