第1回「私は使い捨て」雇い止めの東大助教 50代で直面した研究界の現実

有料記事研究者を「使い捨て」にする国

竹野内崇宏
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A-stories 研究者を「使い捨て」にする国

 3月31日朝、東京大学の生命科学系講座の助教だった50代の男性は、研究室の郵便受けに入っていた最後の辞令を手にした。

 「令和5年3月31日限り任期満了退職」

 片付けの終わらない自席で、ため息をついた。

 「自分の研究は、大学にはいらなかったんだな。これって、使い捨てされたのと一緒じゃないか」

 有期雇用が通算10年を超える直前に契約を打ち切られる「雇い止め」の通告だった。

 この1年間、研究のかたわら、死にものぐるいで研究職への応募を続けてきた。

 履歴書や研究業績書を送った地方大学や研究機関は約15にのぼったが、どこにも採用されなかった。

 子ども2人の教育費もかかるなか、共働きの妻には心配をかけられない。家族に相談もできず、ストレスのせいか、年末には全身が見たことのない湿疹でいっぱいになった。

 世界の食糧危機を救えればと、東大で研究を始めてから15年。この間、必死に頑張ってきたのに……。

 明日から、自分が打ち込むべき仕事はない。

 「自分で言うのも何ですが、研究業績には自信がありました」

 英ネイチャー系の有名誌や国…

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    サンキュータツオ
    (漫才師・日本語学者)
    2023年5月8日11時50分 投稿
    【視点】

    「雇い止めは研究現場にとってデメリットが大きいだけの制度」まさにその通りです。 パート従業員と同等の非常勤講師も5年で雇い止めになりますし、常勤でも有期雇用ならクビにできるのでまた若い人を雇って給料をおさえることもできる。雇う側からしたら

    …続きを読む
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    岡崎明子
    (朝日新聞デジタル企画報道部編集長)
    2023年5月8日11時50分 投稿
    【解説】

    連載のデスクを担当しました。 本来、改正労働契約法は「10年経ったら雇い止め」ではなく「10年経ったら無期雇用」への転換を促す法律です。それなのに人件費削減を理由に、一律に研究者の首を切っている(切らざるを得ない)大学や研究所が相次いでいま

    …続きを読む