基数のべきについて答えてみた

[集合論] GCHが成り立たないときのべきの値

にゃー、みんなボクが『数学』に書いたサーベイ読んでにゃー。

正則基数のべき(Eastonの定理)

今更入手困難でしょうし書きますよ。まず、αを無限順序数とするとき、それの非有界部分集合の最小濃度をαの共終数(cofinality)といい、cf(α)で表す。そうそう、α={β: β<α}なので、αの部分集合というのは、αより小さい順序数からなる集合のこと。
κを基数とするとき、cf(κ)=κとなるときに、κは正則(regular)であるといい、そうでないときは特異(singular)であるという。ωは正則で、全ての後続基数は正則。 \aleph_\omegaは最小の特異基数。正則な極限基数は弱到達不可能基数と呼ばれていて、通常は最も小さい巨大基数とされる。特に、ZFCからはその存在を言うことはできない。つまり、特異でない極限基数は「特にでかい」のだ、あっはっはー。

(沈黙)

正則な基数は圧倒的に扱いやすく、Eastonによる以下の定理が強制法の開発後結構早い段階で証明されている。

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GCHを仮定する。Fを次の条件を満たすような、正則基数全体のクラスを定義域とするクラス関数とする。

(i) 任意のκ<λに対して、F(κ)≦F(λ)
(ii) cf(F(κ))>κ(ケーニッヒの補題)

このとき、共終性を保つような強制拡大で、任意の正則基数κに対して2^κ=F(κ)が成り立つようなものが存在する。
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いくつか補足しないとダメかな。まず、(i)と(ii)はF(κ)=2^κとするとZFCで証明できる性質。つまり、2^κ=F(κ)を満たすモデルが存在するための必要条件。
強制拡大というのは、強制法というテクニックで作られた、拡大されたZFCのモデル。元のモデルをVと書いて、Wをその拡大とする。
共終性を保つっていうのは、cf(α)の値がVで計算してもWで計算してもかわらないということ。このことから、基数を保つこと、すなわち任意のV上の基数κが、W上でも基数であることが導かれる。非可算な基数をぶっこわす強制法は簡単に作れるので、重要な性質。
えーと、すでにこんがらがっている人が多いと思うのでざっくりいくと、要するに正則基数に関しては(i)と(ii)という必要条件を満たすようにテンプレートを作ってやると、2^κをそれに従わせられるわけだ。だから正則基数についてはほぼやることはない。

非可算な共終数をもつ特異基数(Silverの定理)

じゃあ特異基数ではどうなるかというと、Jack Silverが下記の定理を証明して当時の研究者たちをびっくりさせた(と聞いている)。

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κをω<cf(κ)を満たすような特異基数とする。もし、任意のλ<κに対して2^λ=λ^+が成り立つならば、2^κ=κ^+が成り立つ。
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このことから、GCHを満たさない最小の基数は、共終数が非可算になるような特異基数ではないことが言える。この前ちょっと話題に出た整礎にならないVの超べきで最初の証明は与えられた(らしい)。もっとも今となってははるかにわかりやすい証明があるのだけど(忘れたけど)。
ダメぶりをいかんなく発揮してますな、前段落。

共終数が可算な特異基数(Magidorの定理)

じゃあ共終数が可算な特異基数、例えば \aleph_\omegaではどうかというと、Magidorが下記の定理で、Silverの定理は可算共終数のケースに拡張できないことを示した。

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ある巨大基数の無矛盾性を仮定すると、任意の自然数nに対して 2^{ℵ_n}=ℵ_{n+1}かつ2^{ℵ_ω}=ℵ_{ω+2}]
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つまり、 \aleph_\omegaはGCHを満たさない最小の基数になり得るわけ。これ、最初の証明で仮定してたのはalmost hugeだっけ?とても大きい巨大基数。最新の結果は忘れたけど、o(κ)が十分大きいやつがあれば、2^{ℵ_ω}=ℵ_{ω_1}とか言えるんだったよね。私への宿題か、これは。
ZFCのみの無矛盾性だけではダメで、巨大基数が必要なことは証明されている
証明は大技、少なくとも私には十分怖い。巨大基数κの下にある基数をω個残してバンバン潰しながら準備をして、その準備されたところを使って2^κを持ち上げる。

PCF理論とべきの上界

そんじゃあ、まだ出来てなくとも2^{ℵ_ω}はいくらでも大きくなるのかというと、そんなことはないことを示したのがShelahのPCF理論で、代表格は以下の定理。

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{ℵ_ω}^{ℵ_0}<max{ℵ_{ω_4}, (2^{ℵ_0})^+}]。
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これから、例えば任意の自然数nに対して任意の自然数nに対して2^{ℵ_n}<ℵ_ωが成り立つならば、2^{ℵ_ω}<ℵ_{ω_4}が成り立つことが言える。つまり、Magidorの定理の2^{ℵ_ω}の値にはℵ_{ω_4}という制限がかかる。この4が3に変えられるかは未解決。
「GCHを満たさない最小の基数とそのべき」の研究はこんな感じ。ここでは2^{ℵ_ω}のことしか書いてないけど、そうでない場合についても研究はある(というか、2^{ℵ_ω}は最も大変なケース)。

GCHが全ての基数で破れるモデル

別方向から。全ての基数κについてGCHが崩れるモデルを最初に作ったのはWoodinと私の師匠の共著で、そこでは任意の基数κに対して2^κ=κ^+が成り立っている。もちろん巨大基数が必要。この研究はGitikとかMerimovichとかに引き継がれて、2^κの値は色々コントロールできるようになっている(論文読もうとしたんだけど、ここがどの程度コントロールできるのかさえよくわからなかった)。

とりあえずこんな感じ。