研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

イギリス社会学の伝統を踏まえた実証的貧困研究と日本の「主流派」社会学におけるイギリス社会学の不在

阿部彩『子どもの貧困ー日本の不公平を考える』

子どもの貧困―日本の不公平を考える (岩波新書)

子どもの貧困―日本の不公平を考える (岩波新書)

著者の阿部氏は、第51回「日経・経済図書文化賞」 受賞図書である『生活保護の経済分析』を3人の経済学者との共著で出版した日本の貧困研究の第一人者である。だが、彼女のバックグラウンドはタウンゼントに代表されるイギリスの社会学的かつ実証的な社会政策研究(Social Policy)や貧困研究である。

Poverty in the United Kingdom: A Survey of Household Resources and Standards of Living

Poverty in the United Kingdom: A Survey of Household Resources and Standards of Living

↑この古典は邦訳すらされていない。あんまり分厚いんで、私もつまみ読みしかしていないが。。

ここからは素人のディレッタント的たわごとだが、この系譜に近しいところに、T.H.マーシャルやティトマスなどの、今日の福祉国家研究の礎を築いたイギリスの偉大な社会学者たちもいる。タウンゼントも含めて、彼らはみな社会学者としてのアイデンティティを持っていたし、彼らの蓄積の上に立つ福祉国家論者のエスピン・アンデルセンも一社会学者として、「二つの社会、一つの社会学、そして理論の不在」という社会学についての論文を書いている。

Esping-Andersen,G(2000)Two Societies, One Sociology and No theory, British Journal of Sociology
http://www3.interscience.wiley.com/journal/121384755/abstract

下記の本の第6章で翻訳読める。

福祉国家の可能性―改革の戦略と理論的基礎

福祉国家の可能性―改革の戦略と理論的基礎

なのに、日本で社会学というと、ドイツ、フランス、アメリカがメインのようで、イギリスの社会学的な政策研究は(ギデンズという例外を除いて)すっとばされることが多い。この社会学「史」の本もそうだ。

ブリッジブック社会学 (ブリッジブックシリーズ)

ブリッジブック社会学 (ブリッジブックシリーズ)

↑なぜナナメ

どこの国でもそうなのだろうか。

この本自体は面白そうだしわかりやすそうだから積読。でも「社会学はきわめて実践的」と書いているわりには、学説史色が強すぎて、それらを現実社会の分析に適応したら世の中がどう見えるのか、よくわからない印象。

話を阿部本に戻すと、中身はまだ2章までしか読んでいないが、この本↓同様、勉強になりそうです。ただ、「サンプル数」という言葉が散見されるのは、英語で教育を受けた人なのに、不思議。プロもアマもみんな使っちゃっているし、もうこの言い方でいいことになったのかな。

http://d.hatena.ne.jp/dojin/20081001#p1

注:もちろん、日本の社会政策学者にはイギリス社会学の影響下にある人たちは、武川正吾氏や平岡公一氏を筆頭に、それなりにいる。社会福祉学者も入れてよいなら、その数はもっと増える。そういう意味では、「イギリスの社会学はすっとばされる」は言い過ぎだったかもしれない。そのうち、もう少し勉強します。←こればっか。