陽極線とは何か?

 陽極線は1886年Goldsteinによって発見された。放電管の陰極に細孔<カナル>を開けたのでカナル線とも呼ばれる。陰極から出た電子、いわゆる陰極線が陽極にあたり、原子核をイオン化した際に放出される粒子を陽極線という。

 1912年、J.J.Thomson (原子のトムソンモデル考案者1856-1940)は、これを応用し、質量分析器を考案した。質量分析器の電極間で電圧をかけると、電子が負極から陽極に進むが、この電子と衝突した原子はイオン化し陽電荷を持つ陽イオンになる。

 このため陽イオンは負極に向かい,陰極間の隙間を通過している間、電極によって作られた電場EからeEの力を受けて放物運動、磁石によって作られた磁場Bからローレンツ力を受けて円軌道を描いた後直進し乾板Fに達する。



 連続スペクトルと輝線スペクトル

太陽の光(白色光)をプリズムを通してみると,赤から紫までの連続したスペクトルが得られる。これに対し、高速道路のナトリウムランプのオレンジ色のように、気体原子の発光により得られる光はプリズムを通しても単色で色が変わらない。

 これらの気体原子の発光により得られるスペクトルは連続スペクトルではなく、純粋に近い多くの単色光から成る線状のスペクトルとなるため、輝線スペクトル(線スペクトル)と呼ばれる。

 この発光は、原子の外殻電子が主として関係する状態間の電子遷移にもとづいている。加熱や放電により、より高いエネルギー状態へと励起された原子内の電子が、再度もとの低いエネルギー状態に遷移するときに、先ほど得たエネルギーを光のエネルギーとして放射する。

 これらの状態がもつエネルギーは決まっているので、基底状態と各励起状態の間のエネルギー差は一定の値を取ることになり、放射される光はある特定の波長をもつことになる。そのため一定波長の輝線スペクトルが観測される。

 この輝線スペクトルは、原子に特有な一定波長を示すので、これを元素分析に応用することができる。


 ドップラー効果とシュタルク効果

 ドイツの物理学者ヨハネス・シュタルクは、最初、陰極線の研究を行っていたが、水素を入れた放電管の陽極に電子をぶつけると、水素が陽イオン化。水素陽イオンが輝線スペクトルを発しながら陰極に向かって移動する放電現象が見られた。

 この陽極線のことを、カナル線とも呼ぶ。シュタルクは1905年、この水素カナル線の速度を変化させ、輝線スペクトルを分析した。すると水素カナル線はその速度によって、発光色を微妙に変化することがわかった。これが「水素カナル線におけるドップラー効果の発見」であった。

 1913年、シュタルクは、水素カナル線に電場をかけてみた。するとその影響で原子や分子のエネルギー準位がずれ、それらが出す光のスペクトル線が何本かに分裂する現象を発見した。これが「シュタルク効果」である。

 1919年ノーベル物理学賞受賞する。受賞理由は「カナル線のドップラー効果、および電場中でのスペクトル線の分裂の発見」である。


 シュタルクの栄光と影

 ヨハネス・シュタルクを調べて驚いたことは、彼が反ユダヤ主義者であり、ナチ党員であり、ナチの教育担当者であったことだ。

 彼のすばらしいノーベル物理学賞の栄光とは裏腹に、同じ物理学者であり、ユダヤ人のアインシュタインに対する攻撃は異常という感じがする。シュタルクは相対性理論や量子力学を徹底的に拒否した。同じ科学を愛する者として、残念でならない。

 ヨハネス・シュタルク 1874年4月15日にSchickenhof、バイエルン州の農家に生まれた。 1894年ミュンヘン大学に入学し1899年には助手になるが、後任教授との折りが合わず、ゲッチンゲン大学に移る。そこでは1905年「カナル線におけるドップラー効果」を発見するも、何と人格的理由により、教授に昇進することができなかった。

 1906年ハノファー工科大学に移るが、そこでも大学側とうまくいかない。1907年大学は文部省にシュタルクを解雇するように申し立てている。1909年からはアーヘン工科大学に移り、1917年まで教授を務めている。1913年には「シュタルク効果」を発見し、1919年にはノーベル物理学賞を受賞する。

 ノーベル賞受賞者として、名声を得る一方、このころから反ユダヤ主義に傾倒する。例えば1915年、アインシュタインの相対性理論については「非物理学精神」と批判している。


参考HP Wikipedia「ヨハネス・シュタルク」 「シュタルク効果」「スペクトル」
清水禎文「ヨハネス・シュタルクの人間形成論


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