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『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』(ストーカー2)を遊び、果てしなく過酷な世界<ゾーン>に魅入られた男の話。怪しいと思えば無意識にボルトを投げ、死体を見たら反射的に漁る……「ゾーンを生きる」この独特の体験は、他に代えがたい

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率直な話をすれば、本作のレビューを引き受けるにあたって、大いに悩んだ。

忙しいとか、書くべきことが多いとか、起動しようとしたらなかなか起動しないとか、ちょっとした大作ゲーム並のパッチが次々に発行されるとか、理由は無数にある。

だが、それらはすべて言い訳に過ぎない。

筆者は個人的に、ゲームのレビューを書くにあたって自分語りは厳禁であると考えているし、これまでもその方針を守ってきたつもりだ。

なぜなら読者はゲームの情報が知りたいのであって、書き手の思いや見解や解釈といったものは、完全に、心の底から、完膚なきまでに、無価値だからだ。古いジャーゴンを使うなら「そんなものはチラシの裏にでも書いておけ」である。

だが本作については、あるいは本稿については、筆者のマイ・ルールを破り、「ゲームのエッセイ」を書かせて頂きたいと思う。というのも、どうやらそれ以外にこの記事を書き始める、適切な言葉が思いつかないからだ。

文/徳岡正肇
編集/実存

※この記事は『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』の魅力をもっと知ってもらいたいセガさんと電ファミ編集部のタイアップ企画です。


「なんのかんので、よくできたゲーム」だが、語るべきことがある

『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』(以下「STALKER2」)は、2007年から2009年にかけて発売された『S.T.A.L.K.E.R. : Shadow of Chornobyl』『S.T.A.L.K.E.R. : Clear Sky』『S.T.A.L.K.E.R. : Call of Prypiat』(以下「STALKER3部作」)の、続編となる。

ゲームの構造としてはいたってシンプルで、現代風に言うなら「オープンワールド・サバイバルFPS」となるだろう。基本はシングルプレイの作品であり、基本的な操作系はWASDにマウス(ないしゲームパッド)と、なんら新しいところはない。

本作がその舞台としてチョルノービリ原子力発電所近辺を用いているというのも、今となってはそれほど「特別なこと」ではない。古くは『Call of Duty: Modern Warfare』が同地域を舞台の一部に組み込んでいたし、近年では『Chernobylite』といった作品もある。

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同様に、本作は前作同様、ゲームバランスがシビアめに作られている側面もあるが、これもまた現代に至っては「特徴」とまでは言えない。ホラー系の高難易度シングルFPSはもはや珍しくもなんともないし、「高難易度で面白い」という話をするなら「ソウルライク」というジャンルを生み出した作品群がメガヒットをしている。

ストーリーの素晴らしさという点でも、純粋な娯楽方向に向かえば超大作FPSがあり、高度に完成された物語という方向に向かえば『Outer Wilds』のような作品がある。筆者はSTALKER2のストーリーを高く評価するが、これもまた「傑出した特徴」とは言い難い。

つまるところ、本作を「これこれこういう特徴があるから、他のゲームとはまったく違う体験が得られる」と評価するのは、とても難しい(A-LIFEというシステムがあるが、これについては本稿執筆段階では評価できない)。
むしろ昨今の超大作ゲームがそうであるように、本作は(純粋に技術的な側面を除けば)「なんのかんので、普通の、よくできたゲーム」と評価すべきだろう。

だがそれでも本作には、本作について語るからこそ、語るべきことがある……ように思う。

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「ゾーン」は未知のものから既知のものへ。それでもゾーンは人間の予想を超えてくる

本作について最初に指摘すべきは、「STALKER3部作をプレイしていなくても十分に楽しめるが、3部作をプレイしていると非常に面白い」という点だろう。

本作のシナリオは前シリーズの総決算とも言える構成となっているだけでなく、ワールドマップもまたSTALKER3部作に出てきた土地を再訪できる。このためプレイヤーが旅する先々で、(プレイヤーにとっての)かつての知人に出会うことになるし、(プレイヤーにとっての)思い出の場所を訪れることにもなる。実時間にして最長でおよそ17年ぶりの再会だ。

この「久しぶり」感はゲーム内時間の経過という形でも体験できる。本作は前作完結時点からおよそ10年後の世界となっており、前作に登場したキャラクターたちの外見も相応の年月を歩んだ姿に変わっている。場所によっては地形も変化しているし、拠点の主が変わっていることもある(もちろん、まったく新しい建物が建てられていることだってある)。

一方、決定的とも言える変化も起きている。シリーズの舞台となってきた「ゾーン」に対する、人間の姿勢の変化だ。

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かつてゾーンは、人間の支配を拒む、驚異と脅威に満ちた土地だった。だがあれから10年が経過し、STALKER2において科学は確実にゾーンをコントロール下に置き始めている。「なんだか分からないが、とにかくすごいお宝が眠り、ヤバいミュータントが徘徊し、ウルトラスーパー地雷みたいなアノマリーが大量に埋まる土地」だったゾーンは、「人類にとって有益な資源が眠る土地」になろうとしているのだ。

ちなみにこのことはゲーム開始直後のムービーで示されるのだが、筆者はそのムービーを「またなんだか変なことを言い出すヤバいやつが出たな」程度にしか感じなかった。前作を体験してきた側から見れば、「ゾーンをコントロールする」という発想は、「どうかしている」としか言えないものだったからだ。

しかしながらゲームを進めると、10年後の人類は(一部なりとも)ゾーンを科学的にコントロールでき始めていることを目の当たりにする。人類ってすごいと言うべきか、人類の業はどこまでも深いと言うべきか……

とはいえ、現代相当の世界において10年という時間が経過すれば、ゾーンのような「未知」であっても、その一部が「既知」に変わるのは当然のことだ。

この変化は、個人的には日本の名作ホラー『リング』シリーズ(超有名怪異「貞子」のデビュー戦となった作品)の展開を想起させる変化でもあった。『リング』3部作において、第1作となる『リング』は有名な「呪いのビデオ」が示すように、ホラー要素の強い作品だ。だがこれは続く『らせん』のなかで科学的アプローチの対象となる。

恐怖の本質は、未知であるとする説がある。だからこそ人間は恐怖を克服しようとするとき、未知のものを、既知の領域に組み込んでいこうとする。あるいは未知が既知になったとき、そこから恐怖は消えていく。このプロセスこそが、驚異の土地であるゾーンを、資源地帯としてのゾーンへと書き換えていったというわけだ。

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興味深いことに、より小さなプロセスでよければ、同じことはSTALKER2からゾーンに踏み込んだプレイヤーにも、実体験として発生する。

本作がゾーン初体験というプレイヤーにとってみれば、ゾーンは異常と怪奇が跋扈する、恐怖の土地だ。地面から唐突に炎が吹き上がり、重力がおかしくなって空へと舞い上がり、透明な怪物が夜闇にまぎれて襲いかかってくる、悪意まみれの土地だ。

だがプレイヤーはすぐに、それらの怪奇とどう付き合えばよいかを理解する。空間が歪んで見える領域(アノマリー。踏み込むとだいたい良くないことが起こる)に対しては、ボルトを投げ入れれば炎その他を暴発させられる。
不可視の怪物? 物音は聞こえるし、完全に見えないわけでもないのだから、建物の廊下や扉などを盾にとって怪物の移動範囲を制限してやればいい。

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それでもなお、ゾーンは人間を超えてくる。あるいはゾーンに適応した人間は、ゾーンを既知の世界に変えようとする人間の予想を超えてくる。どれほど未知を既知に変えてもなお、未知が尽きることはない。古代ギリシア人が発見したこの法則を、STALKER2は幾度となくプレイヤーにつきつける。

その上で「だいたいの未知は、だいたい頭部のあたりに弾丸を何発も叩き込めば、だいたいなんとかなる」という法則が支配するのがゾーンであるということもまた、プレイヤーは何度も思い知らされることになる。未知だろうがなんだろうが、死んでしまえば既知の死体だ。

Good hunting(良い狩りを)、Stalker。ゾーン普遍の挨拶は、伊達ではない。

依頼主を裏切ることもできるし、「とりあえず殺して来ます」と暴力に身を委ねてもいい

……とまあ、ここでこの話を終えられれば格好良いのだろうが、それはそうとして言わねばならないこともある。それは「人間の記憶力は、そこまで優れたものではないぞ」ということだ。

なにせSTALKER3部作の最後から数えて、およそ15年ぶりの新作である。前作に出てきたキャラクターが登場して嬉しい! 前作に出てきたあの場所が出てきて嬉しい! という側面がゼロとは言わないが、かつてゾーンを旅した記憶が忘却の彼方にすっ飛んでいることだって珍しくない。

というか筆者の場合、大部分はすっ飛んでいた。いや、無理です。さすがに無理。

ついでに言えば、筆者は人名を覚えるのが苦手だ。このため本作初登場となる重要人物の名前を覚えるだけでもわりとあっぷあっぷになっているところに、過去の知人らしき人物がふらりと現れると、「あっ……たぶん……久しぶり?」みたいな気持ちになる(ちなみに現実でもそうであるように、そういうときはそこそこ良い確率で初対面)。

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またSTALKER2のストーリーはかなり複雑で、登場する組織や人物も多く、本作ならではの概念(つまりは固有名詞)もたくさんある。
結果、ゲーム中盤くらいから「なるほどわからん、とりあえず殺して来ます」みたいなモチベーションでクエストを進めることもあった……が、本当にそういうテンションで本作を進行させれば良いのかと言えば、これまた微妙なところだったりする。

本作のクエスト構造はかなり凝っていて、クエストを受けた後であっても、やり方次第で「依頼主を裏切る」ような方向に進めることも可能だ。

このため本作の物語を余す所なく楽しみたいなら、最低でも重要そうな人物の名前(と、所属組織)はメモしておいたほうが無難だろう。本作が持つ高い自由度を楽しむためには、「そういう選択ができるという自由があるのだ」と認識できたほうが良いし、「ここで依頼主を裏切る」ことの物語的意味を理解できればなお良い。自由は、努力なしには手に入らないのだ。

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もちろん、本作は見敵必殺で進行させても、何の問題もない。マルチエンディングなので、すべてのエンディングを見ようとするとシンプルな見敵必殺(殺せと言われた依頼を全部素直に実行する)だけでOKとは行かないが、何らかのエンディングに到達するのが目標であるなら暴力に身を委ねるのがベストアンサーのひとつとなる。

つまり、本作は純粋に「驚異の土地であるゾーンで大冒険を繰り広げるゲーム」としても楽しめる。予習と復習なしには何が楽しいのかすら分からないタイプの作品ではないので、そこは安心してほしい。

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