『インクルーシブデザインハンドブック』レビュー
当ブログでは何度かインクルーシブデザインについて取り上げてきました。
ブログには書いていませんが、個人的に奈良の観光をインクルーシブデザインの視点から考えるワークショップにも参加し、インクルーシブデザインについてはいろいろと思うことがあります。
インクルーシブデザインを体系的に学ぶために
ただ、インクルーシブデザインの理論や事例をちゃんと学びたいと思ったときに、残念ながら現時点ではインクルーシブデザインに関する書籍は日本で発売されていません(Amazon.comでは数多くありますが、もちろん英語)。
そう思っていた矢先、偶然発見したのが、財団法人たんぽぽの家が発行する『インクルーシブデザイン ハンドブック』です。インクルーシブデザインを体系的に学べる数少ないリソースとなっています。
たんぽぽの家といえば、某方面では非常に有名なエイブル・アートの総本山(なのか?)です。そして、インクルーシブデザインを日本で最初に取り組んだ団体でもあります。そんな大御所が作ったガイドブックです。期待は裏切りません。
ガイドブックの内容
まず、面白そうな目次をざっと抜き出してみます。
- インクルーシブデザインの解釈・・・概念、製品、プロセス、および方法論
- デザインコンセプトの多様な解釈
- ソーシャル・インクルージョンの理念と、その実現に向けたインクルーシブデザインの役割
- リサーチアソシエイト(4)・・・2025年の持続可能な公共交通に向けたシナリオ
- 超高齢社会「日本」におけるインクルーシブデザインの意味
インクルーシブデザインやさまざまなデザインに興味がある方は、目次だけでご飯1杯はいけそうですね!
また、執筆陣が豪華です。日本のインクルーシブデザインのエバンジェリストである九州大学の平井康之先生やインクルーシブデザインユニットを率いる京都大学の塩瀬隆之先生はもとより、英国王立芸術大学院大学の先生方が執筆しています。この大学こそがインクルーシブデザイン発祥の地なのです。そのため、本書ではインクルーシブデザインの理論が明確に提示され、事例も豊富なわけです(もちろん日本語で読めます)。
さらに、インクルーシブデザインをどのように若いデザイナーにも根付かせるかという観点から、ワークショップやカンファレンスなどさまざまな取り組みや事例を紹介しています。アクセシビリティも同じような側面があるのですが、「インクルーシブデザインは障害者や高齢者向けだから、僕たちには関係ないよね」と思ってしまう若いデザイナーもいるんですよね。
でも、インクルーシブデザインの本質は障害者や高齢者向けのデザインを制作するのではなく、インクルーシブデザインを取り入れることで、ほかの人たちにとっても役立つデザインを作ることなのです。この観点をどのように身につけてもらい、実感してもらえるか。そのための取り組みもいろいろと紹介されています。
読んでほしい人たち
- インクルーシブデザインに興味を持っている人
- あるデザインプロセスをどのように日本に根付かせるのかで悩んでいる人
- アクセシビリティやユニバーサルデザインなどに取り組んでいる人
本書はこのような方々のヒントになるんじゃないかなと思います。
ちなみに、インクルーシブデザインワークショップのみを取り扱った本もあるので、ワークショップに興味がある方はそちらも目を通してもよいかもしれません。