2007年 06月 18日
アクティビストの投資手法 |
株主が企業に対して株主リターン改善に向けた行動を迫ることを「シェアホルダー・アクティビズム」と呼びますが、最近その事例をニュースなどで目にすることが増えている気がします。その原因として考えられるのは、アクティビストと呼ばれる投資家がその存在感を高めていることに加えて、公的年金や投資信託といった一般機関投資家も、企業に対する働きかけを強めていることが挙げられると思います。
日本もこのトレンドの例外ではないようで、6月前半にUBSがシェアホルダー・アクティビズムを主題とした投資家向けカンファレンスを東京で開催した際には、多くの投資家から強い関心を集めたそうです。
そのカンファレンスでは様々な投資家が各々の投資スタイルについて説明したようですが、最も注目を集めたのは、最近日本で活発な行動をみせるSteel Partnersかもしれません。
最初に投資した企業が鉄関係であったことからその名がついたとされる同ファンドは、米国に本拠を置くアクティビストファンドで、代表のLichtenstein氏は今回その投資手法についてのプレゼンテーションを行ったそうです。今更という気もしますが、その内容について少々見てみたいと思います。
まずターゲットとなる企業ですが、ずばり「安定したキャッシュフローを産む、成熟産業の企業やコングロマリットで、非効率的なキャピタルストラクチャーや資本配分(事業ポートフォリオ)、または経営の改善が必要そうな会社」だそうです。より具体的に、投資対象企業の選定プロセスにおいて重要なポイントについて挙げると、以下の4点になるようです。
「EV/EBITDA倍率」
「純現金残高の株式時価総額に対する割合」
「大きな未実現資産価値(含み益)の存在」
「複数の事業セグメントの存在」
このうち「EV/EBITDA倍率」は、ウォールストリートで広く用いられるバリュエーション手法で、株価の割高・割安の判断に用いられますが、同社では投下資本にたいする利益率(ROI)を簡単に示す指標として用いているのかもしれません。
次のふたつについては、取得した株式価値の中でどの程度が現金や未実現の資産価値(究極的には現金化などによる利益実現が可能)によって担保されるかを見るための基準と言えるかもしれません。これらの資産価値が正しく株価に反映されていないと考えられる場合には、バランスシートのリストラによって株価のアップサイドが期待出来ることになります。
最後の点については、複数の事業を有するコングロマリットの中には幾つかのノンコア事業、本業とは関係のない事業がある、と想定され、それらの事業を売却することによって本体の資産効率の改善が期待出来る、ということかもしれません。
これらは株式投資の世界で言うところのいわゆる「バリュー投資」のアプローチと類似しており、特段特別なものではない、と言えるかもしれません。ただアクティビストが一般のバリュー投資家と決定的に違うのは、投資価値を実現させる手段だと言える気がします。
引続き同社のプレゼンテーションに則って見てみると、株式取得後の同社の投資行動プロセスは、経営陣に対してフレンドリーなものから敵対的なものまで、以下のような流れで進んで行くそうで、これはイコールアクティビスト投資家の典型的な行動パターンと言えるかもしれません。
経営陣・取締役と頻繁な話し合いを行う
経営陣・取締役に「非公開」の場での業務・財務改善要求を行う
経営陣・取締役に「公開」の場での業務・財務改善要求を行う
株主総会での取締役解任を目指す(プロキシーファイト)
経営陣の入れ替えを行う
投資先企業の100%買収(自らの手によるリストラ実行)を行う
まずは前述の視点から魅力的な企業を見つけ出して市場から株式を取得し、その企業の取締役(株主利益を代表)と経営陣(取締役から選出され経営執行を行うCEOやCFO)に対して、友好的な対話を通じて株主価値向上のためのアクションを要求します。
このような行動は一般の機関投資家も普通に行うことですが、通常その効果は限定的です。6月11日号のBusiness Weekにあったように、アメリカではマイノリティ株主からの要求が会社側に受け入れられるケースが増えているそうですが、企業にとってみれば経営について指図されることが面白いわけもなく、よほど多くの株式を保有している株主でもない限り、そのような要求に素直に応えることは少ないのが一般的かもしれません。
そのような時に一般の投資家であれば、見限ってその企業の株式を売却する(または株式をショート(空売り)する)か、もしくはしばらく経営陣を信任して株式を保有し続けるかの選択を迫られるわけですが、アクティビストはご存知の通り、「声を大きくする」方法に出ることになります。
この段階での具体的行動は、メディアを通じて自らの要求を公言したり経営陣を批判したりするもので、そのトーンは案件によって差がある気がします。ただどの行動も目的としているのは、広く一般投資家からの賛同を集めて、経営陣に対して行動を起こすようプレッシャーをかけることだと言えると思います。
このステージの好例として、2006年に複数の投資家とともにTime Warnerに圧力をかけたCarl Icahn氏が、公の場で世界最大手のメディア企業のCEOを「無能」呼ばわりしたり、投資銀行を雇って経営陣に経営改革のプレゼンテーションを突きつけたりしたことは、記憶に新しいところです。
ただこのステージまで進んでしまうと、経営陣側も意地になりがちですし、「アクティビスト=乗っ取り屋」のようなイメージを煽ることで、逆に反撃に出るケースも見られます。ここが当初から経営権の掌握を目指して投資を行うプライベートエクイティファンドと異なる、アクティビスト投資の最も難しい点と言える気がします。
もちろんここで引いてしまってはどうしようもないので、アクティビストはいわゆる「敵対的経営権の掌握」のための行動を進めることになります。具体的には、まず株主総会で取締役を解任すべくアクションを起こし、その後に経営陣も解任して経営権の掌握を目指します。
これは企業にとってはまさに「最悪の事態」であり、ここに至る事態を避けるために、アクティビストの要求を受け入れるケースもあるようです。アクティビストの要求は基本的には合理的分析に基づいたものであるため、経営陣がそれを受け入れてくれれば、広く一般の投資家にもメリットが行き渡ることになります。
しかし経営陣が最後まで意地をつき通すケースも少なくなく、そのような場合は企業の完全買収によって自ら経営に手を入れることを目指すことになります。ただプライベートエクイティファンドと違って、多くのアクティビストは企業経営のノウハウを売りにしているわけではないので、基本的には含み益を持つ資産やノンコア事業の売却による現金獲得といった「バランスシートのリストラ」が中心であると言えると思います。
こうして現金化した資産は、過剰負債の返済や特別配当の形での株主への払い出しに充てられ、また何年後かは分かりませんが、最終的にはキレイになった企業を再上場するなどして投資のエグジットが図られることになります。この辺りだけを見てみると、LBOファンドの手法と共通していると言えるかもしれません。
ちなみにこの「バランスシートのリストラ」による株主の益出しは、そもそも企業の経営陣(取締役)が、上場企業であった段階で株主利益に照らして行うべきであった行動であり、アクティビストやPEファンドが仮にそれを実行したとしても、決して間違った行動とは言えない気がします。
それでもバランスシートに手をつけることは、企業財産の略奪行為に映ることは想像に難くなく、実際にUBSのカンファレンスでも、某日本企業の経営者から、「この企業は100年以上存続しており、企業財産は企業と従業員のものである。明日いなくなるかもしれない投資家に還元する必要はない」といった発言が出ていたそうです。
この「会社は誰のものか」論はさておき、株主価値を力ずくで実現させようとするアクティビストの手法は、洋の東西を問わず企業経営者からすこぶる評判が悪いのは確かです。そんな中で、経営陣との会話を通じて企業価値の拡大を目指す「フレンドリーアクティビズム」を主張するヘッジファンドやプライベートエクイティファンドも増えており、今後の成り行きが注目されます。
また投資家の世界からのアクティビストへの評価はまた違ったもののようなので、そのことについてもまた後日書いてみたいと思います。
日本もこのトレンドの例外ではないようで、6月前半にUBSがシェアホルダー・アクティビズムを主題とした投資家向けカンファレンスを東京で開催した際には、多くの投資家から強い関心を集めたそうです。

最初に投資した企業が鉄関係であったことからその名がついたとされる同ファンドは、米国に本拠を置くアクティビストファンドで、代表のLichtenstein氏は今回その投資手法についてのプレゼンテーションを行ったそうです。今更という気もしますが、その内容について少々見てみたいと思います。
まずターゲットとなる企業ですが、ずばり「安定したキャッシュフローを産む、成熟産業の企業やコングロマリットで、非効率的なキャピタルストラクチャーや資本配分(事業ポートフォリオ)、または経営の改善が必要そうな会社」だそうです。より具体的に、投資対象企業の選定プロセスにおいて重要なポイントについて挙げると、以下の4点になるようです。
「EV/EBITDA倍率」
「純現金残高の株式時価総額に対する割合」
「大きな未実現資産価値(含み益)の存在」
「複数の事業セグメントの存在」
このうち「EV/EBITDA倍率」は、ウォールストリートで広く用いられるバリュエーション手法で、株価の割高・割安の判断に用いられますが、同社では投下資本にたいする利益率(ROI)を簡単に示す指標として用いているのかもしれません。
次のふたつについては、取得した株式価値の中でどの程度が現金や未実現の資産価値(究極的には現金化などによる利益実現が可能)によって担保されるかを見るための基準と言えるかもしれません。これらの資産価値が正しく株価に反映されていないと考えられる場合には、バランスシートのリストラによって株価のアップサイドが期待出来ることになります。
最後の点については、複数の事業を有するコングロマリットの中には幾つかのノンコア事業、本業とは関係のない事業がある、と想定され、それらの事業を売却することによって本体の資産効率の改善が期待出来る、ということかもしれません。
これらは株式投資の世界で言うところのいわゆる「バリュー投資」のアプローチと類似しており、特段特別なものではない、と言えるかもしれません。ただアクティビストが一般のバリュー投資家と決定的に違うのは、投資価値を実現させる手段だと言える気がします。
引続き同社のプレゼンテーションに則って見てみると、株式取得後の同社の投資行動プロセスは、経営陣に対してフレンドリーなものから敵対的なものまで、以下のような流れで進んで行くそうで、これはイコールアクティビスト投資家の典型的な行動パターンと言えるかもしれません。
経営陣・取締役と頻繁な話し合いを行う
経営陣・取締役に「非公開」の場での業務・財務改善要求を行う
経営陣・取締役に「公開」の場での業務・財務改善要求を行う
株主総会での取締役解任を目指す(プロキシーファイト)
経営陣の入れ替えを行う
投資先企業の100%買収(自らの手によるリストラ実行)を行う
まずは前述の視点から魅力的な企業を見つけ出して市場から株式を取得し、その企業の取締役(株主利益を代表)と経営陣(取締役から選出され経営執行を行うCEOやCFO)に対して、友好的な対話を通じて株主価値向上のためのアクションを要求します。
このような行動は一般の機関投資家も普通に行うことですが、通常その効果は限定的です。6月11日号のBusiness Weekにあったように、アメリカではマイノリティ株主からの要求が会社側に受け入れられるケースが増えているそうですが、企業にとってみれば経営について指図されることが面白いわけもなく、よほど多くの株式を保有している株主でもない限り、そのような要求に素直に応えることは少ないのが一般的かもしれません。
そのような時に一般の投資家であれば、見限ってその企業の株式を売却する(または株式をショート(空売り)する)か、もしくはしばらく経営陣を信任して株式を保有し続けるかの選択を迫られるわけですが、アクティビストはご存知の通り、「声を大きくする」方法に出ることになります。
この段階での具体的行動は、メディアを通じて自らの要求を公言したり経営陣を批判したりするもので、そのトーンは案件によって差がある気がします。ただどの行動も目的としているのは、広く一般投資家からの賛同を集めて、経営陣に対して行動を起こすようプレッシャーをかけることだと言えると思います。

ただこのステージまで進んでしまうと、経営陣側も意地になりがちですし、「アクティビスト=乗っ取り屋」のようなイメージを煽ることで、逆に反撃に出るケースも見られます。ここが当初から経営権の掌握を目指して投資を行うプライベートエクイティファンドと異なる、アクティビスト投資の最も難しい点と言える気がします。
もちろんここで引いてしまってはどうしようもないので、アクティビストはいわゆる「敵対的経営権の掌握」のための行動を進めることになります。具体的には、まず株主総会で取締役を解任すべくアクションを起こし、その後に経営陣も解任して経営権の掌握を目指します。
これは企業にとってはまさに「最悪の事態」であり、ここに至る事態を避けるために、アクティビストの要求を受け入れるケースもあるようです。アクティビストの要求は基本的には合理的分析に基づいたものであるため、経営陣がそれを受け入れてくれれば、広く一般の投資家にもメリットが行き渡ることになります。
しかし経営陣が最後まで意地をつき通すケースも少なくなく、そのような場合は企業の完全買収によって自ら経営に手を入れることを目指すことになります。ただプライベートエクイティファンドと違って、多くのアクティビストは企業経営のノウハウを売りにしているわけではないので、基本的には含み益を持つ資産やノンコア事業の売却による現金獲得といった「バランスシートのリストラ」が中心であると言えると思います。
こうして現金化した資産は、過剰負債の返済や特別配当の形での株主への払い出しに充てられ、また何年後かは分かりませんが、最終的にはキレイになった企業を再上場するなどして投資のエグジットが図られることになります。この辺りだけを見てみると、LBOファンドの手法と共通していると言えるかもしれません。
ちなみにこの「バランスシートのリストラ」による株主の益出しは、そもそも企業の経営陣(取締役)が、上場企業であった段階で株主利益に照らして行うべきであった行動であり、アクティビストやPEファンドが仮にそれを実行したとしても、決して間違った行動とは言えない気がします。
それでもバランスシートに手をつけることは、企業財産の略奪行為に映ることは想像に難くなく、実際にUBSのカンファレンスでも、某日本企業の経営者から、「この企業は100年以上存続しており、企業財産は企業と従業員のものである。明日いなくなるかもしれない投資家に還元する必要はない」といった発言が出ていたそうです。
この「会社は誰のものか」論はさておき、株主価値を力ずくで実現させようとするアクティビストの手法は、洋の東西を問わず企業経営者からすこぶる評判が悪いのは確かです。そんな中で、経営陣との会話を通じて企業価値の拡大を目指す「フレンドリーアクティビズム」を主張するヘッジファンドやプライベートエクイティファンドも増えており、今後の成り行きが注目されます。
また投資家の世界からのアクティビストへの評価はまた違ったもののようなので、そのことについてもまた後日書いてみたいと思います。
by harry_g
| 2007-06-18 15:29
| 株主経営・アクティビスト