インタプリタかなくぎ流

いつか役に立つことがあるかもしれません。

2024-01-01から1年間の記事一覧

内田百閒に共感する

読書をしていて楽しいことのひとつは、作者の言葉に共感するあまり「ああ、ここに私と同じ感覚の人がいる」、あるいは「ああ、これは私に向けて書かれているに違いない」と思える瞬間があることです。よくよく考えてみればこれは不遜きわまりない態度ですし…

世界は経営でできている

読み手を選ぶ一冊だと思います。私は無事に読了できましたが、独特の文体(筆者の岩尾俊兵氏ご自身は「昭和軽薄体」の向こうを張って「令和冷笑体」と命名されています)ゆえに読み進めるのがツラいと感じる方もいるでしょう。この本は「経営」をキーワード…

ヴォイニッチ写本

ヴォイニッチ写本といえば、1912年にイタリアで発見された不思議な古文書として有名です。この写本が有名なのは、その奇妙な彩色画とともに謎の文字が全編を埋め尽くしているからで、この文字は未だ解読されていません。100年以上にわたって世界中の研究者が…

プロット・アゲンスト・アメリカ

書評家の豊崎由美氏が新聞のコラムでつよくつよくお勧めされていたのに促されて読みました。フィリップ・ロスの『プロット・アゲンスト・アメリカ』。1940年、戦時を理由にそれまでの慣例を排して三選目の大統領選に立候補したフランクリン・D・ルーズベルト…

Duolingoの趣味が悪いww

語学学習アプリのDuolingoを使っていると、ときおりアプリの仕様が急に変わって驚くことがあります。最近気づいたのは、一回ごとのレッスンが終わったあとに表示されるアニメーションの中に、いささか「キモかわいい」ものがまじるようになったことです。こ…

三重請求

夏にイングランド南西部をレンタカーで旅した際、デヴォン州タヴィストックで交通違反をやらかしてしまいました。路上のパーキングスペースに車を停めて観光していたら、駐車時間が制限を超えてしまったのです。このパーキングスペースは「月曜日から土曜日…

少女時代とキム・ミンギ

先日、韓国の国会で尹錫悦大統領に対する弾劾訴追案が可決された際、国会の外に集まっていた人々が少女時代の『Into The New World(また巡り逢えた世界/また出会った世界)』を歌っていました。www.youtube.comこの件に関しては、韓国『中央日報』のウェブ…

誤訳としての大英帝国

吉田健一氏の『英国に就いて』を読んでいたら、こんな記述がありました。 英国の歴史の上で十九世紀、ことにその後半に当るヴィクトリア時代は対外的にも、また国内でも最も大きな発展があった時代であって、日本では何かの誤訳で大英帝国と呼ばれている、英…

無意味なものと不気味なもの

小学生のころ、大阪府は枚方市にある団地に住んでいました。ひらかたパークがまだ「ひらパー」という略称で呼ばれていなかったくらい昔のことです。ある日のこと、二階にあった部屋の窓から外を眺めていたら、とつぜんお向かいの棟の上に灰色のような焦げ茶…

「立たせない」と「立たさない」

ベビーカーの取扱説明書に「幼児、子供を座面上に立たせないでください」という一文がありました。一方こちらは食卓で使う子ども用チェアの取扱説明書。「お子様を天板以外の場所に立たさないでください」と書いてあります。「立たせないで」と「立たさない…

舌の上の階級闘争

世界三大料理といえば、フランス料理・中華料理・トルコ料理なんだそうです(根拠は薄そうですが)。かつて私は外国人留学生が取り組む日本語のお芝居で、その他の料理たちがこの「世界三大料理」入りを目指すバトルを繰り広げるというプロットの脚本を書い…

三大激痛

先日「世界三大料理」のことを書いたのですが、「世界三大激痛」というものがあることを昨日初めて知りました。いろいろな見立てはあるものの、それは「心筋梗塞・尿管結石・歯の痛み」なんだそうです。歯の痛みが痛風や群発頭痛と入れ替わることもあります…

人生相談

新聞に「人生相談」という欄がありますよね。生きていくうえでのさまざまな悩みを、身近にいる人たちに相談できないという方が、基本的には匿名の投書という形で人生の先達(カウンセラーやお医者さんだったり、作家やエッセイストだったり)に打ち明け、回…

サレ・エ・ペペ

外国人留学生が日本語で演劇を行うという授業を担当していて、文化祭で披露する講演のために『世界三大料理』という脚本を作ったことがあります。擬人化されたフランス料理、中華料理、トルコ料理という「旧来の」世界三大料理に対して、その一角を崩して「…

滷味包

台湾の留学生が物陰から手招きして「センセ、ええもんありまっせ」と“滷味包”をくれました。だしパックみたいな紙袋に甘草とか八角とか肉桂とか茴香なんかが入っている、“滷味”つまり台湾風のおでんの素みたいなものです。スーハーすると懐かしい台湾のかほ…

さみしいネコ

帯の惹句に「定年バイブル」とあるのを見て購入した、早川良一郎氏の『さみしいネコ』。これもまた、偶然立ち寄った書店で本のほうから「呼ばれた」一冊でした。60歳で定年退職したあとの暮らしを綴ったエッセイ集で、その肩肘張らないたたずまいがとても心…

うまくてダメな写真とヘタだけどいい写真

書店で偶然見つけて、この本を買いました。幡野広志氏の『うまくてダメな写真とヘタだけどいい写真』です。写真といえば、スマートフォン登場以前に小さなカメラを持っていたことはありますが、それが趣味といえるほど傾倒してはいませんでしたし、スマート…

肉食の哲学

「中国人は肉と魚を区別しないんだって?」と、職場の英語教師に聞かれました。なんでも中国人留学生との英語の授業で食生活や食習慣に関するフリーディスカッションをしていたときにそういう話になったのだそうです。一瞬、そんなことはないはずだけどな………

はじめての胃もたれ

ふらっと立ち寄った書店で偶然手にとり、ページをぱらぱらとめくっていたら、断続的に目に飛び込んでくる言葉や文章が次々と心に響きました。こういうのを「本に呼ばれる」というのでしょうか。手にとったのは白央篤司氏の『はじめての胃もたれ』でした。こ…

復活した一元屋さんに行ってきた

ちょうど一年前、東京は麹町にあった和菓子店「一元屋」さんが閉店してしまいました。私はこちらの甘さ控えめな「きんつば」が大好きで、お店近くの半蔵門で定期的に長く仕事をしてきたので、折に触れては購入していました。それが突然の閉店で、その喪失感…

おかあさんといっしょの魔法

不覚にもちょっと涙してしまいました。NHK+(プラス)の動画『放送65年 おかあさんといっしょの魔法』を見ていたときのことです。この動画は11月6日まで配信されているようですが、おすすめです。 https://plus.nhk.jp/watch/st/g1_2024103018650?t=754NHK…

アテンション・エコノミー恐るべし

ChatGPTなど生成AIの登場で、それまでインターネット検索におけるほとんど唯一の巨人だったGoogleが大ショックを受けたと言われています。何かを調べようと思った際、生成AIに聞いてもネット検索と同じような結果が得られるようになったからです。それでここ…

「仲間の学生の教育に貢献できない生徒」について

今年も秋を迎えて、職場の学校ではこれから入学試験が断続的に行われていきます。私も入試業務を一部担当しているので、これからちょっと忙しくなります。ただこの入試というのが毎年本当に悩ましい。筆記試験や面接だけでその学生の資質を判断するのがとて…

文字を書く体力

今朝の新聞に載っていた、小学校の教員で育児雑誌の編集者をされている岡崎勝氏のコラムが興味深いものでした。子どもの「文字を書く力」が低下しているというお話です。パソコンやタブレットなどの普及に伴って、生活全体から文字を書くという習慣が失われ…

ポイント10倍デー

昨晩、退勤時にいつも立ち寄っているスーパーへ行ったら、異様な人混みでした。店内のいたるところに「10倍」の文字が貼られています。恒例のポイント10倍デーだったのです。このスーパーには会員カードがあって、レジでの精算時に提示すると購入額100円につ…

純文学を読む体力

先週末、今年のノーベル文学賞が韓国のハン・ガン氏におくられるというニュースに接したあと、同僚が職場の図書館からさっそく氏の代表作とされる『菜食主義者』の日本語版(きむ ふな氏翻訳)を借りてきました。この連休はちょっと忙しいから、よかったら先…

話しかけないヘアサロン

よしながふみ氏のマンガ『きのう何食べた?』の最新第23巻で、美容師をしているケンジの母上がこんなことを言っていました。「おしゃべりが好きで美容師の仕事をやってきたようなものですからね」。 ▲よしながふみ『きのう何食べた?』第23巻102ページ美容師…

クリスプスとチップス

オンライン英会話でイギリスのチューターさんが、パブに行くとビールを1パイント頼んだあと、いっしょに“a packet of crisps or peanuts”も買うと言っていました。この“crisps”が一瞬分からなかったのですが、そうか、ポテトチップスのことをイギリス英語で…

さよならサブスク

語学学習アプリのDuolingo、これまで私は有料版の「SUPER」に課金していましたが、先日期限が切れたところでサブスクから降りました。Duolingoはいろいろな工夫があってとても楽しいアプリです。私は8年以上通勤時のルーティンとして使ってきましたが、最近…

迷い猫の広告

街角で、迷い猫や迷い犬を探している旨の広告を見かけることがあります。私もかつて猫や犬を飼っていたことがあるので、いなくなってしまったときの気持ち、やむにやまれずこうした広告を張り出す気持ちなどは痛いほどよく分かります。……が、けさ自宅近くで…