ロボットと初音ミク

VOCALOID2 HATSUNE MIKUアイ,ロボット

まえがき

人工音声ソフト「初音ミク」は、「VOCALOID2」のキャラクターシリーズの一つである。「VOCALOID」の名前が示すように、アンドロイド*1を意識している。そこで、「ロボットとしての初音ミク*2」の地位を考察したい。まずロボットから見てみよう。

ロボット

古典的SFで、ロボットが、支配者の人間に対して反乱を起こすモチーフがある。これはどこか、労働者が資本家に対して革命を起こすモチーフを連想させる*3。しかし、どちらも現代ではいささか古びてしまっただろう。AIBOやASIMO(や先行者)は、人々に愛玩の対象*4として見られたではないか。

別の角度から見てみよう。古典SFでのロボットは有無を言わせない奴隷的労働の対象だったが、現代の(巨大)ロボットアニメでは、承認*5という過程を置いている。社会現象になった「新世紀エヴァンゲリオン」では、その承認という側面が非常に大きい。「エヴァンゲリオン」は「人造人間」であって、誰でも操縦できるわけではなく、ときに操縦者の意思を超えて暴走してしまう。この暴走は反乱ではない。むしろ、搭乗者を守るためである。

恋愛シミュレーションゲームにおけるロボットは、人間よりも無垢な主体として登場する。例えば、「To Heart」の「マルチ」などは、奉仕の精神を持っていた。もちろん、それは「ご主人様願望」を満たすための、ピグマリオン的な都合のよい設定ではある。ただ、単なる奴隷的契約関係ではなく、純粋な意思を尊重しようとするのが興味深い。垂直的関係ではなく水平的関係なのだ。

初音ミク

最先端の流行である「初音ミク」は、さらに先を行っている。まず、「調教」という言葉に現れているように、主人−奴隷の(性的)関係が、ユーザを魅了している。これだけなら、ベタなエロゲのような消費のされ方*6だ。オタクは現実より虚構を好む、といったいつもの話になる。ところがそれだけではない。

初音ミクは、TBSやGoogleやJASRACといった、権力を代表する組織との権力闘争に、スポットライトが当たっているのである。そこでは、人間に反乱して支配しかえすというよりも、(たとえ半分ネタだとしても)むしろ自然と代表になっているという方が近い。まるでドラクロワの「民衆を導く自由の女神」のように、自由の象徴になっているのだ。これも、消費社会の新たな神話の一つ*7だろう。

だが最後に、なぜこうもロボットは、様々な立場になりうるのか。それは、ロボットが、人間にとって他者だからである。ふりかえって、エロゲ・ギャルゲにロボットが出てくるというのは、男と男にとっての他者である女の関係を、人間とロボットの関係に(純化した形で)置き換えているということなのだ。

*1:ネットでよく流通する言い方だと、「バーチャルネットアイドル」とか、そういう方が適しているかもしれない

*2:この言い方に違和感があるとすれば、ロボットはハードウェアの見かけの印象が強いが、初音ミクはソフトウェアによる音声の印象が強いからだろう。しかしここでは、初音ミクを音声ロボットと捉えても、別に構わないと考える

*3:ロボットの語源は労働と関係しているので、連想させる要素はある

*4:江戸時代のからくり人形などもそうだろうが

*5:「ファイナルフュージョン承認」だとか

*6:最近では「阿久女イク」だとか

*7:「初音ミク」はまずもって消費されるための商品なので、神話であっても消費社会の神話なのである