カテゴリ
【熱い季節】ドラゴンボート・ペーロン 連載中:カメラマニアックスEX第二部 連載中:レンズマニアックスEX第三部 完了:フィルムカメラで撮る 完了:レンズグルメ入門編第一部 完了:カメラマニアックスEX第一部 完了:歴代カメラ選手権 完了:カメラの変遷・総集編 完了:デジタル名機対決 完了:お気に入りカメラ選手権 完了:レンズマニアックスEX第一部 完了:レンズマニアックスEX第二部 完了:年代別レンズ選手権 完了:年代別マクロ選手権 完了:続・特殊レンズマニアックス 完了:続・レンズマニアックス・プラス 完了:続・匠の写真用語辞典 旧ブログへのリンク
最新の記事
ブログジャンル
以前の記事
2025年 01月 2024年 12月 2024年 11月 2024年 10月 2024年 09月 2024年 08月 2024年 07月 2024年 06月 2024年 05月 2024年 04月 2024年 03月 2024年 02月 2024年 01月 2023年 12月 2023年 11月 2023年 10月 2023年 09月 2023年 08月 2023年 07月 2023年 06月 2023年 05月 2023年 04月 2023年 03月 2023年 02月 2023年 01月 2022年 12月 2022年 11月 2022年 10月 2022年 09月 2022年 08月 2022年 07月 2022年 06月 検索
|
本シリーズ記事は、「写真用(等)の交換レンズ に興味を持ち、それを収集したり実用とする趣味」 つまり、俗称「レンズグルメ」の趣味への「入門編」 であり、入門層/ビギナー層等を対象とした説明内容 にしている。 その際、初級層等が疑問に思うだろう事を、1人の 仮想人格、「ビギナーのB君」の質問内容に集約し、 本シリーズ記事を「仮想問答」の形式としている。 今回第20回目は「TRIPLETの系譜」編とする。 TRIPLET(Triplet、トリプレット)の話は、追々 説明していくとし、その歴史に関連する所有レンズ を10本取り上げ、それらを順次紹介していく。 個々のレンズそのものの話よりも、20世紀初頭の 光学設計技術の発展史のような内容となる。 なお、本記事は、この第一部での最終回とする。 では始めよう、まず最初のTRIPLETレンズ。 レンズは、Meyer Optik Goerlitz DOMIPLAN 50mm/F2.8 (注:原語綴りの変母音は省略) (中古購入価格 7,000円) カメラは、SONY α7(フルサイズ機) 詳細不明。恐らくは、1960年代~1970年代頃に 東独にて生産されたMF小口径標準レンズ。 3群3枚、トリプレット型構成である。 B「トリプレット? なんじゃそりゃ?」 匠「写真用レンズとして、ほぼ最小限の構成だよ。 トリプル(3つ組、三重)の名前の通り、 隙間を開けた凸・凹・凸レンズの3枚玉だ。 19世紀の末頃に、英国で発明された構成だ。 写真用レンズとしても、色々と採用例があるが 通常は、収差の補正等の理由で、もう1~2枚 のレンズを増やした構成が一般的だ」 B「そういう意味か。そういえば、ダブルレットとか 言うのもあったっけ?」 匠「それを言うなら”ダブレット”だよ。 以前、”色収差”を説明した際、それを防ぐ為に 凸凹の(色分散の異なる)レンズを貼り合わせに したものを、”アクロマート”や”色消し”と 呼ぶと説明した。その際の2枚の構成のレンズの 事を”ダブレット”と呼ぶ事が多い。 (注:例によって、光学の世界の用語は統一されて いない為、”この解釈だけが正しいのだ”とは 決して思わない方が良い。いやむしろ”研究者の 数だけ、異なる光学用語がある”と言っても 過言では無い) で、”ダブレット”は、多数の枚数からなる複雑な レンズ構成の中の一部のパーツ(構成部品)として 使われるケースが多いが・・ ”トリプレット”は、それそのものが、1本の交換 レンズとしての構成と成りえる」 B「それらの最後の”レット”というのは、薬の錠剤 とか、薄型PCのTabletと同じ意味(語源)か?」 匠「難しい質問だ・・ 一応、ラテン語や英語において -etとは、”小さいモノ、板状のモノ、硬いモノ、 水に溶けるモノ”等の複数の意味があった模様だが、 この場合、-letなので、少し意味が変わると思う。 Tabletという単語以外で、あまり語源を参照すべき 事例が多くはなく、なんとも言えないし、また -retとLとRのスペルが違うものも混在している。 あえていえば「Palette」(絵の具を混ぜる板等) くらいだが、それも少しスペルが違う・・」 B「写真用レンズの多くは、ドイツで発明されたの だろう? なんで英語的な表現なのだ?」 匠「鋭い観点だな。まあ、TRIPLETは英国での発明だよ。 だから英語的な名称だ。この系譜での以降の時代の 派生型レンズは、皆、独国での開発だったので、 ”何とかlet(-et)”のような名称にはなっていない」 B「今回紹介の、ドミプランとか言うレンズが それ(Triplet)か?」 匠「そうだ、勿論、無関係なレンズは紹介しない。 このDOMIPLAN 50/2.8は、東独で製造された レンズであり、一眼レフの登場期に、より安価な レンズを販売する為に、コストダウンを目論んだ 企画であり、その為に、最小限の3枚のレンズ構成 とした」 B「コストダウン型かあ。 そうすると弱点も あるのだろう?」 匠「後述するが、ボケ質が、かなり変わっている。 ただ、このレンズでは通常の使用状態でその弱点を 出さない為、開放F値を暗く、かつ最短撮影距離を 長く設計している。これらの仕様により、背景は あまりボケないレンズなので、トリプレットの 長所である、”シンプルな構成だが、撮影条件 (例:絞り込む)によっては、シャープで良く写る” という点を活用する事ができる」 B「変わったボケとは?」 匠「初級マニア層等での通称では”シャボン玉ボケ” または”バブルボケ”と呼ばれるボケ質だ」 B「ああ、シャボン玉ボケか! 聞いた事があるぞ」 匠「でも、そういう写真を撮った事は無いだろう? それを出す機材も技法も、制限されるしな」 B「うん、撮った事は無いな。 でも、なんだか周囲のビギナーの人達の間の話 では、”シャボン玉ボケは、偶然出るものであり、 それが出るとラッキー”といった感じでの、 ”おみくじ”のような状態だと思っていたよ(汗) なんだ、光学的に説明できて、それを出す技法も あるわけかあ。 ”偶然出る”では、あまりに不勉強だなあ・・」 匠「現代の新鋭機材では、絶対に出ないさ。 3枚構成、あるいは4~5枚構成程度の、少ない レンズ枚数の、オールドレンズとか、特殊効果 レンズでしか、”シャボン玉ボケ”は出ない」 B「ん? でも、周囲のビギナー達は、その手の 変わったレンズは持っていないぞ、せいぜいが キットの標準ズームだけだ」 匠「それは、”シャボン玉ボケ”と、”玉ボケ”を 完全に混同しているのだろう。 ”玉ボケ”とは、背景の点光源ボケ等の形状が 円形になる事を指す。 だが、(口径食の少ないレンズならば)、そんな ボケ形状は、絞りを開放にして点光源をボカせば どんな安価なレンズでも簡単に出せる。 ビギナー層では、基本的な”絞り優先AE”すらも 使いこなせず、フルオートのモードで撮るだけ なので、あくまで、夜景撮影等でたまたま絞り開放に なった場合に出る”玉ボケ”を、あたかも、滅多に 出ないような偶然として、ありがたがるだけだ。 しかし、あまりにレベルが低すぎる話だ。 そして、”玉ボケ”など、どうでも良い話だ」 B「ボクも、知人のビギナー達も、猛反省だ。 あまりに光学の基礎知識が少なすぎる。 しかも曖昧な情報を拡散させてしまっている(汗)」 匠「もう、長くなるばかりなので、シャボン玉ボケの 出し方、の説明とかは省略しておくよ。 過去記事でも何度も説明しているし・・ それを 読んでも、全く頭に入っていないようであれば、 私の説明が悪い、というよりも、むしろ、何も わかっていないので、覚える状態にまで至らない、 のだろう? だからもう説明は意味が無いよ」 B「ぐう・・・ だから、どうやってシャボン玉 ボケを出すのだ?」 匠「説明しないよ。何でも他人に頼らず、自分で 研究しなさい!」 ---- では、次のトリプレット型レンズ。 レンズは、OLYMPUS Body Cap Lens BCL-1580 15mm/F8 (新品購入価格 5,000円)(以下、BCL-1580) カメラは、PANASONIC DMC-GX7(μ4/3機) 2012年に発売されたMF広角レンズ。 3群3枚構成である。 B「ボディキャップレンズか? こういうのは、たった1枚のレンズしか入って いないのかと思っていたが、3枚ものレンズが 入っているという、結構、本格的な物なのだな」 匠「稀に、1枚レンズのものもある。 具体的には、PENTAX Q用の07レンズだ。 だが、非球面ではなく通常の球面レンズなので それは、まるで”虫眼鏡で景色を見る”ように 画面周辺が大きく流れる異様な描写となる。 もっとも、その特殊効果を狙ったトイレンズと して、PENTAX 07は設計されている。 このBCL-1580はHi-Fi描写を狙ったレンズなので、 必要最小限の3枚構成トリプレットだ」 B「すると、背景に”シャボン玉ボケ”は出ないのかな?」 匠「良い質問だ。それが出ると、一部の人達は、喜ぶ かも知れないが、一般的に見れば、シャボン玉ボケ はレンズの描写力上の弱点だ。 だから、仕様上で、それを出ないようにしている。 つまり、15mmという短い焦点距離で、開放F値は F8(注:絞り固定)、最短撮影距離30cm。 このスペックだと、どこをどうやっても、背景は まずボケ無い、だからシャボン玉ボケも出ない」 B「そもそも、それが出る原因は?」 匠「”球面収差”、および”口径食”に起因すると 言われているが、これを実験や検証をする手段が、 あまり無くて、個人的には、ちゃんと原因を究明 できていない。 以前、シャボン玉ボケを自動的に生成するソフト ウェアを自作したりして研究を進めようとしたが、 うまくいかず、途中で断念してしまった(汗)」 B「ふむ、結局のところ、シャボン玉ボケはレンズの 弱点であるから、メーカー側としては、それを 出さないように改良や仕様設計をする訳だな? でも、オールドレンズとかだと、それが残って しまっている場合もある。 また、仕様で、背景をボカせないようにすれば、 シャボン玉ボケは出ない、そういう事かな?」 匠「まあ、だいたいその通りだと思う。 後、トリプレット型だからといって、常に シャボン玉ボケ出てしまう訳でもなく、設計上 での工夫で、できるだけそれを発生させない事も 可能だと思う。 また、用途にもよりけりであり、最近購入した 自然観察(や、宝石や時計等のキズの鑑定)に 用いるルーペ(拡大鏡)は、背景をボカして 使う事は無いので、高級品はトリプレット型だ。 他の1枚モノや2枚レンズのルーペよりも高額 だが、良く見えるのは確かだ。 ここで参考の為、銀塩機を紹介しておこう」 カメラは、NIKON AF600 (QD) (NIKON MINI)(中古購入価格 7,000円) 1993年に発売された単焦点広角AFコンパクト機。 搭載レンズは、28mm/F3.5(変形3群3枚構成) B「(銀塩)コンパクトカメラかあ・・」 匠「NIKONは、銀塩時代には一眼レフを主力とする 高付加価値型のメーカーであったが、銀塩 AFコンパクトカメラの市場が伸びていたため、 1983年と、他社よりだいぶ遅れて、コンパクト 機の市場に参入した歴史がある。 ただ、安価なコンパクト機を買って「NIKONを 買ったぞ!」と、ユーザー層が満足してしまうと 主力製品の、(銀塩)高級一眼レフの販売機会を 損失してしまう。 なので、銀塩時代のNIKON製の低価格帯製品は あまり高性能を与える事はせず、ユーザー層が それに満足しなければ、”高級一眼レフを買え” という高飛車な基本戦略だった。 (参考:この事は、あくまで、そういう製品戦略 なのだが、世間では、これが理解できず、一般に ”NIKONは低価格機を設計する事が下手”と誤解 される要素が多かった。 そうではなくて、低価格帯の機材には、最初から ”仕様的差別化”が施されていて、それに満足できない 人達を、高価格帯機の購入に誘導する仕掛けな訳だ) まあだから、正直言えば、1980年代のNIKON製 銀塩コンパクト機は売れていない。中上級層 から見れば、それらは満足が行く性能や仕様では 無かったからだ。(注:後年のマニア層等では、 NIKONが低価格帯機材に大きな「仕様的差別化」を 施してある状況を知り、「ユーザー視点では無い」 と反発した様相もある) だが、1990年代初頭、バブル経済も崩壊すれば バブル期前までのスタイルの商売も成り立ち難い。 いや、そもそも、カメラが売れない時代に突入 してしまっていた。 その時代、CANONでは、入門層向けの安価な 銀塩AF一眼レフCANON EOS Kiss(1993年)を 発売し、女性やファミリー層等の、新たな ユーザー層を掘り起こす事に成功している。 NIKONも、新機軸のカメラとして、マニア層にも 通用する、低価格帯高性能コンパクト機、 NIKON AF600(通称:Nikon mini)を発売した」 B「それが、この機体なわけだな? 高性能なのか?」 匠「基本的には、レンズ構成はトリプレットなので、 一見して廉価版であり、写りは悪そうだ。 だが、その悪印象を覆すような仕掛けが施して あり、このトリプレットは、高屈折率の特殊な 硝材を使ったり、前玉をメニスカス(=三日月状 に凸凹の面があるレンズ。”写ルンです”でも 使われた)とする、などの工夫で、高描写力を 得ていた。 当然、”シャボン玉ボケ”も発生しない」 B「なるほど、一見してチープなカメラだが、実は 良く写るカメラだった訳だな?」 匠「しかも28mm広角単焦点仕様だ。 この1990年代前半では28mm単焦点機は、かなり 珍しい。(他に、概ね3系統が存在するのみ) そして、本機の数年後には、RICOH GR1が28mm 本格単焦点機として発売され、マニア層を中心に 一般層にまで人気となり、広角・高級コンパクト機 というジャンルの製品の礎となり、その志向性は 現代に至るまで、ずっと続いている」 B「ふむふむ。広角コンパクトが流行する先駆けと なっていた訳だ。 結局、トリプレットでも、良く写った訳だな?」 匠「”トリプレットは手抜きレンズ”という印象が 上級層等の中にあった事を覆して、 ”トリプレットでも良く写る。Nikonは凄い!” という風に、評価を反転させた事が、この機種の 歴史的価値と、人気となった要因がある。 これが他のレンズ構成、例えば”テッサー”で あれば、ここまで好評価は得られなかっただろう」 B「テッサとは?? フグの刺身かな?」 匠「大阪人か?(笑)(注:大阪周辺では、フグの 刺身の事を、”てっさ”と呼ぶ) じゃあ、そのTessar(テッサー)の話に進もう」 カメラは、Rollei 35 (中古購入価格 20,000円) 1967年に発売された西独製高級コンパクト。 搭載レンズはTessar 40mm/F3.5(3群4枚構成) B「古いコンパクトカメラのレンズの話か。 4枚のレンズになったわけね。 これはトリプレットの改良か? だったら、クワトロレットと呼ぶのか?」 匠「あまり、クワトロとか、カルテットとか等は 言われない。 例えば、スケートでも、3回転までは、トリプルと 良く言うが、4回転からは、もう単に”4回転”だ。 また、ボウリングでも、ストライクを、ダブル、 ターキーと続けても、4つ目からは4th(フォース) と、普通の言葉(数字の読み)になる。 数字は、3までは良く使うので愛称や別名があるが 4からは、もうあまり固有の用語が無いケースが多い」 B「ふむ、じゃあ、これを何と呼ぶ?」 匠「Tessar(テッサー)型だよ。 元々は、独Carl Zeiss社の商標だが、 特許が切れて製造も容易となった、戦後の時代から 各社で、非常に多くのテッサー型レンズが販売され 勿論、それらは個々に名称をつけているが、中身は 殆ど全て同じなので、総称して「テッサー型」と 呼ばれている」 B「このカメラは、ローライというブランドだが?」 匠「独Rollei社は、ツァイス社やフォクトレンダー社 とも近しいメーカーだった。 元々、旧フォクトレンダーをスピンアウト(退社) した人達が創業している。 高級二眼レフや、このRollei 35が著名だが、 それらの搭載レンズ名称にツァイスの商標を 用いる事が多かった。つまり、”ライセンス”だ。 これのTesserは、3群4枚構成。 トリプレットの後玉を「色消し」つまり、ダブレット とした構成だ。 Tessar構成の誕生は1902年と古い。ライト兄弟の 初飛行が1903年だから、ほぼその時代だ。 前述のトリプレットの誕生(発明)から、ほぼ10年後 くらいであり、英国でトリプレットができた事に対し 独国の光学産業の威信を賭け(?)、ツァイスはこの Tessarを、フォクトレンダーではHeliar(後述)を 開発した。 Tessarの開発背景には、”ツァイスがそれまで研究を していた4枚構成レンズ(UnarやPlotar)の発展形だ” という説もあるが、まあ、その話は、オリジナリティ (ツァイスの独自性)を主張するためのものだろう。 実際には、”(他社製の)Tripletの改良型”と 見なした方が自然だ」 B「テッサーは、”その後、世界中に広まった”という 話ではなかったのか?」 匠「その通りだ。 恐らくは20年程度は、ツァイスによる特許が存続 していただろうと想像できるが、それが切れた 1930年代頃からは、他社でのコピー品が登場する。 そしてすぐに、第二次世界大戦が始まってしまい、 写真用レンズ等の開発は、軍事目的に限定される。 最終的に、独国は東西に分断されるのだが・・ 戦後、このTessar型レンズは、世界各国の写真用 レンズや、固定レンズ式カメラの多くで使われる ようになる。 以下、日本のカメラでの一例だ」 カメラは、OLYMPUS-PEN EES-2 (中古購入価格 8,000円) 1968年に発売された、ハーフ判MFコンパクト機。 搭載レンズは、D.Zuiko 30mm/F2.8(3群4枚) B「ふ~ん、OLYMPUS-PENもテッサーだったのか?」 匠「上のRollei35の場合も、OLYMPUS-PENの場合も、 勿論、他の構成のレンズを使う場合もあるよ。 OLYMPUSの場合、Zuiko(注:後にはZUIKOと大文字 表記)と称するレンズには、副型番として、 アルファベット1文字が付くケースがあり、それは 英字アルファベットの順番が、レンズの構成枚数を 示している。 具体的には、D=4枚、E=5枚、F=6枚、G=7枚、 という感じだ。 ”D.Zuiko”だと、”4枚構成”という意味だから、 レンズの構成を図面等で正確に調べる前でも、 ”もしかしてTessar型か?”と類推できる」 B「ふむ、それだけテッサーが世界中に広まった ならば、元々の写りも良かったのか?」 匠「そこを、これから説明する。 ここまで紹介の銀塩機には、フィルムを入れて の試写を行っていないが、以降はデジタル機に Tessar型レンズを装着して撮ってみる」 レンズは、CONTAX Tessar T* 45mm/F2.8 MM (中古購入価格 24,000円)(以下、T45/2.8) カメラは、CANON EOS 7D MarkⅡ (APS-C機) 1982年頃に発売された、薄型MF標準レンズだが、 一旦、生産中止となり、本レンズは、再生産版の 1993年頃発売のMM型(マルチモードAE対応)である。 B「CONTAXと言えば、カール・ツァイスだろう? 薄型のレンズだ。これはパンケーキだな?」 匠「CONTAXは、戦前の独Carl Zeiss社が自社製の (注:正確にはZeiss Ikon社を独立して創立) カメラに付けた名称(商品名)だ。 1930年代~大戦を挟み~東西分断後~1950年代 頃まで使われたが、その後の時代では、Zeiss(西) のカメラ事業が苦しくなり、結局、1974年頃に 日本のYASHICA(後に”京セラ”の傘下となる) に、CONTAXやレンズ名の商標を売り渡して しまった。(=名称の使用権を供与した) まあだから、いつも言うように、”製品の 名前だけを聞いて、良し悪しや価値を判断しては ならない”という話(歴史)が、ここにもある」 B「薄型の理由は?」 匠「Tessar型は、元々の発明後しばらくは、各社で 使われていても、それイコール薄型という特徴は 持っていなかった。 それが使用されたカメラも 形式(二眼レフやコンパクト機)や、フォーマット (中判や35mm判)等で様々である為、その焦点距離 等の仕様も、まちまちだ。 だが、1960年代頃から、世の中で一眼レフの普及が 始まると35mm判一眼レフは”ミラーBOX”の存在により フランジバック長が、だいたい45mm前後となる。 その(マウント面までの)距離に見合う位置に 3群4枚のTessar構成レンズを集中配置する事で 焦点距離45mm前後の非常に薄型のレンズができる。 この設計思想は、ツァイス(CONTAX)のものでは 無い。CONTAXの一眼レフは、西独製もあったが、 主流は、1975年のRTSからの日本製CONTAXであり それは薄型Tessarの登場よりも後の時代だ。 で、例えばNIKON GN-NIKKOR Auto 45mm/F2.8 (1969年、現在未所有)あたりが、薄型Tessarの 草分けかも知れないが、他に海外製での実例がある かも知れず、正確な初出は不明だ。 1970年代頃から、各社でも一眼レフ用の薄型 レンズを発売する。設計も製造も容易だし、 小型(薄型)軽量化も、実用的だと思われた。 ただし、Tessar型ばかりとは限らず、もう少し レンズ枚数の多い、(変形)ダブルガウス型の 薄型レンズも多く存在している。 ただ、これら各社の薄型レンズは、とても不人気 であった」 B「何故不人気だったのだ?」 匠「一眼レフの普及期、1970年代では、まだそうした 機材は高価であり、職業写真家層が実務で使う ならばまだしも、アマチュア層では富裕層くらい しか、それを買う事ができず・・ つまりそれは、 一種のステータス(=富の象徴、自慢できる事) となっていたから、大きなカメラや大きなレンズを 持って、周囲の人達を圧倒したい、という気持ちが 強かった。 古代豪族が巨大古墳を作ったり、戦国大名が大きな 城を築くのと同じ事で、大きいカメラとレンズは 周囲に、それを持つ人の”権威”を示す事ができる。 だから、そこに薄型レンズを売ろうとしても ”そんな小さい、貧相なレンズはいらんよ”と、 全く相手にして貰えなかった」 (追記:古代豪族が巨大古墳を築いた理由は、近年では 新説が出て来ている。それによると、単純に「権威の象徴」 とは限らず、”むしろ宗教観によるもの”どいう説だ。 かなり面白いが、詳しく調べてないので現状では割愛する) B「ふうむ・・ で、どうなった?」 匠「国産CONTAXは、後発だったので、遅れ馳せながら 1982年に、大元の発明にちなんだ”Tessar 45/2.8” の薄型レンズ(本レンズの初期型)を発売する。 しかし、一眼レフが一般層にまで普及していた、この 1980年代であっても、CONTAXは、やはり”富の象徴” であり、当然ながら、このレンズは誰も買わない。 結果、早々に生産中止となってしまった」 B「ふむふむ。しかし、金満家の価値観だなあ・・」 匠「1980年代後半、AF化の時代となると、それまで 各社も販売を続けていた薄型(パンケーキ)レンズ は、AF化やマルチモードAE化(≒自動絞り)の 対応が構造的に難しく、全滅してしまう。 つまり、1本もパンケーキレンズが存在しなく なった。 そこからは、バブル期、およびバブルの崩壊だ。 1990年代初頭、アフターバブルで消費者の価値観 が変貌すると、京セラCONTAXは、再びTessarの 生産を開始した。 他に薄型レンズはAF化の世情で存在しなかったし、 CONTAXは、レンズのAF化を見送っていたため、 MFのままのTessarを販売しても特に問題は無い。 そして、パンケーキが既に希少品だったので、 旧型のTessar 45/2.8も、ごく一部のマニア層 の間では、中古市場において人気だった次第だ。 また、”新たな世の中には、受け入れられる かも知れない”という、アフターバブル期での 市場戦略もあっただろう(参考:前述したように 同年1993年には、新機軸の銀塩一眼レフ CANON EOS Kissが発売され、ヒット商品となる)」 B「で、実際に売れたのかな?」 匠「火がついたのは、どこかのカメラ誌で、1990年 にCONTAXから発売された大型旗艦機”RTSⅢ”に 旧型Tessar 45/2.8を装着した写真が掲載された 事からだ。これは、一種の”ファッション”つまり 外見の面白さをコーディネートする思惑があった と思われたが、それを見たマニア層の大半は ”大型機に薄型レンズを付けると格好良い”という 価値観(ファッションセンス)を、瞬時に持つ 事となった」 B「だが、もうパンケーキは世の中に無いのだろう?」 匠「そうだ。この時代(1990年代前半)から、後年の 中古カメラブーム(1996年~2002年頃)に 先駆けて、一大”パンケーキブーム”が訪れた。 既に生産終了となって希少な各社のパンケーキは マニア層に飛ぶように売れ、勿論それらはすぐに 供給不足になるから、投機的観点から、中古相場 は恐ろしく高騰した。 私の場合、相場高騰する直前に、入手が容易な パンケーキを多数所有していた為、投機に巻き込まれる 事は無かったが、一部は、その時点でも既に超高額と なっていた。まあ、当然ながら転売目的だろう。 私は、実際にパンケーキを使って写真を撮ってみて、 たいした事の無い写りや、操作性の悪さに辟易し、 投機的な世情にも反発心が強くなり。多くの所有 パンケーキを、信頼できる(=転売をしない) 知人の上級マニア等に、適価で譲渡してしまった」 B「パンケーキのバブルはどうなった?」 匠「1990年代末には、中古ブームの最中でありながらも 多くのマニア層の間では、パンケーキの”熱病”も もう醒めていた。だって、投機的措置が加わって しまえば、もう純粋な興味は失われてしまうしな。 さらに数年後に至るまで、遅れてきた初級マニア層 や投機層の間で、パンケーキの高額取引は続いていた。 ここから、その時代の”最後の新製品パンケーキ”を 紹介しておく」 レンズは、NIKON Ai NIKKOR 45mm/F2.8P (新品購入価格 38,000円) カメラは、NIKON Df (フルサイズ機) 2001年に発売されたMF薄型標準レンズ。 B「NIKON製か? しかし、デジタル時代に入る頃に なって、MFのパンケーキを新発売するとは・・」 匠「この時代、2000年前後のNIKONは、中古カメラの ブームを受け、銀塩レンジファインダー機の復刻、 銀塩MF一眼レフの新発売、MFレンズの新発売を 行った。 意外なまでに”ミーハー”な企画だが、まあ ”売れるものは何でも売る”という方針だろう。 だが、一部は最初から「投機的商品」としての 企画であり、そこは賛同できなかった。 事実、一部の復刻レンジ機は、そこから20年 以上が経過した現代に至るまで、その機体で 実用的に写真を撮っている人を、ただの1度も 見かけた事が無い。また、当然私も未購入だ。 このレンズは、そうした時代での登場である。 個人的には、改良されたTessarの性能を知りたい とうう知的好奇心があっての購入だったが・・ その世情から、ありとあらゆる誤解を受けた。 特に、これを買うだけで”投機層だ”と思われて しまった事が大いに気に入らず、結果的にこの レンズは”嫌いなレンズ”の代表格となった。 数年間、実用に使っていると、2000年代の末 頃に絞りが故障、これは一度修理に出したのだが さらに数年使っていると、2010年代中頃に、また 絞りが故障、もう”ケチがついた”為に、修理は せず、現在では、絞り開放でしか撮影が出来ない。 ただ、”最後のTessar”としての歴史的価値から 所有は続ける事としている」 B「トリプレットやテッサーは、現役レンズは無いのか?」 匠「写真用(カメラ装着用)の交換レンズでは、さすがに もう無いだろうな。(追記:2023年にTriplet構成の TTartisan 100mm/F2.8が新発売された。シャボン玉 ボケの発生を主眼とした、Meyer Optik Goerlitz TRIOPLAN 100mm/F2.8の「代替復刻版」レンズである。 TRIOPLANには、オリジナル版も、自社系列復刻版も 存在するが、非常に高価な為の代替製品企画だ。 ただし、本記事の執筆には間に合っていなかったので 別記事で改めて紹介する) ただ、少し前述したルーペの類(宝石・時計の鑑定用、 修理実務用、フィルム観賞用、文書や絵画の拡大用 自然観察用)においては、(高級品に限られるが) Triplet型が主流でTessar型も存在すると思われる。 また、写真以外の他分野の光学機器にも使われて いると思われる。 それと、ミラーレス機用として2010年代以降に 各社から多数の「薄型/パンケーキ」レンズが発売 されているが、それらはTriplet型やTessar構成 ではなく、もっと複雑か、又は特殊硝材を用いた 新しい光学系設計だ。 まあだから、「パンケーキ=Tessar」の公式は 成り立たないものだと思っておくのが良い。 では、次のレンズ構成の話に進む」 レンズは、Voigtlander HELIAR Vintage Line 50mm/F3.5 (注:フォクトレンダー綴りの変母音省略、以下同様) (中古購入価格 40,000円)(以下、HV50/3.5) カメラは、OLYMPUS PEN-F(μ4/3機) 2016年発売に発売されたMF標準レンズ。 クラッシックな、3群5枚構成(ヘリアー型)である。 B「5枚構成か? さすがに”クインテット”(= 音楽などでの、五重奏、五人組み(歌唱)、等) とは言わないな」 匠「実は、上記のTessar(1902年開発)よりも、この Heliar(1900年)の方が、僅かに早く開発されて いる状態だ」 B「やはり、トリプレットの改良なのだろう?」 匠「そうだ。Tessarでは、Tripletの後玉を貼り合わせ で作ったが、Heliarでは前玉と後玉が貼り合わせだ」 B「高性能なのか?」 匠「一眼レフ用他、写真用のレンズで純粋なHeliar構成 となっている物は極めて少ない。 現代で、入手および実用が可能なものは、今回紹介 の2機種のみ、全体を通じても35mm判用Heliarは、 史上、5系統くらいしか存在しないかもしれない。 なので、いずれも近代的なHeliarであり、開発当初 のHeliarは、もう実物が何も残っておらず、仮に あったとしても、現代のカメラに装着できる訳では 無いから、比較のしようが無いだろう」 B「ふむ、じゃあ、このレンズは?」 匠「3群5枚の純粋なHeliar型としては、恐らくこれが 最新のレンズだ。だが、硝材等も多分、現代のもの なので、オリジナルのHeliarの特性を、どこまで 再現しているのか?は不明だ。 そして、COSINAの製品企画は、かなりマニアックな ところがある。具体的には、このレンズは、あまり 高い描写力では無い事が、撮っていて良くわかる。 だが、もし、120年も前のHeliarと同じ構成で、 それが現代レンズと同等に良く写るのであれば、 マニア層は”ウソをつけ、クラッシックなレンズが そんなに良く写る筈は無い、これは現代レンズだな?” と、むしろ反感を持ってしまう訳だ。 だから、恐らくは意図的に、このレンズには、あまり 高い描写力を持たせず、古臭い性能としている。 そうすれば、これを買ったマニア層等においては ”ふむふむ、これが昔のヘリアーの写りなのだな”と 納得するからな」 B「なんだか、変な価値観にも思えるが、まあ、 そんなものかも知れないな」 匠「あ、ちなみに最近に、このレンズは、短期間の 販売で生産完了となってしまっている。やはり、 このレンズのコンセプトは消費者層には理解され難い だろう。 なお、生産終了になると、「アレは良く 写った」などの、相場高騰を狙った情報操作が急激に 増えるので要注意だ。あくまでこれは、古い時代の レンズ構成を用い、現代の感覚での最小限とも言える 描写性能を維持しただけの、オールド風レンズだ。 では、次は、やや古いが、純粋なHeliar構成を 採用しつつ、結構頑張ってHi-Fi描写を狙った、 レンズを紹介する」 レンズは、NIKON Ai Micro-NIKKOR 105mm/F4 (中古購入価格 8,000円)(以下、Ai105/4) カメラは、CANON EOS M5 (APS-C機) 1977年発売のMF小口径中望遠1/2倍マイクロレンズ。 B「古いNIKON製のマクロ(マイクロ)か? 写りはどうなのだ?」 匠「恐ろしくシャープだ。しかし、シャープすぎて 反面、ボケ質等への配慮は皆無のレンズだ」 B「それは、アレだ。”平面マクロ”だ」 匠「その通り。コピー機の普及前の時代に、資料等の 写真による”複写”を目的としたレンズだ。 しかし、そこで何故、すでに70年以上も前の古い 時代の"Heliar型”を採用した理由や意図は不明だ。 だが、この恐ろしくシャープに写る特性は、確かに 平面マクロ用途には最適であろう。 近代では、このような特性を持つマクロレンズは 皆無に近く、大変貴重であり、むしろ、近年での 個人的な、”お気に入りレンズ”となっている」 B「発売当時はどうだったのだ? 高評価か?」 匠「全然ダメだった(汗) 本ブログ、「フィルムカメラで撮る」という シリーズで、当時の機体NIKON F2(A)に、この レンズを装着して、銀塩撮影をしている。 その際、この開放F4の暗いレンズは、ファインダー を用いた、ピント合わせが極めて高難易度であり、 かつ低感度フィルムでは、手ブレのリスクも高い。 まあつまり、1970年代当時の機材環境においては アマチュア層においては、このレンズは、”ほぼ 使いこなせない”といっても過言では無い。 1980年ごろのNIKON F3の時代の当時を知る シニアのベテランマニア層に話を聞くと・・ ”ニコンの105mmマイクロは、F4版ではなく、 F2.8版を買えと、皆が言っていた”そうだ。 まあ、確かにF2.8版だと、ピントや手ブレの リスクは低減する。 だが、そちらのレンズも私は所有しているが、 Ai105/2.8(Micro)は、平凡な描写力で好まず 本Ai105/4の方が、遥かに魅力的な個性がある」 B「ふうむ・・ それがヘリアー構成から来る描写力 であるならば、1900年代初頭であれば、凄いレンズ だったのだろうなあ・・」 匠「そう思う。ただ、Heliarの悲運は、第一に 同時代に開発された、Tessarと、そう大きな 描写性能上の差異は無く、より簡素な構造である Tessarの方が、Heliarよりも多く広まった事。 また、Carl ZeissとVoightlander(変母音省略) では、やはり多くの人達は、Carl Zeissを格上と 見なしたことであろう。 だから”Tessarの方が、Heliarより優れる”と 皆が思い込んでしまったかもしれない。 という訳で、Heliarは、残念ながら世界に広まる 事はなく、旧Voightlander社のみで、細々と 生産が続いた、という歴史だ」 B「今、国産で販売されているヘリアーは?」 匠「1999年にCOSINAがVoightlanderおよび、その レンズ名称の使用権を獲得してから作られた Heliar銘のレンズの大半は、純粋なHeliar構成 ではなく、単に開放F値が(F2.5以上程度と) 暗いレンズに冠される名称に過ぎない。 今や本家と言えるCOSINAですらも、純粋なHeliar 構成のレンズは、前述の1本の他は、1機種位しか 存在しないかもしれない、それも現代では、いずれも 現行機種としては残っていない。 まあつまり「もはや昔のレンズ構成」という風な 認識かも知れず、現代でHeliarの真髄を体感する 事は困難だ」 B「よくわかった。少し興味があるので、 他に参考記事はあるか?」 参考関連記事:本ブログ *レンズマニアックスEX 第4回「ヘリアー対決」編 さて、ここからはラストのカテゴリー、Hektorだ。 レンズは、Voigtlander HELIAR Classic 75mm/F1.8 (中古購入価格 45,000円)(以下、HC75/1.8) カメラは、SONY α7S(フルサイズ3機) 2010年発売のヘリアー「改」型構成(3群6枚)の ライカMマウント互換(VMマウント)、レンジ機用 MF(準)大口径中望遠レンズ。 B「3群6枚かあ。すると、トリプレットの全部を ダブレットにした訳だな? 3群3枚=トリプレット 3群4枚=テッサー 3群5枚=ヘリアー 3群6枚=ヘクトール という訳だな、ここで打ち止めか? これ以上、枚数の多いレンズは無いのか?」 匠「3群3枚のトリプレットをベース(原型)とする 上では、ここで終了だ。これ以上枚数の多い レンズは、例えば、ダブルガウス型(6枚以上) 等があるが、まったく別の系譜となるので、本記事 での説明は避けておく。 (追記:2024年に発売された「Lomography Nour Triplet V 64mm/F2 Bokeh Control」は、Tripletを ベースとした3群5枚構成である。本記事の執筆には 間に合わなかったので、他記事で詳細を説明する)」 B「ヘクトールとは? ヘクト(ギリシャ数字の6) という意味か?」 匠「恐らくは、その数字の意味と、ギリシャ神話でも確か そういう名前の神様が居た筈だ、そこからの命名だろう。 多分、HektorとHectorの2種類の記法が(国によって) あると思う。 Hektor自体は、エルンスト・ライツ(ライカ)に よるレンズ名称(商標)だ、だから他社は使えない。 もっとも、これまでのTriplet、Tessar、Heliarも 同様であり、他社では、その名前を使えない。 実例としては、Tessarに相当する構成のレンズは、 ライカではElmar(エルマー)と呼び、フォクト レンダーではSkopar(スコパー)、コダックでは Ektar(エクター)と呼んでいた」 B「なんだ、ここも”名前だけの話”かあ・・・」 匠「そうだ。だから、名前だけで良し悪しや価値を 判断してはいけない、と何度も言っている。 で、Hektorは、戦前の1930年代から、様々な 焦点距離のレンジファインダー機用のレンズが 販売されていたが、詳しい情報が残っておらず、 あったとしても、”投機の為の情報”であるから、 名玉だとか希少だとか幻のレンズだ、とかいった 話ばかりであり(つまり、転売用の情報) 光学的な構成や特徴にまで言及しているような 情報は、極めて少ない。 そして、Hektor名を冠する旧レンズの全てが、 3群6枚構成という訳でも無い筈だ。 ライカ(エルンスト・ライツ社)では、レンズの スペックでレンズ名称を決める事が多く、その 光学系の構成で名称を付けるケースは非常に稀だ。 この命名傾向はCarl Zeiss社(独/西独&東独)とは 全く異なっている。そっちはレンズ構成が主体だからな。 だが、旧Voigtlander社(独/西独等)とは類似であり、 例えばVoigtlander社の1950年代くらいからの製品で、 Ultron、Nokton、APO-Lantharといったものがあり (注:現代のCOSINA社にも引き継がれている名称だ。 ただしCOSINA社の場合は、全て大文字表記である) それらには、命名上の意味や定義はあるが、レンズの 光学系/構成とは完全に無関係だ。 だから、Ultron型、Nokton型、APO-Lanthar型 とかいった構成は存在しない。光学系で名前をつけて いる訳ではないからだ。ここは職業評論家や上級マニア 層でも間違えてしまうことがあるので要注意だ。 ちなみに、Ultron=開放F2(前後)のレンズ。 Nokton=開放F1.5(以下)のレンズ。 APO-Lanthar=特殊硝材(例:ランタノイド系元素 を混入した異常部分分散ガラス等)を用いたレンズ。 という意味だ、ここを間違ってはいけない」 B「説明が難しくて、良く分からん(汗) 要は、世の中にある情報の信憑性が低かったり、 転売の為の過剰評価に注意をしろ、という事だな? しかし、ヘクトールについては、1930年代では、 さすがに古いな」 匠「だが、欲しがるマニア層は現代でも居る。 そこで、マニア向け製品を企画する日本のCOSINA社 では、古い時代のHektorの構成、またはスペックを 現代に蘇らせたレンズ製品がいくつか存在している。 具体的には、COSINA社発売のレンズとして、 2001年:MACRO APO-LANTHAR 125mm/F2.5 →Viso用、Hektor 12.5cm/F2.5の仕様踏襲品。 2010年:HELIAR Classic 75mm/F1.8(本レンズ) →3群6枚構成の、純粋なHektor型。 Leica Hektor 7.3cm/F1.9の代替復刻版。 2021年:HELIAR Classic 50mm/F1.5(別途紹介済) →3群6枚構成の大口径標準レンズ Hektor型ではあるが、Leica製で同等仕様の レンズは無いが、Hektor 50mm/F2.5があった。 がある」 B「なるほど、COSINAでは、昔の時代での、現代では 入手困難なレンズを復刻している訳なのだな?」 匠「他にもCOSINA社での復刻実例は色々あるのだが、 たとえ、上級マニア層や職業評論家層においても この”復刻”の事実について言及しているケースは 極めて少ない。 多分、元製品の情報も、殆ど知られていないような マニアックなものばかりなので、皆、そこまで 調べようが無いのであろう」 B「さて、じゃあ、このHektor復刻版はどうなのだ?」 匠「ちょっと設計が新しすぎるかも知れない。 オリジナルのHektor 7.3cm/F1.9は、1930年代と 古い製品なので、現代での入手は困難で未所有だ。 まあ、稀にそれを所有するマニアが居て、それで 撮られた写真を見る限りでは、ボケ質が、散らかった ように乱雑であり、それはそれで、低画質では あるが、非常に個性的と思え、魅力的だ。 そういう写りを期待して、本レンズを購入したのだが、 フルサイズ機を母艦とした場合に、僅かにその傾向が 出る程度だ。もっと、”派手に散らかったボケ質”を 想像していたが、さすがに近代のレンズで、そこまで 思い切った設計コンセプトには、出来なかったのかも 知れない。 そして画面中央部は、結構シャープに写る、これは Heliar構成の特徴(長所)を、ずっと引き継いでいる 様相が見られる(→前述のNIKON Ai105/4と類似) なので、本レンズHC75/1.8の使いこなしとしては、 フルサイズ機で使って個性的なボケ質を活かすか、 または、μ4/3機で中央部だけのシャープな特性を 活用した、”二刀流レンズ”としての位置づけだ。 ちなみに下写真は、μ4/3機PANASONIC DC-G9 との組み合わせでの撮影だ」 B「なるほど、母艦を変えるだけで、全く別モノの レンズ(写り)になる訳だな、非常に参考になった。 フルサイズ機だけでオールドレンズを使っていては ダメだな、良くわかった。 ”オオタニサン”にも敬意を表し、ボクも”二刀流” の手法を使わせてもらおう」 匠「ちなみにだが、2021年発売のHELIAR Classic 50mm/F1.5は、Hektor類似の「散らかったボケ」が 強く発生する。 まあ、つまり、COSINAとしても本HC75/1.8が、 少し現代的で地味な特徴となってしまった事を 反省し(注:本レンズは短期間で生産終了となって しまっている)、続く機種(HC50/1.5)では 思い切り、その個性を出すように製品コンセプトを 変えたのだと思われる。 また、この75mm系統のレンズも後継型のF1.5版や F1.9では、Hektor類似構成をやめて、思いきり 近代的な(異常部分分散ガラス使用)光学系の Hi-Fiレンズに変貌した」 B「じゃあ、それら両者を買ったら良い」 匠「まあ、HC50/1.5は、当然その個性的描写を得る為に 必要だから、それはともかく、他はHi-Fi描写を 得たいならば、いくらでも代替のレンズは存在する だろうさ。むしろ、本HC75/1.8は、他で代替の 効かないレンズだ。 それと勿論、新しい製品は、中古相場も高いか、 または中古流通がなく、入手困難なのだよ。 古い時代のレンズは当然、中古相場も安価だ。 そして、COSINAの、こういう企画(特に復刻版) の製品は、慌てて買う必要は無い。どうせ基本設計 は、100年以上も前の超々オールドレンズだしな」 B「なるほど、復刻版に関しては、安くなってから買えば 十分な訳だ」 匠「どのレンズが、どういう光学系で、どういう出自や 特徴を持つか? を知らない限り、こういう買い方は 出来ず、”最新の製品が常に良いのだ”という価値観と なってしまうが、それは、そうとも限らない話だ。 又、注意するべきは、希少価値から投機対象と なってしまうケースがある事だ。 前述の、MACRO APO-LANTHAR 125mm/F2.5は、 残念ながら、投機対象商品の最たるものであり、 発売時定価の2倍以上の高額相場で取引されている。 でも、それの出自(つまり、Hektorの仕様代替品) や、その使いこなしの難しさ(=「修行レンズ」) という事は、一切言及されず、投機の世界では、 ただただ「幻のレンズだ」のような話ばかりだ」 B「なんだか、情け無い話だ。 製品の出自や真の価値をわからずして、単に 転売を繰り返しているだけなのか・・?」 匠「そうだ、だから、もう、そこ(投機)には、首を 突っ込まない方が賢明だ。 わかっている人(つまり、マニア層)が、自身の持つ 価値観で(これが、マニアの条件)、必要と思われる レンズを、適価で(すなわち、コスパ重視の思想) 購入すれば良い。ただそれだけだ」 B「良くわかった。 そして、Tripletの系譜での初期のレンズの発展の 歴史についても、だいたい理解した」 匠「そろそろ、ビギナークラスは卒業だな。 本シリーズの第一部は、これで終了するが、 第二部からは、中級クラス向けの話とするか?」 B「え~!? まだ、全然良くわからないよ」 匠「了解した。では続く第二部は、またビギナー向けと する予定だが、ちょっとだけレベルを上げていこう」 B「わかった。少し自分でも勉強しておこう」 ---- では、本記事は、このあたりまでで。 これにて、レンズグルメ入門編の第一部は終了 次回、第二部の開始時期は未定としておくが、 そう遠くない時期に始める事が出来るであろう。 また、本年2024年の記事掲載も、これにて終了だ。
by pchansblog2
| 2024-12-30 21:03
| 完了:レンズグルメ入門編第一部
|
ファン申請 |
||