「てるてるソング」 小野塚テルの一日一冊一感動『感動の仕入れ!』日記

毎日の読書、映画、グルメ、流し、人との出会いなど様々なものから感動を得ています。特に本は年間300~400冊読破します。人々を『感』させ『動』に導き、『感する人』になるようにそのエッセンスを紹介しています。

「わからない」(岸本佐知子)

きたきた!!!岸本佐知子さんの最新作っ!!!待っってましたー!!!370ページなのに読み出したら、一気読みっ!!!ぎゃははー!面白すぎー!!!!(=^・^=)
 
 
「四半世紀分のキシモトワールド。本書はデビューエッセイ集『気になる部分』(白水社刊、2000年)以降に様々なメディアに寄稿した、単行本未収録の文章を集大成したものだ。いずれの章も、抱腹絶倒、奇想天外、虚実の境をまたぎ越す著者の真骨頂が堪能できる。危険防止のため、電車の中では読むことをお控えください」そのエッセンスを紹介しよう。
 
 
【ここ行ったことない②ブータン】
 
 
ブータンへは行ったことがない。行ったことはないが、ブータンについて考えるのはけっこう好きだ。ブータン。その言葉を口にするだけで、あるいは頭に思い描くだけで、つい顔が半笑いになり、体 のどこかわからない部分が脱力する。いろんなことがどうでもよくなる。こんなに短い、しかも国名だというのに、何という破壊力。ブータン。
 
ブータンの人たちは、たぶん絶対に怒ったり怒鳴ったりムカついたりしないんじゃないかと思う。つねに笑顔で、動作もゆったりしている。めったなことでは走らない。どうしても急ぐときはスキッブ。ブータンだもの。
 
夜は八時に消灯。夜明けとともに起床。ラジオ体操をして農作業をしてから登校出勤。道行く人 に 笑顔であいさつ。父母を敬い。娯楽はピクニックと踊りと墓参り。もちろんネットなんかやらない。一生のうちにただの一度も「ぶっ殺す」も「死ね」も「ざけんなオラ」も言わずに生涯を終える。
 
・家に帰ると、たいてい近所のSちゃんの家で遊ぶ。行くと必ずお人形遊びをさせられる。Sちゃん がバービーを手に持って、変な高い声で「お買い物に行きましょう」とか言う。そしたらこっちも「そうしましょう」とか言わないといけない。これのどこが面白いんだろう。お人形なんて嫌いだ。無理してかわいがるふりをしたらお母さんがすごく安心したような顔をしたけれど、一週間ぐらいで我慢がバクハツして、真っ赤なマジックで全身惨殺死体に変えてしまった。お人形遊びなんかやりたくない。でもそのことは、なぜだか絶対に言っちゃいけないような気がする。ばれちゃうから。ばれるって何が?わからない。地球人のふりをして生きてる宇宙人も、こんな気持ちかもしれない。
 
・父はなにかと独自理論の人だった。ハシブトカラスとハシボソカラスを「アシブト」「アシボソ」だと思い込んでいて、ずっとカラスの脚を見て「あれはアシブト」「あれはアシボソ」と区別していた。近所で鳴くヤマバトを長いことフクロウの声だと信じていた。父の独自理論のせいで娘が損害をこうむることもあった。子供のころ家で父に教わった入浴ルール は、「洗う前に垢をよくふくらませるためにまず湯船に浸かること」だった。修学旅行でそれをやって、 何となくみんなから引かれた。 
 
呼び名がいろいろ変だった。ジュリア・ロバーツをジュリア・ロバートと言った。タイガー・ウッズはタイガー・ウッド。無理に矯正したらタイガース・ウッドになってしまった。はっきりとは言わ なかったけれど、どうも一人なんだから単数形だと思っていた節がある。そのわりに、ジャイアンツ のことはなぜかいつも「ジャイアン」と言っていたが。
 
・ミシガン州には「地獄(ヘル)」という町がある。町の広報によると、ここを最初に開墾 して住み着き、酒の密造で財をなした人物が、州から町名を決めろと言われて「そんなもん知るか。 地獄とでも何とでも好きに呼びやがれ」と答えたのがそのまま登録されてしまったのだそうだ。あるいはケンタッキー州「猿の眉毛(モンキーズ・アイブラウ)」ユタ州「乳首(ニップル)」。メイン州「はげ頭(ボールド・ヘッド)」。ウィスコンシン州「恥(エ ンバラス)」。ヴァージニア州「桃尻(ビーチ・ボトム)」。アラスカ州「非アラスカ(アナラスカ)」。アリゾナ州「なぜ(ホワイ)」。テキサス「よくわからない(アンサータン)」。ミズーリ「ちがう(ナット)」。これらはネガティブな一群。
 
まだある。メリーランド「退屈(ボアリング)」、ケンタッキー「貧乏(ボヴァティ)」、ミズーリ「変 (ペキュリア)」、サウスカロライナ「へたれ(カワード)」などは何らかの罰ゲームであろうか。ジョー ニジア「指パッチン(スナップフィンガー)」、フロリダ「まだ足りぬ(ニードモア)」、カリフォルニア 「びっくり(サプライズ)」、テキサス「電話(テレフォン)」、テネシー「蛙ぴょん(フロッグジャンプ)」、 カリフォルニア「ザ・街(ザ・シティ)」、三秒ぐらいで適当に決めたとしか思えない。しかし何といっても一番の衝撃は、ネブラスカ州の「ゴキブリ(ローチ)」だ。
 
 
・ひごのかみ 肥後守。という言葉を聞いたときに心の奥に感じるかすかなひっかかりは、たとえば「石川五右衛門」という言葉を聞いたときのそれとちょっと似ている。「五右衛門」と書いて「ごえもん」と読む。どうして「ごうえもん」じゃないのか。「右」はどこへ行ったのか。漢字三文字で二文字ぶんの読みがなしかない なんて、なんだか落ちつかない。
 
あるいは「紀伊國屋文左衛門」と聞いたときのそれ、と言いかえてもいいかもしれない。なぜ「きいくにや」でなく「きのくにや」なのか。「伊」を「の」と読むなどという暴挙が許されるのなら、「田」 と書いて「ぬ」と読もうが、「川」と書いて「ら」と読もうが、「夏目漱石」と書いて「アンジェリー ナ・ジョリー」と読もうが、もう何だってありになってしまうではないか。
 
 
【あいや天気予報】
 
私が高校生だった七○年代後半ごろ、深夜の民放で「じょんがら天気予報」なる五分番組がありました。じょんがら節をBGMに、そのへんを歩いていたおっさんを適当に拉致してきたかのようなゴルフ焼けした地味なアナウンサーが、明日の天気を淡々と読み上げるという番組でした。その「じょんがら天気予報」が、ある短期間「あいや天気予報」と題名を変え、体裁は同じでBGMだけ「あいや節」に変わったことが確かにあったのです。誰に聞いても知らないと言います。あれは夢だったのでしょうか。誰か覚えていらっしゃる方、あるいは俺がそのおっさんだという方、ぜひご一報ください。
 
 
・私にとって生きることとは「何かわからないことが襲ってきて右往左往すること」の連続であって、しかもそれを倒してくれるヒーローも軍もいない。だから私は他の人々も自分みたいに等しく右往左往するのを見て 、こんなにも安らかな気持ちになるのかもしれない。
 
・いっときは新宿から箱根や江ノ島までの駅名をすべてそらで言えたほどだが、その 中に一つ気になる駅名があった。〈風祭〉。読み方からしてわからない。カザマツリ?カゼマツリ?フウサイ?ものすごく興味深い。やはり風が強く吹いているのだろうか。でもって年がら年じゅうお祭り状態だろうか。駅を下りると、荒涼たる岩場に大小の風車が林立し、吹きすさぶ風にたえずカラカラカラカラと回っているだろうか。枯れ草の塊が砂埃とともに転がり、木はすべて斜めに生えて いる。人も基本歩くのではなく転がる。空を見上げれば飛び交う無数のメーヴェ。と、遠くからかすかに聞こえてくるにぎやかな鉦太鼓の音。ピーヒャラピーヒャラ、コンコンチキチンコンチキチン。強風に逆らうように地平線の彼方から現れる巨大な神輿。担いでいるのはすべて半裸のセクシー女性、名前は全員「ゆき」。女のご神体を祀った神聖な土地であるため、男は風祭駅で降りることを固く禁じられている。禁を冒して降りた者は大勢のゆき達に襲われ 、よってたかって精を吸い取られ、遺骸は峠に運ばれ風葬に付される。そしてまた一本、風車が増える。
 
・お台場へは行ったことがない。行ったことがないまま、断片的な知識だけがある。お台場へは、たしか「ゆりかもめ」というものに乗っていくのだ。この「ゆりかもめ」にも乗っことがない。ゆりかもめ。アヒルかヒヨコの形をしたゴンドラを縦に三両ほどつないだような乗り物だろうか。 走るとゆりかごみたいにゆらゆら揺れる。当然屋根はない。たぶん猿が運転している。それがモノレールのような、地上数十メートルの高さの線路の上を揺れながら走っている。恐ろしい乗り物だ。だがお台場に行くにはそれしか交通手段がないので、決死の覚悟で乗る。私は命からがら「ゆりかもめ」までたどり着き、猿に鋭いムチをくれて全速力で運転させ、ほうほうの体で逃げ帰った。お台場は恐ろしいところだった。行ったことはないが、二度と行きたくない。
 
・私はかつてダメ会社員だった。どのくらいダメだったかというと、私が辞めた後のその会社で「その机の散らかり方はキシモト並みだ」とか「キシモトじゃあるまいし会議で寝るな」という風に、私がダメの一つの基準として今も使われ続けているほどだ。
 
私とて好きこのんでダメだったわけではない。これではいけないと思いつつ、どうすればダメでなくなるのか、その方法がわからなかった。悲しかった。もしもこの世にダメ矯正ギプスのようなもの があったなら、私は喜んでそれを装着したことだろう。
 
・H社S谷さんにあてた「いやー、きのうは酔っぱ らっちまったーい! ビバ!濁り酒!」みたいな 内容のアホメールを間違って同業大先輩○さんに 送ってしまい、即死。馬鹿のふりをして「春風の悪戯でしょうか?」的なフォローのメールを入れ、傷 を深める。○さんからは「エイプリルフールかと思いました」という優しい返礼門院。
 
・S山の最近の三大興味は大神源太、鈴木宗男、韓国不審船。「大神源太」のところでがっちりと握手。
 
・K社Sさんにメールで送った献本リストを後で見 直したら、「代田」が「抱いた」になっていた。そ んな住所はない。あわてて訂正のメールを出したが、 そのメールを後で見直してみたら、自分の名前が「幸男」になっていた。プチ鬱。
 
・きれいな雨。この世のすべての蛙の至福。夜、ラーメン屋で、皿うどんを食べながら三島由紀夫を読みながらナイターを見たら、皿うどんの味はわからず、三島由紀夫は頭に入らず、逆転サヨナラの劇的瞬間は見逃し、何ひとついいことがない。
 
・使っているワープロが「栗と栗鼠」などという変換をするので、調教と称していろいろな言葉を覚えさせる。
 
・コスプレの会が深刻化。メンバーから次々と「何に扮すればいいのかわからず煩悶しています」「べルリンで自分を見つめなおしてきます」「北の海を見にいってきます」「ぎゃあああ」などの切羽詰まった反応だらけだ。
 
・新宿駅のホームに立っていたら、八十歳ぐらいの 老人二人組が「いや、まだキッスも し てないし手も握ってないんだ」という発言が。
 
・大学の四年間を振り返って確実に言えること、「睡眠学習に効果は認められない」。
 
その他、「わからない」「イエス脳」「猿の眉毛タウンの謎」「オカルト」「こんにちは、わたしがママよ」「肥後守は何のカミ」「あいや天気予報」「珍しいキノコの収集」「人々がなすすべもなく右往左往する映画(『クローバーフィールド』『宇宙戦争』)」「テロップを見ない」「エンドレス心霊動画」「彼ら(見たら殺す)」「回廊」「猫失いの守り札」「墓と馬鹿」「邪悪すれすれ」「これから英語を勉強しなければならないみなさんへ」「ここ行ったことない①回転寿司」「ここ行ったことない③YRP野比」「もう一度読んでみた④『小僧の神様 他十篇』」「もう一度読んでみた⑤『銀の匙』」「もう一度読んでみた⑦『ムツゴロウの無人島記」「ベストセラー快読『イヌが教えるお金持ちになるための知恵」「ベストセラー快読『なぜか、「仕事がうまくいく人」の習慣』」「ベストセラー快読『新耳袋第六夜 現代百物語』」など。

 

いや〜スゴイ、すごすぎるっ!!!「回転寿司」のことをこんな風に書けるのはキシモトさんだけだろうなあ。もう今年のベスト3決定だよ!!!超オススメです。(=^・^=)

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