イプシロン2号機 打ち上げ成功

 日本の新しい小型ロケット、「イプシロン」の2号機が地球周辺の放射線を調べる探査衛星を載せて、12月20日午後8時に鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられ、午後8時13分ごろ、予定どおり衛星を切り離して打ち上げは成功した。

 日本の小型ロケット「イプシロン」の2号機は、20日午後8時、1段目の燃料に点火し、発射台を離れました。ロケットは衛星を覆っている「フェアリング」や、1段目、2段目を次々に切り離しながら上昇を続け、打ち上げからおよそ13分半後の午後8時13分ごろ、高度500キロ付近で衛星を切り離し、打ち上げは成功した。

 今回が2回目の打ち上げとなる「イプシロン」は、重さが数百キロクラスの小型の人工衛星を低価格で打ち上げるために、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が、IHIエアロスペースとともに開発した新しい小型ロケットで、3年前に1号機の打ち上げに成功している。



 今回は2段目のエンジンを強化し打ち上げ能力を30%高めて打ち上げの費用をおよそ50億円と、以前の小型ロケットの3分の2に抑えている。

 森田泰弘・イプシロンロケットプロジェクトマネージャは「2号機は、第2段を新規開発した強化型イプシロンが初めて使われたわけだが、その第2段については、全く問題がなかった。初号機と違い、2号機には投入精度を高める液体推進系「PBS」は搭載されていないものの、軌道は”ど真ん中”だった」という。

 今後、イプシロンは、3号機でオプション形態(PBS搭載)を実証し、4号機で相乗り衛星への対応を進める予定。そして2020年にH3ロケットが完成するころには、第1段を新しくしたシナジーイプシロンが登場する計画。しばらくは開発が続くこともあって、弾みを付ける意味でも、2号機の成功は欠かせなかったという。

 森田プロマネは今回の打ち上げについて、「イプシロンがさらに発展していくための大事な一歩だった。それを綺麗に決められてホッとしている」と安堵の表情を見せ「強化型イプシロンは小型衛星のニーズにバッチリ応えられる。小型衛星の世界をリードして、内之浦から小型衛星をバンバン打ち上げていきたい」と期待を述べた。

 その実現のためには、日本の官需衛星だけでなく、世界の商業衛星のニーズも取り込む必要がある。国際競争に勝つのに、重要な要素は性能とコストだが、森田プロマネは「当面はシナジーイプシロンの開発までをしっかりやった上で、その先の計画として、どのくらいの性能向上とコストダウンを計るか考えたい」とコメントした。


 ジオスペース探査衛星「あらせ」

 今回の2号機には、地球周辺の放射線について詳しく調べる「ジオスペース探査衛星」が搭載されていて、人工衛星の故障の原因ともなる放射線量の変動のメカニズムの解明を目指すことになっている。

 衛星の愛称は「あらせ」(ARASE)と発表された。

 「あらせ」という愛称は、以下の2つに由来するという。ひとつは、水が激しく波立ちながら流れている川のことを表す「荒瀬」という言葉。ERGが観測に挑むヴァン・アレン帯は、荒々しい高エネルギー粒子に満ちている。まさに宇宙の荒瀬と言え、そこに飛び込んでいく衛星には相応しい愛称だろう。

 もうひとつは、地元・鹿児島県肝付町に流れる「荒瀬川」だ。この川には、鳥の美しい歌声に関わる伝説があるという。ERGが観測するジオスペースの電波「コーラス」は、周波数が数kHzの可聴帯の電磁波であり、音声に変換すると小鳥のさえずりのように聞こえることで知られる。これにちなんだ。

 クリティカルフェーズでは、前半の運用で近地点高度を300kmまで上げ、後半はワイヤーアンテナや伸展マストなどの展開を行う。その後の初期運用では、8つのセンサーを1つひとつ立ち上げ、観測できる状態に持って行く。この3カ月が終わると、いよいよ定常運用フェーズが始まる。ミッション期間は1年間。

 三好由純・ERGプロジェクトサイエンティストは、「ヴァン・アレン帯は知名度はあるものの、なぜエネルギーが高い電子がそこにあるのか、なぜそれが増減するのか、まだ良くわかっていない。ヴァン・アレン帯の研究はいま世界で注目されており、NASAも専用衛星を上げている。ERGの観測装置で、決定的な証拠を掴みたい」と意気込んだ。

 高エネルギー電子の供給源として、古くから言われている「外部供給」説と、比較的最近提唱され始めた「内部加速」説という2つの仮説がある。「あらせ」は後者の可能性にフォーカスしているとのことで、そのために新しい観測装置を開発して搭載したそうだ。「あらせ」の成果でこの論争に決着がつくか、期待したい。


 バン・アレン帯とは何か?

 バン・アレン帯とは、エネルギーの高い粒子が地球をドーナツ状にとりまいている領域をいう。

 地球はその中心に磁石をおいたような磁界をもっており、この磁界のおよぶ範囲を磁気圏とよぶ。地球の磁気圏は、宇宙空間にどこまでも広がっているわけではなく、太陽からふきだす太陽風とよばれるプラズマ(電気をおびた粒子)の流れの圧力をうけて、昼側では圧縮され、夜側では長くふき流された形になっている。

 1958年に打ちあげられたアメリカ合衆国最初の人工衛星エクスプローラー1号は、この磁気圏内に地表の自然放射線の1億倍以上も強い放射線帯があり、地球をとりまいていることを観測した。発見者バン・アレンにちなんでこの放射線帯をバン・アレン帯という。

 放射線帯を形成する粒子は、おもに高いエネルギーの陽子と電子で、そのエネルギーや密度のちがいから内帯と外帯に分けられる。内帯は地上3000〜4000kmを中心に広がる領域で、おもに高いエネルギーの陽子と電子からなる。

 外帯は地上約2万km付近を中心に広がる領域で、おもに高いエネルギーの電子からなる。これらの粒子は電気をおびているので、地球の磁界の磁力線にとらえられ、らせん運動をしながら高速で南北両半球の間を往復している。一方、電子は地球のまわりを東回りに、陽子は西回りに移動(いどう)している。このため地球をドーナツ状にとりまく放射線帯ができる。

 太陽風や宇宙線からの粒子が地球の磁場に捕らわれて形成されると考えられている。電子は太陽が起源、陽子は宇宙線が起源とされている。地磁気の磁力線沿いに南北に運動しており、北極や南極では磁力線の出入り口であるため粒子も大気中に入ってきて、これが大気と相互作用を引き起こすことによってオーロラが発生する。オーロラはヴァン・アレン帯の粒子が原因であるため太陽活動が盛んなときは極地方以外でも観測されることがある。地球以外にも磁場を持つ惑星である木星、土星で存在が確認されている。

 過去には、宇宙船でヴァン・アレン帯を通過すると人体に悪影響があり、危険だとされていたが、今では通過時間がわずかであり、宇宙船、宇宙服による遮蔽や防護が可能なことから、ほとんど問題はないと言われている。


 イプシロンロケットとは何か?

 イプシロンロケット(Epsilon Launch Vehicle)は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)とIHIエアロスペースが開発した小型人工衛星打ち上げ用固体燃料ロケットで使い捨て型のローンチ・ヴィークル。

 イプシロンロケットは、2006年(平成18年)度に廃止されたM-Vロケットの後継機として2010年(平成22年)から本格的に開発が始まり、2013年(平成25年)に試験1号機が打ち上げられた固体ロケットである。M-VロケットとH-IIAロケットの構成要素を流用しながら、全体設計に新しい技術と革新的な打ち上げシステムを採用することで、簡素で安価で即応性が高くコストパフォーマンスに優れたロケットを実現することを目的に開発されている。

 M-Vロケットの約3分の2の打ち上げ能力と約3分の1の打ち上げ費用(30億円以下)を実現することが具体的な開発目標であり、2012年(平成24年)時点では、4号機以降の定常運用段階で38億円、将来的に30億円以下での打ち上げを目指すとされた。プロジェクトマネージャ(PM)はM-VロケットのPMを務めた森田泰弘である。

 イプシロンロケットの開発は多段階で行われ、2013年(平成25年)に打ち上げられた試験機の太陽同期軌道打ち上げ能力は450kg、2016年(平成28年)度に打ち上げられた強化型イプシロンロケットとなる2号機からは同打ち上げ能力は590kg以上となる。将来はさらに高度化開発が進められる予定であり、H3ロケットと技術を共有するシナジーイプシロン、より低コストのE-Iの構想がある。

 試験機の標準型の機体は3段から構成される。第1段にはH-IIAロケット等に使用されているSRB-Aを改良したものを、第2段と3段にはM-Vロケットの第3段とキックステージを改良したものを流用する(試験機の構成と諸元を参照)。強化型では第2段を新規開発し、第3段を中心に試験機の改良型を使用する(強化型の構成と諸元を参照)。

 イプシロン (Ε) の名前は、ラムダ (Λ) ロケット・ミュー (Μ) ロケットなど日本で開発されてきた固体ロケット技術を受け継ぐ意味を込めギリシア文字が用いられた。公式には「Evolution & Excellence(技術の革新・発展)」「Exploration(宇宙の開拓)」「Education(技術者の育成)」に由来する。

 また試験1号機の打ち上げ後の記者会見で、「ε(イプシロン)」が数学で小さい数字を表し、イプシロンロケットが、ミュー (M) ロケットを受け継ぎながら、全く別次元に変身したロケットなため「m(ミュー)」を横倒しにした「ε(イプシロン)」と命名されたことが明らかにされている。正式な名称のない頃から、一部報道で名称は「イプシロン(エプシロン)ロケット」が有力候補とされていた。また、ISASのOBなどが参加するトークライブなどでは、「いいロケット」の駄洒落で「Eロケット」→「イプシロンロケット」になったと言う話が公式決定前からアナウンスされていた。


参考 サイエンスポータル: イプシロン2号機を打ち上げ放射線探査衛星を搭載


新型固体ロケット「イプシロン」の挑戦
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