現在の民主党に政権担当能力はないね

もうみんな散々似たようなこと書いてるけど、見ていて余りに頭に来るので自分のガス抜きのために書いておく。


現在の民主党には政権担当能力はないと考えざるを得ない。以下に述べるとおり、少なくとも経済政策に関しては根本から理解が間違っている。そして今はまさにその経済政策が、日本だけでなく世界中で問題になっているわけだ。

これだけ重要な問題の焦点である日銀総裁人事を誤った経済政策の理解に基いて云々し、挙句に政局や党内抗争の具にするような連中が与党になれるはずはないし、またならせてはいかんと激しく思う。


与党人事案に反対の理由が意味不明の「財金分離」だという。これが何を意味するか見てみると、結局は「中央銀行の独立性の尊重」のためらしい。朝日新聞の3/7付記事「民主、武藤氏日銀総裁案に不同意の方針 採決を要求へ」によると、民主党の反対の理由は次の通りとなっている。

民主党の鳩山由紀夫幹事長は7日の記者会見で「財政と金融がつながってしまっているところに、この国の大きな問題が潜んでいる。財政と金融は切り離されてしかるべきだという議論が党内には大変強い」と述べ、財政と金融の分離の原則や過去の超低金利政策への批判から、武藤氏の昇格反対が党内の大勢であることを強調した。

しかしながら、現在の日本経済の状況において、「財金分離=中央銀行の独立性の尊重」の重要性を主張することは、次の3つの点で誤っている。


まず第一に、民主党は、日銀が少なくとも2000年8月以降、政府の意向から完全に独立しているかのように振舞ってきていることを理解していない。

2000年8月のゼロ金利政策解除、2006年3月の量的緩和政策の解除、そして同7月の再度のゼロ金利解除という、3つの重要な(そして誤った)政策変更決定のすべてにおいて、政府が事前に懸念を表明していたにも関わらず、日銀はその独立性を盾に政策変更を断行したのは周知の事実だ。

つまり、少なくともこの期間の金融政策決定において、日銀の独立性は十分に保たれていたと考えるべきだ。したがって民主党の主張する、「この国の大きな問題」の解決に「財金分離=中央銀行の独立性の尊重」が資する、という主張には全く根拠がない。


第二に、民主党は、中央銀行の独立性が何故重要であるかを全く理解していない。中央銀行の政府からの独立性が担保されていない状況で問題になるのは、過度のインフレーションだからだ。

民主主義国家の政府はインフレを好む傾向にある。適度なインフレは雇用に良い影響を与え、また財政負担も減らす。そして政府は往々にしてやり過ぎる傾向にある。インフレについて明確な責任を負っていないため、通貨発行を政府に任せると過度のインフレを招いてしまう可能性がある。中央銀行の政府からの独立が必要である所以である。

しかしながら現在の日本は10年目を迎えるデフレの状況にあり、したがって中央銀行の独立性が問題となる状況にないことは明らかだ。この状況において今以上の「財金分離=中央銀行の独立性の尊重」を主張することは、根拠がないだけでなく、明白に誤りだ。


最後に、恐らくこれが民主党の反対の最も大きな根拠と思われるが、日銀の低金利政策が財政負担への影響の懸念から続いていた、だから「財金分離=中央銀行の独立性の尊重」が重要である、という理解は事実に基かない完全な誤りだ。

まず、そもそもこの10年近くの期間において、日本の金利は決して低いとはいえなかった。名目金利は確かにゼロ近傍にあったが、企業や家計の実際の行動に影響を与える実質金利は、一貫して低いとはいえない数値だった。現在の日本の実質金利は恐らく米国のそれよりも高い。

よって、日銀の「低金利」政策によって財政負担が軽減したという事実は存在しない。むしろ逆に、名目の負担増加は低く抑えられたかも知れないが、実質の負担はデフレにより増加したと考えるべきだ。

また第一の点で述べたように、この期間に日銀が政府の介入により「低金利」政策を維持していたと考えられる根拠は存在しない。日銀は十分に独立性を保って政策を決定していたのだ。

つまり、事実を観察する限り、「財政と金融がつながってしまっているところ」など存在しない。したがって民主党の「財金分離=中央銀行の独立性の尊重」という主張は、事実に基かない全く根拠のないものだ*1。


以上3点からわかるとおり、民主党が与党人事案に反対している理由であるところの「財金分離」という主張には全く根拠を見出すことができない。よって、現時点で「財金分離」を理由に日銀総裁の決定を遅らせることは明白に誤りであると言わざるを得ない。

そもそも、現在日本の経済政策に最も必要とされているのは、言うまでもなく速やかなデフレ脱却であり、そしてそのための適切な金融・財政政策の運営だ。日銀総裁の人事は、本来であれば、これを可能とするために政府と協調して金融政策を遂行できる人物を選ぶことが焦点となるべきなのだ*2。

しかし残念ながら、現在の民主党は経済問題を正しく認識する能力に欠け、日本と世界の経済の行方にとって非常に重大な問題である日銀総裁人事を、政局や党内抗争の具としか考えていないようだ。こうした大局観のなさは、党内抗争と分裂を繰り返し、戦後長期間に亘り自民党の単独政権を許し、自滅的な最後を迎えた「野党第一党」の社会党を思い起こさせてならない。

当然、このような政党には政権担当能力がないと判断せざるを得ない。このままでは恐らく、未来もないだろう。しかしそのことは、少なくとも日本経済にとっては、悲しむべきことではないと信じる。

*1:更に述べると、この「日銀は不当な政府の介入により低金利政策を続けていた」との民主党の主張は、裏を返せば「日銀は金利を上げるべきである」となる。預金金利が上がることで消費へも好影響を与える、とまで主張する者もある。しかしながら、この主張は、経済学の教科書を紐解くまでもなく、明らかに誤っている。デフレは債務と現金価値の増大をもたらす。十分な現金を持った資産家は既にこの10年間のデフレにより恩恵を蒙っている。そして言うまでもなく、預金金利上昇を最も喜ぶのも、十分な現預金を持つ資産家だ。こうした資産家は利子所得が増えたからといって今以上に消費を増やすことはないだろう。一方で政策金利の上昇は預金金利だけでなく企業への貸出金利・家計へのローン金利も引き上げる。こちらはすぐに消費へ悪影響を及ぼすだろう。要するに、現時点で金利を上げることは景気にとってマイナスでしかなく、また不平等を拡大してしまう可能性が高い。

*2:この点については非常に残念なことに政府・財務省側にも非常に問題があるといわざるを得ない。財政再建は緩やかなインフレ下での景気回復による自然な税収増を基盤とするべきだ。消費の不振が経済停滞の主要な原因である現在において消費税増税を検討すべきと主張する者が政府・財務省に存在することは全く理解に苦しむ。