坂東太郎氏の雑すぎる認識・中共が抗日戦争における国民党の役割を評価したのは2005年頃?

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中国戦勝式典で話題「抗日戦争」とは? 早稲田塾講師・坂東太郎の時事用語

突如祝い出した抗日戦勝記念

 風向きが変わったのは2005年あたり。当時の胡錦濤国家主席が3日の「抗日戦争勝利60周年記念」で「国民党と共産党が指導する抗日軍隊」が「それぞれ『正面戦場』と『敵後方戦場』の作戦任務を分担した」と大転換したのです。冷戦の終結や中国が国力を増して自信をつけ「中華民国」こと台湾政権は国連からも追い出され、蒋後継の国民党は「台湾独立」を胸に秘す民主進歩党を牽制するのに好都合の存在にすらみえてきたというのが大きな理由です
 とはいえ史実である「国民政府軍主体の戦争だった」というところまでは認めていません。習近平政権に変わった2014年は9月3日を「中国人民抗日戦争勝利記念日」としました。合わせて「世界反ファシズム戦争勝利」との概念も示し始めます。共産党は米英などの連合国軍とともに戦ったという点を強調し、70周年の今年は人民解放軍(中国共産党の軍)が持つ戦車部隊などで天安門広場を横切っていく「記念軍事パレード」まで予定しています。

http://blogos.com/article/131552/

全体的には産経記事のように悪意を感じる記事ではないんですけど、とにかく認識が雑だと言わざるを得ません。もう少し調べましょうよ。
上記引用部分ですが、「毛沢東をリーダーとする中華人民共和国が建国されてから「抗日戦争の主役は共産党だった」と位置づけています」という記述が前段にあり、その流れが変わったのが「2005年あたり」だと言っている点。

実際には遅くとも1995年時点には、中共は抗日戦争における国民党の役割を評価する方向に転じています。

「中国抗日戦争史―中国復興への路」という本がありますが、これの原書は中国抗日戦争史叢書編集委員会による「中国復興枢紐」で、中共中央党校、国防大学、軍事科学院、南京大学、中国社会科学院近代史研究所の研究スタッフなどが執筆・修訂に参加しています。編集作業には中国人民抗日戦争紀念館が行なっており、事実上、これが抗日戦争に関する中国政府の公式見解だと言っていいと思います。これは1995年から執筆され、1997年に出版されています。
で、そこにはこう書かれています。

「中国抗日戦争史―中国復興への路」(P7-8)
 中国の抗日戦争は、中国共産党が提唱した抗日民族統一戦線の旗幟のもと、国共合作を基礎として、各階級、各民族人民が団結して行なった中華民族の解放戦争である。日本帝国主義が発動した全面的な侵略戦争は、中国内部の階級関係を変化させた。抗日戦争は民族戦争であり、また人民戦争でもある。抗日戦争が勃発する以前、国家権力は基本的に蒋介石、国民党およびその各派閥の手中にあった。蒋介石、国民党が参加することによって、全民族の抗戦が可能となったのである。そうでなければ、抗戦は実現することができず、一時的に実現したとしても継続することができなかったのである。抗戦期間中、蒋介石は反共の立場を放棄しなかったが、抗戦も放棄しなかった。全民族戦争という面からみるならば、蒋介石、国民党の抗戦における重要な地位と役割は、客観的、全面的に理解されるべきである。抗日民族解放戦争は、中国の勝利によって終結したが、中国共産党の指導した人民の力の勃興が基本条件の一つとなった。(略)

同書(P23-24)
 抗日戦争が全民族の政治、軍事、経済、文化の総力戦であることは、誰もが知っている。総力戦は一般にすべての民族戦争に共通しており、抗日戦争独自のもの、あるいは基本的特徴というわけではない。抗日戦争の基本的特徴は、一つは民族戦争、もう一つは人民戦争だということである。この基本的特徴を集中的に表現しているのが、戦争の開始から終息まで二つの戦場が併存していたことである。一つは正面戦場、もう一つは敵後方戦場である。正面戦場は蒋介石・国民党の軍隊がおさえ、敵後方戦場は共産党が指導する軍隊がおさえていた。二つの戦場には統一と区別があった。それらはすべて日本の侵略に抵抗する民族戦争であること、これが統一の面であり、人民戦争が敵後方戦場で実現したこと、これが区別の面である。二つの戦場の統一と区別は、この両者の民族矛盾と階級矛盾における統一と区別である。民族矛盾が主導的地位を占めているが、階級矛盾は消滅しておらず、しかもはなはだ強く抗日戦争の前途に関係していた。

坂東氏の言う「抗日戦争勝利60周年記念」の2005年あたりに「大転換」があったのではなく、その10年前の「抗日戦争勝利50周年記念」の1995年には既に「正面戦場は蒋介石・国民党の軍隊がおさえ、敵後方戦場は共産党が指導する軍隊がおさえていた。」という認識が中共で示されていたわけです。
「「抗日戦争の主役は共産党だった」と位置づけています」と言うのは一体いつの話をしているのか、と思わざるを得ず、雑と言う他ありません。

あと、坂東氏は「とはいえ史実である「国民政府軍主体の戦争だった」というところまでは認めていません」と、蒋介石・国民党の認識である「国民政府軍主体の戦争だった」が史実だと主張していますが、これも歪んだ認識と言わざるを得ないのですが、その指摘は別のエントリーで行ないます。