ユニセフ本部って表現規制を推進してるの?

 アグネスより徹子を選ぶ理由 - Togetter
 まあ、要はアグネスは漫画やアニメを散々目の敵にして批判してきたから、あいつが大使をやっている日本ユニセフには募金したくない。
 あいつらに募金するぐらいだったら徹子がいい。板東英二に向かって、「あなたのような子供を産んだ覚えはない」と言い放つ徹子は最高である。あと、登場人物の名前が全員、世界ふしぎ発見!出演者にちなんでいる平野耕太の『アサシネ』でも黒柳姐さんマジかっこいい。
 で、俺の徹子に関する知識が尽きたので本題に入るけど、こちらのブックマークページを見ていたら、こんなコメントがあった。

id:crowserpent
本家ユニセフも表現規制推進してるよ、って書こうとしたら既に同じツッコミ複数入ってた。

id:Ivan_Ivanobitch
いや、UNICEF総本部も表現規制推進派なのですが……

id:mongrelP
まぁ表現規制関係は本部でもやってるんですけどね(白目)

 などというコメントがあったのだが、寡聞にしてそんな話は聞いたことがない。
 ソースはどこだよ! 他人の揚げ足を取るときはソースが必須やろが!
 と思っていたら、ちゃんと下の方にソースを貼ってくれている人がいた。サンキューはてな。

id:Lhankor_Mhy
こいつらおめでたいなあ……。日本ユニセフだけじゃないよ。「UNICEFは児童ポルノマンガ・アニメーション・ゲーム所持制限を強化するように促した」http://www.reuters.com/article/2008/03/11/idINIndia-32418120080311

 さっそく確認しようとしたらソースが英語である。
 しまった! こんなことだったら、よくはてブのトップページに上がってる「半年でTOEICの点数を800点代に上げる方法」とか読んどきゃよかった!
 ってかさあ、ここは日本なんだから、英語のソースはソースとして認められないんじゃないかな? ちゃんとやまとことばを使ったニュースソースを持ってくるのが礼儀ってやつじゃなんじゃないかな?
 などと思ったが、はてブの文字数制限に引っかかったので、泣く泣くクレームを諦め、頑張って英語で読んだわけである。
 でさあ、そうしたら、こんな一文が見つかったわけですよ。

But the Japan branch of the United Nations Children's Fund (UNICEF) urged Tokyo to beef up its laws by banning child pornography in manga comics, animated films and computer games as well as individual possession.

「the Japan branch of the United Nations Children's Fund (UNICEF)」
 ユニセフ日本支部…………これってさ、日本ユニセフ協会のことなんじゃね?
 この記事がアップされたのは、2008年3月11日。
 この日はちょうど、日本ユニセフ協会、ECPAT/ストップ子ども買春の会、マイクロソフト株式会社、ヤフー株式会社などの共同によって「なくそう! 子どもポルノキャンペーン」が開始された日である。
 つまり、この記事は「なくそう! 子どもポルノキャンペーン」を紹介したものであり、この記事の中で漫画やアニメやゲームの規制強化を訴えているのは、国際連合児童基金本部ではなく、日本ユニセフ協会なのだ。
 もちろん、日本ユニセフ協会を、単純にユニセフの日本支部とみなして良いかという点には疑問の余地があるものの、日本人でもいまいち把握しきれてないものについて、外国人記者にそのような正確性を求めるのは酷であろう。
 確かに記事の見出しだけ見ると勘違いしそうになる。だが、この記事から「UNICEFは児童ポルノマンガ・アニメーション・ゲーム所持制限を強化するように促した」などと引用するのは大きな誤りであろう。
 ちなみに昨年国連で行われたセミナーでも、児童ポルノ単純所持違法化を訴えてはいるものの、そこにはマンガやゲームなどに対する言及は一切含まれていない。
 【開催報告】“待ったなし!一日も早い児童ポルノ単純所持違法化を。”|日本ユニセフ協会|報告会レポート
 まあ、もちろん、写真や映像も表現の一種ではあるので、そういう意味ではユニセフ本部が表現規制を推進しているのは間違いない。
 この状況で「ユニセフは表現規制を一切推進していない」などと言おうものなら、「僕が必死に小学校のロッカーに忍び込んで撮った写真を表現とみなさないのはなぜだ!」「女子の股間から放たれる尿の、虹のような曲線に貴様は芸術性を感じ取れないのか!」などと怒鳴られるだろうし、そうなれば「すいません、僕が悪かったです」と素直に頭を下げて、こっそり通報するしかない。
 しかし、冒頭のtogetterでは、あくまで日本ユニセフ協会による「マンガ」や「アニメ」への表現規制に対して異を唱えているのであり、これに対して「本家ユニセフも表現規制を推進している」とツッコミを入れるのは的外れだろう。少なくとも、ユニセフ本部はマンガやアニメに対する表現規制を現状行ってはいない。
 もちろん、私は先に言ったようにろくに英語も読めない人間なので、ユニセフ本部がマンガやアニメに対する表現規制を推進しているという情報を見逃しているかもしれない。
 だから、もしそのようなソースがあるのであれば、是非紹介して頂きたいものである。

追記
 というわけでIDコールを使って呼びかけてみたら、mongrelP氏からソースの提供があった。
 わざわざありがとうございます。
 http://www.unicef.or.jp/special/0705/cyberporn03_03.html
 こちらは日本ユニセフ協会による、2007年から2009年にかけての「子どもの性虐待描写物に関する国際的な動向」のまとめである。
 ざっと見た限り、ユニセフ本部が直接的に規制を推進運動を行っている様子は見られないものの、下部にあるユニセフ高官のコメントによれば、

サード・フーリー事務局次長
(2009年6月 毎日新聞社のインタビューに答えて)
「漫画などで児童を性の対象とすることも容認できない。表現の自由を尊重するあまり、子どもの性的な対象とすることを許せば、子どもの人権を深刻な危険にさらす。」

アン・ベネマン事務局長
(2009年10月 「子どもたちの前進」発表会場で、記者の質問に答えて・朝日新聞他で報道)
「子どもポルノは虐待であり子どもの権利の侵害です。日本で所持が認められていれば、インターネットで他国の人もアクセスできるのです。子どもに危害を与えるものならば、その表現の自由は制限されるべきです。」

 とのことである。
 サード・フーリーに関しては、これはもう確かに言っちゃっている。詳しいソースはこちらに。
 http://megalodon.jp/2009-0706-0102-28/mainichi.jp/select/opinion/closeup/news/20090627ddn003010025000c.html
 ただ、上の引用ではカットされているがこちらの記事では、コメントの末尾に「日本政府の取り組みに期待したい。」とあるように、積極的に規制運動を行う意志は見せていない。いずれ本格的に規制運動を始めるのかもしれないが。
 そして、アン・ベネマンのコメントだが、元の発言はこちらで読める。
 http://www.unicef.or.jp/osirase/back2009/0910_02.htm
 上記の引用だけだと、彼女が指す「子どもポルノ」がゲームやマンガなども含めているのか、判断しづらいが、その場で

「表現の自由の問題があることも承知しています。私自身、表現の自由を最も尊ぶ国の出身です。そうした国々が、既に児童ポルノの問題に真剣に取り組んでいます。表現の自由には責任が伴います。表現の自由には、許される範囲というものもあります。しかし、他者を差別したり、陥れようとしたり、虐待したりするような表現は許されるべきではありません。」

 といった内容を語っており、ここで表現の自由を言葉を使っている以上、マンガやゲームといった媒体に対しても快く思っていないと考えるべきだろう。
 というわけで、ユニセフ内部でも児童が性的対象となるマンガやゲームに対して、批判的な人物もいることが判明した。
 その一方で、現状ユニセフ本部の組織そのものが、日本ユニセフ協会が行った「なくそう! 子どもポルノキャンペーン」のような規制推進運動に携わっているという情報は見当たらず。他にもこんなソースがあるというのならば、是非ご教授頂けたら幸いです。
 個人的にゃ、これらのケースだけを持って、ユニセフ本部を規制推進派とみなすのは言い過ぎではないのか。とは思う。
 苦しんでいる子供の命を救いたいが、だからといってマンガやアニメは規制されたくないという感覚は別に矛盾するものではあるまい。だとするのならば、日本ユニセフ協会を通さずユニセフに寄付したいからアグネスではなく徹子を選ぶという判断も「今のところ」間違っちゃあるめえ。