小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

序 宮城谷昌光が導く、中華統一に至る道

 

 これからは中国を舞台とした歴史小説を取り上げます。まずは宮城谷昌光が描く、中華統一に至るまでの古代中国史。キリスト教布教以前の古代ローマと同じくまだ儒教も仏教も浸透していない、人間が「素」で生きていた時代は「封神演義」や「キングダム」で身近になりました。

 ところで世界史の授業で中国はわずかなもの。しかも時代を細切れにして行ったり来たり。おまけにこの時日本は原始時代のため比較ができず、中国史は手探りの状態でした。

 そこで自分のアタマを整理するために、中国のおよそ「4千年前から2千年前」までの、宮城谷昌光作品にかかる年表を作成しましたので、参考にしてください。

 

 

 

 もう1つ重要なのは、統一までの春秋・戦国期は諸侯が群雄割拠していたこと。日本と違って「土地勘」がなく、諸国の位置関係がわからないと(私です)、作品の理解が進まないこともしばしば。そこで大まかな地図も作成させていただきました。

 

 

 この地理関係を把握するまでは、戦国時代に成長した「秦」を、縦(南北)の繋がりから対抗する(=合従)考えと、横(東西)で連携を組む(=連衡)考えの「縦横家」や「合従連衡」の意味が今一つ掴めませんでした。

 また中国南部の川や運河が多い地方と、山や平原が多い北部を象徴する「南船北馬」という言葉。対立が激しかった呉と越も、両国の間を流れる大河、揚子江を渡る船の中ではおとなしくしたとして、「呉越同舟」の故事成語も生まれました。

 中原から離れ、建国時は辺境と見られた東の「斉」ですが、海に面した地の利から塩田事業によって国を富ませ、強国に成長します。時代は下ってこの地で割拠した「梁山泊(水滸伝)」は、塩を資金源として長く活動を続けた、と北方謙三は設定しました。

 

 中国大陸を貫く黄河は、太古から2年に1回の割合で氾濫を起こしました。人々は洪水から逃れるために黄河中域の「肥沃な丘陵地帯」に集まり、黄河文明を生み出します。当初は「人物と占い」で王を決め (意外と、現代の大統領選に通じるかも)「三皇五帝」の時代と呼ばれます。その後大洪水の治水で成果を上げた人物が王となり、その子孫が王位を継承することで、最古の王朝「夏」が成立したと言われています。

 ところが夏王朝が衰退すると、現代の「商人」の語源にもなった優秀な一族が王の座を「取って代わって」商王朝を築き、王朝一族の交代を「易姓革命」と呼びました。同じく商が衰退すると周王朝へと変遷しますが 、周が統率力を喪失して権威のみとなると、諸侯が群雄割拠して「春秋・戦国時代」に至ります (こちらは、応仁の乱後の室町幕府と戦国大名の関係に似ています)。

 黄河文明から発達した中原の都市の1つは「長安」と呼ばれ、唐の時代まで王朝の中心として長く栄えると共に、シルクロードの起点にもなりました。

 

  *宮城谷昌光(朝日新聞)

 

 日本では国の存在も定かではなかった2000年以上前の時代。孫子や孔子らの思想が生まれて現代まで読み継がれ、国家組織も各地で作られます。なによりも驚くのは、この時代既に何十万規模の軍隊が編成され、戦争を行ったこと。日本でこれだけの軍隊を編成するのは、ようやく明治時代になってから。これは多くの領民を徴兵する「国力」だけでなく、規律と命令系統、そして兵站などを整備する「文明」がないと、遂行できません(戸籍の整備や部隊の指揮に限らず、野外フェスの食事やトイレを想像すれば、イメージし易いと思います)。

 

 そんなスケールの大きな、そして日本にも大きな影響を与えた、中国を舞台とする歴史小説をこれから取り上げていきます。引き続きご愛顧を。

(「ますます」読者の皆さまを、置いてきぼりにしそうですが💦)

 

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