第622回でも書いたが、オーストラリア海軍の汎用フリゲート調達計画、GPF(General Purpose Frigate)ことProject Sea 3000では、日本の三菱重工が提案したFFM発展型が優先候補に選定された。では、選に漏れたMEKO A200とはどんなフネだったのか。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照
モジュラー設計で多様なニーズに対応
MEKO A200を提案していたのはTKMS。ドイツの重工大手、ティッセンクルップにおける造船部門という位置付けで、TKMSとはThyssenKrupp Marine Systems AGの略だった。しかし最近になってリブランドが行われて、略称のTKMSが正式なブランド名になった。
MEKO A200型の“MEKO”は、MEhrzweck KOmbination(多目的組み合わせ)の略。船体部分を共通プラットフォームとして、そこにいくつか、兵装を搭載するためのスペースを確保する。そこにモジュール化した兵装を組み込む。そんな考えで設計されている。
つまり、最初から「顧客の求めに応じて、さまざまな兵装を搭載できますよ」という、カスタマイズ自由度の高さを売りにしている。だからオーストラリア向けの提案でも、すでにオーストラリアで使用している兵装、オーストラリアで開発された兵装を搭載する内容となった。
実は、2025年5月にシンガポールで開催された海軍分野の展示会「IMDEX Asia」で、TKMSはオーストラリア向けMEKO A200の模型を展示していた。そこでさっそく、近くにいた人をつかまえて話を聞いてみた。
ビームが交差するアンテナ配置
まず目についたのは、当然ながらレーダー。形状からして明らかに、CEAテクノロジーズ製のCEAFARシリーズであるし、実際、その通りだった。
ただ、一般的な艦載フェーズド・アレイ・レーダーが3~4面構成なのに対して、CEAFARシリーズは6面構成という変わり種。そして、その6面の配置のやり方が変わっていた。
同じくCEAFARを搭載するハンター級フリゲート(これは英海軍向けの26型がベース)では、素直に6面の塔型構造物を建てて、その周囲にアンテナ・アレイを取り付けている。
ところがMEKO A200では、前後に分かれた構造物に分散配置している。それだけなら驚かないが、後檣に取り付けたアンテナ・アレイのうち2面は前方向き、前檣に取り付けたアンテナ・アレイのうち2面は後方向き。つまり、アンテナ・アレイから出したビームが交差する配置になっている。さらに、前檣の前面と後檣の後面に1面ずつ。これで6面である。
つまり、前檣の3面で前方と後方の左右、後檣の3面で後方と前方の左右を、それぞれカバーする配置になっている。ドイツ海軍の125型フリゲート(ヴァーデン・ヴュルテンブルク級)で、TRS-4Dのアンテナ・アレイ4面を前後に2面ずつ振り分けたのと同じような、冗長性を考えた配置ということになる。
しかし、ビームが交差する配置となると干渉が気になるところで、それをどう解決するつもりなのだろうか。送信のタイミングを微妙にずらせば、なんとかなりそうな気もするが。
あと、多数のアンテナ・アレイを取り付ける大きな構造物を前後に建てることになるため、風圧側面積が増えて、横風を受けたときの操艦に影響が出ないだろうか。なんていうところも気になっている。従来のMEKO A200は、ここまで大きな構造物は建てていない。
その他の兵装
その前檣と後檣の間に設けたレセス(凹み)に、NSM (Nytt Sjønomålsmissil / Naval Strike Missile)艦対艦ミサイルの発射機が置かれる。その数は4連装×4で16発。
NSMはすでにオーストラリア海軍の次世代標準艦対艦ミサイルになっており、ホバート級駆逐艦ではRGM-84ハープーンを降ろしてNSMに替えている。だからNSMを載せるのは理に適っているが、16発も載せるのは珍しい。これ以外では、米海軍のFFG(X)ことコンステレーション級ぐらいだ。
また、後檣の後方、Mk.15ファランクスと思われるCIWS(Close-In Weapon System)との間に、ISOコンテナらしきものが置かれていた。物資輸送に使っても良いが、理屈の上ではMk.70 PDS (Payload Delivery System)を載せられそうでもある。TKMSの方は、そんな話はしていなかったが。
そしてTKMSの方がしきりに強調していたのは、「モジュール設計」と「柔軟性」であった。「お客様がお望みのオプションをつけられますよ」というと、なんだか自動車販売店みたいだが、輸出商品としてみた場合には重要な要素である。
実際、MEKO A200は南アフリカ、アルジェリア、エジプトと3ヶ国の受注・納入実績があるが、いずれも搭載兵装の陣容がだいぶ異なる。最初からそのつもりで設計しておかないと、なかなかこうはいかない。
ただ、オーストラリア向けの案件では、その「オーストラリアで使われている装備、オーストラリア製の装備を載せられますよ」よりも、その他の要素が買われて選に漏れたといえよう。ときにはそういうこともある。
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。