嗅覚に関する新しいタンパク質
嗅覚とは、いわゆる「におい」や「香り」の感覚である。嗅覚は、特定の化学物質の分子を受容体で受け取ることで生ずる感覚の1つであり、五感の1つに数えられている。化学的物質を受け取る受容体を持つ細胞が嗅細胞である。
嗅細胞は人間には約500万個、イヌでは2億個、ハト600万個、ウシガエルで約800万個、イモリで80万個の嗅細胞があるといわれている。鼻の良いイヌの嗅細胞が実に多いことがわかる。何と人の40倍も嗅細胞がある。
今回、理化学研究所は、こうした嗅覚を鋭敏に働かせているタンパク質をマウスの嗅細胞で発見した。生物における匂いの情報伝達や嗅覚障害の分子メカニズムを解明する手掛かりになるという。
理化学研究所はこのタンパク質を「グーフィー(Goofy)」と名付けた。グーフィー遺伝子に緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子をつないだ遺伝子改変マウスを作製したところ、GFP蛍光はマウスの鼻の嗅細胞と鋤鼻感覚細胞だけで明るく観察され、他の組織や臓器では全く確認できまなかった。この結果から、グーフィーは嗅覚機能における何らかのユニークな役割を果たすことが示唆された。
以下はサイエンスポータル記事「嗅覚を鋭敏化するグーフィータンパク質」から引用する。
嗅覚を鋭敏化する“グーフィー”蛋白質
五感のうちでも嗅覚は、多くの生物にとって、食べ物探しや危険の察知、繁殖行動の誘発などの生命活動にとくに重要な役割を果たしている。理化学研究所は、こうした嗅覚を鋭敏に働かせているタンパク質をマウスの嗅細胞で発見した。生物における匂いの情報伝達や嗅覚障害の分子メカニズムを解明する手掛かりになるという。
理化学研究所・脳科学総合研究センターのシナプス分子機構研究チーム(吉原良浩チームリーダー、後藤智美テクニカルスタッフら)は、マウスの鼻腔奥の嗅上皮にある匂いの感知に関わる組織を調べ、そこで働く12種類の新しい遺伝子を発見した。そのうちの1つの遺伝子が作るタンパク質が、匂いを感受する嗅細胞とフェロモンを感受する鋤鼻(じょび)感覚細胞で強く発現していた。さらに、このタンパク質は嗅細胞の中でも、膜たんぱく質や分泌タンパク質などの物質輸送に関わる小器官「ゴルジ体」に局在していることから、このタンパク質をゴルジ体(Golgi body)にちなんで「グーフィー(Goofy)」と名付けた。
このグーフィー・タンパク質を作る「グーフィー遺伝子」に、緑色の蛍光を放つタンパク質遺伝子をつないだ遺伝子改変のマウスを作り調べたところ、蛍光はマウスの鼻の嗅細胞と鋤鼻感覚細胞だけで観察され、体の他の組織や臓器では全く確認できなかった。
グーフィー遺伝子を欠損させたマウスでは、鼻腔表面に広がる繊毛(せんもう)が通常より短くなり、匂いの情報を電気信号に変える過程で働く酵素が異常な場所に存在していた。また、天敵であるキツネのふん由来の匂い分子「TMT」を嗅がせたところ、高濃度のTMTに対しては正常マウスと同様にすくんだり、避けたりしたが、低濃度のTMTには、こうした忌避(きひ)行動は見られず、反応が鈍くなったという。
研究は、文部科学省科学研究費補助金・特定領域研究「細胞感覚」、およびJST戦略的創造研究推進事業・ERATO型研究「東原化学感覚シグナルプロジェクト」の一環として行われた。研究論文“Goofy Coordinates the Acuity of Olfactory Signaling”は米国の科学雑誌「The Journal of Neuroscience」オンライン版に7日付で掲載された。(サイエンスポータル August 22, 2013)
これまで嗅覚のはたらきは、どんなことがわかっていたのだろうか?
これまでにわかった嗅覚のしくみ
匂いの成分である多種多様な化学物質(匂い分子)は、鼻腔内の嗅上皮に存在する嗅細胞で受容される。
嗅細胞は鼻腔表面に嗅繊毛を広げており、この嗅繊毛には嗅覚受容体をはじめ、GTP結合タンパク質(Golf)、アデニル酸シクラーゼⅢ(cAMP合成酵素)、cAMP依存的陽イオンチャネルなどの嗅細胞特有の細胞内情報伝達分子群が集積している。
嗅覚受容体に結合した匂い分子の情報は、これらシグナル伝達分子群の連続的な働きによって、効率的に電気信号へと変換され、神経の興奮をもたらす。
そしてその情報は脳の嗅球へ、さらには高次嗅覚中枢(梨状皮質、扁桃体など)へと送られ、匂いの認識、識別、記憶、情動の変化、誘引あるいは忌避行動などが誘起される。
1991年に米国コロンビア大学のリンダ・バック博士とリチャード・アクセル博士が嗅覚受容体遺伝子群を発見(2004年ノーベル医学生理学賞受賞)して以来、約20年間に嗅覚研究は飛躍的な進展を遂げ、匂いの受容機構と鼻から脳への神経配線様式については多くの部分が解明されてきた。
しかし、匂いの知覚における鋭敏さを生み出す分子メカニズムについては何も分かっていませんでした。今回、研究チームは、匂いの受容機構の要となる嗅細胞に存在するタンパク質を全体的に調べることで、嗅覚機能を司る重要分子を発見することができた。(理化学研究所:嗅覚の鋭敏さを生み出す新タンパク質“グーフィー”)
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