「仕事に行きたくない」「会社に行きたくない」と感じ、ストレスを抱えている若手ビジネスパーソンは少なくないようです。この記事では「新人・若手の早期離職に関する実態調査」アンケートから、早期退職した若手ビジネスパーソンが「仕事や会社を辞めた理由」について紹介します。
その上で、退職する決断に至る前に、なぜ「仕事に行きたくない」「会社に行きたくない」と思うことがあるのか、その根本原因と対処法や仕事や会社がつらくてもやらないほうがいいことなどについて、人事・採用コンサルタントとして多くのビジネスパーソンと向き合ってきた曽和利光さんに解説していただきました。
目次
【調査で見る】社会人1~3年目が仕事を辞めたい、会社を辞めたいと感じる理由
「仕事に行きたくない」「会社に行きたくない」という感情と、「会社を辞める」決断は必ずしも直結するわけではありません。しかし「仕事に行きたくない」「会社に行きたくない」という感情が長く続くことで、退職を考えたり、キャリアを見直したりするきっかけになることはあります。そこでまずは、社会人1~3年目のビジネスパーソンへの調査結果をもとに、若手ビジネスパーソンが仕事や会社を辞めたいと感じる理由についてひも解いてみましょう。
会社を辞めたいと思ったことのある人は58%
リクルートマネジメントソリューションズの「2023年 新人・若手の早期離職に関する実態調査」によると、社会人1~3年目の若手ビジネスパーソンの半数以上に当たる58.8%が、「会社を辞めたいと思ったことがある」と回答しています。そして、実際に退職した人(自己都合での退職)も、17.5%に上っています。
会社を辞めたい理由のトップは「仕事にやりがい・意義を感じない」
実際に退職した人の「退職理由」を聞いたところ、上位から順に「労働環境・条件が良くない」「給与水準に満足できない」「職場の人間関係が良くない、合わない」「上司と合わない」「希望する働き方ができない」「成長できる見通しが持てない」という結果になりました。
労働時間や休日の取りやすさなどを示す「労働環境・条件」が悪いという理由が上位にあるのは、若手ビジネスパーソン個人の仕事観として、プライベートの充実を含めた「自己の幸福を追求しやすい組織」を選ぶ傾向が高まっていることが背景の一つにあると考えられています。
そして、「退職には踏み切っていないものの辞めたいと思ったことがある」人が辞めたいと思った理由については、「仕事にやりがい・意義を感じない」(27.0%)、「給与水準が満足できない」 (19.0%)、「自分のやりたい仕事ができない」(12.8%)が上位となっています。
これは、新人・若手が、個性ややりがい重視の教育施策を受けていることや、SNSが発展し、さまざまな価値観や成功事例に日常的に触れられる環境下に置かれていることが背景の一つにあると考えられています。
(出典)株式会社リクルートマネジメントソリューションズ「2023年 新人・若手の早期離職に関する実態調査」
【専門家が分析】若手ビジネスパーソンが仕事や会社に行きたくない「2つの根本原因」
前述の調査の結果、社会人1~3年目という若手ビジネスパーソンがさまざまな理由で「仕事を辞める」決断をしていることがわかりました。
ここからは、人事・採用コンサルタントの曽和利光さんが自身の経験をもとに、若手ビジネスパーソンが「仕事に行きたくない」「会社に行くのがしんどい」と感じる根本原因や対処法について解説いただきます。
企業研修や採用の現場などで、多くの若手ビジネスパーソンに接していますが、20代の若手ビジネスパーソンが「仕事に行きたくない」「会社がつらい」と感じるのは、大きくわけて2つの根本原因があると考えています。
仕事にやりがいを感じられず、没頭できないから
多くの若手ビジネスパーソンに触れていると、実際アンケート結果のように、仕事にやりがいを感じない、自分に合わないという理由で「会社に行きたくない」と思っている人がとても多いと感じます。
従業員が仕事に対してやりがいを感じ、熱意をもって没頭できている状態を「ワークエンゲージメント(が高い状態)」と言いますが、「仕事に行きたくない」と感じているときは多くの場合、このワークエンゲージメントが低下している状態にあると考えられます。
ワークエンゲージメントは、「仕事の資源と、本人への仕事の要求度のバランスが取れていない」場合に低下すると言われています。「仕事の資源」とは、上司や先輩、同僚からのサポート、仕事での裁量権、仕事上で活用できるツールなどを指し、「仕事の要求度」は、業務量や責任の負荷、プレッシャーなどを指します。
したがって、「与えられた仕事が自分の能力に合っておらず負荷が大きすぎる状態にある」か、もしくは「仕事に臨むためのサポートが手薄である」か、どちらかの理由でアンバランスが生じていて、「仕事に行きたくない」「会社に行くのがしんどい」と感じているケースが多いと考えられます。
慣れないルーティンや不規則な生活で疲れているから
ただ、若手ビジネスパーソンの場合はワークエンゲージメントの問題よりも、実は「フィジカル面」が根本原因である可能性が高いと思われます。
「病は気から」などと言いますが、若手ビジネスパーソンにおいては逆で、心身の不調が会社や仕事に対する気持ちにマイナスの影響を与えているケースが多いと推測されます。
特に新人~第二新卒は、社会人になってからまだ日が浅く、「決まった時間に起きて出社し、決まった時間まで働く」という日々のルーティン(型どおりの決まった生活)に慣れ切っていません。人間の本能として、若いときには新しいことに挑戦したり、新しいものを積極的に取り入れたりしたいという欲求が強い傾向にあり、定常的な状態は苦手とする人が多いため、慣れないルーティンを毎日繰り返すことにストレスを感じ、疲れてしまう人がいるようです。
また、「まだ若いから」と自分の体力を過信している人も少なくありません。翌日仕事なのに夜遅くまで飲んでいる、深夜までネットを見ているという人も多いのではないでしょうか。
就寝時間が遅くなると、睡眠時間が減り生活リズムが崩れます。そして寝不足が続けば当然ながら疲労が溜まり、それがメンタルへとマイナス影響を及ぼします。
人間は、自分にとって何か不都合なことがあると自己正当化しようとする生き物です。そのため、本当は生活リズムが乱れ、疲れているから仕事に行くのがしんどいのに、「『夜更かしで疲れているぐらいで仕事や会社に行きたくない』と思っている自分を認めたくない」という心理が働きます。その結果、本当は仕事内容や人間関係にはさほど問題がないにもかかわらず、「このネガティブな気持ちは仕事のせいではないか」「会社の人間関係のせいではないか」などと思い込み、自分を納得させてしまうケースがあるのです。
仕事に行きたくない・会社に行きたくないという気持ちを放置するとどうなる?
「仕事に行きたくない」「会社に行きたくない」という気持ちをそのまま放置してしまうと、次のような状態に陥る可能性があります。仕事に行きたくない理由に向き合い、早めに対処することが大切です。
バーンアウト(燃え尽き症候群)してしまう
仕事の資源と要求度のバランスが取れておらず、ワークエンゲージメントが低下している場合、業務量の多さによる過重労働や、もしくはサポートの少なさによるストレスにより、ある日突然バーンアウト(燃え尽き症候群)してしまう恐れがあります。
ひとたびバーンアウトしてしまうと回復に時間がかかり、場合によっては休職を余儀なくされるケースもあります。
やりがいのある仕事が回って来にくくなる
生活リズムの乱れによる疲労が原因にもかかわらず仕事や会社、人間関係などのせいにばかりしていると、根本原因に向き合えず、ネガティブな状態で仕事に臨み続けることになります。
疲労を抱え、ネガティブな気持ちで仕事に臨んでいては、思うような成果が上げられるはずはなく、会社からも評価も得られにくくなるでしょう。その結果、責任ある仕事、面白みのある仕事などが回って来づらくなり、ビジネスパーソンとしての成長も限定的になってしまう恐れがあります。
若手ビジネスパーソンが「仕事に行きたくない」「会社に行きたくない」と思った時の対処法
前述のように、「仕事に行きたくない」「会社に行きたくない」という思いを放置するのはさまざまなリスクがあります。以下のような対処法をぜひ試してみてください。
規則正しい生活を意識する
まずは生活リズムを整えましょう。早寝、早起き、三食バランスよく適量を食べる。多くの場合、これだけでネガティブな気持ちが軽減できるはずです。
特に若い人は「ダラダラと夜更かししない」「飲み会を減らす」の2つを意識すれば、今よりすっきり起きられるようになると思います。
そして、適度に体を動かしましょう。体を動かさないと身体への負担を感じやすくなり、ストレスにつながります。例えば、朝に軽くラジオ体操をするだけでもリフレッシュにつながり、生活リズムも整いやすくなるのでぜひ試してみてください。
周りを頼って「仕事の資源」を増やす
ワークエンゲージメントが低下していると感じる場合は、もっと周りを頼って「仕事の資源」を増やしましょう。
特に若手ビジネスパーソンは、「本当は若手である自分がアシスタントとしてサポートしなければいけないのに、上司や先輩に頼るのは申し訳ない」「まだ戦力になれていないから、これ以上周りに迷惑をかけるのは嫌だ」などと悩みや不安を一人で抱え込みがちです。しかし、上司の立場から言えば、部下が一人で悩みを抱えた結果、突然バーンアウトしてしまうほうがつらいもの。もっと周りを頼り、資源を増やして自らワークエンゲージメントを高めにいきましょう。上司に対して、現状をこまめに報連相することも大切です。
休暇を取り数日間仕事から離れてみる
「仕事の資源」は足りているけれど、業務量や責任の負荷が大きいという場合は、上司に相談して業務量や内容を調整してもらいましょう。「仕事を調整してほしいとお願いするなんて、能力がないと思われ評価が下がらないだろうか?」などと考えないこと。バーンアウトする前に、現状をフラットに報告して判断を仰ぎましょう。
そして、業務負荷により生活リズムが狂ってしまい「仕事に行きたくない」と感じている場合は、数日間休みを取り体調を整えることをお勧めします。有給休暇を2~3日取り、ゆっくり身体を休めましょう。身体の疲れが取れればメンタルの疲労も軽減され、仕事への活力も回復するでしょう。
なお、新入社員の場合、入社後半年間は有給休暇が付与されていないケースも多いようですが、休めないということではありません。心身の疲れが溜まっているのに無理をしてもいいことはありません。欠勤扱いになり給与は若干減りますが、どうしてもつらい場合は上司に状況を説明し、休みを取るようにしましょう。
仕事の意味づけを行い、自らやりがいを見出す
仕事そのものにイマイチやりがいを感じられないでいるならば、自身の働き方を工夫することで自らやりがいや満足度を高める「ジョブ・クラフティング」という概念を取り入れてみましょう。
例えば、普段の仕事の中でも面白いと感じる、意義を感じることを抽出し、その業務に特に注力することでやりがいを高められる可能性があります。
営業の仕事にはあまりやりがいを感じられないけれど、営業をスムーズに行うための市場リサーチは好きという場合、例えば自身が担当するエリアの市場動向を徹底的にリサーチしたり、ターゲットとなる顧客のペルソナを調べ上げたりすれば、仕事へのモチベーションが高まるのはもちろん、その後の営業活動もスムーズになるでしょう。
やらなければいけないことに対して、「どうせやるのなら楽しみや意義を見出そう」「せっかくなら学んでいこう」と捉え方を変えることで、やりがいがない仕事が「意味があるもの」に変わり、やりがいやパフォーマンスの向上が期待されます。
自分の特徴を知り、それを活かす仕事に注力する
自分の強みや持ち味がわからないために、仕事でなかなか成果を発揮できず、つらさを感じているケースも考えられます。
この場合は、自己分析で自分の特徴を洗い出してみるといいでしょう。
これまでの経験を振り返り、成功体験を洗い出したり、仕事で楽しいと思えたこと、熱中できたことなどを洗い出したりすると、その中から自分の特徴が見えてきます。そしてそれらの特徴を細かく言語化していくことで、自分ならではの取柄が見えてきます。
より簡単な方法は、診断テストなどを活用する方法。自身の特徴を客観的に洗い出せるので、試してみるのも一つの方法です。
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人間関係が原因の場合は、逆張りで相手への理解を深めてみる
仕事に行きたくない理由が、人間関係のストレスであると明確にわかっているケースもあるでしょう。
その場合は、逆張りの発想ではありますが、まずは「相手を知る」努力をしてみるのがお勧めです。人間関係のストレスは、相手への誤解から生まれるケースが少なくないからです。
「知るは愛に通ずる」と言うように、相手の性格や行動、考え方などを知れば知るほど、対象に対しての好感が向上し、「嫌な気持ち」をコントロールしやすくなります。
例えば、「自分ばかりに嫌みを言うイヤな先輩」であっても、先輩を観察してみたら実はほかの人にも嫌みを言っているかもしれません。「こういう性格の人なんだな」「こういう言い方しかできないんだな」とわかれば、あまり腹が立たなくなるかもしれません。
「頑張っているのに全然褒めてくれず、厳しいことばかりを言う上司」も、観察してみた結果、デキる部下にばかり厳しいことを言っているのかもしれません。もしかしたら自分の能力を買ってくれていて、「叱咤激励のつもりで厳しいことを言っている」という可能性もあります。それがわかれば、意気消沈するのではなく、「よし頑張ろう!」とモチベーションが上がるかもしれません。
このように、ストレスの対象である相手が、どんなときにどんな行動を取り、どんな発言をしているのか観察することで、性格や特徴がつかめると思います。
もしくは、相手に近しい立場の人にヒアリングするのもいいでしょう。「もっとうまくコミュニケーションを取りたいので、○○さんについて教えてください」などと聞けば、カドを立てることなく聞き出せるでしょう。
それでも嫌な気持ちを軽減できない場合や、「観察した結果、基本的に嫌みな人だった」などとわかった場合は、つらい現状を上司に相談して対処法を仰ぎましょう。ストレスを感じる相手が上司である場合は、人事部門に相談することをお勧めします。
異動や転職を検討する
これらの努力をしても「仕事に行きたくない」という気持ちが軽減できない場合は、「居場所を変える」ことを検討しましょう。
自分の強みや持ち味をより活かせる環境に移れば、個人の「仕事の資源」が活かしやすくなり、ワークエンゲージメントも高まると期待できます。
なお、前掲の「退職理由」のアンケート結果に「給与水準が満足できない」という回答もありましたが、給与の絶対額が低いのであれば、辞めて転職するという選択もありです。
給与水準は、業界全体の利益率や成長率、自社の事業の利益率や成長率、置かれている市場の需給関係などである程度決まってしまうので、個人の頑張りではどうしようもない側面があります。頑張りに対して正当に評価されておらず、仕事のモチベーションも下がっているならば、自分の能力を高く評価してくれる環境に移るのも一つの方法です。
仕事に行きたくない、会社に行きたくなくてもやらないほうがいいこと
たとえ「どうしても仕事に行きたくなくてつらい」という状況でも、やらないほうがいいことがあります。
安易に会社を辞めてしまう
上記のような対処法を試さないまま安易に会社を辞めてしまうと、もったいない結果になる可能性があります。前述のように若手ビジネスパーソンの場合は、心身の不調が会社や仕事に対する気持ちにマイナスの影響を与えているケースが少なくありません。実は仕事や人間関係には大きな問題はなく、生活リズムを整え日々の疲労感が軽減できれば「自分に合った環境だ」と実感できる可能性は大いにあります。辞めてしまってから後悔しないために、まずは自身で何らかの対処を行ってみましょう。
さぼりは罪悪感が増すだけ
仕事や会社に行きたくないあまり、仕事中にさぼってしまうのはお勧めできません。根本原因の解消になっていないので、罪悪感ばかりが増してしまい、逆に心身にマイナスの影響を及ぼす可能性があります。そして、さぼっていることが会社にバレてしまったら、人事考課や査定に影響することも考えられ、ますますモチベーションが下がる…という悪循環に陥ってしまうかもしれません。
そして当然ながら、無断欠勤はNGです。会社からの信用・信頼を失うのはもちろん、減給や賞与カットの恐れがあります。無断欠勤が続けば懲戒処分となる可能性もあります。
仕事や会社に「行きたくない気持ち」と向き合うことで状況は変わる
仕事に行きたくない、会社に行きたくないと感じると、何事もネガティブに捉えてしまいがちになります。現状から逃げ出したくもなるでしょうが、根本原因に向き合わないことには状況は変わりません。
まずは、なぜ仕事に行きたくないのか、会社に行くのがつらいと感じるのか、自分の気持ちに向き合い考えてみましょう。そして、その気持ちが軽減できそうな対処法を試してみれば、状況は確実に改善するはずです。
もし、「何となく行きたくない」「何となく嫌だ」という感情が強く、具体的な理由が思い当たらない場合は、前述したように「フィジカルな理由」である可能性が高そうです。自身の生活を振り返ってみれば、「そういえば夜更かしばかりしているかも」「睡眠不足でいつも眠い」など思い当たるフシがある人が多いことでしょう。早く寝ることを意識するだけでも、気持ちの変化を感じられる人が多いと思われます。
気持ちに向き合い工夫を続けてみても、それでも心身ともにつらさが増すようならば、心身ともに疲弊しパンクしてしまう前に、人事部門や産業医に早めに相談しましょう。
株式会社人材研究所・代表取締役社長 曽和利光氏
1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャーなどを経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)など著書多数。新刊『部下を育てる上司が絶対に使わない残念な言葉30』(WAVE出版⇒)、『シン報連相~一流企業で学んだ、地味だけど世界一簡単な「人を動かす力」』(クロスメディア・パブリッシング⇒)も話題に。