石田 麻琴 2021/11/4 7:00

今回は「戦略づくり」「業務づくり」の5つのポイントの後編、「EC事業の集客は3+1。自社でどの集客手段にフォーカスするかを考える」「売れているものを“少しだけ良くして”売る商品企画の鉄則と実践方法」という、「業務づくり」に近い2つのポイントを解説していきます。

前回

① EC事業をスタートするときに考えたい、自社の「ポジショニング」
② EC事業の成長は「立ち位置を決め、見つけて、育てて、広げる」の4ステップで
③ まずはバッターボックスに立とう(既存事業がある中でのEC運用のコツ)

今回

EC事業の集客は「3+1」。自社でどの集客手段にフォーカスするかを考える
「売れているものを“少しだけ良くして”売る」商品企画の鉄則と実践方法

④ EC事業の集客は「3+1」。自社でどの集客手段にフォーカスするかを考える

「インターネットを活用したEC事業の集客」というと、リスティング広告や検索対策、Instagramやアフィリエイト広告、リターゲティング広告、Twitter、Facebook……というように、具体的な手段が先行しがちですが、まずはEC事業の集客を「3+1」のカテゴリに分類して考えてみましょう

1.お金をつかってお客様に知ってもらう「広告」

1つ目は「お金をつかうことで新しいお客様に自社のECサイトの存在を知ってもらう」手段、つまりインターネット広告です。リスティング広告やアフィリエイト広告、リターゲティング広告、記事広告、Facebook広告など、掲載場所や出し方はそれぞれ異なりますが、「お金をつかって新しいお客様の認知を拡げる」という点ではすべて一緒です。

2.キーワード検索をしたときにお客様に知ってもらう「検索」

2つ目はお客様が検索エンジンやSNSでキーワード検索(タグ検索)をおこなったときに自社のECサイトの存在を知ってもらうための手段、いわゆる検索施策です。ここではあえてSEO施策という言葉を使いません。検索エンジンというシステムのためというよりも、見込客であるユーザーが、いま何をどうやってインターネット上で探しているかという、ユーザー側を向いた施策と考えてください。

3.情報の拡散によってお客様に知ってもらう「メディア」

3つ目は情報が拡散されることによって自社のECサイトの存在を知ってもらう手段です。ここではメディアと呼びます。メディアには個人メディアと法人メディアの2つがあります。前者はTwitterやFacebook、InstagramなどSNSが中心です。後者の法人メディアにはYahoo! Japanやスマートニュースなどのメディアサイトが挙げられます。PRサイトの活用や、クラウドファンディングの活用なども、メディアに含まれると考えて良さそうです。

+1:既存導線からの流し込みによってお客様に知ってもらう「リアル」

最後に「+1」の要素です。この「+1」はEC専業ではない既存のビジネスをやられている事業者のみなさんにしか使えない方法です。それは既存導線からの流し込み。いわゆるネットに対しての「リアル」の活用です。実店舗との連動でECにお客様を誘導したり、既存事業の顧客リストを活用してECへの導線を設計したりすることです。母体となる既存事業がある皆さんは、この「+1」が使える分、EC戦略が1つ有利になるともいえます。

図:集客の4つの方法「広告」「メディア」「検索」「リアル」

もしも、すでにブランド認知がある大企業に属する事業者ならば、リアル導線の強化とインターネット広告の活用で一定以上の売上に到達するかもしれません。しかし、中小のEC事業者にはお金と時間というリソースが限られているのが現実です。前回のコラムで紹介したとおり、EC事業の成長は「立ち位置を決め、見つけて、育てて、広げる」が基本ですから、まずはインターネット広告の活用を控えめにすることが大切です。

となると、中小EC事業者の力の入れどころとしては、「検索」か「メディア」になります。ただ、ECサイトとして一定の検索対策を商品ページに施すとして、それ以上対策をするには、テキストコンテンツや動画コンテンツを中心にしたオウンドメディアを構築する必要が出てきます。地道にコンテンツを増やすことで、確実にお客様の検索の需要を拾える手段ではあるのですが、かなり人的リソースが必要になります。

集客手段の選択はEC事業の商材やコンテンツの制作力、リアルのブランド力などが関わるだめ、ケースバイケースではありますが、すべてのEC事業者が力を入れるべきなのは、まずSNSです。いかにユーザーを巻き込んで商品企画や販促企画を進めていくか。自社の存在を知ったお客様にどうやってECサイトに来てもらい、商品に興味を持ってもらうか。そして、購入したお客様にいかにブランドの発信側に回ってもらうか。このサイクルを継続して検討していく必要があります。

⑤「売れているものを“少しだけ良くして”売る」商品企画の鉄則と実践方法

EC事業で「マーケティング」という言葉を聞くと、自社の商品をいかにお客様に知ってもらい、いかにその使い方や特徴、付加価値を伝え、スムーズに購入してもらうか、というイメージがありますが、ここで紹介したいのは、本質的に集客の必要がない商品企画をいかにして展開していくかということです。「マーケティング」とは集客や提案のことではなく、そもそもの「売れる商品をつくる」ことだともいえるのです。

本質的に集客の必要がない商品企画を展開するためにトライしたいのが、すでにECの市場で売れているものを売ること。しかも“少しだけ良くして”売ることがです。

EC市場で実績がある商品は、すでに市場におけるお客様のニーズが掘り起こされている商品です。もちろ、潜在的なニーズがある商品を作ることも大きなチャンスを生みますが、それはあくまで可能性。潜在的なニーズはいつ顕在化してくれるかわかりません。

すでに売れている商品なら、商品に対するお客様の認知と認識も十分です。商品自体を伝えるための説明をいくらか省くことができますし、そもそもお客様が「いま現在、探してくれている」商品なのです。

付加価値を付ける4要素

しかし、まったく同じ物を売るわけではありません。すでに先行して実績を出している競合ネットショップに勝てる付加価値を作る必要があります。付加価値をつけるために「デザイン性」「専門性」「機能性」の3つの視点、そして「ブランド性」について検討していくと良いでしょう。

  1. デザイン性」は言わずもがな「商品の見た目」の素晴らしさです。特に業界が古い商材カテゴリにおいては、ECでも画一的なデザインの商品が販売されています。「見た目を少しだけ良く」して付加価値を作ります。
  2. 専門性」はECのマーケティングにおいては「専用性」といった方がニュアンスが伝わるでしょうか。「女性専用」「プロ仕様」「業務用」など、その目的や用途に応じて商品を少し改善することで付加価値を作ります。
  3. 機能性」はその名のとおり機能の改善です。機能性の改善には既存の機能をより良くすることと、新しい機能を加えることの2つがありますが、特に既得権益のあるような市場では、ちょっとした機能改善で優位に立てる可能性があります。
  4. そしてプラスワンとしての「ブランド性」です。たとえば「スマートフォンの保護ガラス」といった商材のカテゴリ名しかなかったところに、「デザイン性」「専門性」「機能性」の付加価値を加え、「ブランド名」を加える。ロゴや専用パッケージを作成し、ブランド力を高める。そうすることで、お客様への付加価値をプラスすることができます。
図:付加価値を付ける4要素「デザイン性」「専門性」「機能性」「ブランド性」

“めちゃくちゃ良くする”はNG

売れているものを“少しだけ良くして”売るための考え方として、「デザイン性」「専門性」「機能性」そして「ブランド性」を紹介しましたが、ここでやってはいけないのがこれらの付加価値を過度に加えて売れているものを“めちゃくちゃ良くして”売ってしまうことです。

大切なのはあくまで“少しだけ良くして”売ることなのですが、「デザイン性」も「専門性」も「機能性」も「ブランド性」も充分な商品に対しては、どうしても「“めちゃくちゃ良くして”売る」をやりがちになってしまうのです。

なぜ「“めちゃくちゃ良くして”売る」が良くないのか。それは、いま市場で売れているECでのマーケットニーズを外してしまうからです。商品を“めちゃくちゃ良くする”ことで商品原価は上がり、販売価格も上がります。いくら「デザイン性」「専門性」「機能性」「ブランド性」が上がったとしても、お客様からすれば「そんなオーバースペックなものはいらない」となるのです。

あくまで、「いまのECの市場ニーズ」を自社にスライドさせることがねらいです。そのためにはすでにECの市場で売れているものを見つけたとき、その商品原価を想定し、似たような商品原価で付加価値を加えられるかどうかを検討しなくてはいけません。市場ニーズのある販売価格はできる限り変えたくないわけですから、どの範囲で付加価値を加えられるのか、ここが頭の使いどころです。

「マーケットイン」と「プロダクトアウト」という言葉をご存じかと思います。売れているものを“少しだけ良くして”売るのはマーケットインの考え方であり、これを実践しきることができれば非常に強い力になります。ただ、一時期のタピオカブームのときのように、モノマネをする競合がアッという間に出ますから、展開のスピードを速めるか、どこか競合から見えないところに優位性を持つことが重要です。

EC事業を展開するみなさんの「商品に対する想い」のような話になると、プロダクトアウトの考え方になりますし、プロダクトアウトが間違っているわけでは当然ないので、あくまで知っておきたい考え方の1つと受け取ってください。

◇◇◇

ECの「戦略づくり」「業務づくり」のポイントとして、5つのポイントを2回に渡ってご紹介しました。当然、この5つのポイントを知っているだけではEC事業は成長しません。ポイントを知り、実践し、継続して改善する。これを繰り返すことによって事業は成長していきます。EC事業の組織づくり人材づくりの土台を整え、着実にECマーケティングを展開していきましょう。

ECマーケティング人財育成は「EC事業の内製化」を支援するコンサルティング会社です。ECMJコンサルタントが社内のECチームに伴走し、EC事業を進めながらEC運営ノウハウをインプットしていきます。詳しくはECMJのホームページをご覧ください。

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