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本シリーズ記事は、「写真用(等)の交換レンズ に興味を持ち、それを収集したり実用とする趣味」 すなわち「レンズグルメ」への、入門層/ビギナー層 等を対象とした説明内容にしている。 その際、初級層等が疑問に思うだろう事を、1人の 仮想人格、「ビギナーのB君」の質問内容に集約し、 本シリーズ記事を「仮想問答」の形式としている。 今回第13回目は「マクロアポランタ-」編とする。 その名前を冠するレンズは、一眼レフ用とミラーレス 機用を合わせ3機種しか存在しないが、今回は補足の 「アポ(ランター)系」のレンズを加え、計7本の フォクトレンダー銘のレンズを紹介していく。 なお、レンズ個々の説明は最小限とし、記事全般を 通しての、歴史や技術等の説明が主体となる。 では、最初のレンズ レンズは、Voigtlander MACRO APO-LANTHAR 125mm/F2.5 SL (読み:フォクトレンダー マクロ アポランター 注:Voigtlander綴りの変母音は省略、以下全て同様) (新品購入価格 79,000円)(以下、MAP125/2.5) カメラは、CANON EOS 6D(フルサイズ機) <レンズについて> 2001年に発売されたMF中望遠等倍マクロレンズ。 国産フォクトレンダー製品の発売開始から、まだ 日が浅い段階で発売されて、知名度が無かった事、 および、同ブランドのレンズ中では最も高額で あった為、ほとんど売れていなかった。 この為、後年には”希少価値からの投機対象”と なってしまい、発売時定価のおよそ2倍以上の 不条理な高額相場だ。 この背景には「マクロアポランターは凄い!」 といった、”漠然とした思い込みや誤解”が 市場やユーザー層にあるのかも知れない。 本記事では、そのあたり、アポランターの歴史等 について、詳しく述べていく。 なお、「フォクトレンダー」の原語(独語)綴りには 変母音が含まれるが、本記事(あるいは本/旧ブログ 全てで同様)では便宜上、変母音記載を省略している。 では、以下は「仮想問答」となる。 B「フォクトレンダーって何処の国だ?」 匠「オーストリア国で1756年に創業した世界最古 の光学機器メーカーの名前だ。 この年の前後には、同じオーストリアで モーツァルトや、マリーアントワネットが生誕 した、という非常に古い時代からの老舗だ。 後にドイツに移転。独国の光学産業の発展の 一角を担う企業となる。 第二次大戦の戦禍は免れ、その後、1950年代に 大きく成長したが、1960年代には、カール・ ツァイス(Carl Zeiss)社(西)の傘下となる。 1970年代にツァイスがカメラ事業から撤退すると 傘下のフォクトレンダー社も操業を停止するが、 二眼レフ等で有名なローライ(Rollei)が、その フォクトレンダーの名称(商標)を使うようになる。 しかし、ローライも1980年代に倒産してしまう。 その後、フォクトレンダーの名前は宙に浮いたが 1999年頃に、日本のコシナ(COSINA)社が ブランドやレンズ名の使用権を買い取り、以降 25年以上も、マニア層向けの高性能MFレンズ等 を多数販売している」 B「ふうむ。老舗ではあるが、1つの会社がずっと 存続していた訳ではなく、時代に応じて、その 名前を使った所(メーカー)があるわけだね」 匠「まあ超老舗だな。創業260年以上ともなれば、 徳川幕府の江戸時代を上回る長さだ。 だけど、言うように、ずっと同じ場所や国で 事業が継続されていた訳では無い」 B「それって、徳川政権が、そこまで長く続いた 事も奇跡的だな。260年以上も同じ政治体制が 続くなど、今では考えられない・・ ちなみに、ボクからの余談だが、近年に読んだ ”もし徳川家康が総理大臣になったら”という 小説/マンガ/映画は面白かったぞ。 コロナ禍で日本の政治がガタガタになったという 状況において、”史上唯一、成長を意図的に止めた 政治体制”を実施した徳川家康や、その他の有名な 英傑をAI(人工知能)で現代に蘇らせ、政治を改革 してもらう、というSFビジネス小説だ。 余談はともかく・・ で、当然、メーカー銘もそう だろうな、単に同じ名前が引き継がれているだけだ」 匠「その小説とマンガは私も読んだ(映画は見ていない)。 非成長戦略の視点は面白いが、その小説内では 家康率いるAI内閣は、政治改革の嵐だが、実際には、 はっきりとした政策は無い。あくまでコロナ禍の中での 特殊な時代における発想であったのだろう。 でもまあ、なかなか面白い作品だった」 B「余談が長くなりそうだ(汗) その話は、ほどほどにしておこう。 で、アポランターとは?」 匠「この話は長くなる、少しづつ説明していこう。 まず、20世紀の初め頃、独カール・ツァイス社等 では、様々な光学的研究が進められた。 その中で、色収差(いろしゅうさ/しきしゅうさ) の低減の研究がある」 B「色収差と言うと、白い被写体を撮った際に、 その周辺に虹のような色が出てしまう事だろう?」 匠「色収差の厳密な定義は専門的で難解ではあるが、 まあ、おおむね、そのように考えておけば良い。 勿論これは、レンズの弱点であり、特に望遠レンズ においては、解像感の低下の課題にも繋がる。 色収差の課題は、フォクトレンダー社の創業以前の 時代から知られていて、例えば、著名な研究家の 「ニュートン」は、(屈折式)天体望遠鏡での色収差 を防ぐ方法を見つけられず、反射式望遠鏡の研究と 実用化を行った。 まだまだ話は長くなる、一旦、ここで紹介レンズを 交換する」 レンズは、Voigtlander MACRO APO-LANTHAR 65mm/F2 (新品購入価格 122,000円)(以下、MAP65/2) カメラは、SONY α7(フルサイズ機) <レンズについて> 2017年に発売された、MF準標準1/2倍マクロレンズ。 ミラーレス機用でしか発売されていない。 異常低分散ガラス等をふんだんに用いた、贅沢な 設計であり、確かに高描写表現力のレンズだ。 発売当時は高額であったが、MFである事、そして 1/2倍までの仕様で、敬遠するユーザー層も多く、 (Eマウント版の)中古流通は多く、連動して新品価格も 中古相場も、やや下落している。 「マクロアポランター」銘を冠するレンズは 史上3機種しかないのだが、それは単なる製品名 であり、「その名前だから高性能だ」と思って しまうのでは、あまりに短絡的な考え方だ。 ---- では「仮想問答」の続きである。 B「で、色収差は、どうやって消すんだ?」 匠「まず、ユーザー側ではどうしようもない。 機材そのものの性能に頼るしか無い次第だ。 で、プリズムの実験をした事があるだろう? プリズムでは、色、つまり光の波長毎に屈折率が 異なって、”分光”(分散)される。 だいたいこれが、色収差の主な原因になる。 回避する最も簡単な設計手法は、異なる特性を持つ ガラスのレンズを凸凹で2枚組み合わせる。 特性とは、”色分散”の事で、これは、プリズムで 色が分割(分光)される、その度合いの事だ。 ガラスの材質を変えれば、分光の状態も変わり、 反対の特性を持つ2種類、2枚(以上)のガラスを 組み合わせ、色毎の分散を打ち消す仕組みだ」 B「凄い発明だ! これで問題解決か?」 匠「いや、そうでもない。 まず、上の手法を”アクロマート”と言う。 俗称としては、”色消し”とも。 そして、2枚の凸凹のペアのレンズの事を、 ”ダブレット”や”色消しダブレット”とも言う。 この手法は、主に天体望遠鏡等で使われ始めた。 (参考:望遠鏡の対物レンズとして、一般的) 写真機用レンズよりも、望遠鏡の方が、先に 発展していた。天体観測等の研究で使われる他、 地上用でも、軍事とかで敵の観測にも使えるからな。 フォクトレンダー社も、昔は望遠鏡や顕微鏡の 製造販売が主力ビジネスだった。日本国内の カメラメーカでも、第二次大戦前は、多くがそんな 感じだ。 で、天体望遠鏡から写真用レンズに、この技術は 転用された。しかし、まだこれでは完璧では無い。 第一に、アクロマート(色消し)で調整できる 色(波長)は、2色だけだ。普通、この場合、 プリズムの分光で最も外側の位置にある、赤と 青の光について調整を行うが、その途中の緑等の 色(波長)については、補正しきれない。 第二に、色収差には、さらに細かく言うと、 軸上色収差と倍率色収差があり、この”色消し” の手法では、両者を完全には補正できない」 B「難しい話だが、要はまだ改良の余地があった訳だな」 匠「そうだ。そこで独カール・ツァイス社の研究員は、 1900年前後の時代に、3色(普通は、赤、緑、青) の色収差を補正する方法を考え出し、これを ”アポクロマート”(Apochromat)と呼んだ」 B「それの略称が”アポ”になったのだな? すると、色収差を完璧に補正した、優秀なレンズだ」 匠「完璧では無い。光の波長、つまり色は、文字どおり ”色々と無限にある”からな。 だが、後年に4波長、5波長を補正できるようになった 際には、”スーパーアポクロマート”とかと言って いたが、どこまでいってもキリの無い研究だ。 いつしか”アポクロマート”の定義は曖昧となり、 近代では、”色収差を良く補正したもの”を 総称して、アポクロマートや単に”アポ”と呼ぶ。 または、そういう名称をレンズにつけても、意味が わからない消費者層が、ほぼ全てであるから、 カメラ・レンズメーカーによっては、一々”アポ” を名乗らないまでも、同等の仕組みとするケースも 非常に多い まだ話は長くなる、ここで紹介レンズを交換する」 レンズは、Voigtlander APO-LANTHAR 90mm/F3.5 SL Close Focus (新品購入価格 47,000円)(以下、APO90/3.5) カメラは、FUJIFILM X-T1(APS-C機) <レンズについて> 2002年に発売されたMF中望遠小口径レンズ。 発売時は、各種MF一眼レフ用のマウントであった。 開放F値が、F3.5と暗い為に、ビギナー層等では それだけで買わない理由となり、不人気のレンズだ。 MFや、MFマウント版というのも課題であり、例えば EOS等のデジタル一眼レフでは(通常は)使えない。 (注:発売マウントを選び、マウントアタプターを 介して、デジタルのEOS一眼レフでの利用は可能だ) だが、マニア層や、流通市場に属する評論家層には 極めて高く評価された、当時トップクラスの 高描写表現力レンズである。 開放F値の暗さは、諸収差を低減する為の仕様であり 開放F値を明るくする事で、様々な収差が急激に 増加する事を避けた措置(仕様)である。 (ごく近年、COSINAからAPO-LANTHAR 50mm/F3.5 が新発売されている。まだ購入していないが、 小口径化により諸収差を低減するコンセプトだと 思われ、本90mm/F3.5同様に、好ましい) 高描写力である事から、近接撮影を行っても画質が 低下する事が少なく、50cmの最短撮影距離を実現 している。マクロ程では無いが「寄れるレンズ」で ある為、このレンズには「Close Focus」(≒近接 撮影)という、副名称が添えられている。 (つまり「マクロアポランター」では無い。 マクロと言うからには、この時代からは、最低限 でも1/2倍の最大撮影倍率である事が必要だ) これも希少価値から、若干の投機的相場傾向である。 なお、殆ど中古品は流通していない。 B「アポ名称のレンズを作ったメーカーは何処だ?」 匠「ライカ(エルンスト・ライツ)、CONTAX(ツァイス) MINOLTA、SIGMA、フォクトレンダー(COSINA)等だ」 B「他のメーカーは、アポとは名乗らなかったのか?」 匠「その通り。特殊なガラスを示す称号であるEDやLD等 の名称を付けたり、あるいは、”高級レンズです” という意味で、"L"、"★"、"PRO"等の製品名とした」 B「ふうむ・・ 結局、全社が特殊ガラスを採用して いたのだろう?」 匠「そういう事だ。他社が、それを採用して高性能な レンズを作れば、別のメーカーもそれに追従する。 ビギナー層が思うように、特定のメーカーの技術 だけが優れている訳では無い。 もしそうならば、皆、そのメーカーの機材を買って 他社は潰れてしまう。が、実際にはそんな事は無い。 特にガラス関連の技術(例:コーティングや新硝材) ではそうだ、カメラ/レンズメーカーは、ガラス メーカーから部材を買って来るので、短期間で全ての 写真用レンズには、同等の新技術が搭載されていく」 B「ところで、ツァイスは、昔の時代では、すぐには アポが作れた訳ではなかったのだろう? いつごろから実用化されたのだ?」 匠「実用化の研究が進んだのは、だいたい戦後くらい からなあ? アポクロマートを実現するには、いままでには無い 新たなガラス素材を必要とした。 戦後では、ウラニウム(ウラン)や、酸化トリウム などをガラスに混ぜ、特性を変える措置を取った。 元々、これらは、装飾用ガラスに色を付けるための 技法であったが、その光学的特性を利用しようとした 訳だな。 しかし、第二次大戦での原爆使用により、放射能や 放射線といったものへの認識や、怖さが一般層に 広まる。それら、ウラニウムや酸化トリウム等は、 弱い放射性物質、つまり”放射能”を持つ訳だ」 B「放射能? それは危険だなあ。 もっと安全なガラスを作らないとならない」 匠「放射能といっても微弱なものであり、日常生活に おいても、様々な物質(例:食品等でも)にも、 稀に微量の放射能はある。 微量な放射能のある物質をガラスに混入し、色収差や その他の光学的特性を改善しようとした写真用の 交換レンズは、1950年代~1960年代にかけ、国産 の様々なレンズに、その採用例がある。 放射能は確かに怖いが、当時(1950年代)より ”ゴジラ”の映画が流行ったこともあり、放射能に 興味を持つ人達も出てきた。で、そうした人達は、 後年、その時代の放射能を含むレンズを調べて 探し出し、それを”アトムレンズ”と呼んだり、 ”それは高性能(高描写力)である”との噂を広めたり もしていた」 B「ゴジラが強くて人気だったから、放射能が逆に 興味の対象となってしまう訳か・・・ そして、”放射能”とか言うと物騒なので、 アトム(原子)と呼んだわけか。 実際に”アトムレンズ”は高性能なのか?」 匠「どのレンズがアトムレンズか否かは、あまり詳しく わからない。そういう情報は公開され難いしな。 まあ、ごく一部だけに限った話をすれば、当然 そうしたレンズは、同時代の他社レンズよりも 一部の収差補正には優れている。さもないと 危険な素材を使ってまで製品化しないからな。 だが、あくまで60年以上も昔の話だ。 まだ多層コーティングすら無い時代のレンズが 後年のレンズの性能を上回る道理は無い。 まだまだ説明は長くなるので、ここでレンズを 交替する」 レンズは、Voigtlander APO-LANTHAR 50mm/F2 Aspherical (新古品購入価格 104,000円)(以下、APO50/2) カメラは、SONY NEX-7 (APS-C機) <レンズについて> 2019年に発売された、MF小口径標準レンズ。 ミラーレス機用のマウントでの発売だ。 前述の「MAP65/2」の前群設計を縮小コピーして、 後群をマクロ(近接)用ではなく一般的な中遠距離 撮影用にチューニングしなおしたレンズである。 全レンズ構成の大半が、異常部分分散ガラスや 非球面レンズといった特殊レンズであり、極めて 贅沢な設計は、小口径標準としては常識外れの 価格高騰を招いた。(従前の時代の10倍!) ただ、「高性能レンズを高く売る事」は、この時代 カメラやレンズが殆ど売れないので、各メーカーと しては当然の措置である。 ポイントは、「では、その高価格に見合う性能や 価値があるか否か?」という話だ。 その点、本レンズは、COSINA社としても自信作で あるだろうし、実際の描写表現力も、この時代と してトップクラスに高い。 ごく一部のマニア層や評論家層には、この極めて 高い描写力は、好意を持って受け入れられたのだが あいにく、マニア層やハイアマチュア層が激減した 時代でもあるので、本レンズの「凄さ」は、世間 一般のユーザー層には広まっておらず、かつMFで 扱い難いレンズでもあるから、中古流通数は多く 相場も年々下がってきている。 話題性を高める為か? 当初SONY Eマウントでの 発売後、時間を置いて、ライカM(VM)マウントや NIKON Zマウントでの新規発売も行われている。 また、ごく最近(2024年)、Ⅱ型が発売されているが マウントが違うだけで、初期型との差がわからないので 当然、未購入となっている。 では、仮想問答に進もう。 B「アポランサーの、ランサーって何だっけ?」 匠「ランサー(Lancer)ではなく、ランター(Lanthar) と呼ぶ。 ランサーは、「槍」とか「投擲」(武器を投げる) あるいは「槍騎兵」のような意味だ。 ファンタジー系のRPG(ゲーム)とかアニメ等で、 ランス、ランサー、ランスロットとか、これを 語源とする槍や剣や魔法の名前が出てくるだろう? (注:ランスロットは、武器名を語源とした「円卓の 騎士」の人名だが、後年には武器名にも使われている) あるいは、三菱製の乗用車やスポーツカーの名前 にも、このLANCER銘が使われている(注:現在、 国内市場では、ランサーは販売されていない)」 B「ふむ、RPGやクルマでのランサーは有名だ。 ではランター(LANTHAR)とは?」 匠「化学や物理で、”ランタン”という元素名を 聞いた事が無いか?」 B「うう・・ 試験に出たような気もしたが、 ボクは文科系なので、ほとんど記憶にない(汗) あ、キャンプで使うランタン(LANTERN)照明 ならば知っているぞ」 匠「照明のランタンとは違う。 原子番号57の「Lanthan」は、柔らかい金属だ。 希土類元素(レアアース、レアメタル)でもある。 原子番号57のランタンから、71のルテチウムまでは 類似した性質で「ランタノイド」と呼ばれる。 ノイド -oidは、”似ている”という意味で、 「アンドロイド」(人間に似せたロボット)や 「ボーカロイド」(歌唱合成)等で一般的な用語だ」 B「化学の説明は、わかったが、それがどうした? 廻りくどくないか?」 匠「語源とか、由来とか、そういう事をまったく理解 していないから、平気で用語の誤用をしたり、 間違った解釈をしてしまうのだよ。 ちゃんと由来を理解する、そうすれば絶対に 間違えないし、誤解も生じない。 ”アポランタンは高性能レンズだ”などという ”名前を聞いただけの解釈”は、まるっきり的外れだ。 ここから話が繋がるのだよ。 だけど長くなるので、またレンズを交替しよう」 レンズは、Voigtlander APO-LANTHAR 180mm/F4 SL Close Focus (新品購入価格 54,000円)(以下、APO180/4) カメラは、OLYMPUS OM-D E-M1 MarkⅡ(μ4/3機) <レンズについて> 2003年に発売された、MF小口径望遠レンズ。 アポランター銘では、最長の焦点距離のレンズだ。 発売当時は各種MFマウントで、しかも銀塩終焉期で あった為、これも殆ど売れていない「幻のレンズ」と なってしまい、後年には、こちらも発売時定価の2倍 以上の不条理な「プレミアム(=無意味に高価な) 相場」となってしまっている。 異常低分散ガラスレンズを2枚採用、色収差の低減に 役立たせるとともに、近接撮影時でも画質の低下が 少ない事から、180mm級の通常レンズとしては、 トップクラスの最短撮影距離1.2m(1/4倍)の 近接撮影能力を備え、準望遠マクロとしての利用が 可能だ。これも「Close Focus」の副名称が付く。 購入当初は、個人的には、当時の他のアポランター系 レンズに比べ、特徴や長所が見出せず、あまり好みの レンズでは無かった。しかし近代、ミラーレス機等で ピクセルピッチが非常に狭くなると、本レンズの 高描写力である特徴が徐々に目立つようになってきた。 ある意味、銀塩末期の機材環境においては、早すぎる 登場だったのかも知れない。 まあでも、「だから凄いレンズだ」と思うのは早計で、 勿論、近代レンズの高性能に敵う術(すべ)は無い。 では、「仮想問答」の続きだ。 B「だから元素のランタンがどうしたのだ?(怒)」 匠「さっき”アトムレンズ”の話をしただろう? それらは放射能を含むから危険だ、と。 でも、ランタノイド(Lanthanoid)系元素を ウラニウムや酸化トリウムの代替で使うならば 放射能を持つ事は無い」 B「そうか! 安全に高性能レンズが作れる訳だ! しかし、なんで、もっと簡単に説明しないのだ?」 匠「ちゃんと出自を全て理解しないと、もう明日には 忘れてしまうからだよ。これでもう忘れないだろう?」 B「わかったぞ、ランタンをガラスの素材に使ったから、 アポランターだ!」 匠「その通り。元素のLanthanを含んだ特殊ガラスは 米国や西独で戦後に研究が進んでいた。 商品化したのは、1950年代での、西独の フォクトレンダー(旧)である。 レンズである事を示す接尾後「ar」(注:他にも orや、on/gonがある。例:NIKKOR、Distagon等) をつけて、これをLanthar(ランター)と称した。 ほら、ランサー(Lancer、槍、騎槍)とは全然 語源が違うだろう? だから、ここまで知って いれば、間違えようが無いわけだよ」 B「ふむ。で、この新素材は、色収差を消す為に 使われたのだな? だから「アポ」銘がついた」 匠「ほら、どんどんと理解が進む。良い事だ。 3波長(赤、緑、青)の色収差を補正した アポクロマート(Apochromat)を、ランタノイド系 元素(Lanthanoid)を用いた特殊ガラスで実現 したのだから、APO-LANTHAR(アポランター)に なった訳だ」 B「良くわかった。 ”アポランサーは凄いレンズだ”などと、単に 名前を聞きかじって、しかもレンズ名を間違えて その上、名前だけ聞いて、高価な相場のレンズを 買ってしまうのでは、全然、お話にもならんな」 匠「その通りだ。じゃあ、またレンズを交替する」 レンズは、Voigtlander NOKTON 60mm/F0.95 (新品購入価格 113,000円)(以下、NOKTON60) カメラは、PANSONIC DC-G9 (μ4/3機) <レンズについて> 2020年に発売された、MF超大口径中望遠相当レンズ。 フォクトレンダー(新旧)における「NOKTON」とは ラテン語の「夜の」(Nokt-、Noct-)を語源とする。 音楽での「ノクターン」(夜想曲)が著名だが、 写真用レンズでも、「夜でも写る大口径」という 意味で、ノクト、ノクチ等の名称を付けたものがある。 フォクトレンダー(新旧)では「開放F1.5以下」 のレンズに「NOKTON」(ノクトン)銘が付けられるが 内、μ4/3機用レンズの場合は特に大口径であり、 F0.95が「NOKTON」、F0.8が「Super NOKTON」だ。 B「ん? このレンズは”アポ”では無いな?」 匠「そうなんだよ。 でも、一応だが異常部分分散 ガラスレンズを2枚使った設計であり、APO仕様だ。 2010年代初頭のμ4/3機用の初期NOKTON (例:NOKTON 25mm/F0.95やNOKTON 42.5mm/F0.95) では、異常部分分散ガラスレンズを採用しておらず、 はっきり言って、”超大口径ではあるが、解像感の 低いボケボケの写り”であった。 だが、本レンズは初期NOKTONから10年もが過ぎた 新鋭NOKTONであり、かつ異常部分分散ガラスの 採用により、比べものにならないほど描写力が 改善された」 B「それでは、何故、"APO"と名乗らない?」 匠「知らないよ、COSINAの都合でしょう? まあ、簡単には、既にNOKTONの名前で、長期間 様々なシリーズでレンズを売っているのに、 このレンズから、いきなり「アポノクトンです」 とは呼べなかったのではあるまいか?」 B「そうか、結局、それらは”名前だけ”の話なのだな?」 匠「その通りだよ。今時、2016年以降の新鋭高性能レンズ で異常(特殊)低(部分)分散ガラスレンズや 非球面レンズを採用していないものなど、高性能 レンズの範疇では、ただの1本も存在していない。 あえてレガシー(伝統的な、古い)なレンズ構成に している場合は、それは「クラッシックな描写」を 特徴とする、復刻版オールドレンズの場合だけだよ」 B「ううむ・・ ボクも名前に翻弄されていたわけか」 匠「名前、つまりブランド銘やブランド価値を高めて 商品を売りやすくしたり、高価に売って利益を稼ぐ 事は、”高付加価値化”とも言え、現代での商品 販売(市場)戦略での基本だ。 名前が有名であれば、高価でも売れるし、人気の 商品にもなる。世間では、それを「価値がある」と 勘違いするから、すなわち高付加価値型商品だ。 それは最近に始まった話ではない、昔の高度成長期 (1960年代)あたりから、著名な「舶来モノ」(= 海外製でブランド力がある商品等)に憧れた 人は多かった ・・というか、ほぼ全員であろう」 B「ふうむ・・ ”ブランド信奉”が、昔から現代まで ずっと続いているわけだ。 ああ、わかったぞ! だから、すでに有名なブランド 銘は、その元となったメーカーや企業が、倒産したり 事業を辞めてしまった後でも、他の企業が、その名前 を買い取って使い続けるわけなのだな? だから、老舗メーカー(企業)のブランド銘などは、 もはや、それを継続しているか否かも疑わしい、と」 匠「その通りだ。 ブランドは”ただの名前”に過ぎない。 だが、それを活用する事は、企業等の商品販売戦略上 とても重要な意味を持つ。 何故ならば、”有名だと買ってくれる消費者が居る” わけだからな。 で、コシナ(フォクトレンダー)だが、近年でも その戦略を行おうとしている。 長くなるので、レンズを交替するな、これが最後だ」 レンズは、Voigtlander MACRO APO-LANTHAR 110mm/F2.5 (新品購入価格 138,000円)(以下、MAP110/2.5) カメラは、SONY α6000(APS-C機) <レンズについて> 2018年に発売された、MF中望遠等倍マクロレンズ。 現状では、SONY E(FE)マウント版のみの販売だ。 MACRO APO-LANTHAR(マクロ・アポランター)を称する レンズは、史上3機種しかなく、本レンズは現時点で 最も新しいマクロアポランターである。 なお、独語では「MAKRO」表記も多いが(CONTAX等) この機種では、一般的な「MACRO」表記となっている。 本レンズの描写表現力は高く、マクロレンズとして この時代でのトップクラスの高描写表現力だ。 ただ、MFである事と、高価な事が要因で、あまり 売れてもおらず、中古流通も極めて少ない。 しかし、近代(2010年代以降)での各社の新鋭AF マクロレンズは、超音波モーター搭載、距離指標なし で無限回転式ピントリングの仕様のモノが大半で、 これは、近接MF撮影時の操作性や速写性の悪化が 甚だしく、個人的にも、あるいは多くのベテラン ユーザー層は好まない仕様である。 各社新鋭マクロが、高付加価値化(つまり値上げの 大義名分)の為に、このような、”仕様の改悪”を 行ってしまった中、逆にMFレンズは近接撮影時に 極めて有益であり、こちらの方が遥かに望ましい。 AFのマクロレンズを販売するならば、近接撮影時での 操作性や速写性に配慮した仕様や機構にするべきで あり、それが正しい「付加価値」となる。 近代のAFマクロレンズの付加価値は、値上げの為の 超音波モーターや手ブレ補正機能の搭載にすぎず、 それではユーザーから見た正当な付加価値、つまり 「商品を欲しいと思う魅力」には成り得ない。 では、仮想問答に戻る。 B「このレンズにも、異常部分分散ガラスが 使われているのか?」 匠「使われているのか? というレベルでは無いよ。 12群14枚中、実に半数以上の8枚が異常部分分散 ガラスという極めて贅沢な設計だ。 なお、高屈折ガラス等に関しては、公開された 情報がなく、詳細は不明だ」 B「贅沢というのは、部材のコストがかかる、という 意味だな?」 匠「そうだ。ただ、製造技術等は日進月歩だ。 このレンズには使われていないが「非球面レンズ」 というモノもある。これは50年ほど前から登場 しているが、当初は手作りに近く、極めて高価な 部材だった。しかし、その後、金型の使用等で 大量生産とかも可能となると、どんどんと値段が 安くなってきた。1980年代からの「写ルンです」 も、非球面レンズを用いた、使いきりカメラだ。 また、異常部分分散ガラス等も、実用化から、 70年を迎える技術だ。もはや、これに、LANTHAN つまり、ランタノイド系元素が使われている事も さだかではなく、素材技術の進歩により、多分 聞いた事もない元素等を混入して製造されているの だろう。でも、そのあたりはガラスメーカー等での 社外秘、つまり”企業秘密”であろうから、 その屈折率や色分散のスペックは勿論、設計上で 必要な為に公開されてはいるが、素材については、 秘密(非公開)のままだ。 また、少し前述した「高屈折ガラス」の採用も 同様に非公開だ」 B「ふむ・・ 長く使われてきた技術なのだな?」 匠「そうだ。 で、そこには注意点もある。 異常低分散、非球面レンズ、多層コーティング等の、 新技術が出てくると、それを初めて搭載したような レンズは、当然、同時代の他社製品よりも高性能だ。 だから、勿論、評価や評判も高くなる。 でも、その新技術の優位性が通じるのは、ほんの 数年間だけであり、他社も黙ってそれを見ている 訳にはいかないから、すぐに同等または類似の技術 を搭載し、先行製品に追いつき、追い越すための 措置を取る。 まあ、当たり前の話だ。 ところが、市場のユーザー層は、そこまで技術の事 とか、世情を理解していない。 だから、それら最初期の新技術搭載レンズの事を ”あれは、高性能のレンズだ”とか言い出してしまい 何十年たった後でも、それら古い初期新技術レンズを 必死に探し、高額でもそれを入手しようとしてしまう。 売る方も同様であり、技術の中身を理解していないまま ”これは希少な名レンズなのです”とか言って、それを 高額な相場で、好事家(こうずか)達に売りつけようと してしまう訳だ」 B「ふうむ・・ もっと新しくて性能の高いレンズが 色々とあるのに、最初の有名なモノだけが価値や 性能が高いと勘違いしてしまうのだな? それは、まさに要注意だ、気をつけよう」 匠「で、その傾向が、この「アポランター」のシリーズ にも少なからず存在している。 アポランターの初期製品は、COSINAがフォクトレンダー の名称を独国の商社から購入した1999年以降、 2000年代前半頃までの短い期間において、少ない機種 数に、異常低分散ガラスを1~2枚搭載しただけの ”単なる名称”として使われたものであった。 他にもCOSINAは、旧フォクトレンダー社の商標である スコパー、ヘリアー、ウルトロン等を購入していた 訳だから、”アポランター”も同列だった訳だな。 だけど、初期アポランターが不人気であったからか、 COSINAは、後年2017年頃まで、アポランター銘を 冠したレンズ製品を、ほとんど新発売しない時代が 長く続いていた。 だが、2016年頃から、COSINAや他のレンズメーカ- では、硝(ガラス)材や光学設計技術の進歩が あり、旧来のレンズとは全くの別モノのレベルの 高性能レンズを作れるようになった。 (これを「2016年断層」と、本ブログでは呼ぶ) COSINAは、ひさしぶりに「マクロアポランター」や 「アポランター」銘のレンズを2017年~2020年にかけ 新規に発売した。 当然ながら、これらは超高性能(高描写表現力) レンズである為、市場でのマニア層や評論家層には 驚きを持って受け入れられた(ただし、あまり 売れている、という訳では無い、なにせ高価だ) COSINAは、ここから「アポランター」または 「アポ」を、「高性能レンズを表す称号」として 用いる戦略に転換した。つまり、それらが、COSINA での「ブランド」になる訳だ」 B「なるほど、ブランド戦略か。 だけど単なる名前だろう?」 匠「そうだ。しかし、名前はともかく、それらは実際に 高性能レンズだ。 以降、COSINAでは、アポスコパーや、アポウルトロン 等、”APO名が付けば高性能なのです”といわん ばかりの新製品のブランド強化戦略を行っている」 B「他社は黙って見ているのか?」 匠「そもそも、”APO名称戦略”は古いのだよ。 銀塩時代、1970年代~1990年代にかけて、 各社(ライカ、CONTAX、MINOLTA、SIGMA等)は APO名称を高性能レンズの称号として使っていた。 しかし、高価すぎる、それら初期APOレンズは、 あまり売れず、「APO=高性能」という常識を 世間に定着する迄には至らなかった。 SIGMAでは、2000年代頃まで「APO銘」が付いた レンズを販売し、しかも、同じ仕様の製品で APO銘が無い廉価版と併売する、という念の入れよう であった。(=そうしておけば、APO銘の高性能が 目立つからだ) だが、やはりその名前は定着せず、おまけにSIGMA でのAPOの定義は「異常低分散等の特殊ガラスレンズ を2枚以上使っている」という風に定められていた。 しかし、2013年以降の、高性能レンズ「ART LINE」 では、もっと多数の異常低分散等や非球面を使う 設計が当たり前だ。 だから、もはや「APO」と名乗っても意味は無い。 したがって、ART LINEから、APO名称は消えた。 他社で、APO銘のレンズが何もなくなってしまった ので、またCOSINAが「APOとは高性能な証です」 のように、この名称を使おうとしているのだろう」 B「わかったが、やはり単なる名前だけの話ではないか」 匠「ここまでの歴史を全て理解しているから、そのように 思うのだろう? だけど、こんな事は世間のビギナー層はもとより、 殆どのユーザー層は、誰も知らない。 ただ単に「(マクロ)アポランターは凄いレンズ!」 という事だけが、頭の中に刷り込まれてしまい、 本記事で紹介した初期(2000年代初頭の銀塩末期) のアポランター群(3本ある)においても 「(マクロ)アポランターだから凄いレンズ!」 だと思い込んでしまい、発売時定価の2倍以上もの 不条理なプレミアム相場を受け入れて買い、かつ それが、後年により高く転売できる事を夢見る ”投機的措置”に走ってしまう訳だ」 B「それは良くない傾向だ。 ”レンズの本質が何もわかっていない”と、ボクでも そう思うぞ」 匠「まあだから、本(旧)ブログでは、折に触れて 希少レンズ等について、その出自や実際の性能等の 詳細な記事を書いて説明している訳だ。 それを全て理解した上で、高価なモノを買うのは それはそれで、消費者の好き好きではあるが・・・ 何もわかっていない状態で”希少なモノは良いものだ” ”有名なモノは良いものだ”などと考えてしまうのは 完全な的外れである、という事だ」 B「とても良くわかった」 匠「最後に・・ 消費者が、その現行商品を”良いモノだ” と判断できるのであれば、多少無理をしても、それが 販売されている時点で購入しておくべきだろう。 本記事でのNOKTON 60/0.95やMAP110/2.5とかは 現行製品であるが、極めて不人気だ。 でも実力値は恐ろしく高い。ただ単に、それらの 存在が世の中に知られておらず、情報も少ないから 誰も買わないだけの状態だ。 もし、それらが後年に生産完了となった場合、 あまり売れていないから、当然「希少品」となる。 それらは確実に「投機対象」となり、高額相場での 取引が開始される。 そうなってから”やはり、あのレンズが欲しかった” と言い出しても、もはや手遅れだ。 ”欲しい機材は、それが売っている時に買う” それがマニアの大原則であり、投機に巻き込まれない ようにする為の鉄則でもある」 ---- では、本記事は、このあたりまでで。 次回記事の内容は未定としておく。
by pchansblog2
| 2024-11-06 20:40
| 完了:レンズグルメ入門編第一部
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