新・怖いくらいに青い空

アニメ・マンガ・ライトノベル考察

『響け! ユーフォニアム2』総評

ひとまず、各キャラについて、これまでいくつかの記事で述べてきたことをまとめました。

久美子の成長

すでに他の方も指摘している通り、第2期になって改めて、久美子役の黒沢ともよさんの演技の素晴らしさを実感できましたね。私の第1話の記事でも述べましたが、場面場面によって声のトーンがガラリと変わるのが本当に素晴らしかったです。葉月とかと一緒にいるとき(猫かぶりモード)は全然普通なのに、麗奈といるときは心底面白いものを見るような「隙あらばじゃんじゃんいじめてやるぞ~(ゲス顔)」みたいな声になって、家族や秀一の前ではとにかく面倒くさそうな無愛想な声になってる。この切り替えが素晴らしいんです!

あと、泣きながら必死に絞り出すようにあすか先輩に気持ちを伝える時の演技も良かったし、誰かに声かけられて「わっ」とか言って驚くときの声とか、面倒くさいことに遭遇してすごい嫌そうに話してる感じとか、もう今年のアニメで一二を争う名演だったんじゃないでしょうか。

一方、久美子の内面的成長という観点も第2期は特に強調して描かれていました。最初のころの久美子は自分の気持ちを極力表に出さない、エゴを通さない、ただ周囲に流されるだけ、という感じでした。それは、そうしているほうが人間関係の波風も立たなくて楽だし、そのぬるま湯的な場所からあえて出ていく明確な動機もなかったからでした。ところが、どんなことがあっても自分を曲げない麗奈や、親に言われるがまま吹奏楽を辞め大学に進んだ麻美子さんと心を通わせる中で、次第に自分も「後悔」しない選択をしたいと思うようになります。そして、最後に久美子は、自分の意志であすか先輩に戻ってきてほしい、一緒に全国に行きたい、と言うことができたわけです。

しかし、この作品において、そうやって自分のエゴを通すということは、それによって生じる「責任」を受け止めるということでもあるわけです。たとえば、年功序列じゃなくて一番上手い人がソロを吹くべきとエゴを通すことで、香織先輩はソロを吹けないということになります。これは「犠牲」と言い換えてもいいかもしれません。これは久美子の場合も例外ではなく、あすか先輩が戻ってくるということはまた、夏紀先輩が本番で吹けなくなるということを意味しているんですよね。そういった「犠牲」をすべて受け入れて、それでもなお「後悔」しない選択をしたいと、はっきり宣言することができたからこそ、ああ久美子は変わったんだなあと我々は強く実感できるわけですね。

小笠原晴香さんについて

以前記事でも書きましたが、まあとにかく晴香部長が可愛いんですよ。葵が退部して泣く、葉月たちが選抜メンバーのために演奏してくれた時も泣く、コンクールの後でも泣く、部の送別会でも泣く、とにかく泣き虫で、早見さんの泣き演技も素晴らしいんだ。

でも、こういう頼りなさそうな姿も良いんですが、慣れない仕事を任せられて頑張ってる姿もまた魅力的であります。あすかや麗奈は、どちらかと言うと天才型の人間であり、自分をあるがままに表現できれば十分に称賛されるだけの力がある人間であり、それを実行するために他人とぶつかることを恐れない人間なのです。でも、小笠原さんは、人前に出るのも緊張してしまうし、リーダー的な仕事もお世辞にも得意とは言えない、それでもなお皆のために一生懸命がんばってる姿、それが本当に尊いです。他の登場人物が自分のエゴを通そうとして他人とぶつかっていく中でも、部長だけは終始「皆のため」に行動していたように思うんですよね。

おそらく彼女は努力型の人間と言えるんじゃないでしょうか。駅ビルコンサートのソロだってきっと、緊張しても大丈夫なように、ものすごい努力をしてるんだと思う。部長の仕事だって、あすかに頼りっぱなしの自分を変えようと必死に努力して、当然つらいこともいっぱい経験したでしょう。それがあったからからこその、あの全国大会の後の大泣きなんだと思うと、本当にもう感動で胸が詰まりそうになりますよね。

あすか先輩の家庭問題

以前の記事でも述べた通り、作品で描かれているのは、個人のエゴとエゴとのぶつかり合いと言っても過言ではないわけです。例えば、テキトーに部活やる組と、全国を目指して頑張る組との対立。ソロパートは3年生が吹くべきだという主張と、最も実力のある者が吹くべきだという主張との対立。

なかでも第2期は、部活よりも将来のことを考えて勉強してほしいという親の論理と、後悔にしないように今の部活を頑張りたいという子の論理とのぶつかり合いが描かれていました。特に、あすかの場合、母親が異様なまでにヒステリックで、何としてでも部活をやめさせようと学校まで押しかけてくる人物として描かれていました。

ところが、これは原作を読んだ時も思ったのですが、久美子の説得によってあすかが部活に戻ると、母親の件はまるで何もなかったかのようになり、母親がその後登場することもなくて、「え~、あすか先輩の件はこれで終わりかよ~」と思いました。あすかが部に復帰しようと思い直したのは久美子のおかげではありますが、実際に戻ってこれるようになったのは、模試で良い成績をとって母親を説得したからという部分が大きいわけです。実際に、母親とあすかの問題が根本的に解決したわけではなく、作品でもそこに深く立ち入ろうとはしないんですよね。

だから作品の構成として「正直どうなのかなあ」と思う気持ちはあります。ちょっとだけでも母親が再登場してきて、これからあすかと新しい関係を築いていけるような描写があれば良かったのですが…。でも、家庭の問題が最後まで曖昧なままで終わり、久美子も他の誰も部活動から外れた問題については結局踏み込んでいけないという感じは、現実の部活動を見ても分かる通りすごくリアリティはあると思います。

みぞれと希美

みぞれと希美との関係の描き方もまた、あすかと母親の話と動揺の問題を抱えています。これについては以前の記事で嫌というほど述べているのですが、簡単に言うと、「努力は本当に報われるか」という作品のテーマと、「あすかは何故希美の復帰を認めないのか」という主軸となるストーリーとが上手く一致していないという問題です。散々話を引っ張っておいて、結局、みぞれさんが希美のこと大好きすぎて色々ややこしいことになってただけという。

でも、そういう欠点を補って余りあるほどに、みぞれと希美の関係性が魅力的に描かれていました。その描き方についても、原作とアニメでは大きく異なっていて、それぞれ別の良さがあるということは、第4話の感想記事で書いた通り。

その後も、文化祭で客より優先して希美にケーキを渡そうとするみぞれなど、イチャラブっぷりを見せつけていましたが、何といっても圧巻なのが、全国大会へ向かう途中のバスで2人が向き合うシーン。わずか数十秒のシーンですが、第1話の中学時代のバスのシーンともオーバーラップして、これまで2人の辿ってきた道がすべてこのシーンに集約しているようで、個人的に2期で一番好きなシーンでした。

みぞれさん、希美さん、これからも末永くお幸せに。

その他の登場人物

あすか先輩が部に戻ってきたときにメッチャ泣いてる梨子先輩かわいい。集合写真でもちゃっかり後藤の近くにいる梨子先輩かわいい。部一番のラブラブカップルとしてこれからも夏紀や久美子を支えていってほしいですね。

麗奈と優子に関しては、久美子の場合とは逆の成長を遂げたように思います。例えば優子は、第1期では「ソロは香織が吹くべき」という自分の主張を執拗に叫んでいるだけですが、第2期ではまだ納得してないと言いつつも、自分の主張を抑えて「全国を目指すためには麗奈が吹くのが正しい」と認めるようになっていきました。麗奈も、最初は周りに弱さを見せずに一人で突き進んでいくだけだったのが、次第に自分の弱さを認めるようになり、久美子以外の人とも良い関係を築きつつあるように思います。

久美子が自分の意志を通そうとするとき、いつも割を食っていたのが、我らが夏紀先輩でした。まあ、これは第1期でも変わらないんですけどね。窓際で寝ていた夏紀に声をかけて練習に戻したのも久美子だし、夏紀がオーディションで負けたのも久美子でした。そして第2期でも、「あすか先輩が戻ってきたら夏紀先輩が全国出れなくなるやんうわあああああ」的な葛藤を乗り越えて「それでも私はあすか先輩に戻ってきてほしい」と宣言するのは久美子なのです。それでも、不平不満を一切言わずに久美子やあすかのために自分が犠牲になる夏紀先輩、これはもう天使という他ないですね。