とっても憑かれた 来る(他3本)
さて、例によってたまった映画感想をいくつかまとめて。今回は「憑かれた」映画ということで。なんだか特に意識せずに似た感じの映画を連続で観たのでね。その中で一番おもしろかった作品を中心に。まずは「Oooh きっと来る きっと来る 季節は白く~」というわけで中島哲也監督作品「来る」から(主題歌は「feels like 'HEAVEN'(byHIIH)」ではございません!)
- 来る
原作は澤村伊智の「ぼぎわんが、来る」。2015年の作品。「ぼぎわん」とは「ブギーマン」が日本の田舎で訛って伝わったものだそうで、映画劇中では結局なんなのかは明らかにされない。山の神のようにも幾人もの怨念が積み重なったもののようにもいかようにも解釈出来そうだ。
この映画は主人公が妻夫木聡、黒木華、岡田准一と移り変わり、更にそこに小松菜奈、松たか子、青木崇高といった人物が脇を支える形。この主人公が移り変わるのはそもそも原作がそれぞれの主人公の一人称で繰り広げられる3つの短編が合わさって一つの長編となる形をとるものらしい。これが映画でも継承されてて、明確な3部作というわけではないけれど大体において3つに分けられ、それぞれ中心となる主人公が交代していく。
ただね、映画としてそれが効果的かどうかはちょっと判断がつかなかった。というのも最初の二人、妻夫木聡と黒木華の夫婦は両方共死ぬ形(それも凄惨な死)で退場するので主人公が死んだ!っていう衝撃を観客が受けるので「あれ?ここで終わりかな?」って思っちゃうんだよね。特に妻夫木聡の方はまだ時間があるのは分かるけど黒木華の方は観客の時間間隔が鈍ってくる頃なので。小説ならまだ続きがあるのが分かるけど。
で、やはり最終的な主人公である岡田准一とそのパートナーである小松菜奈のコンビをもっと早く出して置くべきだと思った。物語本編とは直接関係なくてもいいから小さな心霊現象を解決するエピソードなんかを冒頭に置いて、本編に登場するのこそ遅れるけどこの人達が主人公だよ、と観客に提示しておくべきではないかと。これ「貞子vs伽椰子」の常磐経蔵(安藤政信)の時も思ったけど主人公(ヒーローといってもいい)はなるべく早く出すべきだと思う。ちなみに「貞子vs伽椰子」の数倍「来る」の出来はいいです。
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映画はまず最初に妻夫木聡が黒木華を連れて田舎に帰るところから始まる。祖父の13回忌で婚約者を紹介する妻夫木。この田舎が見事に悪い田舎。内に凝り固まっていて、おっさんは宴会で若い女性(といっても多分誰かの妻)に酔った(フリ?)で抱きついたりする。外に出たものの夢破れた者は管を巻く。これぞ地獄絵図。主人公の家族も外面は良いものの、黒木華がいないとこではよそ者の陰口を叩く。この冒頭の田舎が実は一番のホラー。なるほどこんなとこなら人ならざる者が誕生もするわなあ、と言う感じ。でももしかしたらここの描写を特に何も感じない観客もいるのかもしれない、と思うとそれが一番ホラーかも。
続いて妻夫木、黒木の結婚式とマンション購入、出産といった幸せ描写が延々と続き、ここが僕にとってはかなり拷問だったので、そこまででかなりメンタルはやられて、実際の超常現象が頻発するようになると逆に心穏やかに臨めたりしました。
見どころはまず妻夫木聡の空っぽぶり、彼が演じる田原夫婦の旦那は一件完璧な人間。東京の優秀な営業マンで外見も言動も爽やか。結婚してからは良い夫、良い父親を見せている。ただしそれは完全に外面で、家事・育児は妻任せ、そして疲れる妻の気持ちを慮ることが出来ない。普段の行いやブログでは完璧な父親を演じているが分かる人にはその空っぽさを見透かされている。「完璧な父親を演じている」と書いたが、多分本人は演じてる気すら無く実際の姿と外面が彼の中では矛盾がないと思えるのが更に空疎さを増す。
かたや黒木華の妻は自身が毒親に育てられたため、自分が家庭を持つことに自信がない。そんな彼女がよりによって妻夫木聡と結婚してしまったことが運の尽き。生活に疲れ、人生に疲れ、おまけになんだかよく分からないものに憑かれる。不思議と疑問だったのは夫が死んだ後もあのマンションに住み続けてるところ。購入したとはいえローンがあるだろうし、売っちゃったほうが良いと思うのだが住み続ける。もちろん妻夫木が一括で払ってるので普通に住み続けたほうが安いとか、夫があんな死に方をした後なので買い手がつかないのかな、とかあるのかもしれない。が、個人的には後述の「A GHOST STORY」同様、その家に住み続けることがすでに超常現象なのかもしれない。
田原夫婦が共に死ぬと、主人公は岡田准一に交替。そして満を持して松たか子が姿を現す。この松たか子は沖縄のユタの血統を受け継ぐ霊能力者、とされるが、何気にものすごい影響力を持つ人。警察や政府の上層部と通じ、マンション周辺一帯を封鎖して大規模な除霊の儀式を行う。その方法は仏式の坊主もいれば神道の神主スタイルもいるし、ハングルが書かれた道具を使う韓国式の者達もいる。この霊能力ちゃんぽんぶりと大規模さで思い出したのは「ヴァン・ヘルシング」。あれはカトリックやチベット仏教などが秘密裏に手を組んで魔物と戦う組織を作っていたが、もしやあれが現代まで続いているのでは?などと思った。とにかく大規模などんちゃん除霊が楽しい。ちなみにここではしゃいでる女子高生もきっちり巫女さんかなんかだったのですな。
邦画の悪霊さんはわりと手当たり次第で大規模に襲うのはホラー映画としてはむしろ恐怖感を削ぐと個人的には思う。この映画も実際の超常現象部分は楽しめたけどそんなに怖いとは思わなかった。ただ超常現象外の部分が非常に怖く感じたのであった。「家族ホラー」としては次の「ヘレディタリー/継承」より良く出来たいたと思います。
- ヘレディタリー/継承
祖母の死をきっかけに次々と家族に不幸が降り注ぎ、実はそれはとある陰謀であった、と言う話。自分の解釈したところでいうと、祖母は悪魔崇拝のオカルトサークルを運営していて、自分の孫である男子ピーターにとある悪魔を宿らせようと画策。しかし娘である孫の母親アニーが息子と接触させなかったため一時断念。替わりに孫の妹である孫娘チャーリーに悪魔を借り宿させる。その後祖母が亡くなり孫娘は不慮の事故(これが単に事故なのか計画の内なのかは不明)で亡くなる。行き場をなくした悪魔をきちんと当初の予定通り男子たるピーターに宿らせるべき祖母の仲間たちがアニーに接触、降霊会などをさせる・・・と言う感じか。もちろんこれは全部観た後での解釈。まずはとにかく出てくる人物の顔が怖い。ピーター(演じるアレックス・ウルフはジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル」でロック様になった人)こそ普通の少年だが、母親であるアニーや妹のチャーリーは怖い。アニー役のトニ・コレットは僕が観た中では最近だと「トリプルX:再起動」(対照的に全く頭を使わない映画だ)で悪役を演じていたが、もっとセクシーな美人という感じ。本作でも美人ではあるのだろうが、常に苦悩してるか怒鳴っているか、という感じなのでまず怖い。役柄的にもほぼすっぴんという感じなのだろうが、この容姿の怖さは単に素面だからなのか、何か特殊メイクを施しているのかどちらだろう?このアニーがまたミニチュアアーティストで、いろんな物をジオラマで再現しようとしたりするのがまた怖い。神(悪魔)は細部に宿る。
そして妹チャーリー役の御面相。よく考えると彼女は途中で退場するし、悪魔が彼女に宿っていた(という僕の解釈)とはいえただただ不幸な少女、というだけなのだが、まるでこの映画の悪の元凶のような気さえしてしまう。演じるミリー・シャピロは確かに特徴的な容姿ではあるが当然普通の少女。こちらも多少は特殊メイクされているのか、と思うがどうなんだろう。
一家の父親役がガブリエル・バーン(製作総指揮も)で一家の中では(血統に関係ないからか)一番普通の人なのだが、どうしてもこういう映画だと「エンド・オブ・デイズ」のサタン(燃えるおしっこ!)を思い出しちゃう。
面白かったけど、世間で言うほど高評価ではないかな。特に斬新だとかは思いませんでした。「家族ホラー」としては先の「来る」の方がよく出来ていたと思うし、悪魔関連の「カルト(教団)ホラー」としてはロブ・ゾンビの「ロード・オブ・セイラム」の方が不条理な中にもユーモアがあって面白かったかな。
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何に恐怖を感じるかは人それぞれなので僕が特に怖く感じなかったからといってそれはあくまで僕の感覚でしか無いわけだが(例えば僕は独身だが子供がいる人は「来る」も「へレディタリー」も違う見方をするだろう)、それでもやっぱり最近の映画でホラーとして怖いってのは殆ど無いなあ(音量や演出でびっくりすることはある)。
- A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー
ルーニー・マーラとケイシー・アフレックの夫婦。ある日ケイシーは自宅前で交通事故に遭い死亡。しかし白い布をかぶった幽霊となって帰宅。妻を見守るがやがて妻は家を売却して去る。幽霊はその家にいつづけ、やがて…
ホラーじゃないです。ファンタジー映画なのだろうか。序盤かなり淡々としていて、カメラワークもほとんど無いのでちょっと辛い。画面比も3:4でちょっと小さかったし。成仏しそこねた幽霊は家に帰るが、今度はそこから離れられない。幽霊は人に憑くのか、家に憑くのか、土地に憑くのか?最初は妻という想い人、人に憑くかのように思う。だが妻が家を去り次の住人が住んでも幽霊は家を離れない(新住民をポルターガイスト現象で脅かして追い出すなど対応は妻とは異なる)。やがて家は取り壊され、そこにショッピングモールが出来るとモールをうろつく幽霊と成るか、あまりの変わりように絶望したのか身投げ。さて、それでは建物に憑いていたのか?今度は突然過去の西部開拓時代。ある一家がそこに家を建て定住しようとするがインディアンに襲撃され全滅してしまう。それを見守る幽霊。幽霊は土地に憑くのか?
この幽霊はおそらくケイシー・アフレック演じる亡くなった夫、そのものではない。最初の入植者一家から代々積み重なった何かだ。幽霊自身が見る自分たち夫婦の会話。それは家に対して何か不吉なものを感じ、引っ越したいと訴える妻と家に愛着を持つ夫の会話。ポルターガイスト現象で脅すも結果として逆に夫妻は引っ越しを決めてしまう。その直後に夫は事故死。つまりこの土地、家に憑く何かがこの夫妻を引き留めようとして夫のほうを殺して引きとめようとしたのだと思う。幽霊は夫の幽霊ではあるがその何かとの融合体みたいなものなのであろう。
とつらつら書いたけどホラーじゃないし、ショッキング描写も特に無いです。面白かったかも微妙で映画館じゃなかったら多分途中で脱落したかもしれない。妙に心には残るけど。
A GHOST STORY - Trailer (2017)
- ヴェノム
最後はガラッと変わって「ヴェノム」。元は「スパイダーマン」のヴィランで実写映像化としては二回目。前回はサム・ライミの「スパイダーマン3」でほぼ原作に忠実にピーター・パーカーのコスチュームに憑いた宇宙からの寄生体がピーターに逆恨みした新聞記者エディ・ブロックに憑依、ピーターへの恨みで狙いが一致した二人はヴェノムとして復讐を為そうとする、というもの。サム・ライミは自身の少年時代に親しんだ60年代のスパイダーマンには深く思い入れがあったようだが、偉い人の要望で登場させたこの90年代にデビューしたキャラクターには全く興味がなかったようでわりと普通の悪役という感じ。今回はそのリベンジでもあるのだが、もともとは「アメイジング・スパイダーマン」のスピンオフ企画。ただ今回はシリーズとしては終了したアメスパとも現在のMCUに参加しているトム・ホランドのスパイダーマンとも世界観は共有していないようである。ということはつまりスパイダーマンのいない世界でスパイダーマンの悪役を主人公とした作品を作る、というわけでちょっと物足りないのもたしか。アメコミ映画の例に漏れず、最初の予告編は実にシリアスな感じだったが徐々にコメディっぽい部分も出てきて最終的にはわりと愉快な映画だった。トム・ハーディが「ダークナイト・ライジング」ベインに引き続きアメコミキャラクターを演じる。ややこしいことにベインはヴェノムという薬品を摂取している設定なのでごっちゃになりますね。
ライミ版に比べると体格が最初から過剰なマッチョになっていたり、大げさに表現されていて楽しかったがやはりスパイディがおらず大元のオリジンがコミックスと異なるのでデザイン的にも胸の蜘蛛が無くなっていてただ黒いだけだったりするのが残念。あと、敵となる相手がやはりヴェノム同様シンビオートでヴェノムに対してより巨大でヴェノムより若干銀がかった黒という感じで「ブラックパンサー」のラストバトルでも思ったけど格闘ゲームの色違いキャラみたいな感じで違いが分かりづらいのが辛い。しかも戦うのは夜だし。もうここは設定大幅に変えていいから赤いアイツにして欲しい、とか思ったのだったけどアメコミ映画恒例のエンドクレジット後のアレで赤いアイツが出てきたのでそれは良いや!
なんかとにかく変な映画。正直本編はイマイチであったがエンドクレジットやおまけ見ている内に愉快な気分になったのでOKです。個人的にはもしもシリーズ化が念頭にあったのならシリーズの2作目、3作目でヒーロー化しても1作目は悪役まっしぐらのピカレスク路線で良かった気もする。
VENOM Official Trailer #2 - Tom Hardy
ヴェノム:リーサル・プロテクター (ShoPro Books)
- 作者: デイビット・ミケライニー,マーク・バグリー,ロン・リム,高木亮
- 出版社/メーカー: 小学館集英社プロダクション
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ヴェノム [Explicit] (Music From The Motion Picture)
- アーティスト: エミネム
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あ、あと「ヴェノム」公開時に「Godzilla King of the Monsters」の予告編(月の光)が流れて、日本版はオリジナルより短いんだけど、あれを大画面で観れるのは眼福でありました。新しいのも公開されて来年の5月までは死ねませんぜ。
Godzilla: King of the Monsters - Official Trailer 1