サイボウズは5月13日、ノーコード業務アプリ構築ツール「kintone」のユーザーイベント「kintone hive 2025 sendai」を仙台PIT(宮城県 仙台市)で開催した。本稿では、新築やリフォーム事業を手掛ける住宅建設業のスモリ工業による、契約書作成業務を2000時間削減した事例を紹介する。
Excel・紙資料・組織ごとに異なる管理システムは問題視されていなかった
スモリ工業は宮城県仙台市にある、創業50周年を迎える総合住宅建設業者。従業員は約70人。年間に200棟ほどの引き渡しを行っており、現在8000組のオーナーを抱えているという。
同社は以前、契約書や資金計画、調査依頼、日報など、Excelファイルや紙の資料を使ってそれぞれ管理していたそうだ。それらのデータは個人で管理していたうえ、営業顧客管理、経理入出金管理、アフター顧客管理の"社内サーバ3兄弟"で処理されており、各部署でデータが連携されていなかった。
ところが、同社はこれを特に問題視していなかった。なぜならば、全社員が一度本社へ出社してから業務を開始するため、社員同士が同じフロアで毎日顔を合わせており、円滑なコミュニケーションが取れていたからだ。
そうした中、あるとき社内システムの一つに不具合が生じ、入れ替えが必要になった。これをきっかけに社内システムの一元化を図ることとなり、kintoneを知ったという。1ユーザーの利用料金が1500円(当時)と安価で、自由にアプリを構築できる特徴が導入の決め手だった。
スモリ工業 業務積算グループ 傳農(でんのう)貴仁氏は「kintoneのアプリ開発をお願いしていた取引会社の担当者が、各部署にヒアリングしていた。私の業務積算グループに順番が回ってきたとき、興味があったので勉強を始め、その面白さに気付いた。kintoneを使い始めた当時の私は、まるでおもちゃを与えられた子どものようだった」と振り返っていた。
プラグインを活用し手書きによる資料作成時間を2000時間削減
同社では日報を紙に記入して提出していたため、傳農氏はまずkintoneアプリの定番とも言える「日報アプリ」を作成した。しかし、日報アプリはうまく活用されず、「入力が面倒」という意見が出された。
そこで同氏は、「kintone芸人」や「kintone活用ちゃんねる」など、YouTubeでkintoneについて勉強し始めた。動画を見たことでプラグインの活用方法を知り、自社のアプリにも応用したという。その結果、日報アプリは使い勝手が改善され、カレンダーのような一覧画面で業務を振り返れるようになった。
また、スモリ工業のブランド「スモリの家」が開催する「限定1棟98万円大抽選会」キャンペーンにも、kintoneを使った業務アプリを活用。このキャンペーンは定期的に開催されていたが、システム構築を運用を外部のシステム会社に委託していたため、高額なコストが発生していた。
同キャンペーンではお泊まり体験やハウス・スタジアムの見学、SNSのフォローなどに応じて、1世帯当たり最大で5枚の抽選券が配布される。傳農氏が作成した「抽選会申込アプリ」ではテーブル機能を使い、世帯ごとに抽選権の抽選番号が蓄積されるよう工夫している。
このアプリでは条件分岐処理プラグインを導入し、レコード画面に採番をコピーしている。さらに当選番号が重複しないように計算式プラグインを導入し、重複時にエラーが出るようにした。さらに、登録されたデータはテーブルデータ一括表示プラグインで一覧画面に表示し、集計サポートとアプリ内集計の機能で現在の申込数を把握できる仕組みとした。
傳農氏は続いて、「電子契約アプリ」を作成。それまでは、特定のスタッフが名前や金額、工期を手書きで記入していたため、業務負荷が増大していた。ただし、住宅は数千万円単位の大きな買い物であることから手書きサインのニーズもあった。そのため、手書きサインが必要な顧客向けに「KAIZEN SIGN」プラグインを導入し、対応可能とした。
「電子契約アプリの効果は絶大だった」と傳農氏は話していた。紙で契約書を作成する際は1万円の印紙が必要であり、年間200棟でおよそ200万円が発生するが、電子契約としたことでこれが不要となった。
また、紙の契約書を手書きで作成する時間も削減。これだけでも実に2000時間(約3カ月分)の削減につながったとのことだ。
kintone活用のヒントはプラグイン利用と周囲の協力
こうした成果を得たことで、傳農氏は現在さらなる業務アプリの開発を進めている。その一例が「宿泊管理アプリ」。スモリの家では展示棟に宿泊が可能なお泊まり体験を実施しているが、その宿泊者とスケジュールを管理するアプリだ。
以前は顧客からの宿泊申し込みを各営業担当者が受け、それを宿泊施設担当者に確認し、宿泊担当者がExcelで管理している予定表を参照する工程が必要だった。kintoneで宿泊管理アプリを作成したことで、営業担当者がアプリのカレンダー画面を見ながら直接顧客に案内できるようになった。
「図面検索アプリ」は過去の建築例を蓄積しており、坪数や部屋要素など顧客の要望に応じて図面を絞り込み、すぐに提示できる。そのため、スムーズな商談の進行に貢献している。
「カレンダー配布アプリ」は、引き渡し後のオーナーにカレンダーを配布する業務を効率化している。以前は営業担当者が顧客リストをコピーして住所をカーナビに打ち込んで配布していたのだが、カレンダー配布アプリはGoogleマップと連携しておりすぐに経路が調べられる。
傳農氏は「kintone活用は1人で楽しんでいるだけではあまり意味がなく、多くの人が使ってこそのもの。まるで縄跳びと大縄跳びの違いのようだと思っている。誰かがつまづいたとき、次はどうしたらうまく跳べるようになるのかを工夫するのが大事。プラグインを活用することで、その可能性は無限大に広がる」と、話していた。同社は今後、kintoneを使えるスタッフを増やしていく予定とのことだ。
ここまで紹介してきたように、kintoneを活用して次々と業務の効率化を図っているスモリ工業。傳農氏は「kintone活用がすごく楽しい。IT経験の無い私でも思い描いたページをすぐに作れる」と述べ、プレゼンを締めくくった。