「登録のきっかけは?」「誰の投稿を見て買おうと思った?」調査結果から紐解くメルマガ・SNSマーケティング施策のいま
SNS全盛の時代にあって、メールは販売促進の手段として機能しているのだろうか。メール配信ソリューションを手がけるユミルリンクの五月女 翔 氏(マーケテイング本部 マーケテイング部)と、SNS運用指南書を多数執筆してきたROCの坂本 翔 氏(代表取締役)が、最新のアンケート結果から紐解いた。
浮かび上がってきたのは、メール、LINE、X、Instagramなどのチャネルごとに微妙に異なるユーザー行動。そして、SNSの存在感が大きい中でも、変わらずにメールが果たしている役割だった。
メールとSNSの専門家2人、それぞれの立場で顧客行動を分析
五月女氏が所属するユミルリンクは1999年創業。デジタルマーケティングソリューションの中でも、メールやSMS(ショートメッセージ)などのメッセージングに強みを持つ。直近では月間の配信規模が81億通に達するという。代表的なサービスにメール配信システム「Cuenote FC」がある。
一方、坂本氏が代表取締役を務めるROCは、SNSの運用支援を広く手がけている。坂本氏自身、『インスタ思考法2.0』(技術評論社)、『SNSマーケティング大全』(ぱる出版)など多数のSNS運用解説書を執筆している専門家だ。
今回のトークセッションでは、ユミルリンクが実施したアンケート調査結果をもとに、ユーザーが普段どのようにメールマガジンやLINE、Instagramなどのチャネルと接しているのか、購買行動にどうつながっているのかについて、両氏が分析した。
2024年のメール&SNS事情を深掘り
ここからは各設問の結果を見ていこう。なお、アンケートは2024年9月27日〜30日に実施。対象は企業やブランド、店舗などのSNSアカウントやメールマガジンを登録している20歳以上の男女。有効回答数は1299人。インターネットリサーチ方式で実施した。
Q1. セール、新製品情報、おもしろ投稿、メルマガ登録やSNSのフォローのきっかけは?
メルマガ、X(旧Twitter)、LINE、Instagram、Facebook、TikTok、YouTubeの7つのチャネル別に、どんな情報を配信したら登録やフォローをするかをたずねた。割合が最も高かったのは、メルマガにおいて「セール・クーポンなどの情報がある」(63.2%)だった。
メルマガを受信するにはメールアドレスが必要という特性上、なんらかの登録手続きを行うことになります。(その登録に対する対価として)メリットが重要視されているのでしょう(五月女氏)
メルマガに次いで「セール・クーポンなどの情報がある」を登録のきっかけとする割合が高かったのがLINEで52.8%。その他の主要なSNSでは、高くてもXで38.4%と突出している。坂本氏は「SNSの中でもLINEはメルマガに近い特性がある」としつつ、こう説明する。
マーケティングファネルの考え方に立つと、メルマガとLINEはファネルの中に入ってもらった後のための施策と言えます。これに対してInstagramなどのSNSはファネルに入る前、まだ何も商品を買っていないお客さまのためのツールだと考えています(坂本氏)
五月女氏は、「メルマガとSNSでは、登録の重みが違う点にも注目すべき」とした。メルマガでは、最低でもメールアドレスという個人情報の登録が必要になるが、SNSであればアカウント名が企業側に把握されるとはいえ、基本的にはフォローを行うだけなので、登録の手間がかからず心理的ハードルはかなり低い。
フォローのハードルが低いSNSでまずつながってもらい、関係の入り口となる商品へ誘導し、メルマガなどを登録してもらうというのが、やはりマーケティング的には正しい流れになるでしょう(坂本氏)
Q2. 誰の投稿を読んで「欲しい」と思ったことがある?
五月女氏が「今回の調査の中で最も意外な結果だった」と語ったのが、購入に影響を与えた口コミの発信者について聞いたこの質問だ。「企業以外のどんな人による投稿がきっかけで購入をしたか」という質問に対し、「一般の方の投稿」がきっかけで購入したことがあると回答した人の割合が49.6%と最も高く、インフルエンサー関連を引き離した。
企業でもなく、芸能人でもなく、インフルエンサーでもない一般ユーザーの投稿はUGC(User Generated Content/ユーザー生成コンテンツ)と呼ばれ、マーケティング界では注目されている。UGCは宣伝色が薄く、それゆえユーザーに受け容れられやすいため、坂本氏によれば、企業にとっては「UGCをいかに自然発生させるか」が命題となりつつあるという。
(極論すれば)テレビCMは、商品に対して興味がない人に無理矢理振り向いてもらうためのものでした。しかしテレビを見ない、新聞を購読していないという人が増える中で、メディアとの関係性は変わってきました。企業からの一方通行の発信ではダメで、施策が効かない段階になっています(坂本氏)
また、インフルエンサーの捉え方にも注意すべきだという。「インフルエンサー」と聞いたときに思い浮かぶのは、SNSフォロワー数が100万人規模の人たちだが、これは言うなれば「トップインフルエンサー」だ。
しかし、無名の一般ユーザーでも他のユーザーに影響を与えるケースはある。そうした影響力を持った人たちは「マイクロインフルエンサー」「ナノインフルエンサー」とも呼ばれている。企業がインフルエンサー施策を行う場合、トップインフルエンサーへ依頼するだけでなく、マイクロインフルエンサーに働きかけることも重要ではないかと、坂本氏は分析する。
Q3. どのメッセージがきっかけで何を買った?
メルマガ、X、LINE、Instagram、Facebook、TikTok、YouTubeの7つのチャネル別に、それぞれどんな商品を買ったことがあるかを聞いた。購入場所はオンラインかリアルかを問わない。トップはメルマガの「グルメ」(23.2%)で、総じてメルマガ経由で商品を購入したことがある割合は、XやLINEなど各種SNSと比較して高かった。
ユーザーが受け取るメルマガが多すぎて、「送っても読んでもらえないのではないか」と不安視される方は多いですが、個人へのレコメンデーションを徹底するなどして、読み飛ばしや登録解除を防げば、購入にもしっかりつながることがこの結果からわかります(五月女氏)
Q4. 逆効果になりかねない、嫌われる投稿内容とはどんな内容?
メルマガ・SNSで、どんな内容だとマイナスな印象を受けるかについて聞いた。回答割合が高かったのは「投稿がおもしろくない」(37.2%)、「投稿頻度が多い」(36.0%)の2つだった。
坂本氏によれば、SNS投稿でおもしろくないと判断されがちなのは長いもの。例外はあるが、文章でも動画でも、長いものは避けられる傾向だという。
動画だとテンポ感が重要ですね。横長のテレビ向け動画と、縦長のスマホ向けショート動画では、求められるものは違います。それぞれの世界感に合わせた撮影や編集が必要です。間をカットしたり、違和感がないくらいに再生速度を上げたりといった工夫も必要です。他にも、音無しでも内容がわかるようにテロップも意識しないといけません(坂本氏)
では、おもしろい投稿をするために、SNS運用担当者はどう努力すべきか。坂本氏は「とにかく多くの投稿を見まくること。インプットを増やすことにこだわるべき」とアドバイスする。多くのコンテンツを見れば、再生回数の多いコンテンツの傾向がわかり、編集の方向性を決めるのにも役に立つ。
ただ、投稿の反響を分析したり、内容の評価をしたりするのは難しい。ROCではSNS分析ツール「Reposta」を提供している。「Reposta」は自社のアカウントのどんな投稿が伸びるのかを分析することができ、競合のアカウントを参考にすることもできる。坂本氏はこうした分析サービスを使うのも1つの手段とした。
Q5. ハッシュタグ投稿企画の参加経験、参加理由は?
企業が一般ユーザーに対し、特定のハッシュタグを付けたSNS投稿を促すキャンペーンはよく実施されているが、その参加状況を聞いた。「参加したことがない」が56.1%で、残る43.9%が1度は参加したことになる。なお、参加したと回答した人の中では「1回以上5回未満」が16.1%とやや多かった。
参加のきっかけを聞く補足設問では、「おもしろそうだったから」が49.9%と最も高く、「参加者特典があったから」は43.4%で2位だった。
投稿キャンペーンを実施する目的は2種類に大別されると坂本氏は説明する。1つはUGCを増やすことで、2つ目がフォロワー数を増やすことだ。 坂本氏はSNS運用について企業に助言する際、UGCの増加を目的にしたフォトコンテストを提案することが多いという。「(UGCやフォロワーがまったくない)ゼロイチから施策をはじめるならフォトコンテストをやるべき」と断言する。
具体的には投稿専用のハッシュタグを作り、そのタグを付けた写真の投稿を促す。坂本氏の肌感覚として、実施すれば最低でも数十の投稿は集まる。これをSNSのストーリー機能などで紹介すれば、ユーザーは「企業が紹介してくれた」という手応えから再投稿につながりやすい。
キャンペーンに際してプレゼントなどを実施すると参加率が高くなるが、坂本氏は「プレゼントするなら自社製品をプレゼントすることが第一条件」だという。人気ゲーム機や高級家電のプレゼントでは、それ自体の入手が目的のユーザーが流入し、キャンペーンが終われば離れていく。ならば、自社製品に興味がある人だけにターゲットを絞り、興味がない人を無理に狙わない。
チーズを販売する食品メーカーで、フォロワー数獲得を目的としたキャンペーンを実施したことがあります。この時は、メーカーのチーズをプレゼントしたのですが、1週間でフォロワーが5000人増えました。募集にかかる投稿で広告は出しましたが、予算は10万円です。当然、終了後に離脱はあったのですが、かなり少なかった。チーズが嫌いな方は応募しないでしょうからね。特に成功した事例の1つです(坂本氏)
このほか、投稿促進やフォロワー獲得のキャンペーンに否定的な回答者の声としては、「やらせにみえる」「面倒」といった声が目立ったという。坂本氏は「自社製品に愛のある方だけに対象を絞ったり、参加手続きを簡単にしたり、企画上の工夫で参加率を上げる努力も必要」と説明した。
いま、顧客との関係の中でメールが果たす役割とは
メール施策の効能について五月女氏は、「認知拡大のための自社ブランド案内などもできるが、たとえばセール告知やクーポン送付、カゴ落ちの通知といったように、直接的なユーザーメリットを提供する手段に適しているのではないか」と指摘する。ファネルマーケティングにおける「認知」段階の顧客のためではなく、「興味」「関心」段階の顧客に向けるという考えだ。
現実的な話として、大手ECサイトでもSNSやアプリだけに施策を振り切ってはおらず、メールによる商品レコメンドを今なお継続している。ユミルリンクの取引先企業においても、顧客獲得手段としてメールがSNSを超えている企業は存在するという。ユーザー年代別の出し分け、シナリオを構築したステップメール配信などを徹底しているからこその成果ではあるが、力を入れた分だけリターンがあるのも確かだ。
坂本氏はSNS運用における目標として、フォロワー数をことさら重視する点に疑問を投げかけた。「フォロワー数が多いと見栄えがいいので、それはそれで良いことです。ただ、成果が上がるかは別の話。我々の取引先では、UGCの数をKPIにするところが多いです」と語る。
今回の調査結果にもあったように、一般ユーザーの口コミは、その他のユーザーの購買行動に影響する。フォロワー数の数はある意味、後からついてくるものであり、UGCにもしっかりフォーカスをあてるべきだとした。
なおメールを巡っては、Googleによる迷惑メール対策強化の一環で、Gmailのアドレス宛にメルマガが正しく届かない現象が一部で発生しているという。ユミルリンクでは、この問題への対策を徹底。確実にユーザーへメールを届けるためのツールとして、「Cuenote FC」などを活用してほしいと五月女氏は呼び掛け、講演を締めくくった。
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