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【誤報注意】「慰安婦」への軍関与を示す外務省文書を発掘したのは内閣官房ではない

前回記事への補足。

この件を報じた共同通信記事では「旧日本軍の従軍慰安婦問題を巡り、関連する公文書の収集を続ける内閣官房が2017、18年度、新たに計23件を集めたことが6日、分かった。」などと、内閣官房がこれらの文書を見つけたかのような書きぶりだが、実際にはそうではない。だいたい、歴史修正主義者ばかりの安倍政権下で内閣官房がそんな調査などするはずがないではないか。

今回の外務省文書に関して言えば、これらはジャーナリストの今田真人氏が発見したものだ。

今田氏の著書では、これらの公文書の内容がさらに詳しく紹介されている。例えばこれは、陸海軍が具体的な数の目安を示して「慰安婦」の割り当てを行政側に要求している部分。[1]

 現地の日本軍が必要とする「慰安婦」の人数・規模を事細かく指示している文書もいくつかある。これも、これらの女性の渡航が現地の日本軍の要求によるもので、官憲がその要求を実現するために率先して動いたことを物語る。事実上の軍の命令である。
 同年(注:1938年)6月29日付の在青島総領事の文書は言う。《貸料24》
 「当地海軍側ハ陸戦隊並第4艦隊乗組兵員数ヲ考量シ芸酌婦合計150名位増加ヲ希望シ居リ陸軍側ハ兵員70名ニ対シ1名位ノ酌婦ヲ要スル意向」
 「芸酌婦合計150名位増加」とは、増加人数のことであり、実際の数はもっと多かったことになる。「兵員70名二対シ1名位」とは、なんとも露骨な要求である。

こちらは、提供された「慰安婦」を軍用車を使って戦地に移送したことを示す文書。[2]

 また、同年6月7日付の在済南総領事の文書には「皇軍ノ徐州占領後特務機関トノ打合セノ結果当館ノ証明アル者二限り5月22日以降同月末迄二軍用車二便乗南下(徐州入城ハ当分許サレズ臨城、克州、済寗二止マラシム)シタル特殊婦女数ハ186名ニシテ其ノ他当地二待機シ居り」とある。《資料21》
 「慰安婦」集団を「(軍の)特務機関トノ打合セノ結果」「軍用車二便乗」させる動きは、民間業者による連行ではないことが明白だ。日本軍と官憲による強制連行そのものである。

また、「慰安婦」たちは表向きは「芸妓」「酌婦」「女給」といった名目で集められたが、名目通りの仕事をするものと思って募集に応じた女性たちは、現地に着くと有無を言わさず「醜業=売春」を強いられたことを述べている生々しい公文書もある。[3]

 「慰安婦」にされた日本内地女性の家族にとってこの連行は誘拐であり、また、女性本人にとっては詐欺被害であった。そのことを示すのが、1938年7月1日付の在南京総領事の文書である。《資料26》
 「内地親元ヨリ捜査願ヒ又ハ本人或ハ親元ヨリカカル醜業不承諾ニヨル帰郷取計ヒ願ヒ等殺到ノ状況」と、内地からの捜査願が南京にまで殺到し、厄介な状況になっていることを訴えている。しかし、その連行自体、日本軍や政府官憲自らが実施あるいは加担していたものであった。
(略)
 日本軍や官憲が誘拐・詐欺の犯人なのだから、いくら捜査願を出してもかなうはずがなかった。同年6月1日付の在山海関副領事の文書は、そのことを冷酷に、かつ正直に書いている。《資料20》
 「支那二於テ所謂酌婦ト称スルハ単ニ酒間ヲ斡旋スル婦女ヲ指スニアラズシテ内地ノ娼妓卜同様ノ稼業二従事スルモノナルガ内地婦女中ニハ往々ニシテ文字通リ解釈シ漫然渡来シ到着地二於テ醜業ヲ強ヒラレ其ノ瞞あざむかレタルヲ知リタル際ハ時既二遅ク後悔スルモ及バズ」

とはいえ、このような詐欺的手段で内地女性の連行を続けると、被害者家族の不満が高まり社会問題化する恐れがある。さらに、兵士が慰安所に行ってみたら出てきた「慰安婦」が自分の姉や妹だった、などという事態が万が一にも起ったら大変なことになる。

そこで政府・軍部が目をつけたのが、内地女性よりさらに弱い立場に置かれていて抗議する手段もない植民地(朝鮮や台湾)の女性や少女たちだった。

当時日本も加入していた「醜業を行わしむる為の婦女売買取締に関する国際条約」(1910年)には次の規定があった。[4]

第一条 何人たるを問わず他人の情欲を満足せしむる為、醜業を目的として、未成年の婦女を勧誘し、誘引し、又は拐去〔誘拐〕したる者は、本人の承諾を得たるときと雖いえども……罰せらるベし。
第二条 何人たるを問わず他人の情欲を満足せしむる為、醜業を目的として、詐欺に依り、又は暴行、脅迫、権力濫用其の他一切の強制手段を以て、成年の婦女を勧誘し、誘引し、又は拐去したる者は……罰せらるベし。

つまり、当時でも未成年(21歳未満)の少女の場合はたとえ本人の承諾があっても売春を行わせることは違法だったし、成年女性の場合も詐欺や誘拐等による強制を伴う場合は違法だった。当然、上記の公文書に書かれているようなケースはアウトである。

しかし、この国際条約には、植民地などにはこれを適用しなくてもよいという規定があったため、日本政府は台湾や朝鮮にはこの条約を適用しないことにしたのだ。そうすれば、性病に罹患している可能性がないという意味で「慰安婦」に最適な性交未経験の少女であっても動員できるというわけだ。そして植民地、とりわけ朝鮮からは、官憲が明白に加担する形で、就業詐欺等により大量の少女や女性たちが「慰安婦」として送り出された。

おぞましい話だが、では道義的にはともかく、当時においてはこれは合法だったのか?

そうではない。国連やEUとも協議資格を持つ有力なNGOである国際法律家委員会(ICJ: International Commission of Jurists)は、そもそも植民地への適用除外を認める条約の規定は、締結当時一部の植民地に残っていた花嫁料の支払い等の慣行(形式的には女性の売買と見なされうる)を直ちに一掃するわけにはいかないから挿入されたものであり、「朝鮮女性に加えられた処遇について、その責任を逃れるためにこの条文を適用することはできない」と述べている。[5]

国際法の一部の文言だけを切り取って、その立法趣旨(売春強要の防止)とは真逆の目的に利用しようとするのだからお話にならない。当時も今も、慰安所制度に関する日本政府のやり方は卑劣としか形容しようのないものだ。

[1] 今田真人 『極秘公文書と慰安婦強制連行』 三一書房 2018年 P.86-87
[2] 同 P.84
[3] 同 P.83-85
[4] 吉見義明 『従軍慰安婦』 岩波新書 1995年 P.164-165
[5] 同 P.169

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極秘公文書と慰安婦強制連行 (外交史料館等からの発見資料)

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  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 
従軍慰安婦 (岩波新書)

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