初音ミクの意義はどこにあるのか

VOCALOID2 HATSUNE MIKU

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初音ミクに意義はないのか

題名が「本当はわかっているくせに」の論理に基づいていて、単に初音ミクをありがたがっているオタクは、分からないし分かりたくもない、という意図が透けて見える。「わからないと言う以上は、わかりようがない」のかもしれないが、それでも、客観的に見て画期的な部分は、不特定多数に向けて書いておく。

まずそもそも、この技術ってそんなに革新的なのか?ってこと。
(…)基本的に「枯れた技術」だよね。

逆に見れば、誰にも注目されない革新的技術だけあっても仕方ない。技術の応用が革新的なのだ。

初音ミクも何年後かに自然な歌声に到達したとして、それがどうした、という感じがする。そこそこ歌がうまくて、かつ歌いたい子なんていくらでもいる。

「そこそこ歌がうまくて、かつ歌いたい子なんていくらでもいる」として、それがどうした、という感じがする。いくらでもいるというのは、商業レベルから見たときの視点だろうが、ネットで気軽に歌を頼むというレベルでは、いくらでもいない。

実写とは全く別の世界を描くためにアニメは必要だし、現実ではありえない動きを可能にするために、人間を3DCGに落とし込まなきゃいけないことも分る。でも声は一度録音するだけで、その後のデジタル処理でいくらでも自由に編集可能(…)

「デジタル処理でいくらでも自由に編集可能」と言ったって、現に初音ミクが出るまで、初音ミク的なソフトがなかったのだから、「いくらでも自由に編集可能」ではなかった、初音ミク的な使い方はできなかった、と言うしかない(同語反復的でくどい言い回しだが)。

さて、この初音ミク、プロミュージシャンが使うことはあるんだろうか。これは、普通のあり方としては、まずない。

確かに、現段階では人間に及ばないが、長期的な視点で見たときに、チェスでコンピュータが人間に勝ったように、歌の技術で人間を上回る時代が、絶対来ないとは言い切れない。というよりそもそも、アマチュアが気軽に使えるツールなのだから、プロのミュージシャンが使わなくても構わない。

初音ミクの現代のメディア環境における意味を全然考えてない、っていうんだろ。要するにCGMだ。

初音ミク──そこには「初音ミク」という圧倒的中心があり、「ニコニコ動画」という圧倒的フィールドがある。(…)ここからは、絶対に、何も、生まれない。

「何も、生まれない」の「何」が何なのかが問題。例えば「オーケストラの出現」「レコードの誕生」と比較するような、マクロな視点で見れば何も起きていないだろうが、もっとミクロな視点で見れば、既に事件は起きている。

いったい誰が、CGMは絶対善だと決めた?

「技術」から話が始まっているので技術の話をすれば、技術自体に善も悪もなく、人間の使い方しだいだろう。「いったい誰が、インターネットは絶対善だと決めた?」と言っても始まらない。

初音ミクの意義はどこにあるのか

初音ミクの意義は、音楽史という上から見下ろした視点では見えないが、ネットという横からの視点では見えるのである。それは、声を文字化したことによる、コミュニケーション性にある。どういうことか。

喩えて言えばこうだ。ネットより映画や書籍の方が、映像や文章のクオリティは高いかもしれない。だがそれをもって、ネットからは「何も、生まれない」とすることはできないだろう(元記事の存在も自己否定してしまうから)。ネットが魅力的なのは双方向のメディアだというところにある。

初音ミクは、声の媒体について、再生のクオリティを高くすることではなく、再生から生成のメディアに変えたことが重要なのだ。すなわち、一回性メディアの声を、反復可能・操作可能な文字として扱えるところに魅力がある。つまり、AAが文字絵なら、ミクは「文字声」なのである。

ニコニコ動画でも、音楽技術的な視点で鑑賞しているというより、「声のコピペ」とそこへのコメントを楽しんでいるだろう。オリジナル曲はともかく、既存の楽曲や、特に昔のファミコンの鼻歌などについては、そういう面がある。だから、Perfumeとは決定的に違う。

今ニコ動で「初音ミク」とキーワード検索すると、(重複・無関係のもあるだろうが)5000件以上引っ掛かる。発売から二ヶ月も経っていないのに、これだけの速度で同じ声の曲を生産するのは、生身の人間では無理だろう。あるいは録音した声を編集しても、これだけの多用な曲を再現する自由度はないだろう。複製技術としてのコピペの流通力である。

音楽の質だけを重視していると、この「速度」という面を見落としてしまう。固定電話と携帯電話が違うように、コミュニケーションにおいて速度は決定的に重要になる。もちろん、急速に流行した分、すぐに飽きられるかもしれない。しかしまた、第二第三の初音ミクが現れるだろう*1。

*1:といっても初音ミク自体が既に「VOCALOID2」なのだが