「買うのはWeb、体験は店舗」。コメ兵グループのK-ブランドオフ「BRAND OFF」がめざす顧客体験とは?
W2が実施したオンラインカンファレンス「Unified Shift2024」(9月26日開催)の特別講演に登壇したコメ兵グループのK-ブランドオフ。WEB事業部長の白川貴浩氏が「ブランドリユースシェアNo.1のコメ兵ホールディングス グループ企業『K-ブランドオフ』が描く新たな顧客体験」をテーマに講演した。カンファレンスの内容からK-ブランドオフの顧客体験戦略に迫る。
顧客体験が「モノをつないでいく」ことを重視
K-ブランドオフは石川県・金沢を拠点に置くリユース企業。「BRAND OFF」の屋号で国内に直営・FC合わせて全国50店舗以上を展開する。ブランドバック、宝石・時計などの買い取り販売のほか、ECを自社サイト、モール店で展開している。
海外展開も行っており、香港、台湾、上海などに15以上の実店舗を構える。越境ECにも力を入れており、欧米向けに「eBay(イーベイ)」、中国向けに「Tmallグローバル」を展開。また事業者向けのブランド品オークション「日本ブランドオークション(JBA)」を主催している。
「BRAND OFF」の顧客層の特徴は、買い取りと販売で異なる。買い取りは国内の30歳~50歳代の女性がメイン層。一方、販売はインバウンドの外国人旅行客が中心だ。日本のリユース品は真贋(しんがん)鑑定の確かさや状態の良さから、海外から高く評価されているのという。そのため買い取りと販売でそれぞれ集客戦略が異なり、販売はインバウンド向けのSNSを中心とした「旅マエ」訴求を手がけている。
そんな「BRAND OFF」が大切にしているのが、「モノをつないでいく」という顧客体験。
ブランドバッグなど大切にしていたモノを信頼できるお店として「BRAND OFF」にお売りいただく。私たちは買い取ったモノを丁寧にメンテナンスして再生する。そして、その商品を本当に探していた人が購入するというサイクルを体験してほしい。「売る」というより「モノをつないでいく」といった感覚を体験してほしいと考えている。(白川氏)
「店舗取り寄せ機能」でECから実店舗へ来店促進
「BRAND OFF」では良い顧客体験の提供として、ECと実店舗をつなぐ取り組みを積極的に強化している。その1つが「店舗取り寄せ機能」だ。ECサイトに掲載している商品を店頭に取り寄せ、店頭で実物を確認した上で購入できるという仕組み。W2のシステムを用いて実装した。
決済は店頭で行うが、取り寄せた商品を実際に確認した上で購入しないことも可能。また「店舗取り寄せ」とは別に、ECで購入した商品を店頭で受け取ることができる「店頭受取」も提供している。「店頭受取」は事前決済となるが、受け取り時に商品を確認しキャンセルすることもできる。
ラグジュアリーブランドの商品が中心となるため、商品金額が高額になる。そのため、状態の確認など「実物を見て買いたい」というニーズは大きい。また「店頭で知識のあるスタッフに質問したい」というニーズもある。加えて、実際にお店を見て安心していただけるというメリットもある。
これらは「お客さまに納得してご購入いただく」という体験価値を高めるために強化している取り組み。実際に来店いただいて取り寄せたモノとは別の商品を購入したり、取り寄せ商品と合わせて別の商品も購入するなど、顧客満足度の向上に貢献できている。
こうした機能を使って一度、近くにお店があることを知ってもらったり実際にお店に足を運んでいただいたりと、顧客接点の強化にもつながっている。(白川氏)
「BRAND OFF」はFC展開しているため、「店舗取り寄せ」機能によりFC間での在庫移管も発生する。こうした点について、K-ブランドオフでは「独自のルールでクリアしている」(白川氏)という。本部の商品管理課が全FCの共通データベースを管理し、在庫移管発生時には商品補充を行うなどして現場の不満が発生しないよう調整する。
ただ、こうした店舗とWebをつなぐ取り組みでは、「店舗とEC、どちらの売り上げとして処理するか」といった課題もある。この課題は独自のシステムでクリアしているという。
「店舗だから」「ECだから」というのは会社としてなるべくなくすようにしている。その上で、どちらも公平になるようなシステムを構築している。ECには実店舗からの協力が不可欠で、その逆もまた然りだ。以前は現場から不満の声もあがっていたようだが、お互いに歩み寄り、両チームのリーダーにも理解してもらい、上手くバランスを取れるようになった。(白川氏)
K-ブランドオフでは現在、まだECと実店舗の相乗効果を評価する指標は設けていないという。「実店舗とECがタッグを組んだからこそ伸びた売り上げのデータといった、ユニファイドデータのような指標があるのが理想。現在の1つの課題として解決をめざしているところだ」(白川氏)
「買うのはWeb、体験は店舗」の実現をめざす
「BRAND OFF」がこれからめざす顧客体験の姿はどのようなものだろうか。
K-ブランドオフは「買うのはWeb、体験は店舗」という方針をめざしており、白川氏は「今後EC単独はもちろん、『実際に物を見てから買いたい』というニーズは増えてくるのではないか」と予測している。
そのなかで「BRAND OFF」が理想と考えるのは、注文・決済はWebで行い、店頭で実物を確認、購入商品は宅配――という流れだ。実店舗を“買う場所”から“体験する場所”へと変化させていきたいとしている。
ECで注文してお店に見に行く、現物確認や試着、比較などをしてもらいつつ、現場のスタッフからプラスアルファのアイテム提案を行うなど、実店舗を体験の場にしていくことが理想だ。
決済も事前に済ませ、商品はその場で持ち帰らず配送にして手ぶらで帰宅する。配送にすれば、受取時に商品との2回目の対面が起こり、通販特有の商品が届く感動やワクワク感を演出できる。配送のためにお客さまの住所など個人情報を自然な形で提供いただくため、CRM施策も行える。販売の促進はもちろん買い取りの案内もでき、お客さまにより満足度の高い体験を提供していける。(白川氏)
店頭での顧客体験向上にあたっては、スタッフ向けに「接客アプリ」を用意し、本格的に運用を開始した。顧客ごとの会員情報や好きなブランドといった嗜好のデータのほか、購入履歴、売買履歴、LINEなどでの対応履歴を参照できる。
対応履歴には、たとえばお客さまが来店時に「〇〇のバッグを探している」といった会話などを記録できる。こうしたニーズを拾った上で入荷通知などを行い、ベストなタイミングでアプローチできるようにしている。「接客アプリ」はまだ導入したばかりだが、店舗スタッフが積極的なアプローチを行えるようになり、接客の質も上がった。(白川氏)
また買い取り利用から販売利用、販売利用から買い取り利用といった行動の循環も促進していく。買い取りと販売をクロスで促進する取り組みとしては、ポイントアップ企画などを展開しているが、まだ課題は多いという。体験設計を含め強化していく考えだ。
将来的には日本・台湾・香港・上海のECをシームレスに
「BRAND OFF」では海外事業も強化中。越境分野でも顧客体験の向上、CRM施策の強化を図っていく。
その施策の1つとして取りかかっているのが「リバウンド戦略」。日本国内の「BRAND OFF」で商品を購入したインバウンド旅行客に、ECでリピート購入を促進するという取り組み。具体的には実店舗での購入時にECで利用できるクーポンの付与などを行い、「旅アト」需要も取り込んでいく。
将来的には日本・台湾・香港・上海の4つの拠点で展開するECの商品を、どこからでも購入できるよう統合していきたいという。
5年後に世界の消費動向はアジア中心になるという指標もある。コメ兵グループとしてもアジア展開を強化しているところで、コメ兵とK-ブランドオフで香港に拠点を発足し、世界中の商品を集め、販売していくことを進めている。「BRAND OFF」としては「リバウンド戦略」とあわせて、4拠点のECをどこからでも購入できるようにしていきたい。(白川氏)
データ活用やデジタル施策の積極導入を行っている「BRAND OFF」だが、最終的には基本である店舗設計や品ぞろえに帰結するとも語った。顧客に寄り添いながらも顧客体験の提供を図っていく。
いろいろな施策や分析を何年も繰り返し行ってきたが、高度な分析や施策もやればやるほど基本に立ち返る。やはり何よりも大事なのはお客さまが入りやすいお店作りと、がっかりさせない品ぞろえ。プライシングやプロモーションではなく、MDや店舗設計といったコンテンツが最重要であることに行き着く。
さまざまなツールが登場し、分析や施策立案でもできることは増えているが、店頭に一日立つことで見えてくるものや、ECのCS対応をしてみるとわかることは非常に大きい。どんなに高度化しても、結局は“人”に近いところに寄っていくのではないか。そうした部分を大事にしながら顧客体験の向上に取り組んでいきたい。(白川氏)
【イベント主催者に聞く】W2はユニファイド×データ×AIを掛けあわせてソリューションを磨く
「Unified Shift2024」を主催したW2は、「ユニファイドコマース(Unified Commerce)」の提唱・啓もうを強化している。
「ユニファイドコマース」とは、顧客それぞれに価値ある購入体験を提供するマーケティング手法のことで、 オンライン・オフラインを問わず、ECサイトや実店舗で取得したデータを統合することで、個別に最適なアプローチを図るというものだ。
W2の山田大樹社長に、カンファレンス開催の理由やユニファイドコマースへの考え方などについてインタビューした。
――今回カンファレンスを実施した理由は。
山田氏:「ユニファイドコマース」は米国など海外では当たり前になってきているが、日本はまだ浸透が進んでいない。OMOやオムニチャネルなど事業者が主体となるコマース環境の整備は進んでいるが、本来あるべき姿、顧客ファーストな「ユニファイド」にシフトし切れていないのが現状だと思う。こうした状況がW2としては歯がゆいところ。
W2のソリューションは「ユニファイドコマース」を実現できるプラットフォームとして8割方整ってきている。本来的なユニファイドを実現していくことが勝ち筋だと思うからこそ、「ユニファイドコマース」について多くの方にお伝えするべく、今回のカンファレンスを開催した。
――事業者における「ユニファイドコマース」の取り組み状況をどう見ているか。
山田氏:リアルとECなど複数のチャネルを持つ事業者さまは、OMOやオムニチャネルという文脈でコマースの統合に向けて何かしら取り組まれていると思う。
一方で、実店舗におけるオペレーションの壁やフランチャイズの壁、システムが統合できていない、分析がうまくいかないなど、さまざまな部分で課題を抱えており、本格的な「ユニファイドコマース」の実現には遠いという事業者さまも多いと感じる。
EC化率という軸で考えると、中国では65%を超え、米国も40%に近づいてきている。日本は約13%とまだ低いが、国内のEC化率は今後10年くらいでまだ伸びていくという調査結果もあり、今後はリアル店舗もECも含めて最適な場所で買ってもらうという「ユニファイドコマース」が重要になる。そのなかでW2としては「ユニファイドコマース」の提唱とシステム的な実現、その部分をしっかりと担っていきたい。
パーソナライズ、AIなどのテクノロジー活用の重要性が増すと予測
――今後のEC業界の進化などはどうとらえているか。
山田氏:今後パーソナライズの提案というのは進化・定着が進む。最適なタイミングで最適な商品が提案され、消費者は商品を能動的に探さなくても提案されたもののなかから選ぶだけでいい、というような滑らかな購買体験が当たり前になると思う。
一方で、EC事業者側はパーソナライズした商品の提供という部分が重要になっていく。これまでのように大量に作って大量に売るのではなく、いわゆるオーダーメイド、パーソナライズといった商品が非常に重要になる。また需要予測の重要度も増す。
こうした未来に対応していくためには、AIなどテクノロジーの活用が不可欠となる。W2はプラットフォームの企業として最先端テクノロジーを提供し、EC事業者の業務のデジタルシフトからエンドユーザーの購買体験のデジタルシフトまでを支援していく。
――W2の今後の展望は。
山田氏:「ユニファイド」×「データ」×「AI」、この3つの掛け算でソリューションを磨き上げていく。こうしたものこそEC事業者が必要としていると思う。こうしたソリューションの提供を通じてEC業界全体も盛り上げていきたい。
世界は今「データの時代」を迎えている。一方で最適にデータを収集・蓄積ができているかというとまだまだそうではない。データを最適に集め、いかに活用するかが「データの時代」の一番のキーポイント。あらゆるデータをユニファイド(統合)し、さらにそこにAIを活用していく。いかに効率的に良い世界を実現していくかということが求められる。W2はそのような世界のけん引役になっていきたい。