前回は、私がワーキングマザーとしてはじめての復職を果たしたころ、「仕事と育児を両方やるって、いろいろつらいなあ……この道を選んだ私が悪いのかな」と思うようになってしまったきっかけと、そこから脱却するまでについて書きました。
ワーキングマザーが「私が悪いのかな……」から脱却するまで – リクナビNEXTジャーナル
さて、後編です。
自分の考え方を変えたり、周囲から影響を受けたりと、試行錯誤しているうちに、私は「自分がいけないのかも……」期を抜けて、前向きに仕事&育児ができるようになっていきました。
その経験から、体や心に無理をしすぎて倒れたりすることもなく、ソフトランディングで復職するにはどうすればいいのか考えました。この記事では、「自分ができること」「周囲の人が支援としてできること/してほしいこと」を書いていきます。
「自分が悪い」から抜ける方法は?
【方法1】焦らない、復職前の自分と単純比較しない
復職から半年ぐらいは、保育園という新しい環境の中で、子どもがウィルスたちの洗礼を受け病気もしますし、なかなか日々が安定しません。
しかし子どもは、成長するにつれ丈夫になります。あらゆるウィルスを経験することにより、小学生になるころには、ものすごく体が丈夫になっている、という話もあるくらいです(笑)。この期間はいずれ終わると考えて、とにかく焦らないようにしてください。
「復職前の自分と今の自分を比べて、自分を卑下する」というケースもよく聞きます。ですが、勤務時間がかなり短くなって、仕事外のタスクが増えているのだから、「前とまったく同じパフォーマンスを出すのは無理」です。早く、無理だと悟った方がいいです。
とはいえ、サボっているわけでも能力が落ちたわけでもありません。勤務時間が短くなっただけです。ほとんどの人は、復職前が働き過ぎだったんじゃないでしょうか。申し訳ないと思うなら、周囲が納得する額に給料を下げてもらえばいいんです。フルタイム残業ありの男性社員と競いたいのか、いや、競う必要はないのではないか。自分にとっての「勝ち」とは何か? ということを、落ち着いてゆっくりと考えたいですね。
【方法2】「時間ではない価値発揮」を模索する
子どもの病気が減ってきて、夫などとの育児分担にも慣れ、生活が安定してまわるようになってきたら、あらためて「勤務時間が短くなったことによる毀損をなるべく少なくするよう、他の人とは異なる価値が返せないか」を考え始めてみてはいかがでしょう。
「勤務時間が半分なので、同期(同僚)と比較して仕事の難易度も量も半分」という判断は、マネジメント上は楽かもしれません。それで会社も納得しているし、自分の気持ちがおさまる人は、それでいいと思います。しかし、本当の意味で「半分」の存在なのかは、未知数ですよね。だって、ここまで同期と同じだけの社会人経験を積んでいるんだから。そして、同期とあなたは、違う個性を持った人間だから。その経験と能力を、時間内で最大限発揮する方法を考えた方が、自分の気持ちがラクになるし、ワクワクできるんじゃないでしょうか。
私は、この時代に生きるワーキングマザー、あるいは子育てや介護などのケア責任を持った人は、「会社での滞在時間」ではなく「生産性」や「仕事の中身・質」で利益を上げるという点で、新しい働き方を切り開くパイオニアなのだと思っています。「荷が重い……」と思わず、自分の可能性にワクワクしながら、楽しんでやっていけると良いですね。周囲にワーキングマザーが少ないうちは、「親である」「生活者視点を持っている」ということを強みにするのも、良い戦略だと思いますよ。
【方法3】存分に葛藤する、そして時が経つのを待つ
私は人生の信条として、「自分で熟慮して決めたことなら、後悔はしないはず」と思って生きてきました。選択肢が少ない場合でも、できるだけ主体的でありたいな……と考えてきました。そこで、夫とみっちり話し合ってみたところ、「本気で仕事に重心を置きたいのであれば、自分(夫)が家事育児を担ってもいい」と言われました。
そういう状態も「選べる」場合、私はいったい、どうしたいんだろう?ということを、今一度、自分に問うてみました。けれど私は、「復職前と同じような仕事の仕方はしたくない」「せっかく親になったんだから、夕方以降や休日の子どもとの時間も大事にしたい」という結論に至りました。
できる限り主体的に選んだ、自分で決めたんだと思える方が、のちのち後悔も少ないし、前向きでいられるのかなと思います(だから、できれば、現状は少ない選択肢を、もっと増やしていきたいなとも思っているのですが)。
こうした葛藤は、ある程度は「時間が解決する」部分もあると思います。会話ができない、言葉で理解・納得ができない乳児のときに比べると、3歳ぐらいから子どもはどんどんかわいく、面白くなっていきます。そうすると、「仕事と子育て、両方する」という生活が、失うことばかりではないのだと実感できるようになってくるからです。
ちなみに、母親ばかりがずっとキャリア後退するのではなく、父親と時短勤務を交代で取りながら働き続ける……といった風に、家庭内で柔軟に対処しているご夫婦もいるようですよ。
【方法4】「労使は対等だ」という意識を持つ、知識をつける
私たちの世代は「学生運動」や「労働運動」のような行為を、団体で行ったことがないように思います。私は、そういうのってやり方もわからないし、法律や政治についても、そんなに詳しくないしなあ……と思っていました。でも、「そもそも労働者と雇用主は対等な存在ではないのか?」ということには、ずっと違和感がありました。
この問題について議論しているといつも「経営者の立場に立って考えると(あなたのような存在はコスト)」と言われがちで、サラリーマンの人までみーんな経営者の立場に立っちゃって、気がつくと誰も労働者側に立ってないこともしばしば。でも雇用主というのは権力を行使できる立場ですから、気をつけないと労働者は立場が弱くなりますよね。なんだろう、悪いお代官さまみたいになっちゃうというか。だから労働組合が組織されたり、労働者を守る法律があったりするんですよね。
妊娠・出産や、育児・介護に関して、そして職業の選択や労働者の権利については、法律で様々なことが定められています。勉強しましょう。どんな時代も、「知」の力に勝るものはありません。
【方法5】会社の中のワーキングマザーや、会社の外のワーキングマザーとつながる
とにかく、ひとりより、ふたりです。
ひとりで悩まない、抱え込まないことが何よりも大事です。会社の中で、あるいは外で、誰かと一緒に悩み、考え、励ましあっていくのが良いと思います。
今はまだ、会社の中で少数派のお母さんも多いと思います。でも、ひとたび外に出れば、まったく同じようなことで悩んでいる人は、とてもたくさんいる。「量産型ワーキングマザー」って、そういうことです。
【方法6】異動する、転職するなど職場を変える
「会社や組織から疎まれている」「周囲が迷惑そうにしている」というような、理不尽ともいえる扱いを受けたときって、想像以上に心にこたえるものです。これは、経験した人でないとなかなか分からないのですが。たとえば、面と向かってマタハラを受けた……すると、もうそのときに、一刻も早く会社を去りたくなる。その気持ちも、とてもよく分かります。
ただ、「あれー異動したら超快適じゃん☆」みたいに、あっさり解決してしまうことも多いのでは?と思います。今はまだ、トップダウンで丁寧にワークライフバランスやダイバーシティに手をつける企業ばかりではありませんから、ワーキングマザーの扱いが部署によってバラバラだったりします。しかし、人間力とマネジメント力の高い上司が部署に一人いれば、いきいき働ける!というような可能性も大なんです。
「この職場がおかしいんだ」と気がつくためにも、前述したような「外のワーキングマザーの声を聞く」を大事にしてください。さすがにダメだこりゃ、という会社は、転職した方がいいと思います。交渉力を高めるために、スキルアップするのも吉ですね。
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自分の気持ちに何かしら嘘をつきながら生きるのは、けっこうつらいことであるような気がするのです。
とにかく、現状に何か問題があるなと思った場合は、「小さな一歩でいいから、踏み出す」勇気を持ってみてほしいです。
周囲の人は、どうしたら「あなたは悪くない」と伝えられるか
「新しい働き方」とか「キャリアの築き方」とはよく言われますが、それってワーキングマザーがひとりでどうこうできるものではありません。「働き方」も「キャリア」も、組織の仕組みであり、システムだからです。
どんなにワーキングマザー自身が気持ちを奮い立たせても、周囲の働き方や接し方が変わらなければ、これまで通りワーキングマザーは、肩身の狭い思いをしたり体を壊したり、やる気を失ってそっと退職していってしまうでしょう。
この記事を読んでくださっている方で、彼女たちの助けになりたい、最大限の力を発揮してほしいと思う優しい素敵な方に、お願いを書いてみたいと思います。
【周囲1】一緒に、働き方を変えてほしい
ここまで書いてきた私の苦悩と決断には、良くも悪くも、あまり夫が出てきませんよね。私はやはり「ワーキングマザーの進退に大きく影響するのは、夫よりも、会社・職場(の対応)」ではないかと思うです(だからといって、夫が何も変えなくていいという意味ではありません。夫もまた、自分自身の「会社・職場」にいて、そこにもワーキングマザーがいるのですし……分かりますよね)
本音を言えば、「人生における多くの時間を会社に捧げ、滅私奉公してくれる優秀で体力のある男性社員」ばかりを採用したい。でも、そういう人たちって、ぶっちゃけほんの上澄みだけですよね。それ以外の人の中から、熱意のある人やスキルのある人を採用したいならば、女性や、ケア責任を担った男性も視野に入れなければなりません。多様性のある人々が働きやすい職場を目指すことは、採用力という意味でも会社にとってメリットが大きいはずです。
「自分には子どもがいないし、何ができるのか分からない」という方がいたら、まず、働き方を変えることに協力してほしい。会社への滞在時間でしかその人を評価できない制度では、育児中の専業主婦はいつまでたっても再就職が難しいですし、シングルマザーは言わずもがな。介護や自分の病気などで離職する人も増えてしまうでしょう。
会議の時間を夕方より前にして、個々の仕事があまりに属人的にならないよう、不測の事態に交代がしやすい体制や雰囲気をつくってほしい。そうすればあなたが病気をしたとき、有休を取りたいときも、気兼ねなく休める職場になるはずです。
今は個人で勝負する仕事も多いけど、チームで何かを成し遂げる喜びって、組織の醍醐味ですよね。困ったときに仕事を分け合うと、連帯感も強まってきますよ。
【周囲2】復職のとき、歓迎してあげてほしい。「この職場には、あなたのことが必要だ」と言い続けてほしい
勤務時間は短くなるし、子どもに何かあればそちらを優先するが、できれば職場ではこれまで培ってきた経験を活かして、引き続き活躍したい。そう考えるワーキングマザーが多いはずです。
だから、彼女たちが戻ってくるとき、まずは歓迎してあげてください。そして、「時間が短くても自分らしく働ける仕事は何か、評価指標は何か」など、一緒に考えてあげてください。
ワーキングマザーの中には、「自分にとって仕事とは?」や「自分らしい働き方・自分の強みとは?」などを、これまで考えずに済んだ人たちも多いはずです。「らしさ」というのはいつも、人との関係性の中でしか見つかりません。マネジメント・チームワークの中で、その人が活躍できるような「良いところ」を探して、声をかけて伸ばしてあげることが、本人にとっても会社や組織にとっても良いことであるはずです。
【周囲3】ひとりひとりを見てほしい
当たり前のことだけど、「ワーキングマザー」と言ってもいろんな人がいるのです。というか、社員って、いろんな人がいるのです。
「子育てが始まったら、仕事はセーブしてゆる〜くいきたい」という人も、もちろんいます。でも、一見そう見える人の中に「本当はもっと難しい仕事にチャレンジしたいけど、手を挙げると自分ひとりで巻き取らなくてはならなくなる、そうすると残業できない立場としては恐い」と悩んでいる人もいます。そもそも、責任ある仕事の面白さ自体を体験したことがないから、これまでもこれからも言われたことを淡々とやりますよ~、という女性もいます。
非正規社員の大半を女性が担ってきて、正社員と育成方針が大きく異なることを考えれば、分かりますよね。ひとりひとりを見て、ひとりひとりの話を聞いてあげてください。
社員が「こういう風に働きたい」と進言することは、本当に贅沢でワガママなことでしょうか。「会社とはそういうものだ」「組織とはそういうものだ」と、押さえつけている声があるんじゃないでしょうか。手始めにワーキングマザーひとりひとりの声を聞くことは、これまでのやり方が本当に、会社と従業員にとって良いものなのか、時代にマッチしているのか、問い直すひとつのチャンスでもあると思うのです。
「管理しやすさ」を追求して、置き去りになってきたものもあると思います。これまでのやり方にとらわれないで、新しい組織のあり方を一緒に考えてほしいです。
ワーキングマザーのみんなも「自分語り」をしよう
「迷走する両立支援」と「育休世代のジレンマ」。私はこの2冊の本に、かなり救われてきました。そこに共通しているのは、ワーキングマザー自身の言葉を丁寧に拾い、そこから出発して問題を捉える視点を忘れないようにしていることです。
あなたが「悔しかった」「つらかった」経験を、なかったことにしないでほしい。その悔しさ・つらさは、あなただけのものじゃない、もっと普遍的なものである可能性がある。もしそれを、なかったことにしたら、自分の娘や後輩などがまた、同じ悔しさやつらさを経験することになるかもしれない。あなたには、語りたい体験があるんじゃないでしょうか?
「私だけじゃなかった」という気持ちを共有することは、それだけでひとつのいやしにもなる。もし普遍的な問題ならば、ひとりじゃなく、みんなで解決にあたることができますよね。
他のワーキングマザーとじっくり話してみるのもいいし、読書会などを小さな規模で開催してみるのもいいでしょう。ブログのようなメディアで文章として書き残してみて、それを発表してみるのも良いかもしれません(ブログならハンドルネームを使うこともできますしね)。
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最後になりましたが、ワーキングマザーの皆さんは、自分の想いを、キチンと周囲に伝えましょう。困ったときは、SOSを言いましょう。それは、目の前の人を、世の中・社会を信頼するということだから。
そしてまた、それを見守る側の立場として。「自己責任」に返すのは、方法として本当にカンタンなことです。つらい思いをして自分を責めている人に、「あなたは悪くない」と言ってあげられる世の中を、みんなでつくっていけると良いな、と思います。
著者:kobeni (id:kobeni_08)
6歳と1歳の男児を子育て中の母親です。はてなで「kobeniの日記」というブログを書いています。仕事は広告系です。4月から長男が小学校へ。断絶の壁、じゃない小一の壁を乗り越えるぞ!