小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

18 按針 仁志 耕一郎(2020)

【あらすじ】

 美しい妻メアリーと可愛い2人の子に恵まれたイギリス人のウィリアム・アダムスは、高給を目当てに新航路を目指すオランダの会社に就職した。1588年にイギリスがスペインの無敵艦隊を撃退したことで、新興国のイギリスやオランダも一攫千金を夢見る時代になっていた。メアリーを説き伏せて、ウィリアムは1598年、5隻の船団の1つ、リーフデ号に乗って新航路開拓に乗り出していった。

 

 ところが航海は悲惨を極める。南アメリカ大陸南端のマゼラン海峡を通るルートで航行するが、海賊に襲われ現地民の攻撃に遭い、1隻また1隻と脱落した。リーフデ号のみが残され、食料も尽き病気も蔓延する中、1600年4月に目的地の豊後に到着した時は、110名の乗員は24名と減り、皆瀕死の状態だった。

 

 豊後の領主から長崎奉行へ、そして大坂城へと通報された。通訳としてイエズス会の宣教師ツズが立ち会うが、ツズはポルトガル人で、イギリス人やオランダ人を目の敵としていた。船内の大砲や火縄銃、弾薬といった武器証拠に、海賊と断定して厳しい処分をするように要求する。

 

 大坂では五大老筆頭の徳川家康が通報を受ける。最新の武器を積んだ西洋船と聞いた家康は、ウィリアムともう1人を大坂に呼び寄せ、直接対応した。宣教師でない、初めて来日したイギリス人のウィリアムの話を聞き入る家康。海外でもカトリックとプロテスタントなどの対立があることを知った家康は、ウィリアムを手元に置いて海外政策の顧問にしようと決意する。

 

 関ヶ原の戦いを目前に控え、荷物の大砲などを豊後から運び、砲撃者のヤン・ヨーステンとともに関ヶ原に向かわせ、空砲を小早川軍に打ち込むことで「返り忠」をするきっかけとなった。

 

  *三浦按針(ウィリアム・アダムス:伊豆伊東観光HPより)

 

 家康は漂着した「紅毛人」たちを宣教師とは異なる人種と理解して、武人、商人、船大工などの技術者として重用する。ウィリアムは旗本に取り立て、通訳をしていた美少女、お雪を妻に娶らせ、日本での永住を求める。ウィリアムはイギリスに置いた妻を思い帰国することを諦めきれず、また日本の文化にはない重婚にあたるため求めを拒むも、家康の意向には逆らえない。結局お雪と結婚するが、事情を話して夫婦生活は行なわない決意を伝えて、お雪を悲しませる。

 

 家康に仕えるうちに、ウィリアムは家康の器量に心服していく。日本文化を身につけようと努め、永住も決意し、お雪とも和解して夫婦としての形を成していく。ウィリアムがイギリスの妻メアリーに宛てた手紙も届き、帰国を促す便りを乗せたイギリス船が日本にも渡航してきた。一度は家康の許可を得るも翻意して、そのまま「三浦按針」として日本に残ることを決意する。

 

 しかし家康死後は不遇で、幕閣から離れ平戸のイギリス商館で働くも4年後に54歳で死去。遺言として遺産の半分はメアリーに譲られた。日本では立派な騎士として生きたと伝える言葉を添えて。

 

 

【感想】

 大航海時代に世界を二分したスペインとポルトガル。ポルトガル人のバスコ=ダ=ガマはアフリカの喜望峰経由でインド航路を築き、スペインの援助を受けたコロンブスはアメリカ大陸を発見した。

 スペインとポルトガルがイエズス会を背景にカトリックの普及に務めるが、新興国のイギリスやオランダは、交易による利益を求めて割り込もうとする。そしてイギリスが無敵艦隊を破り、宗教革命によって生まれたプロテスタントとカトリックの対立もなど、日本にも情報として入ることになる。

 

 

 *三浦按針をモデルとした1980年アメリカで製作された「SHOGUN」はブームになりました。左は細川ガラシャがモデルの配役を演じた島田陽子(映画com)

 

 余りにも大雑把な当時のヨーロッパ情勢だが、日本では先行したポルトガルやスペインに対して、秀吉薨去後に来日したウィリアム・アダムスは、「宗教のフィルター」を通さない西洋知識を伝えることで家康の信頼を得る。そして家康も、天下人にとっては危険な教義を広めるイエズス会に対し、伴天連追放令を発布するまで追い込まれる。しかし天下統一のためには最新兵器の大砲などを必要として、実際に関ヶ原の戦いや大坂の陣で活躍した。

 スペイン人、ポルトガル人はイエズス会の枠を超えないが、ウィリアム・アダムスやヤン・ヨーステンらに対しては、家康は日本の武士としての服従を求める。そしてアダムスは三浦按針として家康の旗本となり、ヤン・ヨーステンは「八重洲」の地名の元となり家康に仕えた。

 視点はウィリアム・アダムスが中心となるため、日本に至るまでの悲惨の航海の状況や、来日してからの「不思議な国ニッポン」を描いて興味深い。男女と生死の距離が、ともにイギリスに比較して極端に短く、重婚を禁じるキリスト教と違い一夫多妻制。主君には絶対服従が要求され、主君の命ならば例え些細な理由でも自害もありうる。そんな中でウィリアム・アダムスは「按針」として日本の武士となり、柳生宗矩、本多正純、大久保長安、崇伝らと共に、駿府で家康の側近(マシーン)となっていく。キリシタンの妻お雪に対して、幕府の政策である棄教を迫る姿は、将来の進路を決める「按針」そのものである。

*海の男を描く白石一郎は、こちらの作品で三浦按針を描きました。

 

 家康の命でマニラに行って外交使節を果たし、来日してから13年目にようやくイギリス商船が来日する。通訳にあたった按針だが、日本の「武士」となった按針から見ると懐かしい母国のはずが、異文化に見えてしまう。結局は日本に残る決断をした按針。

 最後のシーンにメアリーを持ってきたのは、見事な幕引きだった。

 

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