エイリアンのモデル生物は?
 映画「エイリアン」のモデルは何だろう? それは「寄生バチ」である。「エイリアン」はどんな映画だったか?

 物語は今から数百年後の宇宙空間で始まる…。宇宙貨物船ノストロモ号は、他恒星系から地球へ帰還する途中、未知の異星文明の物と思われる電波信号を受信した。人類初となる異星人との遭遇のために小惑星に降り立った乗組員たちは、宇宙船と化石化した宇宙人(スペース・ジョッキー)を発見、調査を進めるうちに巨大な卵のような物体が無数に乱立する空間へ辿り着く。航海士のケインがこの物体に近づくと、中から蜘蛛に似た生物が飛び出して彼のヘルメットのゴーグルを突き破り顔に張り付いた。急いでノストロモ号へ帰還する一行。電波信号は解析の結果、宇宙人が発した何らかの警告であることが判明した。

 ケインの顔面に張り付いた生物は、力づくや外科措置では引き剥がせなかったが、やがてはがれ落ちて死んだ。その後のケインに異常は見られず回復したかに思われたが、乗組員たちとの食事中に突然苦しみ出した彼の胸部を食い破って奇怪な寄生生物が出現、逃走する。ケインは体内にエイリアンの幼体を産み付けられていたのである…。 (Wikipedia)

 ここに登場するエイリアンは、人の体に寄生して成長する。いったいどこからこんな恐ろしいアイデアをもってきたのだろう?…と思ったら、寄生バチがモデルであった。寄生バチは他の昆虫や植物などに卵を産み付ける。卵はやがてかえって、生きている宿主を食べながら成長するのだ。

 映画エイリアンでは、何ともグロテスクな気味の悪い、寄生生物でが登場するが、寄生バチの方は意外なほどに美しい。細長くスマートな姿をしている。色もカラフルなものが多い。長い産卵管を持つのも特徴だ。


Parasitica

 テントウムシをゾンビ化
 しかし、小さくてかわいい昆虫でも、することはエイリアンそのもの。“えげつない”。ある寄生バチは、テントウムシをゾンビ化する。

 最近発表された研究によると、その寄生バチはテントウムシに卵を産み付け、宿主をゾンビのように操る。写真は、ナナホシテントウに卵を1つ産み付けようと構える寄生バチの1種、テントウハラボソコマユバチ(学名:Dinocampus coccinellae)。テントウムシは、ハチの毒によって既に麻痺状態にある。

 テントウハラボソコマユバチの幼虫は、卵から孵化して数日成長した後に、テントウムシの腹を食い破り小さな穴を開けて外に出る。幼虫はテントウムシの脚の間に繭を作るが、幼虫が成虫に変わるまでの間、テントウムシの体は繭の上に被さったままになる。

 幼虫が這い出た後もテントウムシが生きている場合がある。研究の共著者でモントリオール大学の生物学者ジャック・ブロデュー(Jacques Brodeur)氏によると、テントウハラボソコマユバチの幼虫は、攻撃に弱い繭を捕食者から守るためにテントウムシを“洗脳”するという。「この寄生バチは、宿主の行動を支配する。私たちはこれをボディーガード操作と名付けた」。

 この研究は「Biology Letters」誌オンライン版で6月22日に公開されている。(National Geographic News August 3, 2011)


 寄生バチが放つ生物兵器
 コマユバチは、イモムシの体内に卵を産みつける。孵化した幼虫はイモムシを内側から食べていく。イモムシの免疫系は、なぜ手をこまねいているのだろう? 実は,寄生バチは卵だけでなく,イモムシを免疫不全にするウイルスも一緒に注入しているのだ。

 しかも、そのウイルスの遺伝子は寄生バチの染色体上にあり、親バチから次の世代へ文字どおり遺伝して受け継がれていく。ウイルスは雌バチの卵巣でのみ増殖し、イモムシの体内に入ると、ちょうどエイズウイルスと同じようにイモムシの免疫細胞を標的にする。

 ここで、著者はひとつ問題提起する。これほど親密なウイルスと寄生バチを、別々の存在と考えることができるのだろうか? ウイルスはもともとは単独の存在で、その遺伝子が寄生バチの染色体に取り込まれたのだろうか? それとも、もしかすると、寄生バチは、イモムシの免疫細胞を効果的に抑制するためのパッケージとして、手持ちの遺伝子を組み合わせてウイルスに仕立てたのだろうか? 後者を支持する例が実際にある。

 寄生バチの幼虫が十分大きくなる前にイモムシが死ねば、寄生バチの幼虫も確実に死ぬ。しかも、イモムシが成虫になる前に、ハチは体内から出なければならない。この絶妙なタイミング! ここで著者はもうひとつ,問題提起をする。よく「進化した寄生者は寄主を殺さない」といわれる。この経験論的な説に、イモムシと寄生バチの関係は、まったくあてはまらないのである。

 著者、Nancy E. Beckageは、カリフォルニア大学リバーサイド校で1990年から教鞭をとり、現在昆虫学の助教授である。彼女は、寄生者や病原体が寄主の発育を阻害するために採る戦略や寄主と寄生者の間の共進化的な関係に関心をもっている。以前、ベッケージはウィスコンシン大学およびハシアトル生物医学研究所にある合衆国農務省貯穀害虫研究局に勤めていたことがある。彼女は、1980年にシアトルにあるワシントン大学で博士号を取得した。(日経サイエンス 1998年2月号)


 寄生バチの世界
 寄生バチはハチ目のうち、生活史の中で、寄生生活する時期を持つものの総称である。分類学的には、ハチ目ハチ亜目寄生蜂下目 Parasitica に属する種がほとんどであるが、ヤドリキバチ上科、セイボウ上科など、別の分類群にも寄生性の種がいる。

 寄生バチはハチの中のいくつかの群に当たる範疇で、分類群としては、コバチ、コマユバチ、ヒメバチなどがある。幼虫が寄生生活を行うハチを指す言葉で、植物に寄生するものと、動物に寄生するものがある。

 植物に寄生するものでは、卵は植物の組織内部に産まれ、幼虫はその中で成長する。植物のその部分は往々にして膨れて虫こぶを形成する。

 動物に寄生するものは、一匹のメスが宿主に卵を産みつける。卵から孵った幼虫は、宿主の体を食べて成長する。その過程では宿主を殺すことはないが、ハチの幼虫が成長しきった段階では、宿主を殺してしまう、いわゆる捕食寄生者である。

 外部寄生のものは宿主の体表に卵が産み付けられ、幼虫はその体表で生活する。内部寄生のものも多く、その場合、幼虫が成熟すると宿主の体表に出てくるものと、内部で蛹になるものがある。

 宿主になるのは昆虫とクモ類で、昆虫では幼虫に寄生するものが多いが、卵に寄生するものもある。寄生の対象となる種は極めて多く、昆虫類ではノミやシミなど体積の問題がある種を除いて寄生を受けない種はないといわれ、すでに寄生中のヤドリバチやヤドリバエの中にすら二重三重に寄生する。ただし、一部の種には後から寄生してきたハチを幼虫が食い殺す例もあることが発見されている。


 寄生バチが狩りバチに進化
 動物に寄生する寄生バチは、いわゆる狩りバチと幼虫が昆虫などを生きながら食べ尽くす点ではよく似ている。相違点は、典型的な狩りバチでは雌親が獲物を麻酔し、それを自分が作った巣に確保する点である。その点、寄生バチは獲物(宿主)を麻酔せず、またそれを運んで巣穴に隠すこともない。しかし中間的なもの(エメラルドゴキブリバチなど)が存在し、おそらく寄生バチから狩りバチが進化したと考えられている。

 コバチ科、ツチバチ科は、主にコガネムシ上科の幼虫に寄生する。交尾を済ませたメスは土や朽ち木にもぐりこんで、コガネムシの幼虫を見つけて産卵する。卵から孵った幼虫はコガネムシの幼虫を食べて育つ。成虫になると土や朽ち木から出てくる。熱帯雨林には、大型カブトムシの幼虫に寄生するものも分布している。

 コマユバチ科は、主にチョウ目の幼虫に寄生する(ウマノオバチはシロスジカミキリやクワガタムシ、キバチの幼虫)。交尾を済ませたメスは、宿主の幼虫に大量に卵を産み付ける(ウマノオバチは一つのみ)。卵から孵った幼虫は宿主の幼虫を食べて育つ。大きく育つと宿主の幼虫の死骸から出て繭を作り、蛹になる。代表的な種に、アオムシサムライコマユバチやウマノオバチがいる。

 ヒメバチ科は、主にチョウ目の幼虫に寄生する。交尾を済ませたメスは、宿主の幼虫に卵を産み付ける。卵から孵ると、宿主の幼虫が死なない程度に宿主の体を食べて育つ。宿主が蛹になると、蛹の中身をすべて食べた後、蛹になる。やがて羽化した後、空になった蛹の殻に穴を開けて出てくる。(Wikipedia)


参考HP Wikipedia:寄生バチ National Geographic news:寄生バチ、テントウムシをゾンビ化 日経サイエンス:寄生バチが放つ生物兵器


パラサイト・レックス―生命進化のカギは寄生生物が握っていた
クリエーター情報なし
光文社
nature [Japan] March 15, 2012 Vol. 483 No. 7389 (単号)
クリエーター情報なし
ネイチャー・ジャパン

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