追いつめられた理研の研究リーダー 「雇い止め」前に取った行動は…
理化学研究所のチームリーダーだった40代の男性はここ数年、追いつめられていた。
自分も「雇い止め」の対象になるのではないか――。
男性は工学の技術をバイオの分野に応用する研究を担っていた。1年契約の有期雇用だったが、理研では一定の評価が得られれば、翌年も契約が更新される。男性は毎年、高い評価をもらっていた。
国内外の専門誌に次々と論文を発表し、その数は100本を超えた。新聞やテレビにもたびたび取り上げられ、学会の賞もたくさん受賞した。
だが2016年に風向きが変わった。
理研は就業規則に新たなルールを設け、13年度を起点に、通算10年を超える研究者とは契約をしないとした。
それでも男性は、「自分は成果を出している」と行く末に不安は感じていなかった。
だが3年ほど前から、男性を不安にさせるうわさが耳に入るようになってきた。
「あのチームは残るらしい」
「あそこはなくなるみたいだ」
うわさの真偽は確かめようがなかったが、まったくのデマとも思えなかった。
そのうち、予算の配分などを決める重要な研究戦略会議に呼ばれなくなった。
上司から「理研の外で新しいポストを探していますか?」と声をかけられるようにもなった。
「10年で一律に雇用を打ち切るのはおかしくないですか」。上司や幹部に、そう訴えたが、誰も正面から答えてくれなかった。
このままでは、無職になる――。危機感を覚えた男性は、国内外の大学や研究機関に履歴書や研究業績書を送ったが、ポストは見つけられなかった。
男性には専業主婦の妻と、小中学生の子ども3人がいる。男性が仕事を失えば、家族5人が路頭に迷うことになる。
切羽詰まって転職サイトに登録した。
ほどなく、大手電子メーカーから面接のオファーがきた。ただし研究職ではなく、研究を支援するポストだった。昨年5月に内定をもらい、9月から働き始めた。
いまの給料は、理研のころに比べ2割ほどあがった。ただ、おもな仕事は、社業に関連するさまざまな情報の調査担当だ。自ら研究していたころのやりがいや楽しさを忘れられない。「私にも研究をやらせてほしい」と声をあげているが、会社は認めてくれない。
希望が通らないせいか、理研を追われた腹立たしさがよみがえってくる。
「人のクビを切る理由をきちんと説明しないなんて、どう考えてもおかしい。いまも納得できません」
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