防衛省がやっとSTIR-180からのレーダー波だと公言したけど、それで協議打ち切りという形になるのは残念

発生から1ヵ月経ってようやく防衛省が照射されたのはSTIR-180であるとの見解を公表しました。

 防衛省の専門部隊で海自P-1哨戒機に照射されたレーダー波の周波数、強度、受信波形などを慎重かつ綿密に解析した結果、海自P-1哨戒機が写真撮影等を実施した韓国駆逐艦の火器管制レーダー(STIR-180)からのレーダー波を一定時間継続して複数回照射されていたことを確認しています。なお、近傍に所在していた韓国警備救難艦には、同じレーダーは搭載されておらず、韓国駆逐艦からの照射の事実は、防衛省が昨年12月28日に公表した動画の内容からも明らかです。
 今般、防衛省としては、火器管制レーダー照射の更なる根拠として、海自P-1哨戒機の乗組員が機上で聞いていた、探知レーダー波を音に変換したデータを、保全措置を講じた上で、防衛省ホームページにおいて公表することとしました。

http://www.mod.go.jp/j/press/news/2019/01/21x.html

これでようやく日本側と韓国側の争点が、STIR-180の照射の有無であることが確定しました。
12月25日の防衛大臣記者会見*1で答えをはぐらかしてたのはなんだったんでしょうね。

とりあえずは韓国側からの反応待ちになりますが、可能性としては日本側か韓国側かの主張のいずれかが誤りということになり、もう少し分類するなら以下の5つになります。

1.韓国駆逐艦レーダー操作員による誤操作あるいは意図的な照射
2.韓国駆逐艦艦長レベルの指示による照射
3.韓国軍指揮部レベルの容認の下での照射
4.日本側の誤探知
5.日本側の虚偽

このうち、1の可能性はかなり低いと言えます。仮に最初はそうであったとしても現時点でも韓国側が否定していることを踏まえると、少なくとも照射の事実を隠蔽する上で上級者が関与していると考える方が自然だからです。
日本側の場合も同様で、解析に要した時間などを考慮すれば4の可能性は探知性能が著しく低いのでなければありえず、最初は誤探知であったとしても、現時点では組織的に隠蔽していると考える他ありません。

したがって日本側と韓国側、いずれの誤りであったとしても判明した場合は大事になるのは避けられない状況です。
本来、そこまでの外交問題になる以前に当局者間の協議で解決すべき問題なんですけどね。

仮に韓国軍の比較的末端の者によってSTIR-180の照射がなされたのであれば、初期の段階で当局者間のやりとりで日本側から周波数情報などを提示することで韓国軍は末端の操作責任者を処分することができたでしょう。今となっては仮に照射が事実だとしても韓国側が認める可能性は低く、外交的にも安全保障的にも全く意味のない、むしろ有害な結末になったと言えます。
同様に仮に日本側の誤探知だったとしても、初期の段階であれば当局者間のやり取りで誤解に気づき、今後の対応について両者で合意すれば終わりでした。これも今となっては、STIR-180ではない別のレーダー波の誤探知だったとしても日本側がそれを認める可能性は低く、日韓外交を深く傷つけただけの結末になったといえます。
結局は藪の中ということになりますが、少なくとも今回の日本側の情報提示の仕方は外交的な不和や国内的な嫌韓感情を煽るやり方だったのが否めないのは確かです。
例えば、こういう部分。

 防衛省の解析結果等から、このレーダー波が、海自P-1哨戒機が写真撮影等を実施した韓国駆逐艦の火器管制レーダーから発せられたことは明らかですが、客観的かつ中立的に事実を認定するためには、相互主義に基づき、日本が探知したレーダー波の情報と、韓国駆逐艦が装備する火器管制レーダーの詳細な性能の情報の双方を突き合わせた上で総合的な判断を行うことが不可欠です。
 こうしたことから、防衛省は、本年1月14日の実務者協議において、相互主義に基づき、解析結果のもととなる探知したレーダー波のデータやレーダー波を音に変換したデータなど事実確認に資する証拠と、韓国駆逐艦の火器管制レーダーの性能や同レーダーの使用記録などを、情報管理を徹底した上で突き合わせ、共同で検証していくことを提案しましたが、受け入れられませんでした。なお、昨年12月27日の実務者協議でも、同趣旨の提案をしています。また、本年1月14日の実務者協議では、事実確認に資する証拠の一つとして、探知したレーダー波を音に変換したデータを持参し、その場で韓国側に聴取してもらうことを提案しましたが、韓国側はその提案も拒否しました。

http://www.mod.go.jp/j/press/news/2019/01/21x.html

照射された証拠を日本が握っているのならば、「相互主義」なんかになる訳がありません。まず、日本側が証拠を提示し、その上で韓国側が否定するなら、その根拠を求めるというのが筋です。「解析結果のもととなる探知したレーダー波のデータ」などは12月27日の時点で提示してしかるべきものでしょう。韓国側に要求できるのはせいぜい「同レーダーの使用記録」程度であって、「韓国駆逐艦が装備する火器管制レーダーの詳細な性能の情報」などを要求するのは、断ってくださいと言っているようなものです。

そもそも韓国側が事実STIR-180を照射したのなら、韓国軍としては許可なくSTIR-180を作動した責任者を処罰しなければならないわけです。責任者が事実を否定していて証拠が隠蔽されている場合、軍上層部としてはそれを捜査するためにも、照射を受けたと主張している日本側からの証拠の提供が必要です。その意味でも、日本側が証拠の提示を出し渋っているのは再発防止を本気で考えているのか疑問に思えるところです。

公開した音声に関して

防衛省は「火器管制用レーダー探知音」と「捜索用レーダー探知音」の二つの音声を公表しました*2。
P-1内部でのやり取りを含めた音声かと思ったら、探知音だけの音声データであって、これではただの音声サンプルと言われても否定できないような代物でした。

防衛省は12月25日に「海自P-1が、火器管制レーダー特有の電波を、一定時間継続して複数回照射されたことを確認しております」と報じていますが、18秒の「火器管制用レーダー探知音」がそれなのかどうか、公表した内容からは判断できません。
また「捜索用レーダー探知音」については、「火器管制用レーダー探知音」との違いを比較するためのものとは思いますが、ただのサンプルで今回の事案とは無関係のものなのかどうかその辺もよくわかりません。聞いた感じでは、だいたい20RPMくらいの周期でしたので、MW-08の音ではなさそうだということはわかりますが。

とりあえず公表した音声データに関しては証拠能力としてはほぼ皆無かな、という印象です。

1月14日の協議では「その場で韓国側に聴取してもらうことを提案し」たそうですが、これを聞いてもまあ、韓国側は100%納得しなかったでしょうねぇ。

「P-1に照射されたレーダー波の周波数、強度、受信波形などを慎重かつ綿密に解析した結果」

「韓国駆逐艦のSTIR-180からのレーダー波を一定時間継続して複数回照射されていたことを確認」と防衛省は言っています。

少し疑問なのは、これ解析するのにどのくらいの時間がかかったんでしょうね。

2013年1月30日の中国海軍によるレーダー照射事案の際は、公表は2月5日*3で発生から6日後です。まあ、解析に6日もかかったとは思えませんが、2013年1月19日にヘリコプターに照射されたという事案では「火器管制レーダーの照射が疑われる」程度にしか認識されておらず、即座に判定できるものでもないのかも知れません。
今回は、12月20日の事案を翌日には公表していて拙速な感が否めないのですが、この時点でSTIR-180だと判断できていたのか、それとも21日時点ではまだそこまでわかっていなかったのか、その辺が疑問です。
仮に12月25日時点でなお、確実に判断できる状況でなかったのならば、防衛大臣が記者会見で回答をはぐらかしたことの説明はつくのですけどね。

こんな感じでまだまだ疑問が残るのですが、もう少し情報が出てくるかもしれませんので、その辺を期待したいとところです。