インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

メタクソ化

「メタクソ化(enshittification)」という言葉を知りました。AmazonやFacebook、TikTokなど、ネットで隆興したプラットフォームが巨大化するにつれて、どんどんその仕組みが改悪されることでユーザーにとっての品質が下がっていくという、不可避とも言えるような傾向のことだそうです。ちょっとお下品な表現ではありますが、うまい日本語訳だと思います。にしてもブルシット・ジョブにせよメタクソ化にせよ、あちらの方々はshitがお好きですね。

p2ptk.org

この文章は主にTikTokの「メタクソ化」について語っているのですが、メタクソ化という言葉が内包している概念全体についても、とても分かりやすく書かれています。私はもう降りてしまいましたが、FacebookとかTwitter(X)など、この十年あまりで本当にメタクソ化が亢進したように思います。この記事ではAmazonで売られている電子書籍やオーディオブックについてもこう語られています。

それを購入するということは、DRMによってAmazonのプラットフォームに永久にロックインされることを意味した。つまり、Amazonで1ドルのメディアを購入すれば、Amazonとそのアプリから離脱する際にその1ドルを失うことになるのだ。

そうなんですよね。私は電子書籍がとても苦手で、それは本の厚みや手触りなどがないために読書体験がどうしても記憶に残らないからなのですが、こうやってAmazonに囲い込まれてしまうことにもどこか抵抗感があるからなんだろうなと改めて思いました。友人や家族とも共有しにくいし、古本屋さんに売って世の中にふたたび還流させることもできませんし。


https://www.irasutoya.com/2018/09/blog-post_11.html

仕事がらこういう新しい言葉に出会うたび、これは中国語では何というのかしらとネットを検索する習いになっています。定着した言葉ではないようですが、中国語では少し上品に“垃圾化(ゴミ化)”となっていました。FT中文网の訳注が興味深かったです。より正確には「大便化」とでも訳すべきだけれども、ほんの少し上品に「ゴミ化」と訳すことにしたと。

Last year, I coined the term “enshittification” to describe the way that platforms decay. That obscene little word did big numbers; it really hit the zeitgeist.
去年,我创造了“垃圾化”(enshittification)一词来描述平台衰落的方式。这个粗俗的小词引起了很大的反响,成为了时代的潮流。(enshittification更贴切的翻译应该是大便化,不过为了和此前的惯例保持一致,我们还是翻译为略微文雅的“垃圾化”吧。)
‘Enshittification’ is coming for absolutely everything | 一切都将“垃圾化”?我们如何阻止它? - FT中文网

ネットを検索していたら、メタクソの「メタ」は「メタバース」とか「メタ言語」などの「メタ」と勘違いされるからあまり適切ではないのではないかという意見もありました。なるほど、現代ではそう捉える向きのほうが一般的かもしれません。「メタ・クソ化」つまり「超クソ化」となって、単に「クソ化」を拡大させただけみたいに聞こえちゃうじゃないかと(重ね重ね尾籠な表現ですみません)。

でも、かつて大阪で少年時代を過ごした私にはピッタリの訳語だと思えました。メタクソは要するに「メチャクチャ」をもう少し下品にした、関西ではかなり昔からある表現(もちろん「メタ」が人口に膾炙するはるか以前から)なんですもん。あと、私たちぐらいの年代だと、かつて『少年ジャンプ』で連載されていた、とりいかずよし氏の『トイレット博士』の「メタクソ団」が懐かしいかもしれません。小学生の頃の私は「メタクソバッヂ」を自作するくらいハマっていたんですよね。

そういう背景もあって私は「メタクソ化」がうまい訳だなと思ったわけです。ある新語の翻訳が適切かどうかの判断は受け手の年代などによっても左右されるということですね。「メタクソ化」と訳された方は、私と同じくらいの年代の方で、いっぽう「メタ」に引っかかった方は比較的お若いのかもしれません。こうなると、中国語で「ゴミ化」とやや上品に訳された方にはどういう背景があったのかなと(訳注では「以前からの慣例と一致させるために」と理由が書かれていますが)興味がわきます。