「99年間」に過剰な意味を見出すのはどうかと思う。

この件。

スリランカの港 中国が99年間の運営権

7月30日 5時03分
中国が海洋進出を進めるうえで重要な拠点になると見られるスリランカ南部の港が、99年間にわたって中国に譲渡されることが正式に決まり、中国のインド洋での存在感が一段と高まることになりそうです。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170730/k10011080351000.html

公的インフラの運営が民間にリースされるのは最近の傾向ですし、途上国では経済特区などの形式で外国企業にリースするのもよくあることです。なので、下記のような反応はちょっと単純すぎる気がします。

かつてイギリスに香港を取られた中国が、スリランカに同じことをしてる訳ですね。
Baatarismのコメント 2017/07/30 16:15

http://b.hatena.ne.jp/entry/342649036/comment/Baatarism

ちなみにブコメで言及されてる香港ですが、香港島は1842年の南京条約第3条*1で割譲され、その後の1898年の中英展拓香港界址專條*2で、香港防衛を名目として香港島周辺の“新界”を99年間租借(lease)することになりました。商業目的を名目としているスリランカの港湾運営権のリースと同等視するのもどうかと思います。

それはさておき、「99年間」を殊更取り上げる意見は結構見かけます。例えば、反中メディアの大紀元はこう報じています。

スリランカ、中国「負債トラップ」が露呈 財政難に

2017年07月31日 20時05分
(略)
 特徴的な「99」という数字には、中国語で久久(ジョウジョウ、永久)と同音で、つまり「永久に手にいれる」との意味合いがあるとされる。99年契約は、ほかにも中国嵐橋集団の豪州北部ダーウィン港のリースが知られている。

http://www.epochtimes.jp/2017/07/28087-2.html

「99年間」リースは商取引上の慣行でよく用いられる単位

例えば、オーストラリアのポートボタニーとケンブラ港の管理運営権は民間企業であるNSWポーツ社が、ブリスベン港の管理運営もやはり民間企業であるブリスベン港株式会社が、いずれも99年間のリース契約で獲得しています*3。
こういうのもありますね。

韓経:インド、韓国企業に99年長期リースで工場敷地提供

2016年10月21日11時16分
[ⓒ韓国経済新聞/中央日報日本語版]

http://japanese.joins.com/article/895/221895.html

イギリスのGreat Yarmouth Portも2007年に99年間のリース契約で民営化されています*4。
6割以上の国土を政府所有としているシンガポールでは、住宅建設管理運営を99年リース形式で行っています。

日本はこういう「99年間」リースに縁が無いのかというとそんなことはもちろんなく、例えば、インドのラジャスタン州ニムラナ、ギロット、グジャラート州マンダルといった日本企業専用工業団地では、99年間リースを行っていますし*5、カンボジアでもプノンペン、マンハッタン、タイセンといった経済特区で99年間のリース契約を行っています*6。

カンボジアやスリランカについては、こういう情報があります。

外国企業は土地所有不可で、経済特別区開発会社と土地長期リース契約を締結することとなります。長期賃借期間は開発会社が規定します(20年、50年、70年、99年など)。

http://www.cambodiainvestment.gov.kh/ja/?qa_faqs=%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E-q%EF%BC%92%EF%BC%95%E3%80%80%E5%A4%96%E5%9B%BD%E4%BA%BA%E3%81%8C%E5%9C%9F%E5%9C%B0%E3%82%92%E6%89%80%E6%9C%89%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%AF%E5%87%BA

スリランカでは外国企業への土地譲渡は原則禁止されており、国有地・民有地ともに最長99年間のリース物件としてのみ土地の取得が認められている「2014年土地(譲渡制限)法第34号」。

https://www.jetro.go.jp/world/asia/lk/invest_02.html

法律上、所有権譲渡が制限されているような場合に、99年間のリース契約という形式で事実上の所有権譲渡を行うという商業上の慣行があるようですね。

社会インフラを外国企業にリースした事例としてはこういうのもあります。

3-1  シカゴ・スカイウェイ

 シカゴ市所有のシカゴ・スカイウェイ(表-3)は、シカゴのI-94とI-90(インディアナ有料道路)をインディアナ州との境界で結ぶ約12.5kmの高架有料道路で、カルメット川を渡る約5.6kmの高架橋を含む。1958年に竣工し、シカゴ市道路・衛生部によって運営・維持管理されていた。
 財政難に悩んでいたシカゴ市は2004年3月、長期リース方式による道路運営に関心のある入札予定者に向けてRFQ(Request For Qualifications:資格審査願)を公告した。同5月には5グループを選定し、プロポーザル提出を要請。同年10月に入札が実施され、99年リース、18億3000万ドル(1464億円)を提出したシントラ(スペイン)/マッコーリー(オーストラリア)両社が構成するスカイウェイ・コンセッション会社(略称SCC)が落札した。
 SCCは05年1月にシカゴ・スカイウェイの運営を開始。道路の運営・維持管理費の支払い義務を負う一方、料金の値上げを含めた料金徴収権を獲得して道路を運営している。シカゴ市は一括で受領した多額の代金により、負債を完済したほか、長期および中期の運用資金等に充当した。

http://www.y-nakamura.com/keisaiessay120101.html


「「特徴的な「99」という数字には、中国語で久久(ジョウジョウ、永久)と同音で、つまり「永久に手にいれる」との意味合いがあるとされる」などと中国特有のやり方みたいな誤解を基に、警戒心を煽るというやり方は適切とは思えないですね。


*1:https://en.wikisource.org/wiki/Treaty_of_Nanking 「Article III. It being obviously necessary and desirable that British subjects should have some port whereat they may [maintain] and refit their ships when required, and keep stores for that purpose, His Majesty the Emperor of China cedes to Her Majesty the Queen of Great Britain, &c., the Island of Hong-Kong, to be possessed in perpetuity by Her Britannic Majesty, her heirs and successors, and to be governed by such laws and regulations as Her Majesty the Queen of Great Britain, &c., shall see fit to direct.」

*2:https://zh.wikisource.org/wiki/%E5%B1%95%E6%8B%93%E9%A6%99%E6%B8%AF%E7%95%8C%E5%9D%80%E5%B0%88%E6%A2%9D

*3:http://www.port-of-nagoya.jp/facebook/port_sales/h26_port_sales.pdf、http://www.kokusaikouwan.jp/zaidan/pdf/2014_4.pdf 、http://www.kokusaikouwan.jp/zaidan/pdf/2014_1.pdf

*4:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/ppp_dai4/siryou1.pdf

*5:https://www.jetro.go.jp/ext_images/theme/fdi/industrial-park/developer-material/pdf/201703/in_06.pdf

*6:https://www.jica.go.jp/topics/2011/pdf/20110623_01_05.pdf