仕事が辛くて会社に行くのがしんどい――誰しも思ったことがあるのではないでしょうか。中には、「仕事が辛いと思うなんて、甘えではないか」と自分を責める人もいるようです。
この記事では、これまでに1万人超のメンタルを救ったという「金髪アフロと赤メガネ」がトレードマークの精神科医&メンタル産業医・井上智介先生が、仕事が辛いと感じる原因や対処法、辛くてもやらないほうがいいことなどをアドバイスします。
仕事が辛いと感じている人の中には、「仕事が辛くてしんどいと感じるのは甘えではないか、自分が悪いのではないか」などと捉える人がいます。「仕事は辛くて当たり前」と、自分の気持ちに蓋をしてしまう人も少なくありません。
しかし、誰しも一度は「仕事が辛い」「もう働きたくない」と思うものです。つまり、仕事が辛いと思うのは極めて当たり前のことであり、まったく甘えではありません。まずはその認識を捨てるところから始めてください。
誠実で責任感が強い人ほど、仕事に辛さを感じやすい傾向にあります。仕事がきつくても投げ出せず、心身ともに限界を迎えてしまう人や、自分も忙しいのに周りの人の分までサポートしてしまい、バーンアウトしてしまう人などを数多く見てきました。
仕事が辛いと感じるのには、何かしらの原因が必ずあるはずです。「仕事が辛いのは甘えだ」と自分のせいにしてあいまいにやり過ごすのではなく、原因としっかり向き合い、対処法を考えることが大切です。
仕事が辛いという状況を変えたいと思ったときは、次の3ステップで考えてみましょう。辛い気持ちに向き合うことで、現状を変える方法が見えてくる可能性があります。
大前提として、仕事が辛いという気持ちを一人で抱え込まないことが何より大切です。同僚でも友人でも、もちろん上司でも構いません。誰かに頼り、アドバイスを得て、場合によってはサポートしてもらうことが必要です。
仕事の辛さを一人で解決するのは難易度が高いものです。今の状態を変えたいならば、原因ごとに頼るべき相手を考え、相談してみましょう。
そもそも、人に頼ることに抵抗感があるという人もいますが、こと仕事においてはそのハードルを下げてほしいですね。たとえ原因の根本解決にならなくても、誰かに相談するだけで心が軽くなる効果があり、辛さが軽減できるでしょう。
仕事が辛いという現状を受け止め、原因を整理してみましょう。「何となく仕事が辛い」という人もいますが、原因は必ずあるはずです。もやっとしたまま放置していると、辛さの解消法もわからないままストレスを溜め込んでしまうことになります。
自分の気持ちに向き合い、何に辛さを感じているのか、紙などに箇条書きでいいので書き出してみましょう。些細なことでも書き出してみると、どんどん心の奥底にある思いが引き出されるかもしれません。
仕事が辛い原因が見えてきたら、どういう方法を取れば辛さが軽減できるのか考え、行動に移していきましょう。
以下の項目で、仕事が辛いと感じる主な原因と、その対処法について紹介します。自分に当てはまるものを、ぜひ試してみてください。
仕事が辛いと感じる主な原因は、大きくわけて7つ挙げられます。それぞれについて解説していきます。
上司や先輩、同僚や後輩、クライアントなど、仕事で日常的に接する相手にストレスを抱え、辛いと感じている人は非常に多いです。私のもとに相談に訪れる人も、その大半が人間関係の悩みを抱えています。
中でも多いのは、上司やお客さんとうまくいかず悩むケースです。仕事で必ず関わる相手であるだけに、日々ストレスを抱え、仕事への意欲も湧かなくなる人は少なくありません。
過剰な業務量や時間外労働の多さから、辛さを抱えている人も多いです。常に仕事に追われている感があり、気持ちが休まらないとの声もよく聞かれます。
明らかに自分のキャパシティを超えた業務量で疲弊しているのに、「仕事が多くて辛いと感じるなんて、自分は能力が低いのではないか」と自分を責める人もいます。
主に営業職においては、ノルマや事業目標が高く設定されて、達成するのがキツイ…という悩み、不安を抱える人が多いようです。
結果的にノルマ、目標を達成できなかった場合、「営業力が欠けているからだ」と自分を責め、辛さを覚えてしまうケースもあるようです。
仕事で思うような成果が上げられず、会社や上司からの期待に応えられない自分に辛さを覚える人もいます。成果を上げている周りの人と自分をつい比べてしまい、落ち込み自信をなくしてしまう人も少なくありません。
仕事にやりがいを感じず、毎日が辛いという人も多いようです。希望していない部署に配属されてしまい、やりがいを感じないというケースのほか、自分の仕事が誰かの役に立っている実感がないという人もいます。
同じ仕事の繰り返しでやりがいはもちろん自身の成長も実感できず、毎日が苦痛だというケースもあるようです。
一生懸命仕事に臨み、自分なりに成果を出しているのに、いい評価がもらえないという場合も、辛さを感じやすいようです。どれだけ頑張っても報われないという無力感が、会社への不信感につながっているケースも見受けられます。
「この会社で頑張り続けても将来がない」という焦りから、日々の仕事に辛さを感じる人もいるようです。
自分のせいで大きなミスをしでかしてしまった場合も、仕事に辛さを感じるものです。周りに迷惑をかけてしまう申し訳なさや、評価が下がってしまう不安などから、心理的ストレスを感じて辛さを覚える人もいます。
仕事が辛いと感じる原因別に、具体的な対処法をご紹介します。
職場の人間関係で悩み、思いつめ、自分で自分を追い込んでしまう人は少なくありません。視野が狭まり、「相手が悪い」「自分が悪い」と0か100でしか考えられなくなり、被害者思考が極端に強まってしまうケースも見受けられます。
視野を広げ、現状を変える一歩を踏み出すためにも、まずは一人で抱え込まず友人や同僚など信頼できる人に相談することをお勧めします。人と話すことで違う視点が得られ、気持ちが軽くなる可能性があります。客観的なアドバイスももらえ、今の自分に合った解決策が見えてくるかもしれません。
苦手な相手とは無理に関わるのではなく、距離を取るのもいいでしょう。フリーアドレスであれば遠くの席に座る、在宅勤務を取り入れてみるなど、物理的な距離を置くのもいいですし、業務上のやり取りを対面で行うのではなく極力メールやチャットなどのオンラインにするのもお勧めです。ストレスが減り、辛い気持ちが軽くなる可能性があります。
上司が部下一人ひとりの業務量を把握し切れておらず、不均衡になっている可能性があります。業務量が多い、残業が多いなどの場合は、まずは上司に現状を報告して判断を仰ぐのが鉄則です。
その際、「業務量が多いので減らしてほしい」などとザックリと伝えるのではなく、具体的に伝えることが大切。「平均して○時まで働いているので、残業を減らして○時までには退社したい」「○○の業務が多いので誰かに割り振れないか」などと相談すると、上司が判断しやすくなり、状況がすぐに好転する可能性があります。
そのためにも、まずは自身の業務をすべて洗い出し、優先順位をつけてみましょう。そして優先順位が下位のものについて、別の人に割り振ることができないか尋ねてみるといいでしょう。
ノルマや目標が厳しいという場合も、まずは上司に現状を報告しましょう。プレッシャーが強すぎるのであれば、辛さを一人で抱え込んでいても状況は変わりません。上司に相談して目標を変えてもらったり、ノルマを軽減してもらったりすることが大切です。
この場合も、単に「目標が高すぎるので軽くしてほしい」と伝えるのではなく、具体的に伝えることが大切です。たくさんの目標を追わねばならず疲弊しているのであれば、「今の自分のキャパシティでは、すべての目標をクリアするのは難しいので、○○の目標は外してもらい、△△の目標に力を注いで成果を上げたい」などと相談すると、上司も具体的な行動に移しやすいでしょう。
ノルマが厳しすぎるので軽くしてほしいという場合も、「A社の業績が厳しくアップセルの難易度が高い」など、現状を具体的に伝えると、窮状を理解してもらいやすくなるでしょう。
毎日何か1つ小さな目標を設定し、それに向かって取り組んでみましょう。「午前中に伝票整理を終わらせる」「今日中に1つ資料を作る」など、1日で完結するような簡単なものでOKです。自分で設定した壁を越えていくことで、「自分は成果を出している」という実感につながります。自分に自信がつくことで、仕事に対するモチベーションも回復すると期待されます。
同じ仕事をしている上司や先輩に相談するのも一つの方法です。上司や先輩も過去に、成果が上がらず苦しんだ経験を持っているはず。相談を持ち掛ければ、自分の時はその辛さや苦しみをどう乗り越えたのか、仕事をうまく進めるポイントやコツなどを具体的に教えてくれるでしょう。
仕事に価値が感じられないという場合は、自分の仕事の前後が何につながっているのか、思いを馳せてみることをお勧めします。たとえ雑務であっても、必ず何かの仕事につながり、誰かの役に立っているはずです。そして、さらにその先をたどっていけば、エンドユーザーのためになっていることに気づき、介在価値を感じられるかもしれません。
思いを馳せるのが難しい場合は、上司や先輩に聞いてみるのも方法です。会社の中で、自分はいったいどの部分を担っているのか、そして会社全体にどのような影響を及ぼしているのか、質問してみましょう。仕事の全体像と自分の立ち位置が見えてくれば、自身の仕事の重要性を理解でき、やりがいも感じられる可能性があります。
別にやりたい仕事があるから、今の仕事にやりがいを感じないという場合は、キャリア面談や1on1などの場で、上司に伝え続けましょう。自ら発信することで、やりたい仕事につながるような新たなチャンスが回ってきたり、研修の機会が得られたりするかもしれません。
また、この場合も「小さな目標を設定し、それを達成する」のは効果的です。1日でクリアできそうな目標を設定し達成し続けることで、自己肯定感が高まり、日々の仕事にもやりがいを感じられるようになるでしょう。
頑張っているのに評価されないという場合は、「自身の頑張り」と「会社に求められているもの」の方向性がずれている可能性があります。
例えばですが、自分は「顧客とじっくり関係性を築きながら成果を上げている」けれど、「会社はもう少しスピード感を持って数字に向き合ってほしい」と考えている…など、何らかのギャップが生じているかもしれません。
キャリア面談や1on1などの場で、上司に「自分にはどういう働きが求められているのか」を確認し、もしズレがあったらそれを埋める行動を意識するといいでしょう。評価基準も具体的に確認しておけば、無駄なく評価につながる動き方ができると思われます。
大きな失敗をしてしまった場合、誰しもメンタル的に落ち込んでしまうと思います。もちろん、失敗を反省することは重要ですが、ネガティブになり過ぎる必要はありません。仕事において失敗はつきものであり、デキる上司や先輩も過去に必ず何らかの失敗を経験しています。失敗を成長の機会と捉え、「この失敗を次に活かそう」という姿勢を示すことで、上司の評価も変わり、適切なアドバイスももらえるでしょう。
なお、ミス発覚を恐れて隠そうとする人がいますが、ミスが起こった時点で迅速に共有すべきです。一人で抱え込み、自分で何とかしようとしても、たいていの場合は事態が大きくなってしまい、ますます辛さを感じるようになります。部下のミスのフォローやリカバーも、上司の仕事の一つです。まずは素直に相談し、指示を仰ぎましょう。
これらの方法を試してみても現状が変わらないという場合は、社内異動や転職などで、働く環境を変えたほうがいいかもしれません。一人で抱え込むと視野が狭くなる可能性があるため、例えば転職エージェントのキャリアアドバイザーなど第三者のプロの力を借りると、解決の筋道が見えやすくなるでしょう。
なかなか辛い状況が改善せず、心身ともに追い込まれている感じがしたら、早めに産業医や医療機関などに相談しましょう。誰かに辛い気持ちを明かすことで、心が軽くなるだけでなく、話す過程で辛い気持ちの中身が整理され、自分に合った対処法が見えてくる可能性もあります。
いくら仕事が辛くても、やらないほうがいいことがあります。辛いという気持ちが強まると、次のような行動を取りがちなので注意しましょう。
辛い気持ちを一人で抱え込んでしまう人は、とても多いです。前述のように、誠実で責任感が強い人ほど「自分一人で解決すべきだ」と捉え、誰にも相談せずに解決しようとする傾向がありますが、辛い理由に一人で臨むのは限界があります。場合によってはどんどん自分を追い込み、心身ともに疲弊してパンクしてしまう恐れもあります。
まずは友人でも家族でもいいので、誰かに相談してみましょう。心の内を明かすだけでも気持ちが軽くなりますし、別の視点でのアドバイスを得ることで解決の糸口も見えやすくなります。
仕事に辛さを覚えると、つい周りと自分とを比べてしまうようになります。「あの人は成果を上げているのに、自分はできていない」「あの人は上司とうまくやっているのに、自分はぎくしゃくしている」など。辛いときに周りと比べても、自信が喪失しモチベーションが低下するだけです。
このような「人との比較」は無意識に行ってしまうことが多いため、意識的に「人は人、自分は自分」と考え、割り切ることが大切です。
比べるならば、周りの人とではなく、「過去の自分」と比べること。今が辛くても、過去の自分に比べて少しでも成長できていると実感できれば、心が軽くなるでしょう。
辛い気持ちを解消せぬまま溜め込んでしまうと、朝起き上がれずどんどん時間ばかりが経ってしまい、会社に連絡もせず無断で休んでしまう…という事態に陥る場合があります。無断欠勤は誰もが悪いことだと理解しているのに、辛さを溜め込みすぎると「休むことへの罪悪感が強すぎて、連絡できない」「休みの連絡をしたら怒られるかも」」という極端な思考に陥ってしまい、無断欠勤してしまう可能性があるのです。
ただ、1回でも無断欠勤してしまうと、職場での信頼を失い、辛い状況にますます拍車がかかってしまう恐れがあります。心身ともにしんどく、出社が難しいと感じたときでも、せめて会社に一報だけは入れましょう。
ここまでさまざまな対処法や考え方を紹介しましたが、仕事が辛すぎて会社に行くのがしんどい、辛すぎて仕事が手につかないという場合は、自分で対処できるレベルを超えています。くれぐれも無理はせず、早めに人事や産業医に相談したり、医療機関を受診したりしてほしいですね。
責任感が強い人ほど「辛いなんて甘え」「休むなんて逃げだ」などと自分を追い込みがちですが、休むことも人生の選択肢の一つです。一時的に充電期間だと捉えて心身を休めることに集中することで、状況は確実に改善するはずですよ。
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兵庫県出身。島根大学を卒業後、大阪を中心に精神科医・産業医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、一般的な労働の安全衛生の指導に加えて、社内の人間関係のトラブルやハラスメントなどで苦しむ従業員にカウンセリング要素を取り入れた対話を重視した精神的なケアを行う。さらに、すべての人に「大ざっぱ(rough)」に、「笑って(laugh)」人生を楽しんでもらいたいという思いから、SNSや講演会などで心をラクにするコツや働く人へのメッセージを積極的に発信中。『職場のめんどくさい人から自分を守る心理学』(日本能率協会マネジメントセンター)、『職場の「しんどい」がスーッと消え去る大全』(大和出版)など著書多数。
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ビジネスシーンでは、往々にして「忍耐力」が求められることがあります。ビジネスで価値を生む忍耐力とはどのようなものか、忍耐力がある人の特徴、忍耐力の活かし方・鍛え方などについて、ビジネススキル研修を手がける株式会社プレセナ・ストラテジック・パートナーズ代表の高田貴久氏にアドバイスをいただきました。
単純に「忍耐力」というと、必要とされるシーンはさまざまです。では、ビジネスシーンで必要な忍耐力とはどのようなものでしょうか。
それは「長期的なメリットを得るために、短期なデメリットをあまんじて受け入れる力」だと言えると思います。
昔から「損して得とれ」という言葉があります。私が会社員時代にも、営業本部長がいつもこう言っていたのが印象的でした。これは目先の損失をいとわず、将来の大きな利益につなげようとする考え方です。
つまり、耐えた先にメリットがあってこそ耐える意義があるのであり、耐えた先に得るものがなさそうであれば、異動なり転職なり、その環境から早々に逃れるのも有効な手段なのではないでしょうか。その状況を適切に判断し、耐えるべき場面で耐えられることが重要です。
「忍耐」について、より具体的なシーンを分類してみましょう。
例えば、お客様から叱られている場面で、腹が立つ言い方をされているものの「営業成績のため」「自分の成長のため」と捉えて耐える。これはビジネスによくあるシーンであり、望ましい行動と言えます。
例えば、お客様のカスハラ・パワハラが度を越えているにも関わらず、営業成績のために耐え続けることもあるでしょう。しかし、理不尽な要求に対しては、毅然とした態度で言うべきことをしっかり言うことも重要です。
例えば、お客様に叱られている場面で、怒って反論するのは好ましくありません。その場はぐっとこらえ、理論的に納得がいかない点については、日を改めて冷静に説明するなどした方が、良好な関係を継続しやすいでしょう。
例えば、カスハラ・パワハラが度を超えているお客様に対し、「それはハラスメントです」と指摘をした上で、本社のしかるべき部門に報告するといった行動です。本来は望ましい行動ですが、「耐えるべきか否か」の判断を誤ると、【3】と捉えられることもあるでしょう。
これは組織と個人の価値観によってギャップが生じることもあります。自分は「耐えるべきではない」、上司や会社は「耐えるべき」と、明らかに価値基準が異なっているのであれば、そうした組織からは離れた方がいいかもしれません。
ビジネスシーンにおいて「忍耐力がある人」とは、どのような人なのでしょうか。一例を挙げてみましょう。
目先の厳しい状況も、長い目で見ればプラスだと理解できている人です。例えば、不本意な異動や転勤を命じられたときなど、「飛ばされた」「もう未来はない」と絶望するのではなく、「新たな経験を積むチャンスを与えられた。それが将来のキャリアにつながる可能性がある」と、中長期視点で捉えます。
つらいことがあっても「続けていけばきっと良いことがある」と考えて継続できる人です。途中で失敗したときも、投げ出すことなく、失敗の要因を分析して改善につなげていきます。
「目的」を明確にとらえ、「達成するためにはどうするか」を考えることに集中できる人です。周囲から見ると厳しい状況に立たされていても、本人には「耐えている」という自覚がないかもしれません。
つらさや厳しさを認識した上で、感情をぐっとこらえ、理性でカバーできる人です。ストレスを受けたときに耐えることはもちろん、ストレスをかわしたりうまく発散できたりする人も、自分の感情をうまくコントロールできるという点で忍耐力に優れていると言えるでしょう。
上記を踏まえ、忍耐力を鍛える方法をお伝えします。
私がコンサルティングファームに勤務していたころの体験談を例に挙げてみましょう。ある上司は、「全然ダメ」「何考えているの」など、非常にきつい言葉で指摘し、嫌味なボイスメールを送ってくることもありました。最初はつらくて仕方なかったのですが、以下のように長期的目線に変えて捉えると、耐えられるようになったのです。
なお、その上司は仕事中こそ厳しく当たるものの、飲みに行った場ではにこやかに話してくれていました。「仕事と人格は別なんだ」と思えば、厳しい言葉も受け入れられるようになりました。
忍耐力を鍛えるということは、「するべき忍耐」「するべきでない忍耐」を見極められるようになることであるとも言えます。そこで、自分が所属する組織の価値観と自分の価値観が一致しているかどうか、常日頃から意識してみましょう。
自分が「嫌だな」「つらいな」と思うことが、なぜ組織の価値観ではまかり通るのか、自分はその価値観に合わせることができるのか、を考えるのです。それがあまりにもズレていて、合わせることができないのであれば、その先に未来はなく、耐える価値がないかもしれません。
仕事で関わる人から耐えがたいことを言われたり対応をされたりしたとき、つい感情的に反論してしまうタイプの人は、「その場ではぐっと飲み込む」ことを心がけてみてください。言い返さずにいられない場合は、「明日に話そう」「別の機会に改めて話そう」と、冷静に対処しましょう。
私もあるメーカーに勤務していた時期、「おかしいんじゃないか」「間違っているんじゃないか」と思うことをストレートに指摘したことがありました。それに対し「正論であるが、黙っておいてくれ」と、よく言われたのです。
「間違いを指摘して何が悪い」と納得がいかなかったのですが、ふと社内を見渡してみると、さまざまな立場や考え方の人がさまざまな思いを抱えて働いていることに気付きました。なるほど、正論をぶつけることによって反発する人を生み出すより、通常どおり事業を回していくことが先決だと、腑に落ちたのです。
そして「自分はこの環境に一生いるのか。いや、そうではない。限られた時間なのだから、世の中を知る意味においては有意義な時間だ」と、長期的な視点で捉え直すと、気持ちに余裕が生まれました。
上記とは逆に、言うべきことを言えずに黙り込んでしまうタイプの人は、一見すると忍耐力があるように見えますが、「正しい忍耐」ができていないケースもあります。そのようなタイプの人は「信頼できる別の誰かに相談する」「対話は苦手なので、メールで伝える」など、伝達の相手と手段を変えてみるといいでしょう。
「耐えなければ」「忍耐力を鍛えなければ」と考えている方は、「そもそも耐える必要があるのか」を確認してみましょう。長い目で見て自分にとってのプラスにつながらない、自分の価値観に合っていないような忍耐を迫られるのであれば、その環境から逃れた方がいいとも考えられます。
たとえつらくても、「将来プラスになる」「いつか役に立つ」というポジティブな気持ちで取り組めるような仕事、あるいは職場を見つけてはいかがでしょうか。
東京大学理科Ⅰ類中退、京都大学法学部卒業、シンガポール国立大学Executive MBA修了。戦略コンサルティングファーム、アーサー・D・リトルでプロジェクトリーダー・教育担当・採用担当に携わる。マブチモーターで社長付・事業基盤改革推進本部長補佐として、改革を推進。ボストン・コンサルティング・グループを経て、2006年にプレセナ・ストラテジック・パートナーズを設立。トヨタ自動車、イオン、パナソニックなど多くのリーディングカンパニーでの人材育成を手掛けている。
自分に向いている仕事(適職)とは、才能や特性、経験スキルなど、自分の得意分野を生かして成果出すことができる仕事のことです。この記事では、自分に向いている仕事がわかる診断ツールの具体例と活用方法、適職を見つけることによって得られるメリットを、組織人事コンサルタントの粟野友樹さんが解説します。
なお、記事中で紹介する適職診断はわずか3分ででき、「仕事選びの価値観」「隠れた性格」「おすすめの求人検索ワード」がわかります。短時間でできるので、ぜひ試しにやってみてください。
自分に向いている仕事を見つけることは、転職活動中はもちろん、現職でキャリアを積んでいる人にとっても有益です。
ここでは、自分に向いている仕事や適職を見つける4つのメリットを紹介します。
自分に向いている仕事やタイプ、具体的な求人などの情報収集や整理を通じてキャリアを整理して考えることがしやすくなる。
自分に向いている仕事や適職によって、キャリアの方向性がわかると、今後身につけると良い経験やスキルの目標が立てやすくなります。今やっている仕事の位置付けも明確になるので、「なんとなく言われた仕事をする」のではなく、仕事の意義や目標を感じながら働くことができるでしょう。それにより仕事でもプライベートでも、モチベーション高く過ごすことができるかもしれません。
自分に向いている仕事や適職がわかり、明確な目標やキャリアの方向性に向かってモチベーション高く仕事に取り組むことができれば、成果が出しやすくなり、スキルアップもしやすくなるでしょう。
結果として、目標とするキャリアを着実かつ早期に実現することにもつながるかもしれません。
自分に向いている仕事や適職を探すことで、日常の仕事や生活の中で忘れていた価値観や、感情よりも効率性などを重視して優先順位をつけていたことなどを、立ち止まって考えるきっかけにもなるでしょう。
これまで気がついていなかった自分らしさに出会い直し、視野や思考を広げることができるかもしれません。
自分に向いている仕事は、モチベーショングラフなどを使った自己分析やキャリアの棚卸し、上司や同僚からのアドバイス、転職エージェントとの面談、キャリア研修、関連書籍、生成AIとの壁打ちなどによって、知ることも可能でしょう。
しかし、これらの方法は、どれも膨大な時間と手間がかかりがちです。
自分に向いている仕事がわからないときは、まずはオンライン上で簡単にできる「適職診断」などを活用してみると良いでしょう。向いている仕事や職種、企業選びのヒントを得られるかもしれません。
一般的に適職診断とは、自分に向いている仕事探しのヒントを提供する自己分析診断ツール全般を指します。様々な企業や、団体がオリジナルの適職診断を提供しているでしょう。
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リクナビNEXTの適職診断は、仕事選びの価値観に加えて、今まで忘れていたような幼少期の性格なども踏まえて、向いている仕事を分析します。そのため、自分でも想定していないようなアドバイスや分析結果が得られるかもしれません。
これは、「自分から見た自分」と「他者から見た自分」を分析するジョハリの窓のうち「未知の窓」に当たります。本来は自己分析ワークを複数回やって自己理解を深めても見つけにくいようなことが、たった3分の診断で比較的簡単に分析できるかもしれないチャンスとも言えるでしょう。
また、自己への解釈が多様で豊かになることで、転職での仕事探しの幅が広がったり、現職での目標が見つかったりする可能性もあります。キャリアビジョンやキャリアプランが明確になるので、モチベーションも高まりやすくなるでしょう。
リクナビNEXTの適職診断の結果では、「仕事選びの価値観」、「隠れた性格」、「おすすめ求人検索ワード」がわかります。ここでは、診断結果の一部を紹介し、自分に向いている仕事を見つける方法を以下の通り詳しく紹介します。
リクナビNEXTによる適職診断の結果では、仕事選びの価値観として「重視している条件」を紹介しています。その中でも「最も大切にしている価値観」は、診断結果に違和感がないのであれば、社会人の転職の軸として設定できるくらい具体的な言葉で表現されているのが特徴です。
「自分の価値観に合う企業特徴」や、どんな仕事ならばイキイキと働くことができるかなども解説しているため、転職だけに留まらず将来的なキャリアパスの選択に役立つはずです。
リクナビNEXTによる適職診断の結果では、「生まれながらにして持っている性格」に近づくために、環境に影響されにくい幼少期を振り返り、隠れた性格を分析します。
もともとの気質や性格がわかれば、力を発揮しやすい環境・人・カルチャーなどを選びやすくなるでしょう。現在の職場や学校でも、自分の考えを貫くための環境づくり、周囲との関係性の構築や、自分の考えを貫くことを良しとする場の見極めなどに役立つかもしれません。
そのほか、診断結果内で、自分のタイプに向いている具体的な職種例も紹介しているので、異職種への転職、現職でのキャリアチェンジなどの参考になるでしょう。
リクナビNEXTによる適職診断の結果では、仕事選びの価値観や性格タイプに基づいて「おすすめ求人検索ワード」を紹介し、キーワードに当てはまる実際の求人をワンクリックで確認できます。
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約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。
思うように成果が出なかったり評価されなかったり。ビジネスパーソンであれば、モヤモヤを抱えながら「今の仕事に向いていないのでは…」と不安に思った経験があるのではないでしょうか。
仕事が向いていないと感じるタイミングやサイン、その後取るべき対処法などについて、組織人事コンサルタントの粟野友樹さんが解説します。
「今の仕事は自分に向いているのだろうか」と、ふと立ち止まって考えてしまう。
そんな経験は、多くのビジネスパーソンが持っているものです。仕事を始めたばかりの時期や、仕事に慣れてきたころなど、悩みを抱えるタイミングは人それぞれ。時期ごとにどのようなサインが表れるのか、傾向を見ていきましょう。
新卒入社でも中途入社であっても、入社した直後は、新しい環境に慣れないことで「仕事が向いていない」と感じやすい時期です。
それまでの仕事内容や仕事の進め方と違う上に、人間関係もゼロから築いていかなければならず、勤務地や勤務体系の変化により新たな生活習慣にも適応する必要があります。ストレスを感じるのは仕方がないといえるでしょう。
また、「入社前にイメージしていた業務内容と現実が違っていた」「すぐに仕事で評価されるだろうと思っていたが違った」など、期待値とのギャップにより、向いていないと思ってしまうケースも少なくありません。
入社当初は緊張感もあり、とにかく環境に馴染もう、仕事を覚えようと必死だった人も、だんだんと余裕が生まれて周りが見えてきます。日常的な仕事に対応できるようになるからこそ、「思うような成果が出せない」「評価が受けられない」「同年代や入社同期などと比較して活躍できていない」など、社内の自分の立ち位置を意識するようになり不安を感じる人も出てくるでしょう。
また、「1年経験してみて、想像していた仕事内容とずれがあることに気づいた」「目指していたキャリアパスが歩めないと感じるようになった」と思う人や、人間関係に違和感を覚える人、仕事の進め方や周りとのコミュニケーションなどがうまくいかず「社風が合わない」と感じる人なども出てくるようです。
業務に慣れが出てくる反面、仕事に新鮮味がなくなる(マンネリ化する)時期かもしれません。同じような難易度の仕事が続き、成長実感やスキルアップ感が得られないことで物足りなさを覚える人もいます。「新しいプロジェクトにアサインされない」「同年代と比べて、自分だけリーダーポジションを任されない」など、周りとの比較による焦燥感も、「自分だけ評価されていない。今の仕事には向いていないのではないか」と思う要因になります。
入社3年目になると、大型案件などの新しい仕事を任されたり、後輩指導やリーダーポジションなどの役割に就いたりすることも増えるのではないでしょうか。周りからの期待値が高まると、うまく対応できないことで力量不足だと感じ、「せっかくもらったチャンスに応えられない。向いていないのかもしれない」とストレスをため込んでしまう人もいます。
ほかにも、人間関係でうまくいかないケースや、今の仕事を続けた先のキャリア展望が開けないといった不安感も、向いていないと思う要因になるでしょう。
同年代の同僚や友人の活躍の幅が広がっていくため、差を感じやすくなる時期です。例えば「中途同期のAさんはマネジャーに昇進し、Bさんは希望のマーケティング部署に異動して新しいキャリアを築いている。後輩のCさんは営業トップの成績を取っているのに、自分はいつも平均点で営業リーダー止まり。差がついてしまった…」など他者のキャリアとの比較で不安や焦りを感じてしまいます。
周りに転職や独立する人もいる場合は「自分はこのまま今の仕事を続けていていいのだろうか。そもそも、自分に合っているのだろうか」と立ち止まって考えることも多くなるかもしれません。仕事内容の責任の重さや広がりへの負担感、業務のマンネリ化、成長感やスキルアップ感のなさ、将来のキャリア展望の不透明さなどから不安を抱くことは、入社4年目以降も続いていくでしょう。
どの年次にも共通して「仕事が向いていない」と思う要因にはどんなものがあるのでしょう。
同世代の友人や同期が順調に成果を上げていると、自分だけ遅れているような焦燥感から「向いていない」と思ってしまう場合が該当します。
経験年数は重ねているものの成長している実感が得られなかったり、そもそも「仕事を通じてスキルアップしたい」「学びたい」という意欲が湧いてこなかったりする場合もあるでしょう。
自分はできていると思っているのに評価されず、逆に自分よりもできていないと思う同僚などが会社から高く評価されている場合、評価制度や評価者への不満を抱くようになります。自信を失い「自分は向いていない」とモチベーションも下がってしまうでしょう。
今の仕事がこれからのキャリアにどうつながっていくのか道筋が見えなければ、仕事への熱意は徐々に失われていきます。その結果、パフォーマンスも上がらず「自分には向いていない」と思うようになってしまいます。
向いていないと思っていながらも仕事を続けると、ストレスを感じることで心身に不調が生じ、モチベーションやパフォーマンスの低下、それによる評価の低下、上司や同僚など人間関係の悪化…といったように影響が広がっていく可能性があります。
評価が上がらないと自信がなくなり劣等感を抱くようになるかもしれません。するとますます仕事に集中できずにミスを繰り返してしまうこともあるでしょう。昇進や重要な仕事を任される機会が減ってしまうことで、成長実感が得られないという悪循環にもつながりかねません。
では、今の仕事が向いていないと感じたときにはどのような対処法があるのか、考えていきましょう。
まずは、自分が仕事のどの部分に対して「向いていない」と感じるのかを理解することが大切です。不満を感じたり、自信を持てないと思ったりするときはどんな場面なのかを振り返りながら自己分析を進めていきましょう。家族や友人、転職エージェントなど第三者に話を聞いてもらうのも一つの方法です。
すぐに仕事内容や職場環境を変えることが難しくても、仕事のやり方を見直すことはできます。今とは違った仕事の進め方ができるかどうか、まずは上司に相談してみましょう。
具体的に仕事のやり方を変えるには、例えば以下のように進める方法があります。
同じ仕事で成果を上げている同僚や先輩はどんなやり方をしているのか。自分との違いを分析し、ハイパフォーマーが取り入れている工夫をすべて真似してみるのもいいでしょう。
異動の機会があるのなら、自分の適性がある仕事にジョブチェンジできるといいでしょう。自分の適性をしっかり見極める上で、自己分析を深めるほか、自分をよく知る上司や先輩にアドバイスを求めたり、人事の意見を聞いたりするのもいいかもしれません。
資格取得などを通して自分を磨き、「できる・分かるようになった」という範囲を広げていくのもいいでしょう。社外の勉強会、会社が提供するリスキリングの研修などを積極的に利用するのもおすすめです。
自分に向いている仕事や環境を探るために、副業に挑戦するのも一つの方法です。本業とはまったく違う仕事内容に挑戦することで、「自分にはこんな強みがあったんだ!」と気づき、自信を取り戻す機会になるかもしれません。
今の仕事が向いていないのなら、自分に合う環境へ転職したほうがいいのではないか。そう考える人もいるでしょう。
ただ、早急に会社を辞める決断をするのではなく、まずは冷静に、現状を分析することが大切です。漠然とした不安や焦り、環境への不満感から「向いていない」と感じている人、周りから「向いていないのではないか」と言われてそう思うようになった人などもいて、適性があるかないかの判断がしづらいからです。
現職を続けながらできることに取り組むのも一つですし、転職活動を通じて社外の会社や仕事情報に幅広く触れ、社外の人からアドバイスを受けることで、選択肢を広げてみてもいいのではないでしょうか。
仕事が向いていないと思いながら続けるのは、誰にとってもストレスになります。環境を変える方法を探り、自分の働き方を見直しながら、「向いていない」状態を改善できるといいでしょう。
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。
推しや好きな人のことに執着してしまって他のことが手につかない、過去に成功したコトを忘れられずに次のステップに進めない…。そんなふうに何かに執着してしまうことはありませんか?
執着心はなぜ生まれるのか、その原因と手放す方法(ステップ)を心理カウンセラー(公認心理師)の小高千枝さんが解説します。
執着とは、ひと言で言うと、人やモノ、コトに心がとらわれて離れない、離れられなくなっているって心の状態です。人間の心の欲求や願望に深く結びついているもので、一般的には、ネガティブな状態として捉えられています。
例えば、以下のように人に対する羨望が度を越し、嫉妬や妬みの感情を持ってしまうなど、人にはさまざまなこだわりがあります。
恋愛も仕事も、夢中になるものや熱中することがあるのは、本来はステキなことですが、心がとらわれすぎることで、生活の中で苦しみや悩みを生み出すきっかけになってしまうのが執着なのです。
人への執着や、モノに固執したり自分の行動に強くこだわったり、対象はさまざまですが、いくつかの理由が考えられます。
理由の一つが、自分が今これをしなければだめになってしまうのではないかという強迫観念です。例えば、出かけるとき、この順番で仕度をしないと悪いことがあるのではないかと不安で、うっかり順番を間違えるとやり直したくなるなど、強い不安や恐怖感などがあることで、やり過ぎと思える行動であっても止めることができなくなっているのです。
人から認められたいと願い、人から認められることが自分の存在意義のように思ってしまうことによる執着もあります。例えば、推しのアーティストを応援するためにライブ配信やSNSで送金する「投げ銭」。より多くの投げ銭をすることで、自分が誰よりも推していることを認められたいという歪んだ方向に転じてしまうこともあります。
完璧主義であるあるがゆえに、失敗したら自分のことを認めてくれる人がいなくなるなどの思い込みをもち、とにかく失敗を避けたいと思うことも理由の一つ。失敗したくないために、過去の栄光や昔の成功体験に心の中ですがってしまい、前進することや次のステップに踏み出すことを阻んでしまうのです。
他者評価へのこだわりが強く、人からどう思われるかを気にしすぎてしまう人もいます。他者から拒絶されることへの恐怖から、これまでと違う髪型にしたら否定されるのではないか、自分がやりたいようにやったら嫌われるのではないかと思うあまり、今に執着し、自分の行動を制限してしまいます。
今の自分に自信がなく、自分なりの評価基準をもてないから、外にある幸せや人の持ち物、やっていることを理想化して、こだわったり依存したりしてしまうケースもあります。依存し執着することで自尊心が維持できると思い込んでしまい、自分の存在意義を他者に求めて、自分を幸せにしてくれる人や物と思い込み、失わないようにしがみついてしまうのです。
このように、さまざまな理由がありますが、SNSでは理想化された関係性や幸せが投稿され、それを自分の現実や関係性に押しつけてしまうことがあります。
例えば、パートナーといい関係を築けているのに、SNS上にアップされるカップルのキラキラしている姿を見て、自分のパートナーに同じように求めてしまう。同じモノをコレクションしている人のアップする画像を見て、同じくらい所有しないと自分の価値や存在意義が劣ってしまうように思いこんでしまうのです。
すると本当の幸福感や充足感を見失い、執着から抜け出せない状態に陥ってしまいます。
そうした思い込みや執着から解放されるための方法を考えてみましょう。
では、執着を手放すための方法をステップ方式でご紹介します。
執着の対象は、人・モノ・コトがありますが、その対象からまず物理的に距離を置くことが重要。特に難しいのが、対象が人である場合です。モノやコトには感情がありませんが、対人間の場合、相手の感情まではコントロールできないからです。
例えば、恋愛でも夫婦関係でも、うまくいっているときはお互いが歩み寄り合えていたのに、仕事の忙しさや健康状態など何か歯車が狂ったときに、そういう時期もあると受け止めることができればいいのですが、距離を取ることができずに今すぐ過去の良かった関係に戻ることに執着してしまうことがあります。
するとどんどん過去を理想化して、当時の姿に戻れるよう相手をコントロールしたいと思う、一方、相手にしてみれば今の自分を見てほしいと思い、ハレーション(周囲への悪い影響)などが起きてしまいます。
負のスパイラルに陥らないためにも、まず物理的に離れて、執着している自分と対象を客観視する意識をもってみましょう。
失敗を恐れてついつい過去を見ていたり、どう思われるかが気になって知らず知らずのうちに自分の行動にブレーキをかけていたり、執着が強い人はマイナス感情にさいなまれて、自分を抑圧してしまいがちです。
抑圧している感情と向き合い、内省する時間を設けましょう。お勧めしたいのは、自分の心の状態を、なにがきっかけで、どう思って、何をしたのかなど紙に書いて、可視化・言語化してみることです。書いて振り返ってみると、自分を俯瞰することができ、SNSの情報がきっかけになっていたとか、上司の注意は私一人に向けられたものじゃなかったといったことに気づけます。
「1」の物理的に離れて客観視すること、「2」の自分の感情と向き合うことをで、執着でざわついてしまう心のベースを整えましょう。すると、執着の理由が見えてきたり、こだわっていると思い込んでいただけの自分に気づいたりします。自分なりの軸や価値観が見えてくるのです。
ここまでできたら、執着することによって自分は何を得ていたのかなと考えてみましょう。もちろん得たものもあるでしょう、一方で、こだわり続けたことで費やしてきた時間やお金、そしてネガティブな思いにとらわれることで気持ちまで浪費していたことにも気づくはずです。
無駄にしてきたエネルギーを認識し、そのエネルギーをより建設的かつ、心が豊かになる方向に向けられるように意識しましょう。
一つのことに執着をしていると、それがなくなったら生きていけないような精神状態になってしまう人もいます。特定の対象への過度な依存を避けリスクを分散するためにも、まず質の高い人間関係を築きましょう。人・モノ・コトのうち、自分ではコントロールできない対人こそ、複数方面に安心して喜びや楽しみを共有できる友人やパートナーがいることが大きな助けになります。
自分にはいつもこの人がいないとだめ、何もできないという思い込みの重しを外しましょう。今まではいつも誰かと一緒だったところにも一人で行ってみる、散歩をする。まずは自宅で何かを楽しむなど、“一人の時間をゆっくり過ごせる自分”を育てましょう。自分の軸が定まって、一つの人・モノ・コトへの固執を手放しやすくなります。
ここまで執着のマイナス面を見てお話してきましたが、執着がすべて悪いわけではありません。
例えば、職人や専門性のある人は、ある部分への強いこだわりや執着が、技術を高め成長させてくれるものになっているはず。こだわりをもつことで、自己成長のきっかけや朝鮮への原動力、生きがいや目標になることもあります。
ただし、執着の中に自分のネガティブな感情が生まれていると感じたら、原点に立ち返ることが大切。Step1~3を行ってみてください。
ストレス社会で生きる現代人の「心の免疫力」を高めるセッションを提供。個人カウンセリングや企業におけるメンタルトレーニングなどを行うほか、企業顧問として人事支援・育成アドバイザーとしても携わる。メディアでも活躍。著書に『心理カウンセラーがこっそり教える やってはいけない実は不快なしぐさ』(PHP研究所)、『本当の自分を見失いかけている人に知ってほしいインポスター症候群』(法研)など。
「自分が仕事できない」と、自信を失いかけ、悩む人は少なくないようです。しかし、実際にスキルアップの努力が必要な人もいる一方、「できない」と思い込んでいるにすぎないケースもあります。
「自分が仕事できない」と思ったときの考え方や対処法などについて、ビジネススキル研修を手がける株式会社プレセナ・ストラテジック・パートナーズ代表の高田貴久氏にアドバイスをいただきました。
「自分は仕事ができないのではないか」と思うシーンとして、大まかに次の3パターンがあるのではないでしょうか。
それぞれのパターンの具体例と、そう思ったときの考え方についてお伝えします。
上司・先輩・同僚、あるいは取引先の人などから指摘されて気付くパターンです。ストレートに「あなたは仕事ができない」と言われるだけでなく、「怒られてばかりいる」といった状況からも「自分が仕事できない」と思うことがあるでしょう。
この場合、本当にできていないなら、行動を改善したり、スキルを身に付けたりする努力が必要でしょう。しかし、相手が厳しくあたる裏側には「期待」があることも考えられます。あるいは、上司が「成長を促すために、あえて厳しく接している」というケースもあります。
上司や先輩などから明確に指摘はされなくても、周りの人を見て自分と比較し、劣っているように感じるケースも多々あります。一例を挙げてみましょう。
このような場合、自分を卑下してしまうことがありますが、「本当に自分は仕事ができていないのか」を冷静に見つめ直すことが大切です。
もしかすると、「比べている相手」が適切ではないかもしれません。例えば、上司や先輩など、自分より経験があり「知っていて当然」「できて当然」な人と比較してはいないでしょうか。また、個々に得意とすることは異なるのですから、「同期」「同年齢」「同じ部署・職種」といったものは比較理由にはなりません。
比較すべきでない相手と比較して焦ったり悩んだりする必要はないと考えましょう。
自分の担当業務に必要なスキルを理解しており、「あるべき姿」を描いているけれど、「自分にはそのスキルが足りていない」と感じる人も多いでしょう。例えば、次のような場面で力不足を感じます。
これも【2】の「自分自身で、周りと比べて気付く」と同様、「理想」が適切かどうかを見極めることが大切です。その理想像とは「誰かとの比較」によってできたものかもしれません。悩みや焦りを解消するためには「比較しない」ことを意識しましょう。
自分が「仕事ができない人」だと感じたときは、悩みが深くなる前に次のことを試してみてください。
くよくよ悩まずに、まずは「自分は仕事ができないのかもしれない」と素直に受け止めます。そして、実際にできていないのか、一定以上はできているのか、勇気を出して周囲の人に聞いてみましょう。
「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」とも言われるように、客観的な意見を聞かずに、自分の課題を把握できないままでいると、この先もくよくよし続けることになりかねません。
特に、入社1~2年目の新人に見られる傾向として、インターンシップや内定時の評価が高かった人が入社後に伸び悩むことがあります。高い期待を受けて入社したため、できていない自分を客観視できない、客観視するのが怖い、という心理があるのではないでしょうか。
そのようなタイプの人は、自分で自分に貼った「優等生レッテル」を捨て、「良い意味で」あきらめることで、吹っ切れるかもしれません。
私自身、新人時代はその傾向がありました。「こんなことを聞いたら馬鹿にされるんじゃないか」「そんなことも分からないのかと、失望させてしまうんじゃないか」といった不安感から、上司や先輩に聞けなかったものです。
しかし、自分の不安な気持ちに素直に向き合い、開き直って明るく聞いてみると、適切な助言を得られて視界が開けることもあるでしょう。
「同期は同期、自分は自分」「他人は他人、自分は自分」と考えましょう。そもそも自分が思っているほど、他の人たちは比べていないものです。
「健全な比較」によって、ほどよい競争心やプレッシャーを感じることは成長にもつながりますが、「あの人に比べて自分はダメだ」などと思い込まないようにしましょう。
同じ土俵で勝負していると、人と比較して自分が劣っていると感じてしまいがちです。そこで、他者と比べられないような土俵を探し、そこで「自分ならでは」の強みを活かしてください。
私もコンサルティングファームに入社して間もない新人時代、プロジェクトチームの中でなかなか役に立つことができず、悩んだ時期がありました。それでも、エクセルを活用した集計や分析が得意だったので、上司に申し出てその役割を引き受けたのです。すると成果が認められ、自信を持つことができました。
同じ仕事であっても、自分が価値を発揮できる領域や手法を見つけましょう。
私が若手社員だった時代、「バカになりきれるかどうかが大事だ」と言われたことがあります。つまりは「考えすぎない」「自分が正しいと思わない」ということです。
「このやり方こそ正しい」といった変なこだわりは捨てて、できている人のやり方をそのまま真似してみるのも有効な手段といえます。先述の「独自性を持つ」とは逆の発想となりますが、一旦は「自分」を主張することをやめ、周囲を観察して学んでみてはいかがでしょうか。
さまざまな業界・職種の人が参加しているワークショップなどに参加してみると、新たな発見を得られる可能性があります。ディスカッションやグループワークを進める中で、自分の会社では皆が当たり前に持っている知識やスキルが、社会では希少であったり高く評価されたりするのだと気付くこともあります。
自社内では人よりできないと思っていても、さまざまな人が集まる場では「すごい」と褒められるといった経験を通じ、より広い視野で自分を客観視できるでしょう。
社外のワークショップのほか、ボランティア活動やボランティアに近い副業などでも、同じような体験ができるかもしれません。
私がコンサルタントとして駆け出しの頃、「コンサルタントとしてあるべき姿」を追い求めるあまり、「○○の分析をしなければ」「インタビューをうまくまとめなければ」「クライアントに気の利いた提案をしなければ」と、あれこれ抱えて混乱していました。
そんなとき、上司から「できることしかできないんだから」と言われ、救われた気がしたことを覚えています。「できることしか、できない」。そんな割り切りを持てば、ムダな焦りがなくなって気持ちにゆとりができ、前向きに進んでいけるでしょう。
「できないこと」ではなく「できること」に目を向けて、自分の強みを活かしていってください。
東京大学理科Ⅰ類中退、京都大学法学部卒業、シンガポール国立大学Executive MBA修了。戦略コンサルティングファーム、アーサー・D・リトルでプロジェクトリーダー・教育担当・採用担当に携わる。マブチモーターで社長付・事業基盤改革推進本部長補佐として、改革を推進。ボストン・コンサルティング・グループを経て、2006年にプレセナ・ストラテジック・パートナーズを設立。トヨタ自動車、イオン、パナソニックなど多くのリーディングカンパニーでの人材育成を手掛けている。
周りに「仕事を辞める人」がいた場合、どんな前兆があり、今後どのような影響が考えられるのでしょうか。
人事歴20年超、現在は人事領域支援会社を経営する「人事のプロ」曽和利光さんに聞きました。
職場に「辞めようとしている人」がいる場合、仕事への態度や振る舞いなどに、共通した変化が見えるものです。よく見られる前兆をチェックしていきましょう。
辞める意思があり、辞める時期が決まっている人の多くは、これから始まる新たなプロジェクトへの参画を割けようとします。それまで新しい仕事に積極的だった人が、興味を示さなくなった場合、辞める前兆の一つかもしれません。
それまであった丁寧さ、細かさがなくなったり、自分の意向を明確に言わなくなったりと、仕事に対して“雑さ”が見え始める人もいます。一方で、「きちんと引継ぎをして去りたい」という思いから、マニュアル作成を始めたり、必要な書類を整理し始めたりする人もいるでしょう。
仕事をする上で改善すべき問題があっても、「今取り組まなくてもいいのでは」などと先送りしたがるケースもあります。
チームメンバーとのランチや飲み会、社内イベントの参加率が急に悪くなるのも、前兆の一つです。「辞める予定なのに、どんな顔をして参加すればいいのかわからない」と思う人、「どうせ辞めるのだから、社内の人間関係づくりに時間を割く必要はない」と考える人などさまざまでしょう。
退職までに有給休暇を消化しようと急に休みが多くなったり、面接対応で半休や時間給を取るようになったりと、勤怠に変化が起きます。また、それまで残業をしていた人が、急に定時きっかりに退社するようになるケースもあります。
これまではカジュアルな格好で出社していた人が、突然スーツを着用し始める場合、面接対策の可能性もあります。また、わかりやすい行動として、身の回りのものを少しずつ持ち帰るようになり、周辺整理を始めることもあります。
仕事を辞める人が出ることによる、職場環境への影響は、その人が社内でどのような存在かによって異なります。
プラスの評価をされている人であれば、周りは「あんな優秀な人が辞めてしまうなんて、うちの会社に問題があるのではないか」と考えるかもしれません。辞める人が会社や仕事へコミットしなくなればなるほど、周りの人のモチベーションも下がっていく可能性があります。一方、それほど評価が高くない人が辞める場合、周りのモチベーションには大きく影響しないかもしれません。
いずれのケースでも、欠員により進行中の業務が遅れてしまう可能性や、一人あたりの業務負担が増える可能性があります。取引先や顧客の増加、変更などで自分の仕事内容が変わることもあるでしょう。
辞める人の仕事を引き継ぐ際は、その人が持っているノウハウをできるだけすべて教わっておきたいものです。
いつまで職場にいるのかを確認した上で、業務マニュアルや必要書類はすべて引き継いでもらえるよう、引き継ぎの時間を設定しましょう。そのときに注意したいのは、書面にはなかなか落とし込めない”不文律“とも言える情報も細かく教えてもらうことが大切です。
例えば、「この顧客のキーマンは〇〇さん」「担当の△△さんに提案する際は、こういう情報を盛り込んだほうがいい」「●●さんに話を通すときは、こういう点に気を付けたほうがいい」といった、担当者だからこそ分かる注意点を聞いておきましょう。
辞めたあとに質問や分からないことが出てきて問い合わせても、すでに離れた組織のことについて、丁寧に教えてくれる人は少ないでしょう。辞める前に分からない点をすべて解消しておくことが大切です。
辞める人が自分にとって大事な存在であるほど、「あの人が辞めるのなら自分も転職を考えようかな」といった思いが頭をよぎることもあるでしょう。でも、影響を受けて後を追うように辞めたとしても、次のキャリアはバラバラです。転職によって何を実現したいのか明確な意思がないままに、安易に仕事を辞めることはおすすめしません。
人員が減ることは、「ポストが空く」ことでもあります。人材の流動性が高まるほど、空いたポジションに就けるチャンスも広がります。業務負担が増えたり担当領域が変わったりとさまざまな変化に対して柔軟に対応することで、上司や人事からの自分の評価が上がる可能性もあります。新しい仕事を任されるようになり、思いがけない強みが発揮され、スキルが身につくチャンスになるかもしれません。
辞める人が出ることで、残された側は寂しかったり不安になったりと複雑な気持ちになることもあるでしょう。でも、その存在が自分のキャリアを考え直すきっかけになるかもしれません。
人が減ることで担当領域が変化したり、ポストが空いてチャレンジの幅が広がったり、新しいメンバーが入ることで職場の雰囲気が変わる可能性もあります。
環境の変化を、視点を変えるポジティブな機会にしてみてはいかがでしょうか。
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1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャーなどを経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)など著書多数。新刊『部下を育てる上司が絶対に使わない残念な言葉30』(WAVE出版)、『シン報連相~一流企業で学んだ、地味だけど世界一簡単な「人を動かす力」』(クロスメディア・パブリッシング)も話題に。
頑張りたいと思っているのに、なかなか仕事のやる気が出ない…という悩み、誰しも感じたことがあるのではないでしょうか?
この記事では、仕事のやる気が出ない理由と、やる気を出すための簡単な方法について、組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント粟野友樹さんに聞きました。
なぜ「仕事のやる気が出ない」のか、まずはその原因について解説します。
仕事が忙しすぎて疲れが溜まっていると、心身の疲労がやる気にマイナスの影響を与えることがあります。
仕事が忙しいと生活が不規則になりがちで、睡眠時間も削られる傾向にあります。身体的な疲れが取れず、日々だるさを感じてますます気力がわかない…という悪循環に陥っている可能性があります。
今の仕事はやりたい仕事ではなく、興味を見出せないなど、仕事にやりがいを感じないときもやる気が出ない状態になりがちです。毎日同じような仕事の繰り返しでマンネリ化している場合も、やりがいを感じにくいようです。
職場の人間関係も、仕事のやる気に大きな影響を与えます。上司や先輩、同僚と仕事のやり方や考え方が合わない、顧客とうまくコミュニケーションが取れない、苦手な人がいてしんどいなどの理由で、ストレスが溜まりやる気が出ないケースもあります。
給与は働くモチベーションの一つです。成果を出しているのに給与に反映されない、頑張っても昇給する見込みがないという場合は、「努力しても無駄だ」と無力感を覚え、仕事に対するやる気も下がってしまうでしょう。
例えば、営業活動をリモートワークで行いたいのに許されない、和気あいあいとした環境で働きたいのに個人主義の社風でストレスを感じるなど、労働環境が自分と合わないことで、やる気が削がれるケースもあります。仕事用のパソコンが使いにくい、ITツールが導入されず効率的な働き方ができないなども、やる気が出ない原因になります。
プライベートの悩みやトラブルも、仕事のやる気に影響を与えます。仕事に臨んでいても、その悩みが心に重くのしかかり、仕事に集中できないというケースは少なくありません。
上記のようにさまざまな理由が仕事のやる気に影響を与えており、「やる気が出ない」状態はいつでも誰にでも起こり得るものです。「何となくやる気が出ない…」と思ったとき、すぐにできるカンタンな対処法を知っておけば、自分で自分のやる気を鼓舞することができるでしょう。ぜひ以下のような方法を試してみてください。
やる気が出なくても、まずは仕事に着手してみると状況が変わる可能性があります。
気が乗らなくても、嫌な仕事であっても、5分だけやってみれば、徐々にやる気が出てくるかもしれません。
働く環境を変えると、新鮮さを感じて気持ちが切り替わり、やる気が出ることがあります。例えば、フリーアドレスの席を変える、固定席ならばフリースペースで仕事をしてみる、リモートワークを取り入れてみる、カフェやサテライトオフィスなどで働いてみる、など。これだけでも気持ちがリフレッシュできるでしょう。
同じ姿勢のままずっとパソコンに向かっていると、疲れが溜まりやすくなり、仕事への意欲も失われます。定期的に立ち上がって体を動かしたり、お茶やコーヒーを入れたり、同僚と雑談したりしてリフレッシュすると、気持ちが切り替えられるでしょう。
睡眠が十分に取れていないと、心身ともに疲労が蓄積され、仕事のモチベーションにも影響します。睡眠不足だと自覚している人は、いつもより少し早く寝るよう心掛けると、気持ちを上向きにできるでしょう。リラックスできる寝具を用意したりアロマを焚いたりする、寝る直前までスマホを見ないなど、睡眠の質を良くすることも効果的です。
プライベートの充実は、仕事への活力にもつながります。趣味の時間を確保したり、家族や友人たちと過ごす時間を増やしたりすることで、生活にハリが出て、仕事にも前向きに取り組めるようになる可能性があります。
適度に体を動かすのは、気持ちを切り替えるのに効果的です。ランニングやトレーニングなどを取り入れると、リフレッシュでき仕事のやる気も上がるかもしれません。
10~20分程度の散歩やストレッチでも効果があると言われます。仕事でパソコンにずっと向き合っている人は、休憩時間に立ち上がって伸びをするなど簡単なストレッチをして、気持ちを切り替えるといいでしょう。
やる気が出ないときに、「疲れた」「もう帰りたい」「辞めたい」などネガティブな言葉ばかりを口にすると、ますますネガティブ思考になり、どんどんやる気が削がれます。
しんどいときこそポジティブな言葉を意識して使うと、自己肯定感が高まり、やる気が出るようになります。
まずは小さな目標を立てて、それを達成してみるのも一つの方法です。「1本メールを返信する」「資料を1ページだけ読んでみる」など簡単な目標でOKです。達成できたらそれが自信になり、次の目標に挑戦しようという意欲が生まれ、やる気も徐々に高められるでしょう。
気軽にできる方法を試してみても、なかなかやる気が起きない…という場合は、原因が根深いものである可能性があります。次のような方法で根本原因と向き合い、対処するといいでしょう。
やる気を上げる方法を試しても状況が変わらず、慢性的にやる気が出ない状態が続いている場合は、単なる「やる気」だけの問題ではない可能性があります。自分自身にじっくり向き合う時間を設け、なぜやる気が出ないのかを考えてみましょう。
最初にご紹介した「仕事のやる気が出ない」と感じる6つの原因の中から、自分に特に当てはまりそうだと感じたものをピックアップし、どんなときにモチベーションが下がるのか、気持ちがふさぐのか、普段の生活を丁寧に振り返りながら考えてみるといいでしょう。紙などに書き出しながら考えると、気持ちが整理しやすくなります。
やる気が出ない原因がある程度見えてきたら、現職にいたまま解消できそうな問題かどうかを考えてみましょう。以下のいずれかで解消、もしくは軽減できそうな問題であれば、まずは試してみることをお勧めします。
仕事内容が合わない、業務量が多すぎるなどの場合は、上司があなたの志向やキャリア観、業務量やキャパを把握し切れていない可能性があります。上司に相談し、現状について共有するといいでしょう。別の仕事をアサインしてくれたり、業務の一部をほかのメンバーに割り振ってくれたりと、適切な対応が期待できます。
人間関係がどうしても合わない場合は、部署異動やチーム替えを申し出る方法もあります。職場に苦手な人がいる場合は、チャットやメールでのやり取りを増やしできるだけ直接のコミュニケーションを避けるだけでも、気持ちが楽になり、やる気が出る可能性があります。
今の仕事にやりがいが見いだせない場合は、「この仕事ならやってみたい」と思えるものに手を挙げてみましょう。社内プロジェクトなどの公募機会があれば、参加してみるのもいいでしょう。
担当業務の中で「楽しい」「やりがいがある」と思えるものに特に注力し、成果を上げるのも一つの方法です。その業務に適性があることが伝わり、新たな仕事をアサインされるかもしれません。
仕事が忙しすぎて疲弊し、ストレスが溜まっている場合は、思い切って休みを取るのも一つの方法です。有給休暇を取って休息したり、旅行に出たりしてリフレッシュする時間を作ることで、仕事への活力が湧くかもしれません。
業務量が多くてこなし切れず、疲弊しているという場合、仕事のやり方に問題がある可能性もあります。自身の業務内容を見直し、効率化できる部分はないか考えてみるといいでしょう。ムダな工程をなくすことで仕事がスムーズに回るようになれば、残業時間も減らすことができるでしょう。
ねん出した時間でプライベートを充実させたり、生活リズムを整えたりすることで、仕事へのやる気も戻ると期待できます。
やる気が出ない原因を洗い出してみたものの、辞めなければ解決しそうにない問題である場合や、前述の方法を試してみたけれど効果が出なかったという場合は、転職を検討したほうがいいかもしれません。
やる気が出ない原因を解消するには、どんな条件の会社に転職すればいいのかを考え、それをキーワードに転職先を探すといいでしょう。
現在の勤務先が副業OKであれば、転職する前に副業を試してみるのも一つの方法です。興味を持った仕事に副業でチャレンジしてみることで、自分に合うかどうかを見極めることができるでしょう。もしくは、これまで培った経験・スキルを活かせる副業に注力することで、さらにスキルアップができ、現職での評価が高まり給与が上がったり、転職の際にスキルがより評価されたりする可能性もあります。
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約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。
40代になり、いわゆる中堅・ベテラン層と呼ばれる層になったものの、いまいちやりがいを感じられず「仕事を辞めたい」という気持ちがぬぐえない…そんな悩みを抱える人もいるようです。
40代で仕事を辞めたいと思う理由や、辞めたい気持ちへの対応方法、注意したほうがいいことなどについて、組織人事コンサルティングSeguros代表コンサルタントの粟野友樹さんに伺いました。
令和5年の「労働安全衛生調査」(※1)によると、40代で「仕事や職業生活に関して強い不安、悩み、ストレスを感じる事柄がある」と回答した人は87.9%にのぼっており、全世代のうちもっとも高い割合となっています。不安や悩み、ストレスの具体的な内容は、上位より「仕事の量」「仕事の失敗、責任の発生等」「顧客、取引先等からのクレーム」「対人関係(セクハラ・パワハラを含む)」「会社の将来性」となっています。
実際、この年代で勤務先を退職し、新たな環境に転職する人も一定数います。厚生労働省の「令和5年雇用動向調査」(※2)によると、40代の転職入職率は、40歳~44歳の男性が6.3%、女性が11.4%、45歳~49歳の男性は5.3%、女性は8.9%となっています。
前述の調査結果などから考えると、40代が仕事を辞めたいと思う主な理由は、仕事内容や人間関係、仕事の責任の重さや将来展望などにあると考えられます。それぞれ具体的に紐解いてみましょう。
40代は、マネジメントなど責任ある役割を任されやすい年代です。それに伴い業務量も増える傾向にあり、重責かつ業務量の多さにストレスを抱える人が少なくないようです。人手不足の中、チームのマネジメントに加え個人の成果も追う「プレーイングマネージャー」としての活躍を求められるケースもあり、疲弊する人もいるようです。
一方で、「40代なのに責任ある仕事を任されない」という悩みを抱える人も一定数いるようです。企業によっては、組織が硬直化し上位ポストが詰まっていることから、役職に就けず以前と同じ仕事を続けているケースもあるようです。「もっとできるはずなのに機会が与えられない」と自身の扱いに不満を覚える人もいるようです。
40代は、いわゆる中間管理職が多い年代であり、上司と部下の板挟みになって苦労するケースがあるようです。
特に部下や後輩である若手世代との価値観の相違に悩み、指導や育成方法、コミュニケーションの仕方がわからない、飲み会・社内イベントなどの誘い方がわからない…とストレスを抱える人は少なくありません。
社外の人間関係にストレスを覚えるケースもあるようです。40代は、責任者としてクライアントや取引先と相対する機会が多いのが特徴。トラブルやクレームの矢面に立たねばならず、辛さを覚える人もいるようです。
ビジネスパーソンの場合、40代はキャリアの折り返し地点に差し掛かる年代です。ライフスタイルを見直し、今後の支出と現在の収入を見たときに、「もっとお金がないとやっていけないのでは?」「今の会社の給与だけでは足りないのでは?」といった給与に対する切迫した不安・不満が大きくなり、仕事を辞めたいと考えるようです。
会社の給与水準が低く、40代なのに同世代に比べて明らかに収入が少ないという人は、なおさら給与への不安を覚える傾向にあるようです。会社の業績が芳しくなく、賞与が少ない、なかなか昇給しない、手当が少ない、役職手当がもらえないなどの不満を抱えるケースもあります。
40代になると、これから先の昇進や昇格ペースがある程度読めてしまい、先が見えてしまったことでモチベーションが低下してしまったり、徐々にキャリアやスキルアップに停滞感を覚えたりする人が増えるようです。
また、時代の変化に対応するためにリスキリングを強いられ、これまで長年培ってきた経験やスキル、能力が活かしにくくなったことへの不満ややるせなさも影響しているようです。
40代のベテランになると、これまでの経験値で対応できる範囲が増えたことで、仕事の中で刺激を受けることが少なくなりマンネリを感じやすい傾向にあります。いくつになっても成長し続けたいのに、そのチャンスが得られないことに不満やいら立ちを覚えるケースがあります。
また、40代になるとフィードバックを受ける機会が減ってしまい、自身に足りない点、磨くべき点などを把握しにくい傾向もあり、歯がゆさを感じて「辞めたい」と思う人もいるようです。
上記のような理由で、40代で「仕事を辞めたい」と思う人は少なくありませんが、役割や立場、家族の存在などもあり、安易に踏み切れないという人が大半かと思われます。
40代が「仕事を辞めたい」と思ったとき、その気持ちにどのように向き合い対応すればいいのか、解説します。
まずは「辞めたい理由」に向き合い、仕事を辞めずに不満や不安を軽減・解消できる方法がないか、考えてみましょう。
仕事内容や役割への不満、人間関係のストレスなどは、今いる環境を変えることで解消できる可能性があります。例えば、部署異動を申し出たり、転勤や出向などを願い出たりするのは一つの方法です。
重責かつ業務量が多く、疲弊している場合は、同じような立場にある先輩や同僚に相談したり、気心の知れた上司に「自分のような立場だったときにどのように対処したか」など経験談を聞いてみたりするのもいいでしょう。現状を変えるためのヒントを得られる可能性があります。
思い切って休暇を取るのも有効です。有給休暇も取らずに働き続けてきたのであればなおさら、数日間仕事から離れ、ゆっくり休養するのもお勧めです。リフレッシュでき、仕事への活力も復活するかもしれません。
仕事に対するモチベーションが上がらない、給与が安くて不満などの場合は、副業にチャレンジするのも選択肢です。
今の環境で我慢して40代を乗り切ったとしても、よりハードな状況が待っているかもしれません。例えば50代は、多くの企業で役職定年があり、年収も役職も上がりにくい傾向にあります。それに伴い以前の部下が上司になる可能性もあるでしょう。リスキリングの推進を受け、担当業務によっては社内失業状態に陥ってしまうケースも散見されます。
そのような状況に陥る前に、副業に挑戦して自分でキャリアの選択肢を増やしておくことは重要です。自身の強みをより活かせる仕事や、経験をベースに新たなチャレンジができる仕事、自分が得意であり楽しみながらできる仕事などを副業に選べば、自身の引き出しが増やせる充実感や、自分の可能性を再発見できるワクワク感、いざというときのために収入減を増やせる安心感などが得られると思われます。
やりたいことが明確にあるならば、これまでの経験やスキル、そして人脈を活かし、独立・起業するのも方法です。自分の強みが活かせる仕事で、裁量権を発揮しながらイキイキ働けるでしょう。
安定した会社員の座を捨てることになるため、チャレンジングではありますが、40代ともなれば自身の方向性が定まり、ベースとなるスキルは十分に持ち合わせている人が多いはず。これまでの経験やスキルに加え、否応なく経営の知識も磨かれることから、50代・60代に向けたキャリアの可能性も広がると考えられます。
一昔前までは、40代以降の転職は難易度が高いとされていましたが、深刻な人手不足を受け、ベテラン層を積極的に採用する企業は増えています。それに伴い、40代以降の転職者も増加傾向にあります。
株式会社リクルートが発表した「ミドル世代の転職動向」(※)によると、40代・50代のミドル世代の転職者が増えており、リクルートエージェントにおける転職者の推移を見ると、2014年度を1とした場合2022年度は3.79、2023年度は5.00に増加しています。人手不足に加え、多くの企業が事業変革のために豊富な知見・経験を持つ人材を求めており、これまで20代・30代を中心にキャリア採用をしていた企業が、ミドル世代に採用ターゲットを広げている格好です。以前よりも求人が増え、選択肢も広がっていることから、転職で現状の不安や不満を解消するという方法も大いに考えられます。
出典:株式会社リクルート「ミドル世代の転職動向」(2023年)
現状に強い閉塞感があり、ガラっと環境を変えたいという場合は、物理的に生活環境が変わるU・Iターン転職やJターン転職で地方に移住するという選択もありだと思います。少子高齢化が進む地方では、40代でもまだまだ若手というケースが少なくありません。都心の企業に比べると、給与水準や人材制度などの労働条件などは変わるかもしれませんが、「自分は必要とされている」と感じながらモチベーション高く働けるでしょう。
前述のように、40代で「仕事を辞めたい」と思った場合にはさまざまな選択肢が考えられますが、同時に注意しておきたい点もあります。次のような点に注意したうえで、現状を変える行動を取りましょう。
40代ともなると、社会人歴も20年を超え、さまざまな経験を積んでいます。だからこそ、自身の強みの軸や、得意・不得意を見失っているケースも見受けられます。
仕事を辞めるという決断をする前に、まずは「自分を知る」ために自己分析を行うことをお勧めします。仕事でさらなる成果を挙げるためにも、そして転職でキャリアを選択する際にも、自己分析の結果が活かせるでしょう。
これまでの経験を振り返って棚卸しし、経験やスキルを洗い出すとともに、特に力を注いだこと、熱心に取り組んだことなどを思い出していくと、自分の強みや持ち味が見えてきます。そして、ターニングポイントごとになぜその選択をしたのか、当時の気持ちになって思い出してみると、自分が大切にしていることに気づけるでしょう。
40代の中には、「もう先が見えてしまった」「これ以上の成長は難しいだろう」などと、自分のキャリアを半ば諦めている人も見受けられます。ただ、現在は「人生100年時代」と言われています。80歳まで働くのも当たり前になりつつある今、40代からのキャリアは「あと40年近くもある」とも考えられます。
不安や不満、ストレスを抱え「仕事を辞めたい…」と悩んでいるのはもったいない。前述のような方法で悩むに向き合って対処し、気持ちを切り替えましょう。自己分析などをもとに、自分の強みや持ち味が最大限活かせそうな環境はどこか考えるなど、前向きに今後のキャリアを検討する姿勢が重要です。
ミドル世代の採用が増えていることをお伝えしましたが、仕事を辞めてから転職活動をするのはあまりお勧めできません。業務量が多く転職活動する暇がないという場合も、できる限り在職中に情報収集を行うなど、転職活動を進めるようにしましょう。
40代は、子供の教育費や住宅ローンなど、支出が多い世代でもあります。辞めてから転職活動しても、すぐに次が決まればいいのですが、難航してしまった場合に生活費などの懸念が生じ、焦って意に沿わない転職を決めてしまう可能性があります。
自分の力が最大限に活かせそうな場所をじっくり探すためにも、業務効率化などを進めながら、転職活動の時間をねん出して臨みましょう。
退職・転職は、家族の生活にも大きな影響を与えます。家族やパートナーがいる場合は、「辞めたい」と思った時点で相談し、話し合ったほうがいいでしょう。
仕事を辞め、転職することに賛同してくれるか否か、OKであればいつ頃のタイミングがいいのか、生活費を考えると年収はどの水準を維持しなければならないのか…などをすり合わせておくことが大切です。
40代は「仕事を辞めたい」と思っても、不満や不安をなかなか口に出せず、一人で抱え込んでしまう人も少なくありません。家族に仕事への不満や愚痴を聞いてもらい、「辞めたい」という気持ちに共感してもらえるだけでも、心が軽くなるかもしれません。
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企業で働くにあたり、残業や休日出勤を軽減したい、なくしたいと考えている人は多いのではないでしょうか。「働き方改革」に取り組む企業が増える昨今、「36協定(サブロク協定)」という言葉を耳にする機会が増えています。これは時間外労働・休日労働に関する、企業と従業員の取り決めを指します。36協定ではどのようなことが定められているのかについて、社会保険労務士・岡佳伸さん監修のもと解説します。
「36協定(サブロク協定)」とは、時間外労働や休日労働について、労使(労働者と使用者)間で決めた協定を指します。労働基準法第36条に基づいているため、一般的に36(サブロク)協定と呼ばれています。正式名称は「時間外・休日労働に関する協定届」です。
労働基準法において、労働時間は原則として「1日8時間、1週間で40時間以内」と定められています。この法定労働時間を超えて働く場合、「1日」「1カ月」「1年」と、それぞれの期間に対する時間外労働の上限について、労働者と使用者との間で36協定を締結します。
これを労働基準監督署に提出することで、事業主は労働者に対して時間外労働・休日労働を命じることが可能となるのです。
36協定を結ばずに労働者に時間外労働をさせた場合、労働基準法違反となり、罰則が科せられることもあります。
36協定は、労使で締結しますが、その際の労働者の代表は、パートやアルバイトも含む労働者の過半数で組織する労働組合か、組合がない場合には労働者の過半数を代表する人(過半数代表者)が務めます。
経営者や管理監督者(※)は、過半数代表者にはなれません。また、使用者が指名した人や使用者の意向で選出された人は、過半数代表者としては認められません。
時間外労働や休日労働について労使間で協議し、合意した内容は、書面の作成をもって締結します。この「36協定書」を含む必要書類を、所轄の労働基準監督署に届け出ます。
(※)管理監督者…「経営に関わる職務内容」「一部の業務に関して経営者と同等の権限を持つ」「労働時間を自分の裁量で決定できる」「職務相応の賃金を得ている」の要件を満たす労働者
「法定労働時間」とは、労働基準法で定められている労働時間を指します。現行法では以下のように規定されています。
一方、「所定労働時間」とは、企業が就業規則に基づいて定める実働時間を指します。始業時間から終業時間までで、休憩時間を除いた時間です。
36協定での締結・届出が求められるのは、「法定労働時間外の労働」です。所定労働時間を超えた場合は、時間外労働をしたとはみなされません。
例えば会社の就業時間が9時~17時で、昼休みが1時間ある場合、所定労働時間は7時間です。18時まで働くと1時間の残業になりますが、労働基準法で定めた1日8時間の上限は超えていないため、法定上の時間外労働は0分です。
●所定労働時間が7時間の場合(9時始業・休憩1時間・終業17時・所定労働時間が7時間の場合)
36協定の締結・届出により、事業主は労働者に時間外労働・休日労働を命じることができますが、その時間には上限があります。時間外・休日労働の上限は「原則月45時間、年360時間」とされ、臨時的な特別な事情がないかぎり、上限を超えてはいけません。
月45時間ということは、週休2日制の企業を例にとると、おおよそ1日あたり2時間の時間外労働が協定の範囲内となります。
上記のとおり、時間外労働・休日労働の時間には上限が設けられていますが、「臨時的な特別な事情」=「特別条項」がある場合、上限を超えた時間外労働が可能となります。
時間外労働・休日労働の上限時間は「原則月45時間、年360時間」とされていますが、「特別条項付きの36協定」を締結すれば、時間外労働の時間を引き上げることができます。
36協定の特別条項で定められる「臨時的な特別な事情」としては、一例として以下のようなものが挙げられます。
また、特定の理由を定めず、「業務の都合上必要なとき」とされるケースもあります。
特別条項がある場合でも守らなければいけないのは、以下の4点です。
なお、1と2は、特別条項を締結しているかどうかに関わらず、36協定共通の制限になっています。
これらのどれか1つでも超えると、違反とみなされます。例えば、5月が時間外労働90時間で、6月が80時間なら、どちらも1は満たしていますが、2カ月の平均は85時間になり、2に違反したことになります。
労働時間規制や割増賃金の計算の際も実労働時間で計算されるため、年次有給休暇等を取得した日は当然0時間になります。
所属する企業が36協定の締結・届出をしていても、従業員自身が時間外労働をしてしまうと、自社が労働基準法違反とみなされる可能性があります。違反を防止するため、働く個人が労働時間を意識することが大切です。次のようなことを心がけましょう。
勤怠管理システムを導入している企業などであれば、規定の労働時間を超過しそうになると事前にアラートメールが届くといった仕組みがあります。自社に勤怠管理システムがある場合は、自身の労働時間の状況を確認しながら業務スケジュールを立てましょう。
勤怠管理の仕組みがない場合も、自己管理を心がけてください。それぞれの業務にかかる時間を算出し、優先順位を付けるなどして、スケジュールを組むといいでしょう。
抱えている業務を時間内に終えられそうにないならば、早い段階で上司に報告し、業務の量やスケジュールを調整するなり、一部業務を他の従業員に割り振るといった対処法を相談しましょう。
有給休暇をしっかりと取得することも重要です。また、会社が定める各種休暇制度(連続休暇・特別休暇など)を把握しておき、積極的に申請して休暇をとることをお勧めします。
自身の担当業務のうち、規定労働時間内に終えられないことが多い業務、残業の発生原因となる突発的な業務などを明確化しておきます。その業務については、効率化の工夫をする、事前にできる範囲で備えておくなどの対策をとるといいでしょう。
企業は、従業員の週40時間を超える労働が1月当たり80時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められるときは、従業員の申出を受けて、医師による面接指導を行わなければならないとされています。
36協定の範囲内の労働であっても月80時間を超える労働を行うと疲労等が蓄積すると考えられています。積極的に医師の面接指導を受けて健康管理に努めることが重要です。
2024年4月より、36協定の上限規制が適用されない業務の対象が変更され、ほぼすべての業種が上限規制の対象になっています。しかしながら、現在も「対象外」とされる業務・職種・ケースがあります。
36協定による労働時間の上限規制になじまない業務として「新技術・新商品等の研究開発業務」が挙げられています。例えば、専門領域の知識を持つ研究開発職、新製品開発に携わるエンジニア、新商品・サービスの企画開発職といった職種・業務においては、36協定の適用対象外となります。
ただし、週40時間を超える時間外労働が月100時間を超えた場合、事業主は労働者に医師の面接指導を受けさせる必要があります。
2021年4月より、36協定届が新様式に変更されました。変更のポイントをご紹介します。
働き方改革関連法により、2021年4月から36協定届の様式について、以下が変更されました。
大手人材派遣会社、自動車部品メーカーなどで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。各種講演会講師および記事執筆、TV出演などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。