病原体とは何か?
病原体とは何だろうか? 病原体というと、もちろん細菌やウイルスを思い浮かべる人が多いだろう。しかし、それ以外にも病原体はある。例えばマラリアはマラリア原虫という原生動物が原因だ。
また微生物以外でも、アニキサスのような回虫や線虫など、患者の外観からは見えない体内寄生虫も、病原体と呼ばれる。お刺身を食べて急にお腹が痛くなったという話はよく聞く。アニサキスによる腹痛をアニキサス症という。
病原体は、生物もしくは、ウイルスなどのように生物に近い存在がほとんどである。ところが生物でないものが原因の場合もある。その一つが、異常プリオンタンパク質だ。
異常プリオンプリオンタンパク質は、2005年頃、欧米や日本などで問題になった狂牛病(BSE)の原因とされたタンパク質で、記憶に残っている人も多いだろう。
狂牛病の牛の神経細胞に残るタンパク質で、それを食べると人の脳にも異常プリオンタンパク質が蓄積し人にも伝染した。あの頃は一時牛肉の輸入が中止になり、牛肉が食べられなくなった。
1976年ノーベル生理学・医学賞の授賞理由
1976年のノーベル生理学・医学賞の授賞理由「感染症の起源および伝播の新たな機構に関する発見」 はそのような新しい病原体の発見について贈られた。
1963年、ブランバーグはオーストラリアの先住民の血清からオーストラリア抗原を発見した。 のちにHBS抗原と呼ばれるもので、B型肝炎ウィルスであることが分かった。
このウィルスは血液感染などで感染すると慢性肝炎、さらに肝硬変、肝細胞癌を起こす。彼はのちにHBS抗原、つまりB型肝炎ウィルスの診断法とワクチンも開発した。これらの研究は死につながる疾病の原因の1つを解明し対処法を示したものだ。
ガジュセックの研究はクールー(パプアニューギニアの風土病)だ。クールーに感染すると手足が震え、痴呆症状となり、死に至る。住民の中には死者の脳を食べる儀式を持った部族があり、彼らと生活を共にした ガジュセックは人肉食、とりわけ脳を食べることがクールーの原因と考えた。
クールはクロイツフェルトヤコブ病の1つで、プリオン病(伝達性海綿状脳症)の1種。 同様の疾病にはBSE (牛海綿状脳症)、いわゆる狂牛病がある。
ガジュセックは1966年にクールーをチンパンジーに引き起こすことに成功した。彼はこれを遅発性ウィルスと主張したが、現在では摂取により脳の中に蓄積した異常プリオンタンパク質とする説が有力だ。原因はまだ確定しておらず。治療法もない。潜伏期間は5年から100年とされる。
ガジュセックとブルームバーグの受賞理由は当初「オーストラリア抗原と遅発性ウイルスの研究」とされていたが、前述のようなことから、現在は「感染症の起源及び伝播の新たな機構に関しての発見」と言う理由になっている。
バルーク・サミュエル・ブランバーグ
1976年ノーベル生理学・医学賞受賞者。受賞理由は「感染症の原因と感染拡大についての新しいメカニズムの発見」である。
バルーク・サミュエル・ブランバーグ(Baruch Samuel Blumberg、1925年7月28日 - 2011年4月5日)はアメリカ合衆国の医学者。B型肝炎ウイルスを発見し、後にその診断法とワクチンを開発した。「感染症の原因と感染拡大についての新しいメカニズムの発見」により1976年のノーベル生理学・医学賞を受賞した。
ニューヨーク市出身。1951年にコロンビア大学医科大学院を卒業後、同校附属病院に4年間医師として勤務した。その後、オックスフォード大学ベリオール・カレッジ在籍中に、Ph.D.の研究をオックスフォード糖鎖生物学研究所にて行う。
1964年より、米国フィラデルフィアにあるフォックス・チェイス・癌センターのメンバー、ペンシルベニア大学の教授となった。この2つの研究機関に籍をおきながら、同時に1989年から1994年までは、母校であるオックスフォード大学ベリオール・カレッジのマスター、1999年から2002年までは、アメリカ航空宇宙局宇宙生物学研究所のディレクターを務めた。
2011年、心臓発作を起こして急死。85歳没。
受賞歴
1974年 パサノ賞
1975年 ガードナー国際賞、カール・ラントシュタイナー記念賞
1976年 ノーベル生理学・医学賞
ダニエル・カールトン・ガジュセック
1976年ノーベル生理学・医学賞受賞者。受賞理由は「感染症の起源および伝播の新たな機構に関する発見」である。
ダニエル・カールトン・ガジュセック(Daniel Carleton Gajdusek、1923年9月9日 - 2008年12月12日)は、ニューヨーク州ヨンカーズ出身のアメリカ合衆国の医師で医学研究者。初めて報告されたプリオン病であるクールー病の研究で、バルチ・ブランバーグとともに、1976年度のノーベル生理学・医学賞を受賞した。
彼は後年、児童性的虐待の罪で有罪判決を受け、その名声を大きく損なった。 日本語ではガイジュセクとも表記されるが、英語での発音はガイダシェック(GUY-dah-shek)に近い。
クールー病の研究
彼は、パプアニューギニアの風土病であるクールー病(現地の言葉で「震える」の意味)の研究でノーベル賞を受賞した。この病気は、ニューギニア島南部高地に住むフォレ族の間で1950年代から60年代に広がっていた病気である。ガジュセックは、この病気の流行と、フォレ族のカニバリズムの習慣を結びつけた。そしてこの習慣がなくなると、クールー病は一世代のうちに完全になくなった。
ニューギニア島のフォレ族の地区を担当する医師であるビンセント・ジーガスが、この病気のことを初めてガジュセックに知らせた。ガジュセックは「笑い病」としても知られるこの地特有の神経病について初めて医学的に研究を行った。
彼はフォレ族とともに暮らし、彼らの言葉や文化を学びつつ、クールー病の犠牲者の解剖などを行った。ガジュセックは、この病気は死者の脳を食べるというフォレ族に伝わった儀式によって感染しているという正しい結論を導いた。ガジュセックは、クールー病を伝染させる原因物質は特定できなかったが、後の研究によりプリオンと呼ばれる悪性のタンパク質がクールー病の原因だと判明した。
ガジュセックの父はスロバキアからの移民で、母はハンガリーのデブレツェンの出身だった。ガジュセックは1943年にロチェスター大学を卒業し、1946年にハーバード大学で医学博士号を得た。その後、コロンビア大学、カリフォルニア工科大学、ハーバード大学でポスドク研究を行い、ウイルス学者として徴兵をこなした。
彼は1952年から53年にかけてテヘランのパスツール研究所、1954年にはメルボルンにある医学研究所の客員研究員として働き、彼はここで後のノーベル賞受賞に繋がる研究と出会った。彼は1958年にアメリカ国立衛生研究所のウイルス学・神経学部門の長となり、1974年に全米科学アカデミーの会員に選ばれた。
児童性的虐待
南太平洋に研究に出かけた際、彼はより良い教育を受けさせる目的で、子供たちをアメリカ合衆国に連れて帰り、一緒に住まわせた。こうして連れて来られた男児の一人が成年後、彼を性的虐待で訴えた。
1996年4月、彼は児童性的虐待の罪で起訴された。そして、彼が研究室に残したノートの記述や、被害者の証言およびガジュセック自身の自白に基づき、1997年に有罪判決が言い渡された。
司法取引により自ら有罪を認めた結果、彼には懲役19月の実刑判決が言い渡された。1998年に釈放されると、彼は5年間の保護観察期間をヨーロッパで過ごすことが許可された。
これに先立つ1996年10月、エジンバラ大学の心理学者クリス・ブランドは、ガジュセックへの扱いが反エリート主義的で不当に厳しいとして非難していたが、のちにブランドは大学の名誉を汚した廉で大学から解雇された。
オーストラリア抗原とは?
B型肝炎ウイルスの表層抗原である HBS抗原のこと。1963年、バルーク・ブラムバーグらがオーストラリアの先住民の血清中に新抗原を発見し、この抗原が,何回も輸血を受けている血友病患者の血清中に見られることに気づき、オーストラリア抗原と命名した。
しかし、その後多くの学者の研究により、これが B型肝炎の抗原の一つ(B型肝炎ウイルスには抗原が三つある)であることがわかり、今日ではオーストラリア抗原の名称は用いられない。
HBS抗原は B型肝炎ウイルス感染の最も一般的な指標になり、この抗原の有無を調べると B型肝炎に感染しているかどうかが判明する。なお、急性肝炎の場合は普通、肝炎が治ると HBS抗原は消えてしまうが、免疫力が低下していると,血中に長期間にわたって存在することがある。このような人を HBS抗原キャリアと呼ぶ。
プリオンとは何か?
プリオン(prion)は、タンパク質から成る感染性因子である。一般的用法としてプリオンとは理論上の感染単位を意味する。感染単位とは、バクテリアやウイルスと同じという意味である。
しかし、プリオン自体は問題ではなく、逆に正常プリオン蛋白がないと発育するにつれ運動失調や長期記憶、潜在学習能力の低下が認められる。したがって、正常プリオン蛋白は神経細胞の発育と機能維持に何らかの役割があると考えられている。
”プリオン蛋白質”を省略してPrP(Prion Protein)と表記する場合もある。 哺乳類のプリオンが良く知られているが、菌類や酵母のSup35など他の生物でも数種類のプリオンの存在が知られている。菌類のプリオンは宿主内で疾患につながるとは考えられておらず、むしろタンパク質による一種の遺伝的形質を介して進化の過程で有利に働くのではないかと言われている。
1960年代、放射線生物学者のティクバー・アルパー(英語版)と数学者のジョン・スタンリー・グリフィスは、伝達性海綿状脳症はタンパク質のみから成る感染性因子によって引き起こされるという仮説を提唱した。
この仮説は、スクレイピーやクロイツフェルト=ヤコブ病を引き起こす謎の感染性因子が、核酸を損傷するはずの紫外線放射に耐性を持つことの発見を説明するために提唱されたものだった。
1982年、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のスタンリー・B・プルシナーは、彼のグループが仮説上の存在だった感染性因子の精製に成功し、同因子の主成分が特定のタンパク質一種類であることが判明したと公表した(但し、このタンパク質の単離に満足の行く成功を収めたのは、この公表の2年後である)彼はこの功績で1997年にノーベル生理学・医学賞を単独で受賞した。
プリオン病のしくみ
現在までに知られている全てのプリオン病(伝達性海綿状脳症)は、治療法が発見されておらず致死性である。現時点でこの性質を有する既知因子は、いずれもタンパク質の誤って折りたたまれた(ミスフォールドした)状態を伝達することにより増殖する。
ただし、タンパク質そのものが自己複製することはなく、この過程は宿主生物内のポリペプチドの存在に依存している。プリオンタンパク質のミスフォールド型は、ウシのウシ海綿状脳症(BSE、狂牛病)や、ヒトのクロイツフェルト=ヤコブ病(CJD)といった種々の哺乳類に見られる多くの疾患に関与することが判っている。
プリオンは仮説によれば、異常にリフォールドしたタンパク質の構造が、正常型構造を有するタンパク質分子を自身と同じ異常型構造に変換する能力を持つことで伝播、感染するとされる。
プリオン病の症状は、異常プリオンが、中枢神経系で細胞外凝集することで正常組織を破壊するアミロイド斑を形成し、神経変性疾患を引き起こす。この組織破壊はスポンジ状の「穴」が現れるのが特徴であるが、これは神経細胞中で起こる空胞形成によるものである。
その他では、星膠症や炎症反応欠如といった組織学的変化が現れる。プリオン病の潜伏期間は一般的に非常に長く、一度症状が現れると疾患は急速に進行し、脳傷害や死へつながる。神経変性に関連する症候としては、不随意運動、認知症、運動失調、行動変化、人格変化などが現れる。
参考 Wikipedia: バルーク・サミュエル・ブランバーグ ダニエル・カールトン・ガジュセック
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