水分が多いものと言えば?
人の約70%は水分だという。水中にすむ魚になると水分は80%。コンニャクでは96〜97%が水分となり、クラゲになると99%以上も水分を含むものがある。
これだけ、水分が多くても一定の形を保っているのは、もちろん、水以外にいろいろなものが含まれているからである。水などの液体や気体に固体の小さな粒が混じったものを分散系という。分散系の中で、液体や気体など流動状のものをゾルといい、これが固まったものをゲルという。コンニャク、豆腐、ゼリー、寒天はゲルの例である。
コンニャクには水以外に「グルコマンナン」が主成分として混ざっている。グルコマンナンはグルコースとマンノースが2:3-1:2の比率で重合した多糖類の一種で、これが架橋して水分を含みながらネットワークをつくり、ゲル化してコンニャクをつくっている。
今回、全体の95%以上が水分なのに、コンニャクの500倍も強く、切ってバラバラにしてもくっつけるだけで元にもどる不思議な新材料を、東京大の相田卓三教授たちのチームが開発した。環境や生体への負荷が少なく、主に手術の材料など医療分野への応用が期待される。
例えば、手術中にも簡単につくれ、傷口をふさぐ材料に使ったり、人工関節の成分として使ったりできる。強度を高めるなどの改良を進めれば、プラスチックなど一部の石油製品を代替する可能性もあるという。廃棄後には、自然界の酵素によって分解するエコな素材だ。
高強度アクアマテリアル
東京大学 大学院工学系研究科の相田 卓三教授らは、高強度で透明なアクアマテリアルの開発に成功した。このアクアマテリアルの、95%以上は水である。2〜5%の層状粘土鉱物(クレイ)と、わずか0.4%に満たない有機高分子化合物と水を混ぜるだけで簡単に得られた。
今までに知られているどの含水材料よりはるかに高い強度を持ち、形状保持性とともに自己修復性も有している。これらの優れた性質は、このアクアマテリアルの分子が非共有結合性の相互作用のみによって形成されている。
このアクアマテリアルの開発成功は、有機高分子化合物として、親水性の高分子の両末端をクレイと親和性の高い陽イオンのデンドロン基で修飾した高分子化合物を利用し、扇状に分子が広がるデンドロン基とクレイの層(クレイナノシート)の表面との相互作用によって、クレイナノシートを高度に均一に分散させた非共有結合性の架橋構造を実現したことによるもの。
また、クレイを極少量のポリアクリル酸塩などのポリアニオンで予め処理すると、強度がさらに6倍にまで向上することも発見。さらにミオグロビンなどの生理活性のあるたんぱく質を、その活性を損なうことなく取り込むことも明らかになった。
近年、環境問題はますますその重要性を増している。地球上の生命の源であり、クリーンな物資の象徴である「水」から構成される本研究のアクアマテリアルは、究極の環境無負荷材料への道を切り開くものである。
なお、このアクアマテリアルを構成する高分子化合物は、人体から容易に排出され生物学的に易分解性であり、また、クレイは天然由来の安全な物質として化粧品などに広く用いられているものを使用している。
本研究成果は、2010年1月21日(米国東部時間)に英国科学雑誌「Nature」のオンライン速報版で公開される。
アクアマテリアルの材料
アクアマテリアルの成分は、水分95%。これ以外にはクレイ2〜5%、Gn-binderと呼ばれる高分子0.4%、ポリアクリル酸ソーダ(ASAP)微量の4つの成分からできている。
クレイは天然に存在するふつうの粘土で、クレイナノシートが層状に積み重なった構造を持っている。ASAPの水溶液とクレイを混合すると積層したクレイナノシートのエッジの正に帯電した部分がアニオン性のASAPに覆われてクレイを構成するクレイナノシートが1枚1枚はがれて、水中に均一に分散するようになる。
この分散液を撹拌しながら親水性のポリエチレングリコール鎖の両末端にグアニジニウムカチオンを有するデンドロン基(枝分かれ構造)で修飾したGn-binderを加えると、グアニジニウムカチオンが多数のオキシアニオンの存在する、クレイナノシートの表面と相互作用して、長いポリエチレングリコール鎖を介してクレイナノシートを結合し、3次元の網目構造を形成した透明なハイドロゲルを生成する。
このハイドロゲルの生成は、Gn-binderを加えてから3分以内という極めて短い時間で完成する。強度の高いハイドロゲルを得るためには、クレイをあらかじめASAPで処理するプロセスが極めて重要で、この操作によりクレイナノシートがきれいに分散して3次元網目構造を形成するために十分な表面積が確保される。ASAPで処理していないクレイを用いてもハイドロゲルは生成するが、得られるゲルの強度は約1/6に過ぎず、また、このようなハイドロゲルにASAPを後添加してもゲルの強度は向上しないことが明らかになった。
奇跡の強度と自己修復性
ハイドロゲルの強度はクレイナノシートの濃度とGn-binderのデンドロン基の世代(分岐回数)に依存し、クレイナノシートの濃度が高いほど、またGn-binderのデンドロン基の世代が高い(分岐回数が多い)ほど強度の高いハイドロゲルが得られる。5%のクレイナノシートとG3-binderを用いて作製したハイドロゲルの剛性は0.5MPaに達し、約95%の水分を含有していながらこれほどの強度を有する超分子ハイドロゲルはいままでに知られていない。
このハイドロゲルに強い力を加えるとゲルの構造が破壊されて擬液体状態となるが、力を取り除くと直ちにハイドロゲルの状態に戻り、剪断力の付加―解除を繰り返しても再現性よく擬液体―ハイドロゲルの転移が繰り返される。このハイドロゲルが優れた自己修復性を有することが明らかとなった。
自己修復性を有するハイドロゲルの最初の例として、コポリペプチドから成るハイドロゲルが知られているが、これらのゲルの強度はたかだか1kPaに過ぎず、また、擬液体状態からハイドロゲルへの回復には約1時間を要するようなものだった。
興味深いことに、今回のこのハイドロゲルのブロックをスライスして得た断片を、スライスした直後に貼り合わせれば容易に新たなブロックが形成される。メチレンブルーで青色に着色したゲルのブロックと無着色のゲルのブロックから切り出した断片を交互に貼り合わせて得たブロックが十分な強度を保っている様子を見ることができる。
またこのハイドロゲルは鋳型の中で作製すれば形状を付与することができるが、こうして作製したハイドロゲルの形状は、ゲル中の水をテトラヒドロフランなどの有機溶媒で置換しても、保たれることが明らかになった。
さらに、このハイドロゲルが生理活性のあるたんぱく質を変性させることなくゲル内に取り込むことを明らかにした。たとえば、ミオグロビンは過酸化水素によるオルソフェニレンジアミンの酸化反応の触媒活性を有することが知られているが、このミオグロビンはハイドロゲルに取り込まれても71%の活性を保持していた。(出典:JST)
参考HP 科学技術振興機構(JST)「高強度・自己修復性のあるアクアマテリアル」
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