サイボウズは6月17日、ノーコードで業務アプリを構築できる「kintone」のユーザーイベント「kintone hive 2025 fukuoka」をZepp福岡(福岡県 福岡市)で開催した。本稿では、業務の価値を高めるDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進し、新入社員が商談対応できるようになるまでの期間を2カ月から1週間へと短縮した、福岡イエローハットの事例を紹介する。

複雑な商談で販売員が不足、人材を採用しても現場の教育負担が課題に

福岡イエローハットはタイヤやエンジンオイルをはじめとするカー用品の販売から、キズ修理や車検などを手掛けるイエローハットの連結子会社。福岡県内に17店舗を展開し、地域密着型のカーサービスを提供する。

近年はガソリンスタンドのセルフ化が進んでおり、経済産業省 資源エネルギー庁の調査によると、セルフ式のスタンドが全体の約4割を占めるという。また、ガソリンスタンドの店舗総数も減少の一途をたどり、店舗数はピークだった1995年に対し、2023年は54%減少している。

これにより、以前はタイヤを定期的に点検してもらえるインフラの役割を果たしていたガソリンスタンドが減少し、タイヤの状態を確認する機会が激減している。

  • タイヤ点検の機会が減少している

    タイヤ点検の機会が減少している

5年前から福岡イエローハットの代表取締役を務めている佐藤和也氏は、「タイヤを扱うお店として、お客様へ安全を提供するためにタイヤの点検と啓蒙を多く実施し、現状を正しく知ってほしいと思った。そのためにタイヤの販売員を育成する必要があった」と、当時の様子を振り返った。

  • 福岡イエローハット 代表取締役 佐藤和也氏

    福岡イエローハット 代表取締役 佐藤和也氏

しかし、タイヤ販売員の育成は簡単ではない。タイヤ販売の商談の流れは以下の通りだ。まずは車両の状態やサイズなどを確認し、運転手に車の使い方をヒアリングする。その後、商品の説明や工賃の計算、在庫確認、各種割引の判断を行い、最終的に見積もりを作成する。これらの工程の教育には時間がかかる。

  • 福岡イエローハットの商談の流れ

    福岡イエローハットの商談の流れ

同社では以前、工賃や割引を計算する際に電卓を使っていたそうだ。また、店内に多量に抱えた在庫の中から、それぞれの車両に適したサイズのタイヤを探していた。セール・キャンペーン時には対象ブランドやサイズに応じた割引などを覚えたり確認したりする工程が発生するため、商談には非常に長い時間を要していた。

当時の佐藤氏はタイヤ販売員を増やすために人材採用を強化したものの、現場ではかえって新人教育の負担が増加する羽目に。そこで、同氏は新入社員が短期間で活躍できるようになる仕組み作りに着手した。

「タイヤ販売員が本当にやるべきことは、目の前のお客様の困りごとを全力で解決すること。しかし、以前の当社では煩雑な工程が現場の時間を奪ってしまっていた」(佐藤氏)

  • kintone導入以前の課題

    kintone導入前に生じていた課題

kintone導入後も電卓が現役、kintoneアプリが使われなかった理由は?

そこで出会ったのが、ノーコードで業務アプリを作成できる「kintone」だ。佐藤氏はYouTubeで動画を見てkintoneを知り資料請求したが、自社でアプリを作れるという確信が持てなかったため、博多駅前のサイボウズ福岡オフィスを訪問。そのときに、福岡を拠点にkintone導入の伴走サポートを手掛けるSACCSY(サクシー)の紹介を受けたという。

同社はkintoneの導入に伴って、人がやるべき仕事と、アプリに任せる作業を区別した。kintoneアプリに任せることにした見積もり作成では、タイヤを最大6種類まで画像付きで比較できるアプリを構築。工賃などサイズによって変わる計算を自動化したほか、口頭では伝わりにくい説明を紙面へ掲載できる仕組みも搭載している。

  • kintoneで作成した見積書の例

    kintoneで作成した見積書の例

しかしkintone導入直後、佐藤氏は驚きの光景を目の当たりにする。なんと、ベテランの販売員がタブレット端末の上に電卓を置いて商談に臨んでいた。せっかくアプリを作っても、ベテラン販売員からは「そもそも困っていないのでやり方を変える方が面倒。電卓の方が早い」という声が挙がった。

  • せっかく作ったアプリよりも電卓が使われていたという

    せっかく作ったアプリよりも電卓が使われていたという

アプリが使われなかった原因は、アプリを作る際に「後から使うかも」と必須入力の項目を作りすぎたこと、タブレットでは使いにくいタイピング入力の項目が多かったことだ。

この経験から、「アプリを構築する際には、とにかく簡単に使えることにこだわった。価格がすぐに出せるという電卓の強みをkintoneでも実現した」と佐藤氏。アプリを改良し、タイヤサイズなどをキーボード入力ではなくプルダウンで選択できるようにした。

タイヤの幅や扁平率、リム径などのサイズを選択し入力するだけで、価格や在庫数量に従って商品が自動で並び替えられる。商談に不要な商品を候補から除けば、すぐに適切な提案ができるというわけだ。このときには、自動でキャンペーンの割引も適用される。あとはPDF化すれば、その場で接客に活用できる。

  • 現場の声を反映させてアプリを改良した

    現場の声を反映させてアプリを改良した

新人スタッフの一人立ちまでの期間を2カ月からわずか1週間に短縮

現場の意見を業務アプリに反映して改良を続けた結果、新入社員が一人立ちして商談対応できるまでの期間が、2カ月から1週間へと短縮された。

最も影響が大きかったのは、新人社員の教育に要するエネルギーだという。以前は教える側も覚える側も工程が多く過大なエネルギーを消費していた。しかしkintone導入以降は、タイヤのサイズと商品を覚えればすぐに商談に参加できるようになった。暗記による記憶違いなど人的ミスが減少し、管理コストの削減にもつながっている。

  • 商談までの期間を短縮した

    商談までの期間を短縮した

新人教育の期間の短縮に成功した福岡イエローハットでは、誰もがすぐに商談に参加できるようになり、商談内容も分かりやすくなった。これにより、来店客を待たせる時間が減り、結果的にタイヤ空気圧の点検など安全啓蒙に使える時間が増えた。

「早く、安く、上手に失敗できるのがkintoneの魅力。一つの失敗が致命傷にならないように転ぶ練習をできるのがkintone」と佐藤氏は語った。

同社は現在、タイヤ販売の現場から始まったDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みを、バックオフィスなど他部門へ広げる取り組みに着手している。申請書や帳票などこれまで紙の処理が必要だった工程をkintoneアプリ化し、ペーパーレスを推進している。また、ワークフロー機能を使用して紙への押印を不要とし、社内の回覧と意思決定を迅速化した。

「限られた人材でも重要な仕事に集中できる環境を作れば、成果が出るので仕事が楽しくなる。成果が出れば待遇や労働環境に還元できる。私が就任してから、昇給や年間休日の増加など働く環境を良くできている」と述べ、佐藤氏は講演を結んだ。