ICHIROYAのブログ

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ラブラドールレトリーバーを飼ってはいけない

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 ラブラドールレトリーバーを飼ってはいけない。

 名うての起業家や著名人が大型犬を連れて散歩しているのが、かっこいいからといって、ラブラドールレトリーバーを飼ってはいけない。
 ゴールデンレトリーバーの方が美的だ。カールした毛をなびかせるところが、優雅だ。ラブラドールレトリーバーはその点、出家したゴールデンレトリーバーみたいで、ちょっと事情があって坊主頭にしてみましたみたいな、ヌメッとした印象がついてまわる。
 
 賢そうだからといって、ラブラドールを飼ってはいけない。 
 盲導犬やセラピードッグとして働く犬にラブラドールレトリーバーが多いからといって、頭がいいとは限らない。ゴールデンレトリーバーやボーダーコリーの方が賢い。
 うちのラブ(以下ラブと書いたときはうちのイエローのラブラドールレトリーバーの固有名詞)だって、馬鹿だ。飼い主の命令を聞かないこと、甚だしい。
 散歩していて細い道で車が来ているから端によってそばによけようとしても、いつもそれを拒んで、全体重をかけて反対方向、車が来る方向に行こうとする。そのままなら、車に轢かれるか、車を停めてしまう。仕方がないので、遠くに車の姿をみつけたら、いっさいリードを引っ張らず、なんとか説得することにしている。「ラブさん、ほら、車が見えるだろう?ここを歩いてたら車が通れないから、端によったほうがいいんじゃないかな。いい匂いがするのはわかってるよ、でも、(指差して)こっちの方だって、素敵な匂いがするかもよ。いや、急いだ方がいいんじゃないかな。あの車にも都合があるだろうし・・・」
 ラブラドールはどこか新入社員に似ている。


 毎日の散歩が運動になるからって、ラブラドールを飼ってはいけない。
 毎日朝夕45分。合計1時間半。
 家族の一日のスケジュールは、毎日、誰が散歩に行くかを決めることから始まる。夕方担当の僕は、そうそう飲みにはいけない。朝夕、嫁に行かせるわけにはいかないので、美味しそうな話も、ワクワクする話も、大儲けの相談らしき話も、後ろ髪をひかれる思いでお断りし、家に帰る。
 世の中には、健康のための45分より、もっと大事なものだってあるのだ。その誘惑にふらふらとのってみたいときだってあるのだ。
 お手伝いさんを雇っていざというときにはすぐに散歩を頼めるようできるようになるまで、あるいは庭の一部に森があって放し飼いできるような、いつもの散歩路がまるまる敷地に入ってしまうような、ちょっと大きめの家を買うまで、ラブラドールは飼ってはいけない。
 
 子供や老人にも優しそうな犬だからって、ラブラドールを飼ってはいけない。
 うちのラブは散歩中、いつも優しくしてくれる人を遠くにみつけ、興奮のあまり突進し、リードを手にかけていた娘(すでに成人していた)を引き倒した。小雨の日で道が濡れており、娘は仰向けに倒れ後頭部を強打した。ラブの好きなその人が驚いて救急車を呼んでくれて、娘は救急病院へ。レントゲンの結果、事なきを得たが、危なかった。
 なんてことしてくれるんだ、ラブ!
 遊んでいるときに、リードをかもうとして、間違えて僕の指に、ぐさりと牙を立てたこともある。小さいけど、深い穴が開いた。
 なんてことしてくれるんだ、ラブ!
 ドッグランで遊ばせているとき、小さな女の子を後ろから飛びついて、押し倒した。
 なんてことしてくれるんだ、ラブ!(大型犬のゾーンに小さな女の子をひとりで遊ばせておくほうも、どうなんだよ!) 
 おばあちゃんの顔を舐めようとして、老眼鏡をふっ飛ばして壊してしまった。
 その老眼鏡いくらしたか知ってるのか?なんてことしてくれるんだ、ラブ!
 優しそうだからって、ラブラドールを飼ってはいけない。

 きっと介護が大変だから、ラブラドールを飼ってはいけない。
 うちのラブはまだその必要がないから、ほんとうのところは未体験だ。30kg弱の体重の重さだけでなく、たまに間に合わず部屋でおもらししてしまった時の、その量の多さ、部屋の3分の1をも覆ってしまう大量のそれから、その大変さは想像できる。
 お知り合いの年上の黒ラブ君は認知症で、自分から入った穴から、後ろ向きに出てくることができずに、泣いているという。
 介護しなければならない相手がまたひとり増えるから、ラブラドールを飼ってはいけない。
 
 寡黙そうだからといって、ラブラドールを飼ってはいけない。
 散歩を終えて晩飯を食べ、やっと自分のゆっくりできる時間がきたかと思ったら、ラブがタオルを咥えてやってくる。
 遊んで、遊んで!
 無視していると、タオルと濡れた鼻をニノウデにぎゅうぎゅう押しつけて、上目使いに僕を見る。
 黒目の下に見えている白い部分が、僕を溶かしてしまう。
 わかったよ、ちょっとだけだぞ。ずっと留守番してたんだから、お前ための時間だよな、いまは。
 おしゃべりじゃないからといって、ラブラドールを飼ってはいけない。

  
 ソファに座って、おいで、ラブ!と呼んでみる。
 彼女は、ほぼ、半々の確率で、僕のそばにやってきて、よいしょっと言いながら、ソファに上がり僕のそばに座る。 
 頭を太ももの上にのせて、大きなため息をつく。
 7才で、まだ滑らかな毛の頭を撫でてやる。時々、顔を上げて、その長い舌で僕の指を舐める。
 舐め始めると、まるで僕の手から蜜が出ているかのように、指のあいだまで懸命に舐める。
 僕は、テレビを消し、読んでいた本を閉じ、あるいは、iPadのスイッチを消して、ただ、ラブとソファに座っている。
 何もない、何もしない、ラブとただ座っているだけの時間。
 
 その時間を、かけがえのない特別な時間と思えないなら、
 ラブラドールを飼ってはいけない。
 

PS 写真はラブ。ただし、古着を着ています。

***小説も書いてます。ラブラドールレトリバーを巡る短編小説です。よろしければ、ぜひ!(2016/8/1 追記)

 
こちらはユーモア短編

kyouki.hatenablog.com

こちらは、ちょっと(いや、かなり)悲しい話

kyouki.hatenablog.com

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