The Nonprofit Sector
アリゾナ州立大学 Master of Nonprofit Leadership and Managementの基幹授業である「The Nonprofit Sector」を終えたので、どんな書籍や論文を読んだのかを一部だけ紹介しておきます。
Hopkins, B. R. (2017). Starting and managing a nonprofit organization: A legal guide (7th ed). John Wiley & Sons.
アメリカのNPOが関係する法律についての解説書。第1章のみを読んだ。1章は序章的な扱い。
アメリカの法律は、州ごとにかなり異なるので、NPOにもその影響が見られる。だから、501(c)(3)と呼ばれる免税制度を受けているからといって、501(c)(3)だけがNPOというわけではないというのが大事。
アメリカには、日本のような特定非営利活動促進法みたいなものがない。例えば、アリゾナ州の州法で定められたcorporationという法人格を持っている組織が、連邦法で規定される501(c)(3)を適用される、みたいな感じ。この組織はもちろんNPOなわけだが、一方で、501(c)(3)を適用されないけれども、それぞれの州法で規定される法人や任意団体で非営利活動を行うこともできる。この二重構造みたいなものを理解するのにめっちゃ時間がかかった。
26 U.S. Code § 501 - Exemption from tax on corporations, certain trusts, etc.
書籍や論文ではなく、法律の名前。アメリカで免税されているNPOのことを、通称501(c)(3)と呼ぶが、この呼称はこの法律から来ている。
理由は、Code § 501の(c)List of exempt organizationsにある(3)に該当する組織だから。さらに言えば、この法律はほかにもいろんな種類の組織の免税を定めており、(5)は、Labor, agricultural, or horticultural organizations.という組織に免税を与えている。つまり、この組織形態は、501(c)(5)と呼ぶわけね。ただ、これがどういう組織なのかは全然わからん。
National Taxonomy of Exempt Entities (NTEE) Codes
こちらも書籍や論文ではなく、制度の名前。日本の特定非営利活動促進法は、別表にてその活動内容を列挙しているが、アメリカの場合はこのNTEEというものでその活動内容を一覧化している。制度の名称の通り、501(c)(3)などの免税制度と強く関係している。
例えば、AはArts, Culture, and Humanities、BはEducationなどとなっている。さらに、サブセクターに分類されていて、A31はFilm & Videoであったり、P21はAmerican Red Cross。O21がBoys Clubsだけど、O23はBoys & Girls Clubsとか。
免税制度を受けると、自組織もどれかが割り当てられる。ただ、機械的に割り当てられるから、間違ったコードが割り当てられることもたまにあるらしい。
Frumkin, P. (2002). On being nonprofit: A conceptual and policy primer. Harvard University Press.
この授業のテキスト。通読した。マジで必読。以前のFacebookの投稿で触れたので割愛。
Putnam, R. (2001, December 19). The strange disappearance of civic america. The American Prospect.
『孤独なボウリング』で有名なパットナムによる記事。RQは「なぜアメリカの市民社会は弱まってしまったのか?」というもの。データを根拠にいろんな犯人探しをするわけだが、パットナムがたどり着いた結論は「テレビ」ではないか、というもの。
Avner, M. A. (2016). Advocacy, lobbying, and social change. In D. O. Renz & R. D. Herman (Eds.), The Jossey-bass handbook of nonprofit leadership and management (4th ed.) (pp. 396-426). John Wiley & Sons.
アドボカシーとロビイングの違いなどを記した書籍の1章。IRS(上述した501(c)(3)を管轄する内国歳入庁のこと)は、NPOがアドボカシーに使える費用の上限などを定めていたりと「へー」と思える解説も多かった。
GuideStar
アメリカのNPOのアカウンタビリティについて議論すると、絶対に出てくるのがGuideStarというWebサイト。アメリカの数多くのNPOの情報がここで一元的に見ることができる。
ログインして、調べたいNPOを検索すると、画像のようなデータをがっつりと入手できる。ASUはGuideStarに教育機関として契約を締結しているようで、僕は登録なし+無料で利用できる。ヤバい(語彙力…)。
Hansmann, H. B. (1980). The role of nonprofit enterprise. The Yale Law Journal, 89(5), 835–901.
政府とNPOの違いについて論じ、「契約の失敗」という理論を提示したことで有名な古典的論文。契約の失敗が何かについては、公益法人協会のWebサイトで中嶋先生が的確な解説をしているので、そちらを読んでみてほしい。
Independent Sector. (2022). Trust in civil society: Understanding the factors driving trust in nonprofits and philanthropy.
Independent Sectorという機関が、政府やNPOがどれだけ信頼されているかについて定期的に調査している。そのアニュアルレポート。日本でよく指摘されるように、アメリカでは連邦政府に対する信頼が低く、NPOに対する信頼がとても高い。
Teasdale, S., Bellazzecca, E., de Bruin, A., & Roy, M. J. (2022). The (R)evolution of the social entrepreneurship concept: A critical historical review. Nonprofit and Voluntary Sector Quarterly, 1(29).
Social Entrepreneurshipの意味がアカデミックの世界でどのように変遷してきたのかをレビューした論文。NPOが市場ベースで自主事業で稼がないといけないというロジックは2000年代に現れたもので、実は、1990年代のSocial Entrepreneurshipは地方政府の政策立案にクリエイティブな方法で影響をもたらす存在として言及されていた。つまり、2000年代から大きく意味が変わるんよね、と指摘する。
ほかにもいろいろあるけど、疲れてきたのでここで終えます。
NPOコンサルタントから見た一般社団法人Colaboの決算書
はてなの界隈(ここやここで)一般社団法人Colaboの決算書についていろいろと意見が出ているので、NPOのコンサルタントとして長く働いてきた僕からざざっと感想を書いておく。ただ、決算書のみに焦点を合わせた記事なので、ほかの問題については触れない。以下、Twitterからのまとめ。
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— 小嶋 新 Arata Kojima (@aratakojima) 2022年11月30日
一般社団法人Colaboの貸借対照表が公開されて、一部の界隈で議論されているので、見てきた。活動計算書(損益計算書に該当する)は事業報告書で以前から公開されている。ざざっと感想を書いておく。もちろん、会計報告が正しく行われているということを前提とする。
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— 小嶋 新 Arata Kojima (@aratakojima) 2022年11月30日
「一般社団法人は非営利団体だから税金を払わなくてもよいのでは…云々」という議論を見掛けるが、一般社団法人も税法上の収益事業を行っている場合は、その事業部分だけを按分して納税する必要がある。Colaboの場合は、事業費の租税公課(2021年度は247万円)が該当すると思われる。
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— 小嶋 新 Arata Kojima (@aratakojima) 2022年11月30日
また、管理費にも租税公課(たぶん収入印紙代など)があり、当期一般正味財産増減額の上にも、法人税、住民税及び事業税(法人住民税の均等割だろう)に分散して掲載されているため、判断しづらいのは事実。ただし、一般社団法人は、非営利型、共益型、その他型で形態が変わるため、
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— 小嶋 新 Arata Kojima (@aratakojima) 2022年11月30日
一概には言えないし、Colaboは定款を公開していないため判断できない。また、寄付金や助成金等は原則として課税されない。
人件費の支出が少ないという指摘もある。しかし、NPO(一般社団法人をNPOで括るかは緒論ある)にとって、人件費は最も負担となりやすく、かつ固定費であるため、
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— 小嶋 新 Arata Kojima (@aratakojima) 2022年11月30日
できるだけ圧縮しておくのは経営手法として間違いではない。そういった事情もあるため、NPOは求めるスキルの高さに比例した待遇を用意できないため、一般企業に比べて目劣りし、採用に本当に苦労する。もちろん、それはスタッフやボランティアをやりがい搾取してよいというわけではない。
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— 小嶋 新 Arata Kojima (@aratakojima) 2022年11月30日
2020年度の当期経常増減額が1億2,000万円であり、過大ではないかという批判がある。この点は同意する。キャッシュを過大に溜め込むのは、財務会計的にも社会的な信用という意味でも問題であろう。ただし、2019年度の寄付金は900万円弱であったが、2020年度の寄付金は
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— 小嶋 新 Arata Kojima (@aratakojima) 2022年11月30日
いきなり1億2,500万円まで増加していることに留意する必要がある。想像するには、1)想定外の大口の寄付をもらうことができた(遺贈寄付など)、2)いきなり予算が大きくなりすぎて使途を検討できなかった、というあたりでは。2021年度の寄付は、2020年度の半額の6,900万円まで減少している。
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— 小嶋 新 Arata Kojima (@aratakojima) 2022年11月30日
2021年度のパブリックリソース財団からの1億円は、たぶん、休眠預金事業のコロナ禍の住宅支援事業の一環だと思われる。休眠預金からの助成は、使途制約が厳しく求められている。要は、目的以外に使ってはいけない(ほかの助成金もそうなのだが)。故に、指定正味財産に置いたのであろう。
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— 小嶋 新 Arata Kojima (@aratakojima) 2022年11月30日
会計的な処理としては妥当である。
これだけ利益が出ているのであれば助成金は不必要だろうという意見もある。確かに、利益が大きく出ているのであれば、助成金を申請しないようにするというモラルが必要なこともあるし、利益が大きく出ていることを理由に助成金の審査で落ちることもある。
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— 小嶋 新 Arata Kojima (@aratakojima) 2022年11月30日
ただ、助成金はその性格上毎年度続くものではない。つまり、単年度である。事業の立ち上げ期にしか使えないものも多い。さらに、NPOが申請できるほとんどの助成金は、その事業単位で見ると赤字になるように設計されている。例えば、100万円で申請すれば、110万円を使わないといけない。
(11/15)
— 小嶋 新 Arata Kojima (@aratakojima) 2022年11月30日
つまり、10万円はNPOの持ち出しである。そのため、この点だけをもって、Colaboを批判することはできない。助成金貧乏という言葉があるように、むしろ助成金の制度を変える必要がある。
これだけ利益が出ているのに、なぜさらに寄付を募るのか、という点。
(12/15)
— 小嶋 新 Arata Kojima (@aratakojima) 2022年11月30日
これは、シンプルな理由。2021年度の決算書を見ると、経常収益が1億7,600万円あるが、そのうち、寄付金が6,900万円、助成金が4,600万円である。これらの収入は来年も確約されたものではない。つまり、水物である。
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— 小嶋 新 Arata Kojima (@aratakojima) 2022年11月30日
上記で述べたように、助成金は単年度がほとんどだし、寄付も毎年確約されたものではない。NPOの財源を安定させるためには、多様な財源を確保していく努力をし続けることが必要なのである。
まとめると、Colaboの決算書を見る限りでは、特段、問題となりそうな点は見つからなかった。
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— 小嶋 新 Arata Kojima (@aratakojima) 2022年11月30日
あえて指摘するのであれば、1)一般社団法人を規定する一般法人 第128条で求められる貸借対照表等の公告を行っていなかった、2)2020年度の過大な利益は決算を迎える前に慎重な検討および情報公開が必要であったかもしれない。
(15/15)
— 小嶋 新 Arata Kojima (@aratakojima) 2022年11月30日
以上。ちなみに、僕はNPOで長く働いてきたが、Colaboとは直接的・間接的な付き合いがないことを述べておく。
アメリカのアリゾナ州立大学大学院(オンライン)に合格するまで
2022年7月にアリゾナ州立大学 Master of Nonprofit Leadership and Management(オンライン)に合格しました。アリゾナ州立大学はASUと略すので、以下ASUで統一します。
現在40歳の社会人で、日本の大学院に入学したことはなく、短期も含めて海外留学したことはない僕が、どのように英語圏の大学院のオンラインコースを選んだのかについて、この記事で紹介します。
ASUとは
名前の通り、アメリカの州立大学のひとつ。各種ランキングではグローバルで100位から200位くらいに位置づけられることが多いようです。イノベーションについて高く評価されていると大学は謳っていますが、実際のところはよくわかりません。
Master of Nonprofit Leadership and Managementは非営利組織経営に特化したMBAコースみたいなもので、修士号を取得できます。リアルコースもオンラインコースもありますが、僕はオンラインを選びました。ちなみに、ASUの場合は、リアルでもオンラインでも同じ学位を取得できます。
なぜ、大学院に行くのか
理由はひとによって本当に千差万別でしょうが、僕の場合は、
- 日本で喧伝される「海外の成功したNPO」を解像度をもう少し高く理解したい
- 非営利組織の経営についての研究は日本であまり蓄積されていないが、英語圏は豊富である。英語圏の理論をきちんと知りたい
- これまで独学で研究活動を行ってきたが、ちゃんとした機関で研究手法を学びたい
- これまで英語学習に多大なリソースを投じてきたので、なにかしらの形にしておきたい
- 今後のキャリアを考えた場合、修士号を持っていたほうが選択肢は増えそう
なぜ、海外のオンライン大学院なのか
社会人が大学院で学ぶことを検討するときには、大きく4つの選択肢があると思います。日本の大学院に通学する、日本の大学院のオンラインコースに入る、海外の大学院に留学する、海外の大学院のオンラインコースに入る、ですね。
下記の図にそれぞれの特徴をまとめました(僕の主観です)。
- 日本の大学院のオンラインコースは手軽であるけれども、受けたいコースがとにかく少ない
- 日本の大学院に通学する場合、自分が受けたいコースが社会人向け(平日夜間や土日で卒業できる)に開講されていない、もしくは大学が集積する都市部に住んでいないと、選択肢としては現実的ではない(フリーランスや自営業などは可能かも)
- 海外の大学院に通学する(=留学する)は学費の高さが半端ない(MBAなどであれば、転職して学費を取り返せる可能性はある)。また、社命でない限り、しごとを辞めないといけない
というあたりから、英語ができること、コースの当たり外れはあること、大学院を通じてコネができないことなど憂慮するべきポイントはいくつかありますが、社会人にとって、海外大学院のオンラインコースは十分に検討に値する選択肢ではないかと思っています。
どうやって、オンラインの海外大学院を探すのか
地道な作業です。オンラインのコースを示すキーワードは「distance learning」であることが多いので、「distance learning graduate コース名 国名」などで延々と検索しました(ASUだけは、ある学会のパンフレットに掲載されていて、ASU所属の教授の論文を読んだことが直接のきっかけです)。
僕は、それらでヒットした大学院をExcelで一覧にし、それらの大学の評価をさらに調べました。評価は、QS World University Rankings、Times Higher Education、USNews.comなどのグローバルな大学ランキングを参照しつつ、英国はラッセル・グループ加盟校であるかなども確認しておきました。オンラインの大学院はたまに学位取得目的だけのものがあるので、それらを排除したかったのが理由です。
ここで候補に上がった大学院から(幸い、非営利組織経営についてオンラインで学べる大学院は数少ない)、授業科目、入学要件、学費、口コミなどでトータルに判断しました。実際に受験した大学院数は、米国が1校、英国が3校です。
オンラインの海外大学院における資格要件は
大学・コース・国によっていろいろと違います。米国と英国の大学院を受験しましたが、それぞれ異なるものを求められました。その中で共通するものを書き出しておくと、
- PS(Personal Statement) 志望動機書。長さは大学によってマチマチ。僕は、日本語で要点を書く→英語で全文を書く→DeepLやGrammarlyで英文チェック→英語の添削サービスを利用(EssayEdge)という流れで作成した。
- CV(Curriculum Vitae) 一般的にはレジュメと同じく職務経歴書のことを示すが、CVはアカデミック向けであるため、構成や細部を書き換えた(計3ページになった)
- 推薦状(1名から3名) 職場の元上司、共同研究を行ったことがある日本の大学の先生2名に依頼した。大学時代のゼミの先生も検討したが、卒業後20年経っているため、現実的ではないと判断した
- 英語のスコア TOEFLやIELTSなど。僕は英国の大学院をはじめ狙っていたので、IELTSを選んだ。IELTS対策はほかの方のブログに投稿したので、そちらを参照
- GPA 3.0以上 大学時代の成績がGPA3.0以上であることは、ほとんどの大学院で求められる(計算式にバラツキあり)。僕は2.55だったので、かなり厳しいかなと思っていたので、自分が研究活動や論文執筆の経験を持っていることをPSやCVで全面的に打ち出した
- 各種書類 卒業証明書、成績証明書、パスポートなど
僕が今回受けた大学院では、GREやGMATは求められませんでした。
申請準備から合格までのスケジュール
海外のオンライン大学院は驚くくらいパッと受験することができます。一番処理が早かったところは、書類を提出後、1週間で合否結果が出ました。
僕の場合、直近のスケジュールは、2022年8月(英国の場合は9月が多い)入学を目指したので、
- 4月から7月 IELTSの点数を引き上げる
- 5月から6月 大学院の申請書類を作ったり、集めたりする
- 7月 大学院にオンラインで申請書類を提出する。追加で必要な書類を求められた場合は、それに対応する
- 8月 合否結果が届く
海外の大学院に留学する場合は、このほかにビザや住居の手続きなどが必要でしょうから、実際に留学できるのはたぶん1年後になります。けれども、オンラインの場合は、合格結果がPDFなど届くと、すぐにオンライン教育環境で必要なアカウントが発行され、「はい、いつでも、どうぞ!」みたいなノリで入学できてしまいます。
以上、ざざっとですが、社会人が海外の大学院のオンラインコースに入学するまでの流れを書きました。参考にしてください。