サイボウズは7月22日から地域の金融機関と共に、「DX経営スペシャルセミナー2025 ~kintone×地方金融機関~」を全国で開催している。このセミナーでは、中堅・中小企業がkintoneを利用してDXを推進するためのポイントを解説している。8月1日は、京葉銀行と共同でセミナーを開催した。
最近は、ノーコード・ローコードツールの活用が浸透してきており、初心者でも簡単にアプリ開発が可能な環境が整っている。しかし、プログラム未経験者にとって、独学でツールの使い方を学んでアプリ開発を実践するのは、まだまだ敷居が高い、そのため、地方銀行がDX推進の伴走サポートを行うケースが増えている。
今回のセミナーでは、京葉銀行が伴走サポートによりDXを行った2社の事例を紹介した。
紙の日報をデジタル化したクルーサポート
初めに登壇したのは、千葉県を中心に自家用送迎バスの運行管理を行っているクルーサポートだ。同社は、各企業が持つ送迎用バスなどの車両の運行管理を一括で行っている。契約車両は約180台で、主な顧客は幼稚園・保育園、スイミングスクール、自動車教習所、各種スクール・学校、病院・クリニック、介護施設などだ。同社の従業員数は200名だが、大半を送迎車両のドライバーが占める。
紙の日報が生んでいた課題とは
同社のkintone導入は、京葉銀行の担当営業から、「ITを使って、何かお手伝いすることはありませんか」と声を掛けられたことがきっかけで、日報を電子化したい希望を伝えたという。
同社では、毎日の送迎業務の実績を紙の日報で管理していた。日報には、車両No、ドライバー名、顧客名、日付、出発時間、到着時間、出発時・到着時それぞれの距離計などを記載する。
ドライバーは基本、直行・直帰であるため、月末に1カ分の日報をまとめて郵送してもらっていた。そして、この日報を基に、ドライバーの給与計算や契約企業への請求書を作成していた。
「紙の日報は届くまでに時間がかかるほか、郵送事故が起こって給与計算やお客様への請求が遅れてしまうことがありました。また、保存も負担になっていました」と、紙の日報による管理の課題を語ったのは、代表取締役社長 山内憲昭氏だ。そこで、同社は京葉銀行からの声掛けをきっかけに、kintoneを使った日報の電子化に取り組んだ。
プログラミング経験がない常務がアプリを開発
山内氏はkintoneという名称は聞いたことがあるものの、内容に関してはほとんど知識がなく、当初は、効果やコストに対しての不安があったという。しかし、京葉銀行の担当からデモアプリを見せられた際、アプリが予想以上によくできていたため、「これなら、できるのではないか」と感じたそうだ。
日報アプリは、京葉銀行が開発して納品するのではなく、常務取締役の山口紀行氏が開発した。
山口氏はプログラム開発の経験はまったくなかったが、京葉銀行のサポートにより、予想以上にスムーズにできたという。
「自分でアプリを作ったため、お客様のバスや従業員が増えた際も自分で編集できるので、今回の形が一番よかったと思います」(山口氏)
入力する項目をできるだけ減らすことに注力
クルーサポートのドライバーの平均年齢は68歳ということもあり、日報アプリの開発では、入力する項目をできるだけ少なくすることに留意した。
ログインIDとなるメールアドレスと車両情報をひもづけ、日付や時刻なども含め、ほとんどの項目で初期表示を行ったため、入力が必要な項目は距離計だけだったという。
アプリの導入にあたっては、ドライバー全員にタブレットを配布し、紙のマニュアルと現場に出向く形で操作の説明を行ったが、比較的スムーズだったという。ドライバーからは、「慣れてしまえば、紙よりも簡単」という声をもらっているという。
アプリ導入後は、本社側はkintoneに入力されると同時にリアルタイムで日報が届き、事務処理を迅速に行えるようになった。
今後は、現在、紙で行っているアルコールやバスの点検用チェックシートもデジタル化していく予定だ。
複数業務のアプリ化でムダな時間を削減した浦田空調工業
次に講演を行ったのは、千葉市でビルなどの空調設備に使われる「ダクト」の製造と現場施工を行う浦田空調工業だ。同社の課題は、案件のやり取りが電話やFAXといったアナログで行われていた点である。
専務取締役 浦田裕晶氏は、「仕事の依頼は、電話や口頭、FAXが全体の9割9分くらいでした。作り忘れ、納品忘れがあり、現場担当と工場担当で、言った言わないのミスコミュニケーションも発生し、無駄が多いと思っていました」と説明した。
スマホを使っているんだから、慣れればアプリも使えるはず
そのため浦田氏は、デジタル化の必要性を感じていた。そこで、DXに強い中小企業診断士に相談したところ、kintoneを紹介されたほか、同じタイミングで京葉銀行からDXサポートの話をもらい、kintoneによるデジタル化を進めることにしたという。
ただ、一気にデジタル化を進めると社員からの反発を招く恐れがあったことから、社員にとって一番関心がある有給申請を最初にアプリ化した。アプリ作成は、京葉銀行のサポート受けながら、浦田氏自身で行った。
アプリは「承認者の名前を事前に入れておく」「ラジオボタンで選択する」「日付はカレンダーをクリックさせる」など、文章を打ち込む手間をどれだけ省けるかを第一に考えて作成した。
そして、本番稼働するにあたっては、kintone以外からの申請は一切受け付けないと決め、強制的に利用するようにしたという。社員からは、最初は「無理だ」と言われたが、スマートフォンを使っていたので、浦田氏は「慣れれば問題ない」と感じていたという。その読み通り、社員は自らスマホにアプリを入れ、申請するようになったという。
「ガラケーからスマホに変わるというプロセス踏んでいるので、先入観で『無理』と言っていると思い、とりあえずやってみましょうと呼び掛けました」(浦田氏)
サポートを受けての自社開発だったから、自走のベースができた
現在では、工場内の備品の注文、浦田氏と社員との面談履歴、トラックや会議室の設備管理もkintoneで行っている。
これにより、電話で確認する必要がなくなり、社員本来の業務以外の時間を削減することができているという。
浦田氏は、前職でsalesforceを使い、最近はChatGPTも使いこなしているため、ある程度デジタルの知識を持っているが、kintoneの開発では、京葉銀行のサポートが大変役に立ったと話す。
「kintoneを使う上で、初動サポートは絶対にあったほうがいいと思っています。また、成果物を渡されるのではなく、サポートを受けながら自分でアプリを開発したため、自走できるベースができたと思っています」と述べた。
kintoneで新しい流れに順応していける組織風土を醸成
そして、浦田氏は、kintoneの導入によって、新しい流れに順応していける組織風土がだんだん醸成されてきていると語った。今後は徐々にデジタル化を進め、案件管理なども行い、自発的に、新しいシステムによってもっと楽ができないかを考える風土を作っていきたいと考えている。
浦田氏は、中小企業におけるデジタル化の必要性について次のように語り、講演を締めくくった。
「これからはいかに早く物を納められるかというスピードが大事になってくると思っています。限られた時間の中で120パーセント、130パーセントのパフォーマンス出すには、デジタルツールを使って、これまで無駄だったものを省き、自分がやるべき仕事にしっかりコミットできる環境をどれだけ作るかが大事です。そのための手段としてデジタルツールが重要であり、今後、人手不足を解消する上でもデジタルツールが有益になると感じています」